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しおりを挟むレナの涙が落ち着くと、マーサが口を開いた。
「大体、連れ去られたとは限らないじゃないですか。」
「どういうこと?」
「あの性悪王子のことです。きっとカエルにでも変えられているんですよ!」
(さすが、ミーサの姉だな……鋭い。)
「まぁ、マーサったら。」
レナの声が少し明るくなり、マーサも、バスケットの中のフィリップもホッと胸を撫で下ろした。
「もし私が魔術師なら真っ先に殿下をカエルにしますよ。そして思いっきり踏みつけてやります!公爵家の使用人は皆そうしたい筈です。」
(ひぃ……!)
フィリップはガタガタと震えた。公爵家の使用人達にそれ程までに恨まれていたのだ。いや、恨まれて当然だった。フィリップは婚約者として最低の男だったとこの数日で突きつけられた。
「それに、これまで殿下と仲良くできなかったのはお嬢様のせいではありませんよ。お嬢様は殿下の目標の為にずっと努力されていただけじゃないですか。」
(俺の目標……?)
「ううん、私がいけなかったの。」
「もう!お嬢様は悪くありません!全部、あの下衆王子のせいです!」
(マーサ……俺の二つ名はいくつあるんだ……。)
その後のマーサの説得も空しく、レナの自責の念を減らすことは出来なかった。
◇◇◇◇
マーサが退室後、レナは「リスさん、ごめんね」と言いながらバスケットの蓋を開け、フィリップをベッドサイドのテーブルへ乗せた。フィリップはレナを心配そうに見つめると、それが伝わったのかレナは寂しそうに微笑みながらフィリップの頭を優しく撫でた。
「……フィリップ様は幼い頃からバーナード王太子の右腕になりたいと仰っていたの。私はずっとそのお手伝いがしたくて……。」
(レナ……。)
レナは勤勉で王子妃教育も執務も積極的に取り組んでいた。フィリップは彼女のそんな様子を見ても深く考えることはせず、レナは勉強好きだとしか捉えていなかった。だがそれらは全てフィリップの為だった。
「執務を頑張るうちに行き過ぎてしまって……フィリップ様に口煩く言って嫌われてしまったの。……上手くいかなくて。」
レナの目にみるみる涙が溜まった。
「……っ、私がっ、フィリップ様を襲うように魔術師に依頼したのだと、考えている人が多いみたいで……っ!」
涙を堪えながら、言葉を吐き出すレナは苦しそうでフィリップも胸が痛くなる。
「……私、そんなことしない。絶対にしないのに……。」
(レナ……。)
「……仲直りしたかった。昔みたいに仲良くしたかった……でも、もう」
(レナ、レナ!)
「ずっと、ずっとお慕いしていたのに……。」
ぽろぽろと零れ落ちる涙を見て、フィリップは猛省した。机の上にあったハンカチを必死で引っ張り、レナの元へ引きずっていく。
「まぁ……。リスさん、ありがとう。」
レナはフィリップの行動に驚いたようで目をぱちくりとさせたが、ハンカチを受け取ると嬉しそうに微笑んだ。
「お父様は、暫く領地で過ごしたほうが良いとお考えみたいなの。リスさんも一緒に行きましょうね。領地なら自然も多いからリスさんも過ごしやすい筈よ。」
その後もレナは、ネズミのフィリップへ領地がどんな場所か聞かせた。そして夜になるといつもはバスケットの中で眠っていたが、この日はレナが自身のベッドにネズミのスペースを作りフィリップは婚約者と初めて添い寝することとなった。
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