未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由

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エピソード4:時計台の真実と、見えない不正

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その日の放課後、 藍と蓮は再び旧校舎の前に立っていた。
学園の奥にひっそりと佇む時計台は、相変わらず寂しげに空にそびえ立つ。

「今日は、もっと奥まで行ってみよう!絶対に何か見つかる気がするんだ!」

藍は未来スコープをぎゅっと握りしめ、目を輝かせた。
蓮は藍の隣で、いつもより少しだけ口元を緩めた。

「うん。気をつけようね、白石さん。何かあったら、すぐに僕が守るから」

その蓮の言葉に、藍の胸がキュンと鳴った。
旧校舎の薄暗い内部は、相変わらず埃っぽく、腐食した木の床がきしむ音が二人の足音を追うように響く。
まるで時間が止まったような空間を、二人は並んで進んでいく。
薄暗い階段を上り、昨日たどり着いた時計台の機械室へと入った。

機械室の中央には、錆びた歯車や複雑な機構がむき出しになっている。
藍は興奮を抑えきれない様子で、未来スコープを手に、部屋の隅々まで見回した。片隅には質素な机と椅子が置かれている。

藍は未来スコープを起動させようと、机の木目に指先をそっと触れさせた。
その瞬間、「カチリ」と小さな音が響き、未来スコープの水晶玉が淡く、しかし強く光を放った。藍は息を呑んで、筒を覗き込んだ。

映し出された映像は、まさしくこの時計台の機械室だった。
しかし、そこには夜の帳が降りていて、満月の光が窓から差し込んでいる。
そして、机に向かってうつむいている人影。
その人物が顔を上げた瞬間、藍は息をのんだ。
そこにいたのは、紛れもない校長先生だった。
映像の中の校長は、机いっぱいに広げられた書類の山を前に、疲労困憊といった様子で、低く、苦しげな声を漏らしていた。

「うぇ~……こんなにあるのかよ。この大量の帳簿、全部改ざんするのか。今日も徹夜か~うぇ~」

校長の言葉が、まるで苦しいうめき声のように機械室に響く。
藍はぞっとした。これこそが、旧校舎の時計台から聞こえるという都市伝説の「うめき声」の正体なのか?校長はさらに言葉を続けた。

「まあ、これ条件に校長にしてくれたんだから仕方ないけど……
でも、電気も付けちゃいけないだなんて……満月明かりでやんなきゃいけないのほんとしんどいわ。誰かに気づかれたらおしまいだから仕方ないか……うぇ~」

藍の脳裏に、学園の七不思議の一つ「旧校舎の時計台から満月の夜中にうめき声が聞こえる」という話が鮮明に蘇る。
映像の中の校長の「今日も徹夜か~」「満月の明かりでやんなきゃいけない」という言葉と、苦しげな「うぇ~」という声は、まさに都市伝説の「満月の夜中に聞こえるうめき声」と寸分違わず重なっていた。
これこそが、あの不気味な都市伝説の驚くべき真相なのかと、藍は戦慄した。

映像の中の校長は、焦燥にかられたようにペンを走らせていた。
書類には学園の巨額な収支に関する項目が並んでいる。
その資料の端には、はっきりと理事長の印章が押されているのが見えた。

「これ、まさか……校長先生が、不正を…!?」

藍は未来スコープから目を離し、蓮に顔を向けた。
蓮もまた、真剣な眼差しで映像の続きを見つめていた。
彼の表情はいつになく険しい。

「この不正、単純なものじゃない。理事長の印章が見えた…これは、学園全体を巻き込む、もっと大きな問題かもしれない」

蓮の声には、いつもの弱々しさはなく、強い意志が感じられた。
藍は、そんな蓮の真剣な横顔をじっと見つめる。
都市伝説の謎が、まさか学園の深い闇へと繋がっているとは。
そして、この難題を前にしても、勇敢に立ち向かおうとする蓮の姿に、藍の胸は高鳴っていた。

「蓮くん、これ、どうするの……?」 
藍の声は、かすかに震えていた。
「どうするって、放っておくわけにはいかないだろう」 
蓮の瞳には、強い光が宿っている。
「でも、相手は校長先生だよ?それに、理事長まで関わってるなんて……」 藍は不安を隠せない。
「だからこそ、僕たちが調べなきゃいけないんだ。こんな不正、見過ごせない」
 蓮はまっすぐに藍の目を見つめる。
「……そっか。蓮くんは、そういうの、ちゃんと向き合うんだね」
 藍は、蓮のまっすぐな視線に吸い込まれそうになる。
「白石さんは、怖い?」
 蓮が尋ねる。
「……正直、ちょっとだけ。でも、蓮くんが一緒なら、大丈夫な気がする」 藍は、はにかんで答えた。
「ならよかった。僕も、白石さんがいてくれると心強いよ」 
蓮がフッと微笑む。その笑顔に、藍の心臓はさらに大きく跳ねた。
「ねえ、蓮くん……こんなこと、本当に私たちだけで大丈夫なのかな?」
 藍はふと、不安げに蓮を見上げた。
蓮は、藍の目を見て、一瞬言葉に詰まった。
 「……正直、僕もそう思ってる」
 蓮の声に、迷いがにじむ。
「もし、このことがバレたら……私たち、どうなるんだろう?」 
藍は、恐怖で顔を青ざめる。

蓮はそっと藍の手に触れた。

 「僕が巻き込んでしまったから、本当に申し訳ないと思っている。
だから、もし少しでも危険を感じたら、君はすぐに手を引いてほしい」
 蓮の瞳には、藍を心配する色が浮かんでいた。
「え……でも、蓮くんは?」
 藍は蓮の言葉に戸惑う。
「僕は……僕には、この不正を見過ごせない理由があるんだ……」
 蓮の表情は、どこか寂しげだった。
「そんなの……嫌だよ!蓮くん一人になんてさせない!私だって、このままじゃ納得できないもん!」 
藍は、蓮の言葉に反発するように、強く言い返した。
蓮は、藍のまっすぐな目に驚いたように見えた。 
「白石さん……」
「それに、私がそばにいた方が、蓮くんも安心でしょ?ね?」 
藍は、蓮の手をぎゅっと握り返した。
蓮は、その藍の手を、今度は優しく、しかし固く握り返した。

そして、躊躇うことなく藍を抱き寄せた。

藍は、突然のことに目を丸くしたが、すぐに蓮の温かい腕の中に身を委ねた。
彼の心臓の音が、トクントクンと自分にも伝わってくる。
彼の香り、温もり、そして力強い腕に包まれることで、得体のしれない不安も、彼を一人にさせたくないという強い気持ちも、すべてが溶け合っていくようだった。

未来スコープの水晶玉の光は消え、機械室は再び静寂に包まれた。
しかし、二人の心の中には、新たな、そしてより重大な謎が刻み込まれていた。
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