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10 裕介、命を狙われる
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「これは……果物か?」
ジェイドは皿を手にしたまま、囓ったクッキーに問いかけた。
裕介は、ポットに紅茶の茶葉を入れようとしていた手を止め苦笑する。
「ヨシュアさんからベリーをいただいたので、試しに生地に練り込んでみました。苦手でしたか?」
「いや、そのまま食べるより旨い」
凛々しい表情で子どものようにクッキーを頬張るジェイドに、裕介は頬を緩ませた。
ジェイドは非番のため軍服ではなく、ラフなシャツとパンツ姿である。
はじめてクッキーを焼いて以降、ジェイドは非番のたびに裕介にお菓子作りを依頼した。
裕介を厨房へ連れて行き、ジッと菓子ができあがるのを待つ。そして、精悍な面持ちを崩さず、大量の菓子を完食するのだ。
最初の頃は嬉々として、裕介は菓子作りに精を出していた。
そのうち休みのたびに菓子を欲しがるなんて、いくらなんでも、頻度が多すぎるんじゃないかと、ジェイドを疑いはじめる。
無理をさせているのかと不安になった裕介は、ある日、作る量を減らしてみたのだが――。
「用意した材料に対して、出来上がりが少なくないか?」
その日のメニューはパンケーキだった。
柔らかな生地が次から次へとジェイドの口に吸い込まれていく。
もぐもぐと咀嚼しながら、ジェイドは「俺の勘違いか?」と裕介を探るように見つめた。
分量を計算して材料を準備をしていたことに驚き、即座に反応できない。
「あ――、全部使っちゃっていいのか、わからなかったんで」と誤魔化すのが精一杯だった。
「そうか……」と残念そうに肩を落とすジェイドの姿が、実家で飼っていた柴犬と重なる。
楽しみにしていたおやつをもらえず、シュンとする愛犬にそっくりだ。
(マジで食べたかっただけなんだな……)
社畜生活が長いせいか、人の真意を疑う癖が抜けない。
世話になってる人のことをちゃんと見ていなかったなと、反省する裕介だった。
「今度からは用意していただいた材料、全部使いますね」
変な気遣いは無用だと察してからは、思う存分、菓子作りに励んでいる。
「……で、いつ、ヨシュアと会ったんだ?」
ジェイドはクッキーを頬張りながら、渋面を作った。
何がそんなにジェイドのなかで引っかかっているのか、不思議に思いながら、裕介は調理台に紅茶のカップを置いて、記憶を手繰り寄せる。
「一昨日だったかな。ヨシュアさんが護衛に復帰してきたでしょ。その時、ご両親が農園をされてるとかで、ベリーをお裾分けしてくれたんです。今日のクッキーに使ったやつ。それで、お礼に俺からパウンドケーキを渡して――」
「……俺以外に、菓子を与えたのか?」
ジェイドは眉をひそめる。
襲われて以来、裕介が騎士団員と接触するのを、ジェイドはことさら嫌うようになった。
しかし相手はヨシュア――ジェイドの腹心である。
(いやいや、なんでそんな怖い顔してんの? あ、もしかして自分の取り分が減って怒ってんのかな)
食べ物の恨みは恐ろしい。
みるみる不機嫌そうに灰色の瞳を細めるジェイドに、裕介は言い繕った。
「自分用に取って置いたのを少しお渡ししたんですよ。ジェイドさんの分を横取りしたわけじゃないんで、怒らないでください、ね?」
下手に出ると、ジェイドは「そういうことではないのだが」と、額に手を当てため息を落とす。
「え、お菓子の取り分が減ったから、ご機嫌斜めなんじゃ……」
「違う。貴殿がこちらの世界に喚ばれてから、一月が経とうとしている。ヨシュアは信用できる奴だが、貴殿の発情期が予測できない今、油断はできない。なるべくαとの接触は避けてくれ」
「……わかりました」
Ωとαには発情期、通称ヒートがある。数ヶ月に一度、意思の力では制御できなくなるほど、欲情するのだとか。
半信半疑だが、郷には入れば郷に従えである。
ジェイドに言われるがまま、濁った色味の液体――抑制剤を飲み、裕介は発情期に備えていた。
(俺、わりと淡泊だし、なりふり構わずセックスしたくなるとか、想像できないなあ~)
ここ数年、そういう行為とは縁が無い。正確に言えば激務に追い立てられ、性欲を発散する体力が残っていなかったのである。
