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第三十九章
牛なわれた優位性
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翌朝。俺たちは昼食をとってからサーロ・インを出て、真っ昼間に試合会場のビーフホーンスタジアムにいた。例によって前日練習である。
ミノタウロス代表は例の傲慢さというか大らかさでもって前でも後でもどうぞ、と言ってきたので俺は敢えて午後の部を貰った。試合当日と同じ暑さを感じておこうとの考えからた。
また偵察の難易度も同じくらい緩かったので、先を選ぶ必要がなかったというのもある。実際、忍び込んだアカサオによると余裕だったらしい。ごくごく普通にスタジアムの清掃員に化けたら入れてしまったとのこと。
先に練習しておいて、それから芝刈りのオバサンや警備のオジサンに変装して残って、みたいな事をやってた他のチームの時が嘘みたいだ。そしてこういう時はえてして偵察する価値があるほどのトレーニングはしていない……となるものだが、実際は違った。
ミノタウロス代表は、そのイメージとは真逆でかなり守りの練習に時間を割いていたという。
「見てびっくり! 守備に人数かけて、攻撃はサイドからだったす~」
と双頭の蛇人間であるアカリさんは自分の側の肩をすくめて言った。
「アローズ対策でしょうか?」
「たぶん、そうですね。光栄な事です」
報告を受けた場ではナリンさんとアカサオにそう強がりを言ったが、俺は内心では非常に焦っていた……。
今回、俺たちはポゼッションサッカーという、ボールを握りパスを回して相手を翻弄するサッカードウに挑戦する。恐らくエルフのテクニックとミノタウロスの特性から言って、そういう状態になるのは難しくない筈だ。
問題はそこからミスを犯しカウンターを喰らう場合だ。圧倒的にボールを保持しパス数も多いのに相手にボールをひっかけてダッシュサッカーでは自分たちがミスした、或いは相手が上手く動いてパスをカットした事をしばしばそう表現する――しまい、一度のカウンターで失点してしまう……というのは、そんなサッカーを導入してすぐのチームがやりがちな事である。
もちろんそれへの対策は仕込んである。例の偽SBだ。SBを本来のDF両端に置くのではなく中盤へ移動させる事でパスのコースを多く作り、同時に中央を固めて万が一、速攻を受けてしまっても真ん中からは崩されないようにするあの戦術だ。
チーム全体の戦術理解とSBの選手に一定のスキルを要求してしまうが、実現すればなかなか巧妙な戦法ではある。ただ問題は、偽SBがプロテクトしてくれるのは主に中央というところにある。
そう『中央』をだ。もともとこれはカウンターが速く上手いチーム相手に一気に中央を崩されない様にする仕組みだからだ。だが今回のミノタウロスチームはサイドからの攻撃を重点的に練習していたという。
中央ではなくサイド……完全にミスマッチだ。こちらの用意しているものが完全にではないが、効力を失ってしまう。
アローズとしてはオフサイドトラップと偽SBで相手の中央からのカウンターを封じ、上手く行けばすぐに奪ってカウンターのカウンターを放つ、駄目でもミノタウロスの攻撃をサイドへ誘導し時間を稼いで他のメンバーが守備へ戻る、という目論見があった。
しかしミノタウロスの狙いはサイドからのカウンターだ。何故そうなったのか? 俺に推測できる理由は一つしかなかった。
前回の対戦でミノタウロスのウイークポイントが全大陸に知れ渡ったからだ。彼女らは顔と目の構造的に前後関係が計り難く、オフサイドラインも認識できないという弱点が。
その為、ミノタウロスチームはオフサイドトラップにめっぽう弱く、実のところ今シーズンはアローズ以外の戦術遂行能力の高いチーム――ドワーフやインセクター、ゴルルグ族など――のDFラインがかける罠にもかかりまくっている。
故に牛頭人身の一族はサイドからの攻撃を選んだ。もちろん、そちらにだってオフサイドは存在する。だが同時にピッチ脇には様々な『目印』もある。
何の目印か? それは相手DFラインと自分達の距離や居場所を計る目盛りになるような、様々な物体だ。ベンチや観客席、一定の間隔で置かれた給水用の水筒等が。
物体や空間の奥行きを見て計るのが苦手なミノタウロス達も、それらがあれば完全にとは言えないまでも距離を推し量る事ができるし、オフサイドトラップにあっさりひっかかる頻度も下がる。
もともとDFラインとラインブレイカー――DFと駆け引きをし、ラインの裏へ走り込みパスを受けるタイプの選手だ――タイプのFWとは分の悪い勝負だ。FWは何度失敗しても構わないが、DFラインは一度のミスで失点に繋がる。その上、成功の回数を増やされたら?
