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第122話 天才ちゃん勧誘大作戦
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(新星歴4818年1月5日)
リナーリアが最近おかしい。
まあいつもおかしいのだが、おかしさのベクトルが違う。
診療所で患者を診るときも心ここにあらずで腕のケガなのに解呪をしてみたり、いつも興奮しながら干す私の下着を見てもため息をつく。
おまけに大好きな料理も分量を間違え大量に作る始末。
そして極めつけはリナーリアの性格からは考えられない大きなため息をつく。
「おい、リア?どうした。いつものお前らしくないじゃないか」
流石に心配になったラミンデがリナーリアに問いかけた。
「えっ?な、何でも、ないですよ?あはは……えっと、キノコ探してきます」
突然飛び出すリナーリア。
あっけにとられるラミンデ。
「この前ルミナに連れられてからだな。何かあったか?…大体この寒いのにキノコなぞあるわけがなかろうに」
お気に入りのリナーリア特製のドクダミ茶を飲みながら、思わず零すラミンデだった。
※※※※※
俺はネルと一緒にリナーリアに会うために、ハイエルフのラミンデ・エルスイナの自宅を訪れた。
一応礼儀を欠かさぬよう手土産を持ち、ちゃんと玄関前に転移してきた。
俺は何度か訪れたことがある。
まあ500年以上昔だが。
「ノアーナ様。本当にリアをグースワースへ迎えるのですか?」
ネルはいまいち反対のようだ。
「ああ。もちろん本人の希望を最優先させるさ。まあいざとなったら頼むことはあるだろうがな。概念を凌駕する回復魔法には驚いた。俺も知らなかったからな」
「……分かりました。わたしだってリアのことは大切な親友です。もう反対はしません」
「ありがとうネル」
そしてドアをノックして俺は声をかけた。
「すまない、ラミンデ。俺だ。ノアーナだ。できれば開けてくれると嬉しいが」
魔力反応でいることは把握している。
当然ラミンデも分かっているだろう。
暫くするとラミンデがドアを開けてくれ、俺に抱き着いて来た。
目には涙が浮かんでいる。
「ノアーナ様……酷い人だ。……もう504年だぞ」
俺は優しくハグをする。
「そうか。もうそんなに経つんだな。元気そうだ」
「……うん………」
※※※※※
ラミンデは俺の元教え子だ。
精霊術にたけ、俺の知らないコミュニケーションをとれる天才だった。
ハイエルフの里を飛び出し、不帰の森で死にかけているところを俺が拾ってしばらく一緒に暮らしていた。
まだ幼く、40歳くらいの時に保護して色々教えてやったことがあった。
ハイエルフの40歳は人間でいう15~16歳くらいだ。
俺はその当時は今みたいに不安定ではなく、いわゆる完全な創造主だったので、きっと彼女に無意識に酷い事をしていたのだろう。
今ならわかる。
きっと彼女は俺のことが好きだった。
そして俺は何も告げずに、彼女の前から消えていた。
別に嫌いとかそういう感情ではなく、治ったからもういいと判断していたんだ。
※※※※※
「今日はどうしたのです?………さっきはすまない。少し取り乱した」
「ああ、かまわないさ。今日は頼みごとがあってきたんだ」
ネルは珍しく、おとなしくしていた。
いつもなら嫉妬を向けてくるのにラミンデにはそういう感情がわかないらしい。
「エルスイナ様、この前はありがとうございました」
「ああ、こちらこそ。そうか、ツワッド嬢も勇者殿もノアーナ様と一緒にいるのか。良かったよ。心配事が減った気分だ」
「????」
