12 / 54
第四章 あの山の向こう
1・新しい発見とは。
しおりを挟む
リビングの大窓からの日差しが明るく、室内は穏やかに陰っていた。ダイニングテーブル越しに膝を突き合わせて、律歌と北寺は昨日走った道を指でなぞって確かめ合う。
「外に出るとどこを向いたって遠くに山が見えているし、山に囲まれた地形なのかなって思ってはいたけど、やっぱりそうだったわね」
「そうだね。北の山のふもとまではここから自転車で走って半日かかる距離だった」
主婦たち三人組の家を越え、しばらく行ったところに菜の花畑があって、もっともっといくと山にぶつかった。
「東とか南までも行ってみる?」
「景色を見る限りじゃ、山があるだけのような気がするわね」
「それはおれも思うけど」
律歌はふうとため息をつく。
「あてもなく行ってはみたものの……収穫は、北方面についてちょっと見知っただけね」
ちらっと北寺の顔を見やると、励ますように微笑まれた。
「いい運動になったけどね。気持ちよかった」
「……徒労って言わないのは北寺さんの優しさかしら」
付き合わせて申し訳なく思えてくる。
「いや、本当にだよ。りっかとサイクリング楽しかった」
「私は楽しくなんかないわ」
「おや、そう?」
そう返されてよっぽどへこんだような顔をする北寺。
「そうよ――体が痛いわ」
「大丈夫? きつかったかな」
「ちがうっ、……そ、そうだけど、痛いのは構わないの。痛い思いしたのに何も見つからなかったことが……嫌」
あれだけ走ったのだ。もっとすごい何かが見つかると期待していた。でも、現実はこんなもんか。
沈黙して顔を伏せたままの律歌の頭頂部を、北寺が撫でてきた。律歌はその手を振り払って顔を上げる。すると、北寺は困ったように笑って言った。
「何も見つからなかったわけじゃない。――北方面について、ちょっと知っただろう?」
慰めるためじゃなく、純粋な否定として。
「最北までは、こうなってるって」
「最北……」
今、律歌と北寺の知りうる限り――まさしくこの小さな世界の最北端だ。
「……そうね。北の果てまで行ってきたのよね。私達」
律歌が知りたいと思うことを、いつでも詳しく知っている北寺からのその言葉。彼もそうして一つ一つ、知ってきたのだろうか――?
「うん。次はどうする?」
北寺の問いかけに、もう顔を上げる。
「どっち方面に行ってもどうせ山にぶつかるなら、今度は山に一番近い方角から攻めていって、登ってしまうのはどうかしら」
「山登りするつもりで行くってこと?」
「そうなるわね。それで、山の向こう側まで行くのよ」
北寺はふむふむと頷いて、
「ここから山に一番近い方角は――」
「南の方!」
律歌が地図上を指さす。
「どれくらいの深さかはわからないけど、結構大きな山だったわよね」
どの方向を向いてもそれなりの山に囲まれている。
「そうだね。山より向こうに行くには、山の中で野宿する必要はあるだろう」
「ええー、そーか、大変……」
「歩いて越えるんだから、そりゃね」
「うーん、じゃ、キャンプ用品買う?」
「必要になる可能性は高いし、まあ買っておいたほうがいいね。使わなければ捨てればいい」
「タダだし?」
「そう。タダだし」
天蔵はアマトでゴミも回収してくれる。もちろん無料だ。
「マウンテンバイクで山登りかー。一度やってみたかったけど、準備が結構いるだろうなあ」
「ゆっくり準備すればいいじゃない。この筋肉痛もなんとかしたいし」
天井を仰いでキャンプ用品の数を指折り数えている北寺に、律歌は完全おまかせモード。山を登るとなると、体力回復させねばなるまい。と、思ったものの。
「じゃ、体力つけてね、りっか」
北寺がにっこりと微笑みかけてくる。
「……えー」
山を登るには、トレーニングみたいなことをやらないといけないのだろうか。
「休むのも大事だけどね。でも基礎体力はつけたほうがいいよ」
反論はもちろんない。だが、求められている体力量によっては自信がなかった。ただただ走らされる長距離走みたいなのは嫌いなのだ。
「数日に分けて持てる限りの荷物を持って行って、先に置いておくこともできるからさ。体力作りも兼ねて、しばらくは荷運びなんてのはどう?」
「荷運び?」
「そ。移動手段は徒歩か自転車しかないし、山の近くに店もないからね。でも天蔵でなんでも買えるわけだから、盗んでいく人なんていないだろう? だから先に置いておくのさ」
荷運びしているうちに、体力もつくというのなら。
「まあ、それなら、頑張る」
「そうと決まれば注文しようか」
「外に出るとどこを向いたって遠くに山が見えているし、山に囲まれた地形なのかなって思ってはいたけど、やっぱりそうだったわね」
「そうだね。北の山のふもとまではここから自転車で走って半日かかる距離だった」
主婦たち三人組の家を越え、しばらく行ったところに菜の花畑があって、もっともっといくと山にぶつかった。
「東とか南までも行ってみる?」
「景色を見る限りじゃ、山があるだけのような気がするわね」
「それはおれも思うけど」
律歌はふうとため息をつく。
「あてもなく行ってはみたものの……収穫は、北方面についてちょっと見知っただけね」
ちらっと北寺の顔を見やると、励ますように微笑まれた。
