高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

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【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる

第二十話② side. フェナーラ

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日中は春の陽気で温かいが、夜間はまだまだ冷えるので、寮の自室のベッドに潜り込みダラダラしていた。
そんな俺に、ルームメイトが弾んだ声で話しかけてきた。

「なあ、バナト、上の学年のレトア侯爵子息の話は聞いたか?」

ルームメイトのエイヴィアンの方に視線を向けると、爽やかな顔立ちに下卑た笑みを浮かべていた。その表情からして、あまりいい話ではないことを察する。しかもそれがレトア侯爵子息の話題となると、心がざわめいたが、それを悟られないように努めて冷静な声を出した。

「レトア侯爵子息って、男なのに綺麗な人だろ。話って何?」

件のパーティーから何度か貴族のパーティーに顔を出すうちに、あの日、俺が目を奪われた少年がレトア侯爵子息のセラフ様なのだと知った。そしてそのセラフ様も、王立学院の生徒で、俺たちの二つ上の先輩だった。

「バナトも知らなかったのか!俺もさっき風呂で先輩から聞いたばっかなんだけどさ…」

どうやら、エイヴィアンは話たくてうずうずしていたようだ。
俺もエイヴィアンも労働階級出身で、ともに王立学院の特待生しかも寮ではルームメイトという立場から日頃からよく話す間柄ではあった。ここ王立学院は、名前の通り王国直轄の学院で、将来、国の中枢で働く人材の育成を目的としている。そのため通っている生徒のほとんどが貴族の子息、子女だ。俺やエイヴィアンみたいな特待生は、貴族だけでは価値観や能力が偏ってしまうし、有能な労働階級にも教育の機会が必要だと、フィリアス侯爵つまり漆黒の悪魔アーシュの親父さんが進言してくれたから、この学院に通えている訳だ。学院は王都の一等地である王城近くに建っているので貴族なら屋敷がすぐ側にあるが、俺たち庶民は王都のはずれ、人によっては地方から出てきているので、必然的に寮生活になる。なので、この寮に住んでいるのは特待生か地方の辺境の貴族だけだ。

エイヴィアンの言う先輩とは一つ上の学年の特待生のことだろう。仲良く話している姿をよく見る。セラフ様と学年が違う先輩から何を聞いたんだ?

「レトア侯爵子息は、入学してきた特待生と片っ端から関係を持つらしいぞ!」

あんだけ綺麗なら男でも抱けるかもしれないな。とエイヴィアンは冗談めかした言い方をする。

関係を持つ?あの誰にも興味を示さない人が?
あのパーティーでつまらなさそうにしていた横顔を思い出すと、エイヴィアンの話が嘘にしか聞こえなかった。

「噂だろ?さすがに侯爵家の子息がそんなこと…」

「それがさー、俺らの一個上の特待生は全員レトア侯爵子息と寝たんだってよ。なんでも、夏休み前には全員喰われたって先輩言ってたわ」

「は?」

嘘だろ?あの人が、そんなこと…

綺麗で。誰にも興味がなくて。話しかけることさえ許されない。手の届かない人。

俺の中で出来上がっていたセラフ様のイメージにピシリとヒビが入った気がした。

「は?って、まぁそうだよな。相手はいくら綺麗といえど男だもんな。でも、あの綺麗な顔で『あなたと寝たい』って言われるとグラッとくるみたいだぞ。バナトも誘われたら、コロッと落ちるんじゃないか?」

エイヴィアンがからかうように言うが、誘われたら喜んで抱くさ。あの綺麗な顔が、快感を与えるとどんな表情になるのか。あの瞳が、どんな風に俺を映すのか。あの話しかけることも許さなかった人が、どんな声で啼くのか。知りたい。なんでこんな風に思うのかわからないけど、あの人のことが知りたくて仕方ない。

「あぁ、でもさ。マグロで不感症らしいからセックス自体はつまらないんだってよ」

エイヴィアンは俺が聞いてもいない追加情報まで提供してくれる。

「そんなマグロって聞いて、お前は抱きたいと思うのか?」

大抵の男はその情報を聞いたら興味を無くしそうだが。エイヴィアンや、他の特待生もそうであってくれと俺は密かに願った。

「お前や他のやつはどうか知らないけど、侯爵家と関係を持てるなら、セックスがつまらないことなんて些細なことだろ」

迷いなく言い切るエイヴィアンの言葉には、野心がありありと見えた。学院を卒業した後のことを考えると、侯爵家と関係があるにこしたことはない。それは理解できるが、心の中はモヤモヤし、俺はそれを口に出してしまわないように奥歯を噛み締める。

「まあ、もし声がかかったら、ヤるのはこの部屋になるだろうから、その時はお互い配慮しようぜ」

もう抱く事前提で話をすすめるエイヴィアンに苛立ちを感じたが、俺は「その時になったら考える」と気のなさそうな返事をした。

夏休み前までに声がかかるなら、後3ヶ月足らずで俺らの学年の特待生全員に声がかかることになる。一番初めに俺に声をかけて欲しい。俺なら、もう他の奴なんて目に入らないくらい尽くして体を満たしてあげられる。そんなことを考えただけで、行動しなかったことを後々に後悔することになるなんて、俺は思ってもみなかった。