「ああすまない。こちらの一方的な感傷だ。申し訳ないが私は茜を恐れているんだ。あの凄まじい力の意味が分からなくてな」
ラミンデは遠い目をしてお茶を飲んだ。
「最近精霊たちがおびえているんだ。……黒い、怖いものが来るってな」
俺もネルも思わず固まってしまう。
ラミンデは小さくため息をついた。
「……そうか。……リアが必要か」
俺はラミンデに向き合いしっかりと瞳を見つめる。
「ああ。…もちろん本人の希望は聞くさ。無理やり連れていったりしない。約束する」
ラミンデはため息をつきながら少し悔しそうに口を開く。
「ずいぶん優しくなったものだ。そうしてほしい。わたしみたいなことはするな…私はずっと『捨てられた』と思っていたからな」
ネルが神妙な顔をしてラミンデに問いかける。
「エルスイナ様、ノアーナ様とはお知合いですか?」
「ラミンデで構わないよ、私もネルと呼ぼう。……ああ、ノアーナ様は私の命の恩人であり師匠であり私が唯一愛した男であり。……そして何も言わずに立ち去った酷い男だよ。まあ500年以上前の話だがな」
ネルのジト目とラミンデの半目が俺を貫く。
「す、すまない。あの時はそういうつもりではなかったんだ。おれは……」
「ああ、わかるさ。冗談だよお師匠様。もう私は少女ではない。それにずいぶん揺れるようになった。ふふ、200歳ほど若ければアタックするところだ」
そしてネルに視線を向ける。
「ネル、この男はな、さんざん優しくして、夜な夜な抱きしめてくれて、そして遂に手を出さずに、何も告げずにわたしを捨てた心無い男だったよ。……今は違うのだろ?」
ネルは顔を赤く染め、そしてしっかりと言い放つ。
「はい。わたくしを愛してくださる、わたくしの命より大切なお方です」
ラミンデは遠い目をし、そしてしっかりとネルに向き合い、まっすぐに見つめた。
「ああ、わたしはどうやら出会うのが早すぎたようだ。ネル、リアを頼む」
「はい。おまかせくださいませ」
空気が和んだ。
暖炉の柔らかい暖かさが心地いい。
「そういえばリアはどこに行ったんだ?もう1刻以上は戻らないが…」
ラミンデがそんなことを言った直後、魔力反応が近づいて来た。
突然ドアが開き、30代くらいの男が飛び込んできて大声を上げた。
「大変だ!リアがっ、森でっ、大けがを!!」
俺たち三人は慌てて外へ飛び出し、男の後を追った。
※※※※※
俺たちがラミンデと話をする少し前――
リナーリアは訳も分からず森をうろついていた。
「あー、どうしちゃったんだろ私……はあ……ノアーナ様……」
あの日からリナーリアの頭の中は優しく微笑むノアーナのことでいっぱいだった。
冬の町はずれは普段誰も近づかない。
ホワイトウルフという中級の魔物が群れをなしているからだ。
リナーリアは回復魔法だけは誰よりも得意だったが他はからっきしだ。
おそらく普通のウルフとすら戦えないほどポンコツだった。
普段なら絶対こんな場所へは来ないのに、別の事に囚われ失念していた。
気が付いた時には数匹のホワイトウルフに囲まれていた。
「えっ………」
背中に嫌な汗が流れる。
パニックになり背中を向け駆け出した。
魔物相手に絶対にしてはいけない行動をとってしまっていた。
「きゃああああああ!!―――いたいっ、あああっ!??」
1匹のホワイトウルフに背中を爪で引き裂かれた。
そしてもんどりうって転ぶ。
「くっ、ヒール!」
緑の光が自分を包む。
しかし次々に襲い掛かってくるホワイトウルフに、どんどん大きなけがを負わされていく。
足をかみ砕かれ、左手を食いちぎられ、お腹もひどく噛まれて血が止まらない。
リナーリアは初めて経験する激痛で、怖くて諦めてしまった。
