創造主である究極の魔王は自分が創造した異世界に再転生する~気付いた時にはハーレム状態?運命の人も勇者も神々も、俺の子を欲しがるのだが?~

たらふくごん

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第179話 ルースミールの涙

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(新星歴4819年3月1日)

 ルースミールが親元を離れ、レイトサンクチュアリ宮殿で暮らし始めて約3か月が経過していた。
 眷属第1席という重圧に耐えながらも、歯を食いしばりルースミールはその力を伸ばしていく。

 そんな彼女だが今日は心が弾むのを自覚していた。
 アルテミリスの指示に従い1か月に1度、彼女は実家を訪れる今日を心待ちにしていた。

 「ただいま戻りました」

 そう言ってドアを開けエスバニア元男爵家に入る。

 ドアを開けると母のルイナラートと父のラナドリク、祖母のスイネルが、笑顔を浮かべ歓迎してくれた。

 「おかえりなさいルース。元気だった?」
 「……うん。ママ」

 顔を赤らめ母に抱き着く可愛い我が子を抱きしめルイナラートは涙を浮かべた。
 優しいぬくもりに包まれたルースミールの目から自然に涙が零れ落ちる。

 「ママ、会いたかった」

 そしてルースミールも母を強く抱きしめる。
 そのふたりを包むようにラナドリクが抱きしめる。

 父と母の瞳からも涙が零れ落ちた。

 「さあ、もう泣かないで。ルースの好きな紅茶と焼き菓子を用意してありますよ。ドレイシーにも可愛い顔を見せてあげて」

 涙ぐみながら祖母のスイネルが声をかける。

 「うん。ありがとう。おばあさま」
 「ふふっ、さあ、行きましょう」

※※※※※

 ルースミールは真核に悪意を埋め込まれた影響と、神であるアルテミリス、そして天才アースノートによって真核をいじられたことにより同時にいくつもの心を同居させていた。

 簡単に言えば多重人格となっていた。

 もちろん本人も承知していることだ。
 すべてを知っているわけではないが、納得の上受け入れていた。
 つまり前向きで、制御下にあるものだと思い込んでいた。

 しかし神々も魔王ノアーナも、そして本人さえも大きな勘違いをしていた。
 ルースはまだ10歳。

 心の形成すら終わっていない経験の浅い子供に、優秀だからと多くを求め過ぎていた。
 それを難なくこなすルースに、大前提を間違えてしまっていた。

 本人も自覚をしない心の奥底に悪意とはまた異なる闇が形成されていく。
 それは少しずつ誰にも分からない速度で彼女を壊していく。

 彼女が小さいころから抱えていた小さなわだかまり。
 優秀過ぎるがゆえに特別視をされていた孤独感。

 本来それは誰もが持ちうる幾つもある感情の一つなのだろう。
 そして経験や近しいものから受ける無償の愛などで相殺され、本来なら問題にならない『もの』。

 心で折り合いをつけ、経験という栄養を与えられ、人格や性格と呼ばれる『それ』は個人の持つ個性として、その人生に彩りを添えていくものだ。

 だが彼女は、大いなる悪意を埋め込まれていた。

 結果として、彼女の『それ』は悪意の影響を受け、後ろ向きでコントロールなどできないほど強い力を蓄えていた。

 真実は。

 『自己防衛のために性格を分けざるを得なかった』という事だった。

 ひとつの心では耐えられない。
 都合よく心を分離して、辛さをため込んでいた。
 悪意に侵されながら。

 本人すら気が付くことができずに。

 ルースは本来素直で優しい少女だ。
 勿論母も父も祖母も大好きだし、あのような事件があったがミルラナの事だっていまだに大好きだ。

 でも同時に。
 恐かった。

 悪意は一瞬で大切なものを奪い去る。
 たとえ自分を犠牲にしても、守ると誓ってしまっていた。
 守りたい大切なものの中に、『自分』を含めないまま。

※※※※※

 私は道具になったとしても、悪意の結晶である『奴』を絶対に許さない。
 そのために誰からも愛されない酷い神になる。
 『悪意の結晶』にではなく、自分に悪い感情を集めるために。

 たぶんアルテミリス様はいつか私にその座を渡す。
 確信している。

 隠れなくてはならない事態がきっと起きるはずだ。
 ルースミールはそこまで予想していた。

 全てはこの愛すべき世界の為に。
 誰から恨まれようと、やり遂げる。

 10歳の少女としてはあまりに重すぎる決意だった。
 冷静に見れば歪み異常な決意だろう。

 優秀で優しく素直。
 そして含むべき自分を除外してしまった。
 その反動で紡がれる決意は……

※※※※※

 家族といるときは意識して可愛らしい性格を貫いていた。
 だからまるで幼子の様に振舞った。

 そんな姿に母であるルイナラートは、嬉しくも辛かった。
 無理をしているようには感じられない。
 そう思えるほど自然だった。
 でも、やはり母なのだ。

 小さな悲鳴を上げている娘の心の声を、彼女だけは感じていた。

 「わあ♡美味しい。ありがとうドレイシー」

 紅茶を飲み、流行りの焼き菓子に舌鼓を打ち、ルースミールは瞳を輝かせる。
 その様子に家族は皆顔をほころばせた。

 「なあ、ルース……辛くないか?」

 躊躇いがちに父が口を開いた。

 「えっ?ううん、大丈夫だよ。修行はちょっと大変なこともあるけど、アルテミリス様も他の眷属の皆さまもとても優しいもの」

 にっこりと笑い話すルース。

 「パパ、心配しないで。……ごめんなさい。あの時『さようなら』なんて、酷いこと言って……アルテミリス様がね、月に一度は帰りなさいっておっしゃって下さるのよ。いつでも会えるわ」

