高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

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第六話

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「リドール帝国訪問団御一行が到着されました。」

使用人のその掛け声の後に正門が鈍い音を立てて開かれる。
御一行が入城し、その足音が止まったのを確認してから、頭を上げる。
訪問団は、一人の青年を先頭にしただずむ。青年は、意思をもった青い瞳に、亜麻色の長髪を一つ結びにし、スラリとした体躯をし、人目をひく容姿をしていた。

「お初にお目にかかります。エステート王国第一王子、ヴィルム・エステートと申します。以後お見知りおきを。」

「エステート王国第一王女、カリーノ・エステートと申します。以後お見知りおきを。」

先頭の青年に二人揃って挨拶をする。
僕らの頭の先からつま先まで視線を巡らせたのち

「リドール帝国第一王子、シャロラ・リドールだ。今回の訪問受け入れを大変ありがたく思う。」

そう挨拶をし握手を求められる。
シャロラ王子は、想像していたよりも物腰が柔らかな好青年だった。

握手し僕よりも背の高い王子を見上げると、目が合い柔らかく微笑まれる。深窓のご令嬢なら、この笑顔で恋に堕ちてしまうだろう。

「カリーノ殿下、その格好は体を冷やしてしまう。なにか上に羽織るものがあった方がよいのではないか?」

僕に続いて握手したカリーノに王子が気遣う。カリーノは格好を指摘された恥ずかしさと、気遣われた嬉しさが入り混じった表情になる。

「レトア卿、カリーノに羽織りものを。」

「…仰せのままに。直接応接間に持って来させますので、移動いたしましょう。」

レトア卿は不服そうに言った後、移動を促す。予想と違い王子がカリーノの格好に食いつかなかったのが不満な様だ。
王子の振る舞いは紳士的でオメガ好きと嘯かれている理由がわからなかった。

* * *
応接間には食事が準備されており、それぞれが席に着く。僕とカリーノが中央に並び、カリーノの左隣にはレトア卿、僕の右隣にはアーシュの順で座る。そして僕の向かいに王子が、他の臣下達が序列に沿って座っていく。
ちなみにカリーノはストールを肩にかけ露出していた部分を覆っている。

「リドールからエステートまでですと、移動はどれくらいかかるのですか?」

「10日程だな。リドールは今の時期もう冷え込むが、エステートは暖かくて過ごしやすいと思った。この気候ならば快適な遊学になりそうだ。」

カリーノの質問に王子が丁寧に答える。
北に位置するリドールから、時間をかけてわざわざ南のわが国に来た理由はなんだ?帝国の王子がこんな小国にただ遊びに来たわけじゃないだろう?
どうやって聞き出そうか思惑を巡らせていると、王子が先に口を開いた。

「そういえば、お二方ともネックガードをしているが、まだ番はいないのか?」

「そうです。しかし王位継承までには誰かと番う予定です。」

僕が手短に説明すると、王子は満足そうに笑う。

「それなら、エステートまで来たかいがあった。」

どういう意味だ?

王子の言葉にカリーノと顔を見合わせる。

「わが国リドールは一夫多妻制を認めているんだ。私にも、正妃以外に側室がいる。その全てが隣国のオメガの王族だ。」

王子の話で、今日の訪問の目的を察する。

「つまり、カリーノを側室に迎え入れたいということでしょうか?」

「半分正解かな。オメガならば性別にこだわる必要はない。だから、私はどちらでも構わないんだ。」

それを聞いたカリーノが僕の服の袖を掴む。
そちらを見遣ると、困惑の表情を浮かべている。
まさか、大国の王子から側室入の打診が入るとは思わなかった。
なんて返事をすべきか迷っていると、横からアーシュが口を挟む。

「大変失礼ながら、発言してもよろしいでしょうか?」

「構わない。」王子が返事をする

「今は王が不在の場です。側室入を望まれるならば、陛下からの了承を得てからの方がよろしいかと。」

「確かに君の言う通りだな。では、滞在中にエステート王に謁見を願いでたいのだが、頼まれてくれるか?」

「承知致しました。明日以後で日程を組ませていただきます。」

アーシュが正当な手順を踏む様に促すと、王子も納得した様子で話をすすめる。
でも僕やカリーノの意思を聞くこともなく、謁見まで話が淡々と進んでいく。そのことに腹立たしさを覚えるも、相手を考えると当然なのかもしれない。

そんなとき僕の心の中にいる悪魔が囁く。
王子の側室になればアーシュと番になる必要がなくなるぞ。こんな機会逃したらアーシュの側から離れられなくなるぞ。一番愛して欲しい人に愛されることもなく形だけの番になるのか?と。

カリーノは相変わらず僕の服の裾を掴んでいる。自分が他国に嫁がさられるかもしれないことが不安なのだろう。
僕は悪魔の意見に耳を傾けながら、あることを決意し、今晩それを実行することにした。

* * *
日が暮れた王城は薄暗く、壁にかかっている蝋燭がぼんやりと辺りを照らす。そんな中、カツカツカツと足音が響かせ目的地に向かう。

「どちらへ行かれるんですか?殿下」

アーシュに背後から呼び止められる。
もう屋敷に戻っていたと思っていたのに、なぜいるのか。

「お前に関係ないだろ?」

「私は番候補なので殿下がこんな時間に客室に向かうのは見過ごせません。」

「別に僕が何をしようが僕の勝手だろう?」

「そうですか。しかし殿下が、あの王子をたらしこめるとは到底おもえませんが?それとも、私が知らないだけで殿下には男性経験がお有りなんですか?」

アーシュが僕を見下ろし、冷め切った口ぶりで言う。アーシュには僕の思惑を全て見透かされていたらしいが、僕だってここで引くわけにもいかない。

「僕がその気になれば男を誑かすなど造作もない。」

僕は精一杯の虚勢をはる。
それを聞いたアーシュの眉がピクリと動いた後、ダンッと大きな音とともに僕の体は壁に押し付けられる。
そしてアーシュは僕の顔の横に手を付き僕を冷めた目で見下ろす。

「…そうですか。では、誑かしてもらいましょうか。」

「何をいっ…んっ」

冷たく言ったあと、アーシュは僕の唇に乱暴なキスを落とした。
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