そこへ騒ぎを聞きつけた町の冒険者が現れ、何とかホワイトウルフの群れを追い払うことができた。
だが、リナーリアは気を失い、あまりの酷いけがで冒険者たちは生存をあきらめていた。
ただパーティーの一人が以前リナーリアに助けられていたため知っていて、慌ててラミンデの家まで来てくれていたのだった。
※※※※※
ああ、わたし死んじゃったんだ。
暗い意識の中でリナーリアは思わずつぶやいた。
体の感覚がない。
痛みももうわからない。
ああ、最後にもう一度、ノアーナ様に………
声が聞こえた気がした。
私を呼ぶ声だ……
ノアーナ様?……
えっ?……
※※※※※
そして意識が浮上していき、目の前に目を腫らし泣いているネルと、心配そうに見つめるラミンデ師匠と……ノアーナ様がいた。
「あはは、やっぱり私、死んじゃったんだ。だって、天国だよね」
そうしてまた気を失った。
リナーリアはノアーナの概念魔法とネルの回復術で死の淵から生還していたのだった。
※※※※※
「この馬鹿弟子!お前は何をやっているんだポンコツめ!」
ラミンデのげんこつがリナーリアの頭に落とされた。
目から星が飛び出す。
「痛―い。私怪我人、ねっ、師匠?落ち着こう?」
ラミンデの寝室に寝かされていたリナーリアは涙目でラミンデに怒られていた。
流石に女性の寝室だ。
ノアーナは遠慮し一人応接室でドクダミ茶を楽しんでいた。
ネルがため息交じりに口を開く。
「まったくリアは。ノアーナ様がいなかったら完全に死んでいたのよ?後でちゃんとお礼を言いなさい」
そして優しい表情になり涙を流しながらリナーリアに優しく抱き着いた。
「グスッ、ホントに心配したんだから。ヒック……」
流石に空気の読めないリナーリアでもここでふざける度胸はなかった。
つられて涙が零れ落ちる。
「グスッ…怖かった…ヒック…痛かった……ほんとに死んじゃうと思った…うあ……あああああ………」
暫く二人は抱き合いながら、助かった安心と、親友をなくす瀬戸際に、涙が止まらなかったのだ。
そっと寝室を出たラミンデ。
一人ドクダミ茶を楽しむノアーナの姿が目に入る。
「ノアーナ様。ありがとう。弟子を救ってくれたこと感謝する」
「ああ、間に合ってよかったよ。……流石弟子だな。お前と一緒だ」
ラミンデもかつて魔物に襲われ死にかけていたところをノアーナに救われていた。
突然よみがえる500年前の優しいノアーナ。
今のノアーナが被る。
突然沸き上がるあの頃の憧れ。
ラミンデはたまらずノアーナに抱き着いていた。
ノアーナは優しくラミンデを抱きしめ、500年前には一度もしなかった優しいキスをするのだった。
ラミンデの初恋は、少しだけ報われた。
※※※※※
一晩休み、ラミンデの応接室でお茶を飲む4人。
何故かラミンデがご機嫌なのをリナーリアは訝しく思ったがこれから行くグースワースに既に意識は飛んでいた。
「ではラミンデ。リナーリアを預かる。なに、ちょくちょく連れてくるさ。診療所もあるのだろう?」
「ああ、ぜひ頼む。診療所はまあいいとして私の食事が心配だ。リア。まさか胃袋をつかんだこと忘れてはいまいな?」
そう言って優しく微笑むラミンデ。
「大丈夫ですよラミンデ様。毎日ちゃんと届けますから。良い修行にもなりますし」
ネルがはにかみながらラミンデに告げる。
「リアにも転移魔法をしっかり教えますから。覚悟してねリア」
そしてリナーリアへ視線を向ける。
「アハハ、うん。……まあ、がんばる?」
何故か疑問形なリナーリア。
「よし、それじゃ行くか。ラミンデ、またな」
「ああ、お師匠様。リアを頼んだ」
「任せろ」
俺はラミンデを抱きしめる。
そして転移してグースワースへと飛んだ。
