未来スコープ ―この学園、裏ありすぎなんですけど！？ ―

エピソード9：裏切りと絶望、そして届いた招待状 Ver.5

翌日。
藍の部屋は、いつもと変わらない静けさに包まれていた。
使い慣れた机の上には読みかけの雑誌が広がり、ベッドの上には放り出された制服がくしゃりと置かれている。
いつもの見慣れた風景が、今日はひどく色あせて見えた。

藍はスマホを眺め、まるで固まったかのように動けずにいた。
画面には学園からのメールが表示されており、そこには信じられない言葉が並んでいた。

「……退学処分、だって？なんで……」

藍の声は、震えていた。理由は「校則違反と学園の風紀を乱したため」と、ごくありふれたもの。
しかし、藍にはそれが、焼却炉での調査がバレたための、でっち上げだとすぐに分かった。

スマホを握りしめたまま、藍はベッドにへなへなと座り込んだ。
頭の中は混乱でいっぱいだった。

「どうして私だけ……蓮くんは？蓮くんはどうなったの……？」

蓮が証拠を持って去って行ったこと、そして自分だけが退学処分になったこと。嫌な予感が藍の胸を締め付ける。

その時、スマホが震えた。
画面には「優花」の文字。藍はためらいながらも、電話に出た。

「もしもし……優花……」
「藍！大丈夫なの！？学園の掲示板見たけど……信じられないわ！」
「優花……私、退学にされちゃった……」
藍の声は、今にも泣き出しそうだった。
「本当に不当よ！こんなのってあんまりだわ！」
優花の声は、怒りに震えていた。
「ねぇ、優花。蓮くんは？蓮くんはどうなったの……？
退学にされたのは、私だけなのかな……」
優花は電話の向こうで、一瞬言葉に詰まった。
「……それが、藍。掲示板に、もうひとつ張り紙が……」
「もうひとつって……なに？」
「九条院くんね……自主退学したって」
「え……自主退学……？」
その言葉は、藍の頭にガツンと響いた。
蓮が「退学処分」ではなく、「自主退学」。
その事実が、藍の脳裏に次々と嫌な考えを巡らせる。
「なんで……？
なんで退学処分じゃなくて、自主退学なの……？
もしかして、やっぱり蓮くん、理事長とつながってたってこと……？
証拠を私から奪って、用済みになったから、自分だけきれいな形で消えたってこと……！？」

藍の声は、悲しみと絶望に染まっていた。
目から大粒の涙があふれ、頬を伝った。

花「藍……」
優花の声には、どうすることもできない、深い悲しみがこもっていた。
「私……蓮くんのこと、信じてたのに……！私だけ退学にさせて、自分はちゃっかり逃げるなんて……そんなの、あんまりだよ……！」
藍は声を上げて泣いた。
蓮に裏切られたという思いが、藍の心を深く抉った。

「藍……大丈夫？私が今から行くわ！」
「ううん、来ないで……一人にしてほしい……」

電話を切った後も、藍はただただ泣き続けた。
未来スコープをぎゅっと握りしめるが、もはや光を放つこともない。
その真鍮製の筒は、ただ冷たく、藍の手の中で重みを増すだけだった。

どれくらいの時間が経っただろうか。
泣き疲れて横になった藍の部屋まで、玄関のチャイムの音が聞こえてきた。
重い体を起こし、リビングを通り過ぎて玄関に向かうと、ドアの外には郵便配達員が立っていた。手渡されたのは、一通の速達だった。

藍はゆっくりと封筒を開けた。
中には高級そうな紙に印刷された、丁寧な招待状が入っていた。差出人の名前はなかった。

「これ……『学園の功績による感謝の食事会』……？」
招待状には、日時と場所が記されている。待ち合わせ場所は「学園正門前」。
藍はすぐに優花に電話をかけた。
「もしもし、優花。ねぇ、今、変な手紙が届いたんだけど……」
「手紙？どんな？」
「『学園の功績による感謝の食事会』だって。待ち合わせは学園の正門前……」
「えっ！？何それ……怪しすぎるわよ！罠じゃないの！？」
「私も、そう思った……。これって、もしかして私を消そうとしてるってこと……？」
恐怖が藍の胸をよぎった。
しかし、同時に、ここで行かなければ、何が起こったのか、なぜ蓮が自分を裏切ったのか、何も分からないままになってしまうという思いも湧き上がった。

「でも、行かなきゃ……。そうじゃないと、何があったのか、何も分からないままだもん」
「藍！何言ってるの！？絶対に行っちゃダメよ！危ないわ！」
「分かってる……。でも、もう私、行かなきゃダメなの。
だから、もし何かあったら、すぐに警察に連絡してほしいの……」

藍の声は、まだ震えていたが、そこにはかすかな決意が宿っていた。