異世界に転移してからというもの、平穏にとはいかないが、たっぷり休めて気力、体力ともに回復していた。
そのうちジェイドに女性と遊ぶ店を教えてもらおう。彼も男なのだし、その手の店の一つや二つ知っているはずだ。
「今後、作った菓子は誰にも渡すな」
そんな浮かれた妄想を、ジェイドの不機嫌そうな声音が遮った。
「え、足りてないんですか?」
「……まあ、そんなところだ」
かなり多めに作っているのだが、さすがは二十代。食欲が底なしだ。
しかし、人生の先輩として忠告しておくべきことがある。
「いくら体力仕事でも、甘い物を食べ過ぎるのはよくないですよ。十年後に身体に出ますから。特に腹回りとか……」
「いいから、他の奴に渡すな……。約束しろ」
ジェイドは頬を赤くし、乱暴に言い切った。
菓子を独り占めしたいのが、バレバレである。
(子どもっぽい一面もあるんだな)
こうしてジェイドと二人、お菓子を挟んで、他愛もない会話を交わすのが楽しい。
(こんな穏やかな日々が、ずっと続けばいいのにな)
ぼんやりと感慨に耽っていた、その時――。
「敵襲、敵襲――! 総員持ち場に急げ!」
窓の外から、野太い声が轟き、裕介の希望を打ち砕いた。
(敵襲――? え? どういう……)
「ユースケ!」
硬直した裕介を、ジェイドが引き寄せた、次の瞬間。
前庭に面した窓ガラスが派手に割れ、厨房の床に散らばる。
裕介はジェイドの胸にぴったり張り付き、身を縮こまらせた。
(一体、何が起こってるんだ??)
「……扉の近くにいろ」
ジェイドは混乱している裕介を扉の方へと押しやり、腰に帯びた剣を鞘走らせる。
窓から黒い装束をまとった人影が音もなく侵入した。短剣を顔の前にかかげ、今にもジェイドに飛び掛かかりそうである。
「騎士……ではないな。どこの手の者だ?」
問いに応えず黒装束は短剣を構え突進するも、ジェイドは難なく弾き返した。
ジェイド相手に勝ち目はないと踏んだのか、黒装束は狙いを裕介に変えた。
投げ放たれた短剣が、裕介の胸元に迫る。
「――姑息な!」
ジェイドは、裕介を狙った短剣を叩き落とした。
「なるほど……雇い主は国王派か?」
黒装束は何も答えず、スペアの短剣を懐から取り出す。
ジェイドは裕介を背後に庇い、扉へと誘導した。
黒装束はジェイドから一定の距離を保って、短剣を逆手に構える。攻撃する隙を狙っているようだ。
「俺、マジで狙われる心当たりないんだけど……」
恐怖を紛らわせようと、裕介はジェイドの背後から軽口をたたいた。
「前に言っただろう。貴殿は国王派にとってはありがたくない存在なのだ、と」
「そうだけどさぁ。マジで殺しにくるとか思わないですよ、普通は」
「……予想の範疇とはいえ、こうも派手に襲ってくるのは些か不可解ではあるな。国王派ではなく、貴殿を攫って奴隷市で売り飛ばそうと押し入った賊の可能性も視野に入れるべきか……」
「何それ、オジさん買う奴なんかいないでしょ」
冗談で裕介の緊張を解そうとしてくれているのかと思いきや、ジェイドはニコリともしない。
「異世界から召喚したΩは希少価値が高い。それに貴殿は曰く付きだ。需要はある」
「異世界、怖すぎるだろ……」
裕介と会話しながらも、ジェイドは黒装束への警戒を怠らない。
膠着状態を破ったのは黒装束だ。
ジェイドめがけて短剣を構え、突進する。
その剣先をジェイドは愛剣の腹で受け止めた。耳障りな金属音が厨房に鳴り響く。
黒装束は裕介に視線を定めたまま、ジェイドと攻防を繰り広げていた。蛇のように絡みつく眼光に、裕介は射竦められる。
「片手間で、俺を殺れると思うな、よっ!」
ジェイドは黒装束の短剣を弾くと、返す刃でその腹を横一閃に切り裂いた。黒装束は声を出す暇もなく、床にくずおれる。
その寸前、無表情だった黒装束がニタリと口元を歪ませた。
「! ユースケ、扉から離れろ!」
「え?」
ジェイドが叫ぶと同時に、背後の扉が音もなく開いた。振り返ればそこには、別の黒装束が影のように佇んでいる。
その手には短剣が握られていた。
目の前に倒れる黒装束は囮だったのか――。
新たな刺客は呆然とする裕介に向かって、短剣を素早く振りかぶる。
(あ、俺、死んだな)
瞼を閉じる暇もない。
両目に刃の切っ先が映り込んで――。
(あれ? 痛くない……?)