「まったく。本当に変わったな。……私にもまだこんな感情が残っているとは」
一人になった応接室に薄っすら顔を上気させたラミンデの言葉が響きわたった。
窓際では鉢植えのポインセチアがラミンデの心を表すかのように葉を真っ赤に色づかせていた。
リナーリアが最近おかしい。
まあいつもおかしいのだが、おかしさのベクトルが違う。
診療所で患者を診るときも心ここにあらずで腕のケガなのに解呪をしてみたり、いつも興奮しながら干す私の下着を見てもため息をつく。
おまけに大好きな料理も分量を間違え大量に作る始末。
そして極めつけはリナーリアの性格からは考えられない大きなため息をつく。
「おい、リア?どうした。いつものお前らしくないじゃないか」
流石に心配になったラミンデがリナーリアに問いかけた。
「えっ?な、何でも、ないですよ?あはは……えっと、キノコ探してきます」
突然飛び出すリナーリア。
あっけにとられるラミンデ。
「この前ルミナに連れられてからだな。何かあったか?…大体この寒いのにキノコなぞあるわけがなかろうに」
お気に入りのリナーリア特製のドクダミ茶を飲みながら、思わず零すラミンデだった。
※※※※※
俺はネルと一緒にリナーリアに会うために、ハイエルフのラミンデ・エルスイナの自宅を訪れた。
一応礼儀を欠かさぬよう手土産を持ち、ちゃんと玄関前に転移してきた。
俺は何度か訪れたことがある。
まあ500年以上昔だが。
「ノアーナ様。本当にリアをグースワースへ迎えるのですか?」
ネルはいまいち反対のようだ。
「ああ。もちろん本人の希望を最優先させるさ。まあいざとなったら頼むことはあるだろうがな。概念を凌駕する回復魔法には驚いた。俺も知らなかったからな」
「……分かりました。わたしだってリアのことは大切な親友です。もう反対はしません」
「ありがとうネル」
そしてドアをノックして俺は声をかけた。
「すまない、ラミンデ。俺だ。ノアーナだ。できれば開けてくれると嬉しいが」
魔力反応でいることは把握している。
当然ラミンデも分かっているだろう。
暫くするとラミンデがドアを開けてくれ、俺に抱き着いて来た。
目には涙が浮かんでいる。
「ノアーナ様……酷い人だ。……もう504年だぞ」
俺は優しくハグをする。
「そうか。もうそんなに経つんだな。元気そうだ」
「……うん………」
※※※※※
ラミンデは俺の元教え子だ。
精霊術にたけ、俺の知らないコミュニケーションをとれる天才だった。
ハイエルフの里を飛び出し、不帰の森で死にかけているところを俺が拾ってしばらく一緒に暮らしていた。
まだ幼く、40歳くらいの時に保護して色々教えてやったことがあった。
ハイエルフの40歳は人間でいう15~16歳くらいだ。
俺はその当時は今みたいに不安定ではなく、いわゆる完全な創造主だったので、きっと彼女に無意識に酷い事をしていたのだろう。
今ならわかる。
きっと彼女は俺のことが好きだった。
そして俺は何も告げずに、彼女の前から消えていた。
別に嫌いとかそういう感情ではなく、治ったからもういいと判断していたんだ。
※※※※※
「今日はどうしたのです?………さっきはすまない。少し取り乱した」
「ああ、かまわないさ。今日は頼みごとがあってきたんだ」
ネルは珍しく、おとなしくしていた。
いつもなら嫉妬を向けてくるのにラミンデにはそういう感情がわかないらしい。
「エルスイナ様、この前はありがとうございました」
「ああ、こちらこそ。そうか、ツワッド嬢も勇者殿もノアーナ様と一緒にいるのか。良かったよ。心配事が減った気分だ」
「????」
「ああすまない。こちらの一方的な感傷だ。申し訳ないが私は茜を恐れているんだ。あの凄まじい力の意味が分からなくてな」