 父はため息をつく。
 そして改めて美しい自分の娘を目にした。

 「はあ、おまえはまだ10歳なのにな。ああ……あまりに美しすぎて、抱きしめるのに躊躇してしまうぞ」

 ハハハと少し寂しそうに笑う。
 ルースミールが瞳を悪戯っぽく光らせる。
 そしておもむろに席を立ち父に抱き着いた。

 「もう、そんなこと言わないでパパ。私パパが大好きよ」

 そしてぎゅうっと抱きしめる。
 成長した娘の感触に思わず顔を赤らめるラナドリクに、ルイナラートはジト目を向ける。

 「ははっ、そうだな。ルースはまだ10歳だもんな」

 そして遠慮がちに抱きしめる。

 「んっ……はあ♡…」
 「っ!?……ルース、ちょっと刺激が強い。勘弁してくれ」

 にやりと悪戯そうな顔をして父から離れた。
 祖母のスイネルがたしなめるようにルースに声をかける。

 「ルース、お父様をからかうものじゃありませんよ。……あなたもデレデレしないでくださいな。全く」

 「あ、いや、ハハハ……」

 顔を赤らめるラナドリク。
 ルースは自分の席に戻りおもむろに口にする。

 「そうだ、ママ。……ミルラナちゃんに会いたい。……パパ、酷いことしてないよね」

 思わず固まる3人。
 そして恐る恐るルイナラートがルースに問いかけた。

 「ええ、ルミナラス様と魔王ノアーナ様よりお咎めはしないと厳命されたの。だからミルラナちゃんは普通に過ごしているわ……でも、ルースは……その…平気なの?」

 痙攣し血まみれだったルースの姿が脳裏に浮かんだ。
 目に涙があふれてくる。

 「……ごめんなさい。ママ。……でも、たった一人の友達なの。……少しだけ怖いけど……あいたい。……お話ししたいの」

 ラナドリクが腕を組み天井を見上げた。

 「そうだな……わかった。使いを出そう。でも、もし彼女が拒否したら、今日はあきらめるんだぞ。もしそうだったらお父さんがちゃんと話をして、来月には会えるようにするから」

 ルースはこくりと頷いた。

 「ああ、ノイド、すまない。ラドックの家へ伝えてくれるか」

 入り口のところで待機していた唯一の騎士であるノイドが、うなずき部屋から出ていった。
 何となくリビングが微妙な空気に包まれてしまう。

 パチン!
 スイネルが手を叩き明るく振舞う。

 「さあさあ、せっかくルースが来てくれたのよ。みんなそんな暗い顔しないで、楽しまないと。ねえルース、おばあさまに普段の生活を教えてくれるかしら?」

 流石人生経験の多い祖母だ。
 ルースは微妙な雰囲気になってしまった空気を変えてくれた祖母を改めて尊敬のまなざしで見つめた。

 「うん、おばあさま大好き。あのね、いつもは最初にお祈りをするのよ」
 「まあ、そうなのね!偉いわね」

 そうして笑顔で楽しい時間を過ごすことができたのだった。

 結果として今日ミルラナには会えなかった。
 今日彼女は父と商会の勉強の為、隣の町へ出かけていたらしい。

※※※※※

 楽しい時間はあっという間に流れ、ルースミールがレイトサンクチュアリ宮殿に戻る時間が近づいて来た。

 ルースミールの表情が無表情になったのを見計らい、母のルイナラートはルースを抱きしめ、思っていたことを告げた。

 「ルース。お母さまには本当の事を教えてね。……いつでもわたしはあなたの味方よ。あなたがどんなことを想っていても」

 そして強く抱きしめる。
 ルースミールはドキッとしてしまい固まってしまった。

 「えっ、なにを……」

 そして優しい瞳で我が子を見つめる。

 「貴女がどんな決意をしたか、お母さまは知りません。でも、わたしはあなたの母親ですよ。苦しいのよね。でも決めたのでしょう?」

 優しく美しい髪を撫でる。

 「愛しているのよ。あなたの事を誰よりも。可愛いルース。忘れないでね。私はあなたの味方なのよ。いつまでも」

 「うん………ありがとう、お母さま」

 ルースは涙を止めることができなかった。
 そしてなんだか、心が軽くなっている気がした。

 天才だとしても彼女はまだ経験の少ない10歳の少女だ。
 彼女に課せられた運命はあまりにも無慈悲だった。

 もし彼女が、家族の愛を知らなければ。
 きっと最終的にこの世界は悪意に滅ぼされていたのだろう。

 彼女はこれから先、非道な神としてふるまうことになる。
 そして魔王をたばかり、世界を騙し、真実を隠ぺいする。

 それは神々のシナリオでもあり、悪意の目指すところだった。
 しかし家族からの愛が、ルースミールの最後の一歩を止めることになる。

 侵食する彼女の真核の悪意は。
 幼いころの心のわだかまりによって大きく誰も予想できない速さで黒く染まっていく。

 でもほんの一部の愛が、完全に染まるのを防いでいた。
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