衝撃はなく、それどころか、あたたかなぬくもりに包まれている。嗅ぎ慣れた甘い香りに、いつの間にか閉じていた瞼を持ち上げた。
ジェイドが裕介を抱えていた。その左腕には深々と短剣が突き刺さっている。
「――っ」
ジェイドは躊躇せず、左腕から短剣を引き抜くと、黒装束へ投げつける。
黒装束は短剣をひらりと躱し、倒れた仲間を軽々と担ぎ上げ、割れた窓から姿を消した。
「ジェイドさん!」
腕の傷に手を伸ばす裕介に、ジェイドは「触るな」と低い声で諌める。
ジェイドの胸元から這い出し、彼を床へと横たえた。呼吸が速く、身体が熱い。灰色の瞳はうつろに天井を見上げている。
(どうしたら……)
途方に暮れていると、扉の外から「副騎士団長! 旦那!」とヨシュアの叫び声が聞こえた。
(助かった……)
腰が抜け、思うように動けない。
それでも、裕介は力を振り絞り、扉まで這っていった。
ジェイドは皿を手にしたまま、囓ったクッキーに問いかけた。
裕介は、ポットに紅茶の茶葉を入れようとしていた手を止め苦笑する。
「ヨシュアさんからベリーをいただいたので、試しに生地に練り込んでみました。苦手でしたか?」
「いや、そのまま食べるより旨い」
凛々しい表情で子どものようにクッキーを頬張るジェイドに、裕介は頬を緩ませた。
ジェイドは非番のため軍服ではなく、ラフなシャツとパンツ姿である。
はじめてクッキーを焼いて以降、ジェイドは非番のたびに裕介にお菓子作りを依頼した。
裕介を厨房へ連れて行き、ジッと菓子ができあがるのを待つ。そして、精悍な面持ちを崩さず、大量の菓子を完食するのだ。
最初の頃は嬉々として、裕介は菓子作りに精を出していた。
そのうち休みのたびに菓子を欲しがるなんて、いくらなんでも、頻度が多すぎるんじゃないかと、ジェイドを疑いはじめる。
無理をさせているのかと不安になった裕介は、ある日、作る量を減らしてみたのだが――。
「用意した材料に対して、出来上がりが少なくないか?」
その日のメニューはパンケーキだった。
柔らかな生地が次から次へとジェイドの口に吸い込まれていく。
もぐもぐと咀嚼しながら、ジェイドは「俺の勘違いか?」と裕介を探るように見つめた。
分量を計算して材料を準備をしていたことに驚き、即座に反応できない。
「あ――、全部使っちゃっていいのか、わからなかったんで」と誤魔化すのが精一杯だった。
「そうか……」と残念そうに肩を落とすジェイドの姿が、実家で飼っていた柴犬と重なる。
楽しみにしていたおやつをもらえず、シュンとする愛犬にそっくりだ。
(マジで食べたかっただけなんだな……)
社畜生活が長いせいか、人の真意を疑う癖が抜けない。
世話になってる人のことをちゃんと見ていなかったなと、反省する裕介だった。
「今度からは用意していただいた材料、全部使いますね」
変な気遣いは無用だと察してからは、思う存分、菓子作りに励んでいる。
「……で、いつ、ヨシュアと会ったんだ?」
ジェイドはクッキーを頬張りながら、渋面を作った。
何がそんなにジェイドのなかで引っかかっているのか、不思議に思いながら、裕介は調理台に紅茶のカップを置いて、記憶を手繰り寄せる。