ラミンデは遠い目をしてお茶を飲んだ。
「最近精霊たちがおびえているんだ。……黒い、怖いものが来るってな」
俺もネルも思わず固まってしまう。
ラミンデは小さくため息をついた。
「……そうか。……リアが必要か」
俺はラミンデに向き合いしっかりと瞳を見つめる。
「ああ。…もちろん本人の希望は聞くさ。無理やり連れていったりしない。約束する」
ラミンデはため息をつきながら少し悔しそうに口を開く。
「ずいぶん優しくなったものだ。そうしてほしい。わたしみたいなことはするな…私はずっと『捨てられた』と思っていたからな」
ネルが神妙な顔をしてラミンデに問いかける。
「エルスイナ様、ノアーナ様とはお知合いですか?」
「ラミンデで構わないよ、私もネルと呼ぼう。……ああ、ノアーナ様は私の命の恩人であり師匠であり私が唯一愛した男であり。……そして何も言わずに立ち去った酷い男だよ。まあ500年以上前の話だがな」
ネルのジト目とラミンデの半目が俺を貫く。
「す、すまない。あの時はそういうつもりではなかったんだ。おれは……」
「ああ、わかるさ。冗談だよお師匠様。もう私は少女ではない。それにずいぶん揺れるようになった。ふふ、200歳ほど若ければアタックするところだ」
そしてネルに視線を向ける。
「ネル、この男はな、さんざん優しくして、夜な夜な抱きしめてくれて、そして遂に手を出さずに、何も告げずにわたしを捨てた心無い男だったよ。……今は違うのだろ?」
ネルは顔を赤く染め、そしてしっかりと言い放つ。
「はい。わたくしを愛してくださる、わたくしの命より大切なお方です」
ラミンデは遠い目をし、そしてしっかりとネルに向き合い、まっすぐに見つめた。
「ああ、わたしはどうやら出会うのが早すぎたようだ。ネル、リアを頼む」
「はい。おまかせくださいませ」
空気が和んだ。
暖炉の柔らかい暖かさが心地いい。
「そういえばリアはどこに行ったんだ?もう1刻以上は戻らないが…」
ラミンデがそんなことを言った直後、魔力反応が近づいて来た。
突然ドアが開き、30代くらいの男が飛び込んできて大声を上げた。
「大変だ!リアがっ、森でっ、大けがを!!」
俺たち三人は慌てて外へ飛び出し、男の後を追った。
※※※※※
俺たちがラミンデと話をする少し前――
リナーリアは訳も分からず森をうろついていた。
「あー、どうしちゃったんだろ私……はあ……ノアーナ様……」
あの日からリナーリアの頭の中は優しく微笑むノアーナのことでいっぱいだった。
冬の町はずれは普段誰も近づかない。
ホワイトウルフという中級の魔物が群れをなしているからだ。
リナーリアは回復魔法だけは誰よりも得意だったが他はからっきしだ。
おそらく普通のウルフとすら戦えないほどポンコツだった。
普段なら絶対こんな場所へは来ないのに、別の事に囚われ失念していた。
気が付いた時には数匹のホワイトウルフに囲まれていた。
「えっ………」
背中に嫌な汗が流れる。
パニックになり背中を向け駆け出した。
魔物相手に絶対にしてはいけない行動をとってしまっていた。
「きゃああああああ!!―――いたいっ、あああっ!??」
1匹のホワイトウルフに背中を爪で引き裂かれた。
そしてもんどりうって転ぶ。
「くっ、ヒール!」
緑の光が自分を包む。
しかし次々に襲い掛かってくるホワイトウルフに、どんどん大きなけがを負わされていく。
足をかみ砕かれ、左手を食いちぎられ、お腹もひどく噛まれて血が止まらない。
リナーリアは初めて経験する激痛で、怖くて諦めてしまった。
そこへ騒ぎを聞きつけた町の冒険者が現れ、何とかホワイトウルフの群れを追い払うことができた。
だが、リナーリアは気を失い、あまりの酷いけがで冒険者たちは生存をあきらめていた。
ただパーティーの一人が以前リナーリアに助けられていたため知っていて、慌ててラミンデの家まで来てくれていたのだった。
※※※※※
ああ、わたし死んじゃったんだ。
暗い意識の中でリナーリアは思わずつぶやいた。
体の感覚がない。
痛みももうわからない。
ああ、最後にもう一度、ノアーナ様に………
声が聞こえた気がした。
私を呼ぶ声だ……
ノアーナ様?……
えっ?……
※※※※※
そして意識が浮上していき、目の前に目を腫らし泣いているネルと、心配そうに見つめるラミンデ師匠と……ノアーナ様がいた。
「あはは、やっぱり私、死んじゃったんだ。だって、天国だよね」
そうしてまた気を失った。
リナーリアはノアーナの概念魔法とネルの回復術で死の淵から生還していたのだった。
※※※※※
「この馬鹿弟子!お前は何をやっているんだポンコツめ!」
ラミンデのげんこつがリナーリアの頭に落とされた。
目から星が飛び出す。
「痛―い。私怪我人、ねっ、師匠?落ち着こう?」
ラミンデの寝室に寝かされていたリナーリアは涙目でラミンデに怒られていた。
流石に女性の寝室だ。
ノアーナは遠慮し一人応接室でドクダミ茶を楽しんでいた。
ネルがため息交じりに口を開く。
「まったくリアは。ノアーナ様がいなかったら完全に死んでいたのよ?後でちゃんとお礼を言いなさい」
そして優しい表情になり涙を流しながらリナーリアに優しく抱き着いた。
「グスッ、ホントに心配したんだから。ヒック……」
流石に空気の読めないリナーリアでもここでふざける度胸はなかった。
つられて涙が零れ落ちる。
「グスッ…怖かった…ヒック…痛かった……ほんとに死んじゃうと思った…うあ……あああああ………」
暫く二人は抱き合いながら、助かった安心と、親友をなくす瀬戸際に、涙が止まらなかったのだ。
そっと寝室を出たラミンデ。
一人ドクダミ茶を楽しむノアーナの姿が目に入る。
「ノアーナ様。ありがとう。弟子を救ってくれたこと感謝する」
「ああ、間に合ってよかったよ。……流石弟子だな。お前と一緒だ」
ラミンデもかつて魔物に襲われ死にかけていたところをノアーナに救われていた。
突然よみがえる500年前の優しいノアーナ。
今のノアーナが被る。
突然沸き上がるあの頃の憧れ。
ラミンデはたまらずノアーナに抱き着いていた。
ノアーナは優しくラミンデを抱きしめ、500年前には一度もしなかった優しいキスをするのだった。
ラミンデの初恋は、少しだけ報われた。
※※※※※
一晩休み、ラミンデの応接室でお茶を飲む4人。
何故かラミンデがご機嫌なのをリナーリアは訝しく思ったがこれから行くグースワースに既に意識は飛んでいた。
「ではラミンデ。リナーリアを預かる。なに、ちょくちょく連れてくるさ。診療所もあるのだろう?」
「ああ、ぜひ頼む。診療所はまあいいとして私の食事が心配だ。リア。まさか胃袋をつかんだこと忘れてはいまいな?」
そう言って優しく微笑むラミンデ。
「大丈夫ですよラミンデ様。毎日ちゃんと届けますから。良い修行にもなりますし」
ネルがはにかみながらラミンデに告げる。
「リアにも転移魔法をしっかり教えますから。覚悟してねリア」
そしてリナーリアへ視線を向ける。
「アハハ、うん。……まあ、がんばる?」
何故か疑問形なリナーリア。
「よし、それじゃ行くか。ラミンデ、またな」
「ああ、お師匠様。リアを頼んだ」
「任せろ」
俺はラミンデを抱きしめる。
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