ーーー
その日は朝から熱っぽくて、大事をとって学院を休んだ。六月に入り、身にまとわりつくようなじっとりとした暑さになっていた。そのせいで、気温が上がるお昼ころに寝苦しくなり目が覚めた。

するとパーテーションの向こう側のエイヴィアンのベッドの方から「んっ…」と押し殺した声と、ベッドが軋む音がした。熱と寝起きで上手く働かない頭で何の音かしばらく考え、結論が出るのと同時に頭が覚醒した。
俺はベッドの上からそっと降り、パーテーションの端からこっそりと覗く。

その光景は、俺にとっての地獄絵図だった。
気になって仕方ないセラフ様がエイヴィアンに組み敷かれていた。正常位でセラフ様を抱くエイヴィアンの服装は乱れることなく、下半身の一部だけがくつろげられていた。セラフ様の格好も上半身ははだけておらず、下半身だけ脱がされていて足首にパンツと下着がひっかかっていた。
エイヴィアンはろくに愛撫なんてしていないんだろう。そのせいか、エイヴィアンの欲望を受け入れているセラフ様の顔には苦痛の色が浮かんでいる。

「んっ…あっ…あっ」

声も嬌声というより、苦しくて喘いでいるようにしか聞こえなかった。

いやだ。他の奴になんて触らせるな。
俺だけを見て。

痛々しそうなセラフ様に、そう叫んでしまいそうな衝動を必死で抑えた。俺の気持ちなど関係なく、二人の行為は続く。いっそ、起きていることをアピールして止めてやろうかと考えたとき、セラフ様の顔がこちらを向いた。抱かれているはずなのに、その顔はいやに冷めているように見えて、瞳はガラス玉のように無機質で欲情の色など見えない。

「んっ…やっあっ」

俺と目が合ってもセラフ様は気にする素振りはなく、行為を辞めたりしない。

「んっ…もう、イきそう。イッてもいいですか?」

セラフ様の足を掴み腰を振っていたエイヴィアンがそう言うと、セラフ様は「どうぞ」と返事をする。エイヴィアンが腰の速度を早め達するその瞬間、セラフ様は足でエイヴィアンの下腹部をゆっくり押して、自分の中から奴の欲望を押し出す。

「え?」

中で果てるつもりだったのだろう、エイヴィアンは間抜けな声をあげる。そして、セラフ様の中から抜けた欲望から白濁を出し、セラフ様の大腿を汚す。

「……お疲れ様です」

「あ、はい。お疲れ様でした…?」

セラフ様はセックスの後とは思えない淡々とした言葉をエイヴィアンにかけると、手早く身支度を整えて部屋から出ていく。もちろん、俺の方に視線を向けることなんてなかった。情事の後の熱も余韻もなく、作業のように終わった行為はセラフ様にとって性欲処理以外の意味なんてないのだろうが、セラフ様に俺以外が触れていることがはらわたが煮えくり返りそうなほど腹立たしかった。

もう、俺以外に触れさせたくない…。

よく分からない苛立ちが胸の中で渦巻いていた。

ーーー

エイヴィアンとセラフ様の行為を目撃した後、他の特待生も関係を持ったという声をチラホラ聞いた。

でも俺に声がかかることはなくひと月、またひと月と過ぎていき、気づけば季節は一周し、春になっていた。

そして俺たちにも後輩ができた。俺はまだセラフ様に誘われていないのに、後輩の特待生がすでに関係を持ったと聞いた時には絶望した。なぜ俺はダメなのかと悩み、気づいてしまった。俺以外の特待生は皆、アルファだと。

初めて会ったセラフ様に名前を聞いたとき

-ベータに教える義理はありません。話すこともないので、どっかにいってもらえますか?

ベータだからと一蹴されたことが蘇る。

ベータだから、俺には触れさせてすらくれないのか?こんなに、あんたのことばかり考えているのに!どうして?どうして!

理不尽に砕かれた願いは、憤りに形を変える。

アルファだけどあんたを雑に抱く奴らには股を簡単に開くくせに。俺には目もくれない。悔しい。ベータってだけで、あんたに認めてもらえない自分が不甲斐なくて悔しい。

アルファ以外興味を示さない、あんたも許せない。
俺はあんたに見て欲しい。
俺を知って欲しい。
あんた…セラフのことがもっと知りたい。
セラフの全てが欲しい。誰にも渡したくない。

怒りの炎を燃やした後に残ったのは、幼くて不器用な恋心だった。

* * *

他の男達とセラフの交わりに憤り、そこから自覚するなんて、なんとも最悪な自覚の仕方だと思う。でも、この時に決めたんだセラフを抱いたアルファよりも優秀になると。血筋が全てではないと証明して、セラフを俺のものにすると。

俺がエイヴィアンに嫉妬していることを、セラフは気づいているのかいないのか分からないが、翌日になって

「私もリドールのパーティーに行きます」

と言い張って聞かなかった。

エイヴィアンにそんなに会いたいのか?

ただでさえ、ささくれだっていた俺の感情が嫉妬と怒りでごちゃ混ぜになる。それをセラフに悟られないように、俺は静かに奥歯を噛み締めた。
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