「いい運動になったけどね。気持ちよかった」
「……徒労って言わないのは北寺さんの優しさかしら」
付き合わせて申し訳なく思えてくる。
「いや、本当にだよ。りっかとサイクリング楽しかった」
「私は楽しくなんかないわ」
「おや、そう?」
そう返されてよっぽどへこんだような顔をする北寺。
「そうよ――体が痛いわ」
「大丈夫? きつかったかな」
「ちがうっ、……そ、そうだけど、痛いのは構わないの。痛い思いしたのに何も見つからなかったことが……嫌」
あれだけ走ったのだ。もっとすごい何かが見つかると期待していた。でも、現実はこんなもんか。
沈黙して顔を伏せたままの律歌の頭頂部を、北寺が撫でてきた。律歌はその手を振り払って顔を上げる。すると、北寺は困ったように笑って言った。
「何も見つからなかったわけじゃない。――北方面について、ちょっと知っただろう?」
慰めるためじゃなく、純粋な否定として。
「最北までは、こうなってるって」
「最北……」
今、律歌と北寺の知りうる限り――まさしくこの小さな世界の最北端だ。
「……そうね。北の果てまで行ってきたのよね。私達」
律歌が知りたいと思うことを、いつでも詳しく知っている北寺からのその言葉。彼もそうして一つ一つ、知ってきたのだろうか――?
「うん。次はどうする?」
北寺の問いかけに、もう顔を上げる。
「どっち方面に行ってもどうせ山にぶつかるなら、今度は山に一番近い方角から攻めていって、登ってしまうのはどうかしら」
「山登りするつもりで行くってこと?」
「そうなるわね。それで、山の向こう側まで行くのよ」
北寺はふむふむと頷いて、
「ここから山に一番近い方角は――」
「南の方!」
律歌が地図上を指さす。
「どれくらいの深さかはわからないけど、結構大きな山だったわよね」
どの方向を向いてもそれなりの山に囲まれている。
「そうだね。山より向こうに行くには、山の中で野宿する必要はあるだろう」
「ええー、そーか、大変……」
「歩いて越えるんだから、そりゃね」
「うーん、じゃ、キャンプ用品買う?」
「必要になる可能性は高いし、まあ買っておいたほうがいいね。使わなければ捨てればいい」
「タダだし?」
「そう。タダだし」
天蔵はアマトでゴミも回収してくれる。もちろん無料だ。
「マウンテンバイクで山登りかー。一度やってみたかったけど、準備が結構いるだろうなあ」
「ゆっくり準備すればいいじゃない。この筋肉痛もなんとかしたいし」
天井を仰いでキャンプ用品の数を指折り数えている北寺に、律歌は完全おまかせモード。山を登るとなると、体力回復させねばなるまい。と、思ったものの。
「じゃ、体力つけてね、りっか」
北寺がにっこりと微笑みかけてくる。
「……えー」
山を登るには、トレーニングみたいなことをやらないといけないのだろうか。
「休むのも大事だけどね。でも基礎体力はつけたほうがいいよ」
反論はもちろんない。だが、求められている体力量によっては自信がなかった。ただただ走らされる長距離走みたいなのは嫌いなのだ。
「数日に分けて持てる限りの荷物を持って行って、先に置いておくこともできるからさ。体力作りも兼ねて、しばらくは荷運びなんてのはどう?」
「荷運び?」
「そ。移動手段は徒歩か自転車しかないし、山の近くに店もないからね。でも天蔵でなんでも買えるわけだから、盗んでいく人なんていないだろう? だから先に置いておくのさ」
荷運びしているうちに、体力もつくというのなら。
「まあ、それなら、頑張る」
「そうと決まれば注文しようか」
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』
M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。
舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。
80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。
「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。
「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。
日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。
過去、一番真面目に書いた作品となりました。
ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。
全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは「よろひこー」!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
追伸
まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。
(。-人-。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる