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創作系怪談短編集
黄昏の罪
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何故だか知らないが、私は毎年の春の中頃の時期になると、桜の木が咲き誇っている大池の淵で、ぼぉっと突っ立っていたくなる。 ここでなければいけない理由も特に見つからない。
だが、私の中のなにかが、決まった頃合になると突き動かすようにこの場へと足を運ばせるのである。
着いてからしばらく、水面を眺めていた。
昼時をすっかり過ぎた水面には、強風に煽られてすっかり散ってしまった花びらが、覆い尽くすように散らばっている。
ごぉっと一陣の風が吹き、またもや新しい花びらが群れを成して降りてくる。
そのうち、水面にゆらゆらと浮かんでいた花びらが、ピタリと時が止まったように動きを止めた。
時刻は夕暮れの末、黄昏時であった。
気づけば横に、女が立っていた。
濡れそぼった髪をそのままに、全身から生臭い水を滴らせながら、静かに立っていた。
『黄昏時の語源。知っていますか?』
女は私に問うているようだった。そちらを見ることも無く、私は目の前の緑深い水面をただ見つめていた。
『誰そ彼。目の前の人が、誰かわからなくなるくらい、暗くなる時間だから。』
私の無言の応答に、彼女は気にもしていない様子だった。 滴り落ちる水音の中で聞こえた細々しい声は、何故だか懐かしいものだった。 誰かわからない。だが、彼は私にとってなにか、忘れてはいけない誰かのような。
『だからあなたは、毎年この日のこの時間に、ここに来るんです』
女は淡々と続ける。 私は確かに、その声に覚えがあった。それどころか、その声を発する女性にも、心当たりがあった。胸の内がズキンと痛む。
『目の前の私を、見たくなかったから。沈みゆく顔を、見れなかったから』
女の声が、ゴボゴボと池の中から反響していた。私は自らの罪を、ようやく少しづつ思い出していた。
あぁ、そうか。君は、俺が。
『あなたが落としたんです。私のことを』
………そうか。そうだった。
そこで、目が覚める。
鉄格子の隙間から、鳥の鳴き声が聞こえていた。私はしばらく、その鳴き声をかき消すような嗚咽を繰り返していた。
春の終わりごろ、激しく一方的な恋慕の末にとうとう命を奪うに至った想い人の夢を、冷たい牢獄の中で私は、毎年おなじ時期、必ず夢に見るのである。
だが、私の中のなにかが、決まった頃合になると突き動かすようにこの場へと足を運ばせるのである。
着いてからしばらく、水面を眺めていた。
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ごぉっと一陣の風が吹き、またもや新しい花びらが群れを成して降りてくる。
そのうち、水面にゆらゆらと浮かんでいた花びらが、ピタリと時が止まったように動きを止めた。
時刻は夕暮れの末、黄昏時であった。
気づけば横に、女が立っていた。
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………そうか。そうだった。
そこで、目が覚める。
鉄格子の隙間から、鳥の鳴き声が聞こえていた。私はしばらく、その鳴き声をかき消すような嗚咽を繰り返していた。
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