42 / 85
エピローグ(下)
しおりを挟む式典のための装飾をした広間には、エステートの重臣達が顔を揃える。さっきからズキズキと頭が痛いのは立太子の証として父上から戴冠を受けたからだと苦しい言い訳を自分にする。でも本当はこれから自分がやろうとしていることに緊張と不安が体に出たのは分かっている。アーシュにさえ、これからやろうとしている事は伝えていない。
「フィリアス卿アーシュレイ。ヴィルム殿下の御前へ」
進行を担当しているフィリアス侯爵に名を呼ばれアーシュレイが玉座に腰掛ける僕の前に片膝をついて跪く。あとは僕が玉座から立ち上がり鞘に入った銀の剣をアーシュに渡すことでアーシュは僕の忠臣になったのだと示す。でも僕は公務を取り仕切る忠臣が欲しいのではない。フィリアス侯爵が玉座から立ち上がった僕の前に銀の剣を差し出す。僕はそれを軽く手で押し退けて目の前に跪くアーシュに問いかける。
「アーシュレイ、お前が僕の番として全うする役割は国政の運営と王家の血をひくアルファを誕生させることで間違いないか?」
「はい。殿下の仰る通りでございます」
うちのような小国のしかもオメガの王族のもとに他国のアルファが嫁いでくる可能性はほぼない。そうならばアルファのアーシュと王族の僕が子供を作ることが世継ぎ問題の一番の解決にはなる。
「だがアーシュレイ、それはおかしいとは思わないか?」
僕の問いかけにアーシュが顔をあげ訝しげに僕をみる。アーシュは表情でどういうつもりだ?と僕に訴える。
どういうつもりも何も考えてみると、僕は忠臣に孕まされた挙句に、アーシュは僕の他に嫁をもらうなんておかしくないか。アーシュは嫁を取らないと言うかもしれないが、アーシュに取り入りたい周囲やフィリアス侯爵は許さないだろう。アーシュは以前僕に『俺だけのものでいて』といったのだから、僕以外と婚姻する可能性を潰してしまえばいいと思い立ったわけだ。
「僕がアーシュレイの子供を産んだ所で、僕たちは公務における番にすぎないなんて、歪な関係だと思わないか?」
「ヴィルム殿下、何を仰いますか」
フィリアス侯爵は僕がアーシュを拒絶していると勘違いしたのか僕に銀の剣を握らせようとする。僕はその手をやんわりと拒絶する。対してアーシュは静かかな真意を探るように僕を見つめる。僕はアーシュから目線を逸さず自分の肩の所にあるマントの金具を外す。そのまま王族の色の白のマントをアーシュの肩にかけた。
「ヴィル?」
流石のアーシュも驚いた表情をする。エステート国内で白を身につけることが許されるのは王族かその配偶者だけ。
「僕の後ろに控えて国政を一緒に担う番になって欲しいわけじゃない。僕の隣に並び人生を共に歩んでくれる番がいいんだ」
「ヴィル、それって」
「アーシュレイ、僕のたった一人の番。どうか、僕の伴侶になってはくれないか?」
僕の一世一代の告白に会場内がざわめく。
『ヴィルム殿下とフィリアス卿が伴侶になったら、婚姻外交はどうするんだ?』
『フィリアス家の力が強くなりすぎて、国内のパワーバランスが崩れるのではないか?』
そういった懸念を各々口にし始める。さて、この喧騒をどう鎮めようかと考えを巡らせ始めた時、マントを羽織ったアーシュが立ち上がった。そして軽々と僕を横抱きにする。喧騒は更に大きくなり会場は混乱をきたす。
「皆さま、お静かに!私、フィリアス卿アーシュレイはヴィルム殿下の伴侶となり、その生涯を支えることを、ここに誓います」
そう宣言したアーシュの声が喧騒の中、凛と響く。ざわめきが静まった一瞬の隙にアーシュは更に言葉を重ねる。
「陛下。私やヴィルム殿下が互いに別の伴侶を持つことにメリットはありません。もし野心を持つ者が我々の伴侶になってしまえば国を二分にする危険性があります。それを考えれば殿下の伴侶には私が最良ではないでしょうか?」
「アーシュレイ」
フィリアス侯爵が焦ったようにアーシュをとめようとする。陛下はアーシュの問いにまだ答えない。
「父上。私は殿下のたった一人の番です。だから私が伴侶になることで、政治的対立の芽を摘むことができます。それはエステートの国益になりませんか?」
