未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由

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エピソード1:私の日常と、謎の道具 Ver.17

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「くー、今月も載ってないじゃない、ネッシー!」
白石藍(しらいしあい 16歳)は、月に一度、本屋に並ぶその雑誌を、誰よりも心待ちにしている、ごく普通の女子高生である。
今日の昼休みも、藍は自宅から持ってきたばかりの最新号を広げていた。

「もう!なんでネッシーって、ここまで私たちを焦らすわけ?もっとこう、ドーン!と姿を現してくれてもいいじゃない?ねぇ、優花?」

隣の席でサンドイッチを頬張っていた親友、藤崎優花(ふじさきゆか 16歳)は、呆れたような顔で藍を見た。

「はいはい、藍ちゃんの世界は今日も平和だね。でも、世の中にはね、もっと現実的で恐ろしいことがたくさんあるのよ?」

生徒会の会計を務める優花は、普段から冷静でしっかり者だった。 

「そういう優花だって、この前のUFO特集、すっごく食いついてたじゃない!」

藍がニヤリと笑うと、優花は頬を膨らませた。

「あれは、人類の未来に関わる話だから!ネッシーと一緒にしないでくれる?」
「もー、優花はそういうとこ、ちょっと冷めてるんだから!」

彼女たちの日課のような軽口の応酬。
それが藍の、ごくごく普通で、ちょっぴりオカルトな日常だった。
学園生活は平凡で、藍はクラスの中でも目立つ方じゃない。
だけど、心の中には常に「何か面白いことないかな?」「何か不思議なこと、起きないかな?」と、好奇心の火を燃やしていた。
その火が、ある日、とんでもない形で燃え上がることになるなんて、この時の藍は知る由もなかった。

放課後、藍は学園の古い資料室にいた。
ここは、学園の長い歴史の記録が詰まった、奥深くにある部屋だ。
半分は埃をかぶったまま誰も使わない書類棚が並び、もう半分は部活動の道具や備品が雑然と積み上げられた、「資料室兼道具置き場」であり、都市伝説のネタ探しにはもってこいだった。

「えーと、学園七不思議の起源は…」

棚の奥で古い書類を漁っていると、ごつん、と指先に硬いものが当たった。何だろう?
引っ張り出してみると、それはひときわ異彩を放つ小さな筒だった。

手のひらに収まるか収まらないかほどの大きさで、手に取ると真鍮製でずっしりと重みを感じさせる。
片側には小さな覗き穴があるだけで、一見すると何の変哲もないただの望遠鏡のようにも見えるが、その古びた質感と、どこか磨き上げられたような輝きは、それがただの道具ではない、古美術品のような独特の雰囲気を醸し出している。

「な、なにこれ!?まさか、これも都市伝説の一部!?」

藍は好奇心を抑えきれず、その筒をそっと覗き込んだ。
筒の奥は、ただの暗闇だった。何も映らない。

「あれ、何も見えないなあ……ただの古びた望遠鏡、なのかな?」

がっかりしながら、藍は筒を資料棚の書類の上に置いた。
その瞬間、偶然にも指先が、隣の棚に置かれた植木鉢に触れた。
植木鉢の中では、小さな芽が出たばかりのミニトマトの苗が、ひょろりと伸びていた。
これは、園芸部が育てているもので、一時的に資料室に置かれているのだろう。
次の瞬間、「カチリ」と小さな音が響き、筒のレンズの脇にひっそりと埋め込まれた、まるで水晶玉のような部分が、淡く光を放った。

「えぇっ、光った!」

驚いて筒を拾い上げ、光る水晶玉に目を奪われる。
その光は、まるで藍に「今だ」と語りかけるかのようであった。
好奇心を抑えきれず、藍はその筒をそっと覗き込んだ。

筒の奥にゆらりと歪んだ映像が映し出された。
そこには、先ほど触れたミニトマトの苗が、真っ赤に熟した実をたわわに実らせている姿があった。
青々とした葉の間から、いくつもの赤い宝石のようなミニトマトが陽光を浴びて輝いている。
映像は一瞬で消え、筒の奥は再び真っ暗になった。

「今のは……ミニトマトが育ってる!?もしかして、触れたものの、未来が……?」

藍は慌てて、今度は棚の隅に置かれていた、美術部の作りかけの粘土細工の猫に指先で触れた。
まだ体の半分しか形になっていない。
その瞬間、再び「カチリ」と水晶玉が淡く光り始めた。
藍は迷わず筒を覗き込む。
今度は、ぼんやりとだが、先ほど触れた粘土細工の猫が、色鮮やかに彩色され、可愛らしい表情を浮かべて完成している姿が映し出された。
学園祭で展示される予定なのか、多くの生徒がその前で笑顔を見せている。
映像は再び消え、筒の奥は暗闇に戻った。

「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!不思議だ~!」

藍の顔に、興奮と確信の色が広がった。

「すごい!この道具を使えば、学園の都市伝説の真実……隠された謎まで解明できるかもしれない!」

その途方もない可能性に、藍の胸は高鳴る。
再び未来スコープを覗き込もうとするが、水晶玉はもう光っていなかった。
どんなに目を凝らしても、そこにあるのはただの暗闇だけ。
藍は何度も未来スコープを振ったり、水晶玉を擦ったりしたが、何の反応もない。

「そうか、ランプが光ったときにしか映らないのか……」

藍は、まるで長年の相棒を見つけたかのように、その真鍮製の筒をそっと撫でた。

「よしっ!未来スコープと名付けよう!」

興奮冷めやらぬ中、藍は資料室の扉がゆっくりと開く音を聞いた。

「ん?」

振り返ると、そこに立っていたのは、クラスの寡黙な転校生、九条院蓮だった。

「白石さん、ごめん、ちょっと、声聞こえて……隙間から見ちゃった……それ凄いね!」
「あ、九条院くん……」
「九条院って言いにくいでしょ。蓮でいいよ。……僕も、オカルトや都市伝説に興味があるんだけど……もしよかったら、その道具を使って、一緒に学園の都市伝説を調べてみたいな」
「え……ホント!?嬉しいけど……いいの?」
「うん。一緒にやろうよ!」
「九条……蓮くん……」
「あはは、でも白石さん、さっきからずっと独り言言ってたよ?面白いな~」
「あ、はずかしい~」
「大丈夫!ちょっと可愛かった!」
「~~~~~~~~~っ!!!」 
藍は顔を手で覆い、今すぐ資料室の床に埋まりたい気分だった。
「蓮くんも、寡黙な感じだと思ってたけど、ちゃんと喋れるんじゃん!」
「ちゃんと喋れるって何よ~全然ほめてないじゃん!」

ふたりは、ちょっと、ほほえましく笑いあった。

「よしっ、じゃあ、私たちで学園の都市伝説、全部暴いちゃおう!」

藍は興奮気味に未来スコープをぎゅっと握りしめた。
こうして、未来を映し出す不思議な道具「未来スコープ」を巡る、藍と蓮の学園都市伝説調査が、今、始まったのだった。
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