D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗

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第三十九章

騒音に相応なミス

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 ブオォォォン! という角笛の音が、審判さんのホイッスルとは別に鳴り響き試合が始まった。
 ここの観客席にはビーフホーンスタジアムの名に恥じぬ巨大な角が設置されており、見た目からして肺活量のありそうなミノタウロスのコルリ――いわゆるコールリーダーの略だ。サポーター集団の長が兼ねる事もあるし、別に存在する事もある。コルリの喉や腕に、チャントや手拍子の迫力がかかっている事も多い――がそれを力いっぱい吹いた訳である。
 そして角笛の残響がピッチ上空から消えぬ間にサポーター達の大音声が発せられる。今日は天気も良く客の入りも上々、試合開始前から上半身裸で下も腰簑だけのミノタウロス集団が観客席を埋め尽くし凄い圧だ。
「いやはや規格外だな」
 そう呟く俺の声も自身の耳まで届くのがやっとだ。現代日本の国内スタジアムの大半において、拡声器の使用は禁止されている。いや正確に言えば
「観客席からピッチへ向かって」
の使用が禁止されている。あと過度な露出だったりスポーツ外のメッセージをボディペイントしたりするのも。
 だがこの異世界ではそんな常識は通用しない様だった。持ち込みどころか備え付けの拡声器的な角笛は吹くし全裸に近いミノタウロスの集団は裸祭りのようだし。
 で、それで何が問題かと言うと……騒音で俺達の指示や選手同士のコミュニケーションが全く不可能ということだった。

『ソイツ早いよー! 気をつけてー』
 最終ラインのシャマーさんがパスを受けたパリスさんへ向け何かを叫んだ。それを上手く聞き取れなかった左SBが耳に手を当て近寄ろうとしたが、キャプテンが慌てて手を振った。
「あぶね!」
「危ない!」
 その手振りで気づいたパリスさんが振り返った所へローズ選手が突進してきた! が、彼女は直前でパスをユイノさんへ送り、危険なゾーンでボールをロスト危機は脱した。
「ふぅ」
 俺はさっき同時に叫んだナリンさんと視線を合わせ、大きく息を吐きつつ首を振る。もし今、ボールを失っていたらそれは半分以上、俺達の責任だったからだ。
 今日のシステムは1433。GKはユイノ、DFは左からパリス、シャマー、リスト、マイラ。MFはホールディング7がアガサさんでIHは左クエン右ツンカ。FWは左からリーシャ、ダリオ、エオンだ。今回はこの戦術で行くと決めたので、練習の時と同じメンバーではある。
 しかし違いが一つ、いや正確には二つある。両SB、パリスさんとマイラさんの位置が逆なのだ。つまり利き足が右のパリスさんを左SBに、左のマイラさんを右SBに置いている。
 これは逆足のWGと似た思想である。利き足と逆のサイドにポジションを取ると縦に突破して単純なクロスを上げるというプレーは難しくなるが、代わりに身体と利き足が内側を向きパスの選択肢が増える。
 しかも今日のパリスさんとマイラさんはSBであってSBではない。流れの中で中盤中央へ移動しボランチの様にプレイする、偽SBである。サイドラインを突破し利き足でセンタリングをあげるという仕事は皆無なのだ。故に利き足と逆のサイドにいる事のメリットは多くデメリットはほぼ無い。ならば思い切ってスタートポジションをそうしよう……それが俺達の決定だった。

「一度、通常のサイドへ戻してみるでありますか?」
「どうでしょう? アガサさんの様子はどうです?」
 問いかけるナリンさんへ俺は質問で返した。この逆サイド偽SB戦術について、実は正確でない部分が二つあった。
 一つ目。『俺達の決定』というのは間違いではないが、発案は実はアガサさんだ。中央で偽SBたちとパス回しの中心になるMFは、練習の中でSBのサイドを逆にした方が良いと気づき、俺に提案してきたのだ。
 もっとも伝え方は『マイラとパリスは鏡だ』という謎の言葉による回りくどいものではあったが。
 二つ目。『メリットは多くデメリットはほぼ無い』と考えたが、実は明確なデメリットが一つある。これはシンプルに熟練度の問題だ。
 普段はフィールドの端にいる選手が、偽SBをする時は中央寄りにいる。しかも逆サイドで。SBの時はサイドから中の方を見ていれば良いが、中央にいる時は360度に気を配らないといけない。また上下にスプリントするSBに比べて、中央の偽SBはより細やかなステップとポジショニングが要求される。
 つまり視界も動き方も全く違う。その不慣れな、熟練度の低いポジションでプレイする事によってミスを犯したり、動きがぎこちなくなったりする危険があるのだ。
 今さっき、危うくパリスさんがローズ選手にボールを奪われそうになったシーンの様に。もし実際にボールロストしていたら、それは彼女のミスと言うよりこの戦術を指示した俺達コーチ陣のミスだと言えただろう……。

「何でありますか?」
「アガサさんです!」
 そんな事を考えている間にも、ナリンさんはまだ天才パッサーの様子をチェックしてくれていなかった。騒音で俺の言葉が聞こえていなかったのだ。
「アガサさんの感覚的にはどうかな!」
「ひゃん!」
 俺は仕方なくナリンさんの耳に唇を寄せて叫んだが、息が彼女の耳を直撃し美貌のコーチは予想外に可愛い声を上げた。
「あっ、すみません!」
「いえ、ありがとうであります!」
 俺とナリンさんは思わず飛び離れて、互いに頭を下げる。まさかエルフの耳に息を吹きかけるなんてベタなネタを俺がやってしまうとは!
「あ、ボード使えば良いや! アガサさんはどうですか?」
 俺はナリンさんと距離をとった時に踏みかけた作戦ボードに気づき、彼女に向かって背番号20とフィールドを交互に指さしてみせた。それでデイエルフは俺の意図に気づき、鋭い視線をピッチへ向ける。
 よし、通じたみたいだな。俺は一安心しながら、同じように戦況を見守るようにした……。
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