ミノタウロスのFW達はサッカードウ屈指の突進力を持つ。ごく少ない回数でもオフサイドトラップを破れれば、大きなチャンスを迎えるだろう。スタート位置がサイドであろうがそれは構わない。彼女らの突進力と突破力であれば、瞬く間に中央に到達する筈だ。
そしてそこにはゴールがある。正GKもSBもいない、脆弱な状態のゴールが。
俺は頭を抱えた……。
ミノタウロス代表は例の傲慢さというか大らかさでもって前でも後でもどうぞ、と言ってきたので俺は敢えて午後の部を貰った。試合当日と同じ暑さを感じておこうとの考えからた。
また偵察の難易度も同じくらい緩かったので、先を選ぶ必要がなかったというのもある。実際、忍び込んだアカサオによると余裕だったらしい。ごくごく普通にスタジアムの清掃員に化けたら入れてしまったとのこと。
先に練習しておいて、それから芝刈りのオバサンや警備のオジサンに変装して残って、みたいな事をやってた他のチームの時が嘘みたいだ。そしてこういう時はえてして偵察する価値があるほどのトレーニングはしていない……となるものだが、実際は違った。
ミノタウロス代表は、そのイメージとは真逆でかなり守りの練習に時間を割いていたという。
「見てびっくり! 守備に人数かけて、攻撃はサイドからだったす~」
と双頭の蛇人間であるアカリさんは自分の側の肩をすくめて言った。
「アローズ対策でしょうか?」
「たぶん、そうですね。光栄な事です」
報告を受けた場ではナリンさんとアカサオにそう強がりを言ったが、俺は内心では非常に焦っていた……。
今回、俺たちはポゼッションサッカーという、ボールを握りパスを回して相手を翻弄するサッカードウに挑戦する。恐らくエルフのテクニックとミノタウロスの特性から言って、そういう状態になるのは難しくない筈だ。
問題はそこからミスを犯しカウンターを喰らう場合だ。圧倒的にボールを保持しパス数も多いのに相手にボールをひっかけてダッシュサッカーでは自分たちがミスした、或いは相手が上手く動いてパスをカットした事をしばしばそう表現する――しまい、一度のカウンターで失点してしまう……というのは、そんなサッカーを導入してすぐのチームがやりがちな事である。
もちろんそれへの対策は仕込んである。例の偽SBだ。SBを本来のDF両端に置くのではなく中盤へ移動させる事でパスのコースを多く作り、同時に中央を固めて万が一、速攻を受けてしまっても真ん中からは崩されないようにするあの戦術だ。
チーム全体の戦術理解とSBの選手に一定のスキルを要求してしまうが、実現すればなかなか巧妙な戦法ではある。ただ問題は、偽SBがプロテクトしてくれるのは主に中央というところにある。
そう『中央』をだ。もともとこれはカウンターが速く上手いチーム相手に一気に中央を崩されない様にする仕組みだからだ。だが今回のミノタウロスチームはサイドからの攻撃を重点的に練習していたという。
中央ではなくサイド……完全にミスマッチだ。こちらの用意しているものが完全にではないが、効力を失ってしまう。
アローズとしてはオフサイドトラップと偽SBで相手の中央からのカウンターを封じ、上手く行けばすぐに奪ってカウンターのカウンターを放つ、駄目でもミノタウロスの攻撃をサイドへ誘導し時間を稼いで他のメンバーが守備へ戻る、という目論見があった。
しかしミノタウロスの狙いはサイドからのカウンターだ。何故そうなったのか? 俺に推測できる理由は一つしかなかった。
前回の対戦でミノタウロスのウイークポイントが全大陸に知れ渡ったからだ。彼女らは顔と目の構造的に前後関係が計り難く、オフサイドラインも認識できないという弱点が。
その為、ミノタウロスチームはオフサイドトラップにめっぽう弱く、実のところ今シーズンはアローズ以外の戦術遂行能力の高いチーム――ドワーフやインセクター、ゴルルグ族など――のDFラインがかける罠にもかかりまくっている。
故に牛頭人身の一族はサイドからの攻撃を選んだ。もちろん、そちらにだってオフサイドは存在する。だが同時にピッチ脇には様々な『目印』もある。
何の目印か? それは相手DFラインと自分達の距離や居場所を計る目盛りになるような、様々な物体だ。ベンチや観客席、一定の間隔で置かれた給水用の水筒等が。
物体や空間の奥行きを見て計るのが苦手なミノタウロス達も、それらがあれば完全にとは言えないまでも距離を推し量る事ができるし、オフサイドトラップにあっさりひっかかる頻度も下がる。
もともとDFラインとラインブレイカー――DFと駆け引きをし、ラインの裏へ走り込みパスを受けるタイプの選手だ――タイプのFWとは分の悪い勝負だ。FWは何度失敗しても構わないが、DFラインは一度のミスで失点に繋がる。その上、成功の回数を増やされたら?
ミノタウロスのFW達はサッカードウ屈指の突進力を持つ。ごく少ない回数でもオフサイドトラップを破れれば、大きなチャンスを迎えるだろう。スタート位置がサイドであろうがそれは構わない。彼女らの突進力と突破力であれば、瞬く間に中央に到達する筈だ。
そしてそこにはゴールがある。正GKもSBもいない、脆弱な状態のゴールが。
俺は頭を抱えた……。
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