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第三十九章
NPCさんの言う通り
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アブリ島の海に大きな夕日が落ちていく。昼間はサーファーの群を弄んだ波も今は穏やかで、優しい風が海の上を走り海岸沿いの細い木々を撫でて去る。大いなる青い海と赤い太陽の邂逅に、多くの住民や観光客が足を止めてそれを見守った。
ミノタウロスの大半が住むこの島はハーピィのアホウやフェリダエのニャルセロナとはまた違った南国感がある。アホウが地中海でニャルセロナがブラジルだとしたら、アブリ島はハワイといった所か。緑が豊かで波も大きい。大自然の力強さと雄大さを感じる島だ。
こんな所で生まれ育ったら、そりゃロハスでスローライフでマハロな性格にもなるだろう。俺は久しぶりに故郷へ帰ったザックコーチとラビンさんのミノタウロス夫妻の事を思った。
「楽園、てやつか……」
これはちょっと色っぽい漫画誌ではなく文字通りの意味である。南国で景色が美しく時間がゆっくりと流れている。今もちょうど、部屋のベランダのすぐ下のレストランで篝火が焚かれ始めて歓声が沸いた。
俺達エルフ代表チームが宿舎としているホテル、サーロ・インには他の客も泊まっている。その大半が新婚カップルやファミリー連れなのでギスギスしたところがなくてトラブルの恐れも少ない。むしろその幸せな雰囲気にあてられて闘争心が萎えないか心配なくらいだ。
俺はそれらの全てを……病床のハンモックの上から眺めていた。体感では熱は38度になるかならないかぐらいか? ごくごく単純に風邪である。
しかしせっかく南国リゾートに来て、病気で寝込むとは。瞬間移動の魔法で着いた場所からこのホテルまで、みんなは徒歩なのに俺とアガサさんだけ牛車に乗って移動させて貰った。それなのにこの体たらくとは……情けない限りである。
言い訳をさせて貰えれば、チームの長として大所帯を移動させ宿の部屋を割り振り荷物を運び込みといった作業を終えた後で、気が緩んで一気に風邪がぶり返した訳で。名誉の負傷というか上に立つ人間はつらいよの不調である。
幸い、今回は早めに現地移動したので試合までまだ日数がある。明日明後日と体調を整えていければ良いだろう。
俺は階下のレストランの賑わいを子守歌にし、ハンモックの上で毛布にくるまって眠り込むことにした……。
翌日の昼頃には俺の体調も少し回復した。じゃあ元気になった事だしバリバリと指導をするぞ! と意気込んで午後の練習場へ向かったが、そこに選手コーチの姿は無く、暇そうなステフが独りベンチに座り集中して携帯ゲームをしている光景があるだけであった。
「あーすみませんねえ。午後の練習は屋内の非公開になったんすよ」
「え? 聞いてないけどいつ決まったの?」
俺が驚いて疑問を口にすると、そのとき初めてステフが顔をあげてこちらを見た。
「おわ! なんだ、ショーキチか。もう出歩けるのか?」
「ああ。昼飯も食べれた」
因みにサーロ・インの食事は三食ともビュッフェ形式で宿の名前とは裏腹に意外とオーガニックなモノが多く、病気で弱った俺の胃にも優しい食品を選ぶ事が出来て助かった。
「そうか、良かったな! ところでアレは食べたか? 注文してからシェフさんが鉄板で焼いてくれるシャドウブリリアンのステーキ!」
ステフは珍しい肉の名を口にし、その味を思い出したかのように涎を拭った。シャドウブリリアンって影なのか輝くのかどっちだよ!? とツッコミたくなるがこちらの世界における牛的な動物の、希少部位の名前なので仕方ない。
「いや、まだそこまでこってりしたモノは食べられなくてさ。フルーツとかその類だけ」
彼女の言った通り、レストランの一部だけはセルフサービスではなくシェフさんが待機していて、注文に併せて肉を焼いたりオムレツを巻いたりしてくれるシステムだった。もちろん、食事でそんなサービスがある宿に泊まったらそれなりにお値段はする。
しかし選手は身体が資本だし、食事の面でテンションを上げて貰うことは試合へ挑むへあたって重要なのだ。俺はその方面については金に糸目をつけない事ににしていた。
ってそうだ選手だ!
「それより、みんなは何処へ行ったんだ?」
リゾート地の高いホテルへ連泊したのは、この堕屑エルフを肥え太らせるのが目的ではない。選手たちの為だ。しかし当の彼女たちがいないのだ。
「誰が堕屑エルフだ! 私はダスクエルフだ! それに太ってなんかないわい!」
ステフは俺の思考を嗅ぎ取って湯気を立てて怒る。いや、人の心の中を勝手に読んで切れるなよ。
「そうか? ちょっと丸くなってないか?」
「なってませんけどー! ステフちゃん、1年ぶり200回目のナイスバディでっす!」
「はあ。そっすか」
ポーズをつけるエルフの少女に俺は薄い反応を返す。元ネタは分からないが、こいつすぐ何かに影響を受けるんだよなあ。
「んで、選手たちは?」
ステフがそのポーズで固まってソワソワし出した所で俺は改めて問う。
「ああ。実は屋内練習ってのは嘘だ」
「何でそんな嘘を?」
しかもたった独りで練習場に残って言うなんて。ゲームの村人じゃあるまいし、誰も来ないかもしれないのに台詞だけ設定して待つなんてあるのか?
「それはだな。このステフ様ほどではないけれど、ナイスバディのエルフたちを守る為なんだ!」
「誰から?」
彼女がNPCに見えてきて可哀想だったので、俺は素直に問う。するとステフは、ニヤニヤと笑いながらこちらを指さして言った。
「お前のような……スケベからさっ!」
ミノタウロスの大半が住むこの島はハーピィのアホウやフェリダエのニャルセロナとはまた違った南国感がある。アホウが地中海でニャルセロナがブラジルだとしたら、アブリ島はハワイといった所か。緑が豊かで波も大きい。大自然の力強さと雄大さを感じる島だ。
こんな所で生まれ育ったら、そりゃロハスでスローライフでマハロな性格にもなるだろう。俺は久しぶりに故郷へ帰ったザックコーチとラビンさんのミノタウロス夫妻の事を思った。
「楽園、てやつか……」
これはちょっと色っぽい漫画誌ではなく文字通りの意味である。南国で景色が美しく時間がゆっくりと流れている。今もちょうど、部屋のベランダのすぐ下のレストランで篝火が焚かれ始めて歓声が沸いた。
俺達エルフ代表チームが宿舎としているホテル、サーロ・インには他の客も泊まっている。その大半が新婚カップルやファミリー連れなのでギスギスしたところがなくてトラブルの恐れも少ない。むしろその幸せな雰囲気にあてられて闘争心が萎えないか心配なくらいだ。
俺はそれらの全てを……病床のハンモックの上から眺めていた。体感では熱は38度になるかならないかぐらいか? ごくごく単純に風邪である。
しかしせっかく南国リゾートに来て、病気で寝込むとは。瞬間移動の魔法で着いた場所からこのホテルまで、みんなは徒歩なのに俺とアガサさんだけ牛車に乗って移動させて貰った。それなのにこの体たらくとは……情けない限りである。
言い訳をさせて貰えれば、チームの長として大所帯を移動させ宿の部屋を割り振り荷物を運び込みといった作業を終えた後で、気が緩んで一気に風邪がぶり返した訳で。名誉の負傷というか上に立つ人間はつらいよの不調である。
幸い、今回は早めに現地移動したので試合までまだ日数がある。明日明後日と体調を整えていければ良いだろう。
俺は階下のレストランの賑わいを子守歌にし、ハンモックの上で毛布にくるまって眠り込むことにした……。
翌日の昼頃には俺の体調も少し回復した。じゃあ元気になった事だしバリバリと指導をするぞ! と意気込んで午後の練習場へ向かったが、そこに選手コーチの姿は無く、暇そうなステフが独りベンチに座り集中して携帯ゲームをしている光景があるだけであった。
「あーすみませんねえ。午後の練習は屋内の非公開になったんすよ」
「え? 聞いてないけどいつ決まったの?」
俺が驚いて疑問を口にすると、そのとき初めてステフが顔をあげてこちらを見た。
「おわ! なんだ、ショーキチか。もう出歩けるのか?」
「ああ。昼飯も食べれた」
因みにサーロ・インの食事は三食ともビュッフェ形式で宿の名前とは裏腹に意外とオーガニックなモノが多く、病気で弱った俺の胃にも優しい食品を選ぶ事が出来て助かった。
「そうか、良かったな! ところでアレは食べたか? 注文してからシェフさんが鉄板で焼いてくれるシャドウブリリアンのステーキ!」
ステフは珍しい肉の名を口にし、その味を思い出したかのように涎を拭った。シャドウブリリアンって影なのか輝くのかどっちだよ!? とツッコミたくなるがこちらの世界における牛的な動物の、希少部位の名前なので仕方ない。
「いや、まだそこまでこってりしたモノは食べられなくてさ。フルーツとかその類だけ」
彼女の言った通り、レストランの一部だけはセルフサービスではなくシェフさんが待機していて、注文に併せて肉を焼いたりオムレツを巻いたりしてくれるシステムだった。もちろん、食事でそんなサービスがある宿に泊まったらそれなりにお値段はする。
しかし選手は身体が資本だし、食事の面でテンションを上げて貰うことは試合へ挑むへあたって重要なのだ。俺はその方面については金に糸目をつけない事ににしていた。
ってそうだ選手だ!
「それより、みんなは何処へ行ったんだ?」
リゾート地の高いホテルへ連泊したのは、この堕屑エルフを肥え太らせるのが目的ではない。選手たちの為だ。しかし当の彼女たちがいないのだ。
「誰が堕屑エルフだ! 私はダスクエルフだ! それに太ってなんかないわい!」
ステフは俺の思考を嗅ぎ取って湯気を立てて怒る。いや、人の心の中を勝手に読んで切れるなよ。
「そうか? ちょっと丸くなってないか?」
「なってませんけどー! ステフちゃん、1年ぶり200回目のナイスバディでっす!」
「はあ。そっすか」
ポーズをつけるエルフの少女に俺は薄い反応を返す。元ネタは分からないが、こいつすぐ何かに影響を受けるんだよなあ。
「んで、選手たちは?」
ステフがそのポーズで固まってソワソワし出した所で俺は改めて問う。
「ああ。実は屋内練習ってのは嘘だ」
「何でそんな嘘を?」
しかもたった独りで練習場に残って言うなんて。ゲームの村人じゃあるまいし、誰も来ないかもしれないのに台詞だけ設定して待つなんてあるのか?
「それはだな。このステフ様ほどではないけれど、ナイスバディのエルフたちを守る為なんだ!」
「誰から?」
彼女がNPCに見えてきて可哀想だったので、俺は素直に問う。するとステフは、ニヤニヤと笑いながらこちらを指さして言った。
「お前のような……スケベからさっ!」
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