「一昨日だったかな。ヨシュアさんが護衛に復帰してきたでしょ。その時、ご両親が農園をされてるとかで、ベリーをお裾分けしてくれたんです。今日のクッキーに使ったやつ。それで、お礼に俺からパウンドケーキを渡して――」
「……俺以外に、菓子を与えたのか?」
ジェイドは眉をひそめる。
襲われて以来、裕介が騎士団員と接触するのを、ジェイドはことさら嫌うようになった。
しかし相手はヨシュア――ジェイドの腹心である。
(いやいや、なんでそんな怖い顔してんの? あ、もしかして自分の取り分が減って怒ってんのかな)
食べ物の恨みは恐ろしい。
みるみる不機嫌そうに灰色の瞳を細めるジェイドに、裕介は言い繕った。
「自分用に取って置いたのを少しお渡ししたんですよ。ジェイドさんの分を横取りしたわけじゃないんで、怒らないでください、ね?」
下手に出ると、ジェイドは「そういうことではないのだが」と、額に手を当てため息を落とす。
「え、お菓子の取り分が減ったから、ご機嫌斜めなんじゃ……」
「違う。貴殿がこちらの世界に喚ばれてから、一月が経とうとしている。ヨシュアは信用できる奴だが、貴殿の発情期が予測できない今、油断はできない。なるべくαとの接触は避けてくれ」
「……わかりました」
Ωとαには発情期、通称ヒートがある。数ヶ月に一度、意思の力では制御できなくなるほど、欲情するのだとか。
半信半疑だが、郷には入れば郷に従えである。
ジェイドに言われるがまま、濁った色味の液体――抑制剤を飲み、裕介は発情期に備えていた。
(俺、わりと淡泊だし、なりふり構わずセックスしたくなるとか、想像できないなあ~)
ここ数年、そういう行為とは縁が無い。正確に言えば激務に追い立てられ、性欲を発散する体力が残っていなかったのである。
異世界に転移してからというもの、平穏にとはいかないが、たっぷり休めて気力、体力ともに回復していた。
そのうちジェイドに女性と遊ぶ店を教えてもらおう。彼も男なのだし、その手の店の一つや二つ知っているはずだ。
「今後、作った菓子は誰にも渡すな」
そんな浮かれた妄想を、ジェイドの不機嫌そうな声音が遮った。
「え、足りてないんですか?」
「……まあ、そんなところだ」
かなり多めに作っているのだが、さすがは二十代。食欲が底なしだ。
しかし、人生の先輩として忠告しておくべきことがある。
「いくら体力仕事でも、甘い物を食べ過ぎるのはよくないですよ。十年後に身体に出ますから。特に腹回りとか……」
「いいから、他の奴に渡すな……。約束しろ」
ジェイドは頬を赤くし、乱暴に言い切った。
菓子を独り占めしたいのが、バレバレである。
(子どもっぽい一面もあるんだな)
こうしてジェイドと二人、お菓子を挟んで、他愛もない会話を交わすのが楽しい。
(こんな穏やかな日々が、ずっと続けばいいのにな)
ぼんやりと感慨に耽っていた、その時――。
「敵襲、敵襲――! 総員持ち場に急げ!」
窓の外から、野太い声が轟き、裕介の希望を打ち砕いた。
(敵襲――? え? どういう……)
「ユースケ!」
硬直した裕介を、ジェイドが引き寄せた、次の瞬間。
前庭に面した窓ガラスが派手に割れ、厨房の床に散らばる。
裕介はジェイドの胸にぴったり張り付き、身を縮こまらせた。
(一体、何が起こってるんだ??)
