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しおりを挟む「行きたい場所は、本当に無いのですか?」
ハロルドの胸の中でソフィアがしつこく尋ねる。その顔があまりに可愛らしくて、ハロルドはまた笑った。
「うーん、本当は一つだけあるけどね。まだ行けないから教えない。」
「えっ、教えてください。」
「行けるようになったら教えるよ。」
「う……、だってハロルドが行きたい場所はそこだけなのでしょう。明日はそこに行きたいです。」
「いいの?」
「はい。」
大きく頷くソフィアはすっかり忘れていたのだ。甘ったるい婚約者は本当は冷徹執事だということを。ハロルドの答えを聞き、目を見開くがソフィアが首を振らなかったのは自分が「行きたい」と強請ったことだけが理由ではない。
◇◇◇◇
「まさか頷いてくれるとは思わなかったなぁ。」
十日後。あの夜のことを思い出しハロルドは呟いた。
「ハロルド、口はいいから手を動かして下さい。ここを終わらせたら、足りないものを買いに行きますよ。」
「うん。」
ハロルドが蕩ける笑顔を見せると、ソフィアは呆れたように大きく息を吐いた。
「早くしないといつまで経っても終わらないじゃないですか。」
「うん、ごめんね?」
ぷんぷんと怒るソフィアをハロルドは後ろから抱き締め、彼女の頬に自分の頬を寄せた。未だに触れ合いに慣れないソフィアは顔を赤く染め上げるが、不機嫌なままだ。
「……話、聞いてました?」
「だって、今日から一緒に暮らせるなんて嬉しくて。」
「……っ!」
単身者用の使用人宿舎から、夫婦用の使用人宿舎に移った二人の引っ越し作業はなかなか捗らない。ソフィアはハロルドの腕の中でまた大きな溜息をついた。
あの日、ハロルドが行きたい場所として挙げたのは「籍を入れるために、手続きに行きたい」というものだった。
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