「それは…」
フィリアス侯爵もアーシュの言葉には同意している様子だが、この状況で快諾するのは難しいのだろう。
「ヴィルム。お前はフィリアス卿の子息を伴侶に望むのだな?」
アーシュの言葉を静かに聞いていた父上が、唐突に僕に問いかける。僕はアーシュの腕の中から降りて玉座に腰掛ける父上の前に跪く。
「はい!アーシュレイ以外は考えられません」
「フィリアス卿子息。お前は番だからヴィルムの伴侶になりたいのか?」
「ヴィルム殿下を愛しているので、公私関係なく殿下の側にいたい。だから、殿下の伴侶になりたいです」
「ふぅ…」
跪いている僕からは父上の表情は見えないが、父上が大きく息を吐いた音が聞こえた。
「フィリアス卿子息。ヴィルムを泣かせたら許さない。分かったな?」
父上からの意外な言葉に息を飲む。僕の隣で同じ様に跪いているアーシュに手を握られ、そちらに視線を向けるとアーシュが僕を微笑む。それから、アーシュは父上を見上げた。
「勿論です。私の生涯をかけて殿下を愛し守り抜くと誓います」
「そうか。ならばお前たちの婚姻を認めよう。異論がある者はいるか?」
父上はそう宣誓し会場内を見渡す。あれだけざわめいていた会場からは国王の判断に意を唱える者はいなかった。
「いないな。では、二人の門出に皆拍手を」
父上の言葉を皮切りに会場内に拍手が響く。
「父上…」
「ヴィルム、幸せにな」
父上は玉座から立ち上がり僕と同じ視線の高さになるようにかがみ、そう言うと会場を後にする。オメガの僕を疎んでいる父上が、こんなことを言うなんて。よく分からない感情が渦巻き目頭が熱くなってくる。
「ヴィル。泣いてもいいよ」
アーシュに抱き抱えられ、僕はアーシュの胸に顔を埋め声を押し殺して涙を流した。
* * *
「大丈夫?」
僕の自室のソファの上に下ろされる。アーシュは僕の隣に腰掛け僕の背中を優しくさする。
「大丈夫だ」
「そう。式典の時のヴィル、すごくかっこよかったよ。プロポーズしてくれて、嬉しかった」
「結局、アーシュに助け船を出してもらうことになってしまったけどな」
「俺はヴィルが、俺を求めてくれたことが何より嬉しかったよ。それに陛下からも俺達の関係を認めてもらえたし」
「父上があんなことを言うなんて、何を考えているのかよく分からない」
「陛下もヴィルと同じで少し不器用だったんじゃないかな。オメガだから厳しくしたんじゃなくて、それがハンデにならないようにって思ってたんじゃないかな。それはきっと、ヴィル達が大切だからだよ。陛下の言葉に嘘偽りはなかったと思うよ。これから少しずつ拗れた親子関係も解けていけるよ。俺も協力するから」
「そうだな。ありがとうアーシュ」
アーシュは僕の手を口元まで持っていく。
「ヴィル。愛してるよ。これから先の人生ずっとずっと傍にいて」
愛おしそうに僕をみつめ、愛を囁く
「もちろんだ。僕から離れるなんて許さないから」
「ヴィルが嫌だって言っても離してやらないから」
アーシュは僕の手の甲に口付けを落とし、軽く歯を立てた。そんな独占欲さえも心地いいなんて、もしかしたら愛に浮かれいるのかもしれない。でも、ずっと恋焦がれ手に入らないと思っていたアーシュから愛を囁かれれば、その幸福感に心が震える。僕の手を握るアーシュの手を僕は強く握りしめ
「アーシュ、愛してる」
心のままに愛を囁いた。
Fin
14
あなたにおすすめの小説
アルファだけど愛されたい
屑籠
BL
ベータの家系に生まれた突然変異のアルファ、天川 陸。
彼は、疲れていた。何もかもに。
そんな時、社の視察に来ていた上流階級のアルファに見つかったことで、彼の生活は一変する。
だが……。
*甘々とか溺愛とか、偏愛とか書いてみたいなぁと思って見切り発車で書いてます。
*不定期更新です。なるべく、12月までメインで更新していきたいなとは思っていますが、ムーンライトノベルさんにも書きかけを残していますし、イスティアもアドラギも在りますので、毎日は出来ません。