「……扉の近くにいろ」
ジェイドは混乱している裕介を扉の方へと押しやり、腰に帯びた剣を鞘走らせる。
窓から黒い装束をまとった人影が音もなく侵入した。短剣を顔の前にかかげ、今にもジェイドに飛び掛かかりそうである。
「騎士……ではないな。どこの手の者だ?」
問いに応えず黒装束は短剣を構え突進するも、ジェイドは難なく弾き返した。
ジェイド相手に勝ち目はないと踏んだのか、黒装束は狙いを裕介に変えた。
投げ放たれた短剣が、裕介の胸元に迫る。
「――姑息な!」
ジェイドは、裕介を狙った短剣を叩き落とした。
「なるほど……雇い主は国王派か?」
黒装束は何も答えず、スペアの短剣を懐から取り出す。
ジェイドは裕介を背後に庇い、扉へと誘導した。
黒装束はジェイドから一定の距離を保って、短剣を逆手に構える。攻撃する隙を狙っているようだ。
「俺、マジで狙われる心当たりないんだけど……」
恐怖を紛らわせようと、裕介はジェイドの背後から軽口をたたいた。
「前に言っただろう。貴殿は国王派にとってはありがたくない存在なのだ、と」
「そうだけどさぁ。マジで殺しにくるとか思わないですよ、普通は」
「……予想の範疇とはいえ、こうも派手に襲ってくるのは些か不可解ではあるな。国王派ではなく、貴殿を攫って奴隷市で売り飛ばそうと押し入った賊の可能性も視野に入れるべきか……」
「何それ、オジさん買う奴なんかいないでしょ」
冗談で裕介の緊張を解そうとしてくれているのかと思いきや、ジェイドはニコリともしない。
「異世界から召喚したΩは希少価値が高い。それに貴殿は曰く付きだ。需要はある」
「異世界、怖すぎるだろ……」
裕介と会話しながらも、ジェイドは黒装束への警戒を怠らない。
膠着状態を破ったのは黒装束だ。
ジェイドめがけて短剣を構え、突進する。
その剣先をジェイドは愛剣の腹で受け止めた。耳障りな金属音が厨房に鳴り響く。
黒装束は裕介に視線を定めたまま、ジェイドと攻防を繰り広げていた。蛇のように絡みつく眼光に、裕介は射竦められる。
「片手間で、俺を殺れると思うな、よっ!」
ジェイドは黒装束の短剣を弾くと、返す刃でその腹を横一閃に切り裂いた。黒装束は声を出す暇もなく、床にくずおれる。
その寸前、無表情だった黒装束がニタリと口元を歪ませた。
「! ユースケ、扉から離れろ!」
「え?」
ジェイドが叫ぶと同時に、背後の扉が音もなく開いた。振り返ればそこには、別の黒装束が影のように佇んでいる。
その手には短剣が握られていた。
目の前に倒れる黒装束は囮だったのか――。
新たな刺客は呆然とする裕介に向かって、短剣を素早く振りかぶる。
(あ、俺、死んだな)
瞼を閉じる暇もない。
両目に刃の切っ先が映り込んで――。
(あれ? 痛くない……?)
衝撃はなく、それどころか、あたたかなぬくもりに包まれている。嗅ぎ慣れた甘い香りに、いつの間にか閉じていた瞼を持ち上げた。
ジェイドが裕介を抱えていた。その左腕には深々と短剣が突き刺さっている。
「――っ」
ジェイドは躊躇せず、左腕から短剣を引き抜くと、黒装束へ投げつける。
黒装束は短剣をひらりと躱し、倒れた仲間を軽々と担ぎ上げ、割れた窓から姿を消した。
「ジェイドさん!」
腕の傷に手を伸ばす裕介に、ジェイドは「触るな」と低い声で諌める。
ジェイドの胸元から這い出し、彼を床へと横たえた。呼吸が速く、身体が熱い。灰色の瞳はうつろに天井を見上げている。
(どうしたら……)
途方に暮れていると、扉の外から「副騎士団長! 旦那!」とヨシュアの叫び声が聞こえた。
(助かった……)
腰が抜け、思うように動けない。
それでも、裕介は力を振り絞り、扉まで這っていった。
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