完結まで投稿できました。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
番を持ちたがらないはずのアルファは、何故かいつも距離が近い【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全10話。距離感のおかしい貴族の次男アルファ×家族を支えるため屋敷で働く魔術師オメガ。
オメガであるロシュは、ジール家の屋敷で魔術師として働いている。母は病気のため入院中、自宅は貸しに出し、住み込みでの仕事である。
屋敷の次男でアルファでもあるリカルドは、普段から誰に対しても物怖じせず、人との距離の近い男だ。
リカルドは特殊な石や宝石の収集を仕事の一つとしており、ある日、そんな彼から仕事で収集した雷管石が魔力の干渉を受けない、と相談を受けた。
自国の神殿へ神が生み出した雷管石に魔力を込めて預ければ、神殿所属の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれる。
貴族達の間では大振りの雷管石は番との縁を繋ぐ品として高額で取引されており、折角の石も、魔力を込められないことにより、価値を著しく落としてしまっていた。
ロシュは調査の協力を承諾し、リカルドの私室に出入りするようになる。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
僕が死んだあと、あなたは悲しんでくれる?
いちみやりょう
BL
死神 × 不憫なオメガ
僕を大切にしてくれる青砥と、ずっと一緒に居られると思ってた。
誰も感じない僕のオメガのフェロモンを青砥だけはいい匂いと言ってくれた。
だけど。
「千景、ごめん。ごめんね」
「青砥……どうしたの?」
青砥は困った顔で笑って、もう一度僕に“ごめん”と謝った。
「俺、和樹と付き合うことにした。だから、ごめん」
「そんな……。もう僕のことは好きじゃないってこと?」
「……ごめん」
「……そっか。分かった。幸せにね」
「ありがとう、千景」
分かったと言うしか僕にはできなかった。
※主人公は辛い目に遭いますし、病気で死んでしまいますが、最終的に死神に愛されます。
無理です!僕は絶対にこんな屑駄目王子の嫁になりませんからね?
竜鳴躍
BL
見た目と才能を隠していた第二王子と第一王子の婚約者候補のラブコメ?王家ざまあ。番確定なのに未成熟で分かってない主人公(受)とすれ違いの攻。あげく第一王子は変装した弟に恋をするし、たいへんです。
※前半あらすじ?
「なんでウチは公爵なのぉ!?」ハイリ5歳は絶望した。ちょっと顔が綺麗なだけで傲慢な第一王子。外面が良いだけの悪魔の婚約者候補に選ばれてしまう。ハイリは男の子だけどΩでお嫁に行く。だから女の子に混じって、実家の爵位と年齢から選ばれてしまった。死にそうになったところを助けてしまったり、あまりのアホさにやらかす男を助けてしまい、なんとか自分だとバレないように裏工作するハイリ。見た目と才能をひた隠しにして、どうにかこうにか誰かに第一王子を押し付けようとするのだった。
☆短編になりました。
オメガなのにムキムキに成長したんだが?
未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。
なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。
お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。
発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。
※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。
同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる