【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり

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第一章 忘れられた約束

4最後の

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 広大な薔薇園を抜けて、奥まった場所にある花のアーチをくぐる。
 視界が開けると、メルティアの管理している大きなガラスハウスが現れた。

 警備もなく、人里離れた楽園のように穏やかな空気が流れている。
 この場所に来るのはメルティアとジーク、そしてメルティアの家族だけだ。

 ジークがポケットから鍵を取り出し、ガラスハウスにかけられている鍵を外す。
 そして、片手で扉を開けてメルティアをエスコートしながら招き入れる。

 ジークが扉を閉めているうちに、メルティアは目的の花がある一番奥に駆け出した。
 すでに薄紅色をした薔薇がゆっくりと花を開かせはじめている。

「間に合った!」

 メルティアはスカートの裾をまとめてその場にしゃがみ込んだ。

「わぁ。きれい……」

 花が開いてくると、真ん中にある蜜袋がクリスタルのようにキラキラ輝く。

「他のも咲きはじめたぜ」
「あ、本当だ」

 チーの言う通り、他のティアナローズも花開く。

「こうして見ると圧巻ですね」

 軽く見回りを終えたジークがメルティアの近くにやってきた。

「全部採取するのですか?」
「最近咲いてなかったから、足りないところが多いみたい」

 咲き終えた花を軽く手折ってメルティアは答える。
 ティアナローズは食用花だ。とくに蜜は薬の元として使われたりするほど万能である。
 ファルメリア王国の名産であると同時に、なぜか城の敷地内でしか咲かない不思議な花だ。

「ジーク、そこからそこまで取るのお願いしてもいい?」
「もちろんです」

 姫と騎士が並んで花を取る。
 異常な光景にも思えるが、メルティアにとっては日常の光景だった。

 とくに言葉も交わさず無心で花を採取して、メルティアはハッと気づく。

 こういうときに気の利いた会話をするべきなのでは、と。

「ジ、ジーク」
「どうしました?」

 ジークが手を留めて不思議そうにメルティアを見る。
 花いじりをしているときのメルティアは、めったに話さないため驚いているらしい。

「えっと……いい天気だね!」
「……どうしました?」

 さっきとは意味の違う「どうしました」が返ってくる。

「あーあ。メル、オイラはこの空気居たたまれないよ」

 空中で横になりながら、チーがメルティアの前を通り過ぎた。

「だって、思い浮かばなかったんだもん」
「こうしている間に、時間はなくなっていくんだぜ」

 メルティアは気を取り直して、会話を考える。

「ジークって、お休みの日何してるの?」
「部屋で本を読んだり、鍛錬したりですね。たまに街へ出ることもありますが」

 だいたいメルティアが知っている通りだった。

「街ではどこに行くの?」
「決まったとこがあるわけではありませんよ」

 ジークがそう答えたところで、メルティアは今日ジークにもらった鉢植えを思い出す。

「でもジーク、外に行くといつもお花買ってくるよね?」
「ああ……。メルティア様は花がお好きでしょう?」

 メルティアはぱあっと顔に花を咲かせてうなずく。

「うんっ。ジークがくれるお花、いつも長く咲くんだよ」
「メルティア様が世話をする花たちはだいたい長生きですよ」

 ジークが小さく笑った。
 メルティアは褒められたようなくすぐったい気持ちになって、ジークから視線をそらして花に向き直る。

「今の会話に意味はあったのかい?」

 メルティアの弾む気持ちをチーが針で突っつく。

「い、いいの。あったもん」
「ふぅん?」

 チーの意味ありげな目が突き刺さる。

「メルティア様」

 ジークに呼ばれてメルティアはパッと顔をあげた。

「どうしたの?」
「こちら終わりましたが、どうなさいますか?」
「え! は、速いね」

 メルティアが呑気にお喋りしている間にも、ジークは手を動かしていたらしい。

「えっと、ちょっと待ってね」

 メルティアも手を止めて、くるりとハウスの中を見回す。

「あ。蜂蜜取っていいところ残ってるって」
「どのあたりですか?」
「奥から二番目までいいみたい」
「わかりました。ではそちら取っておきますね」
「うん。ありがとう」

 ジークが蜂の巣のある外に向かったのを見送って、メルティアはため息をつく。

「うまくいかないなぁ」
「やっぱり、あの会話が無意味だったって思ってるんじゃないか」
「だ、だって、ジークのことはだいたい知ってるんだもん」

 メルティアが物心ついたときには兄のようにそばにいた幼なじみだ。今さら特別聞くようなこともない。聞きたいことがあるとしたら、「どんな人が好きなの?」くらいだ。
 当然、聞けるはずもない。

「ジークのことは知ってるって思って、失恋したんだろ?」
「……チーくんの言葉、刃物みたい」

 メルティアの心に見事ヒットした。

「ジークだから一度決めたら早いぜ? メルがうだうだしてるうちに、ハイ結婚ー! ってなるさ」
「想像つくこと言わないでよぉ」

 メルティアはじくじく痛む心を抱えながら、花に手を伸ばす。

「でも、チーくん。頑張って、意味あるのかな? だってわたしは、ずっとジークのそばにいたのに……」

 そばにいたのに、選ばれなかった。
 それがすべてではないのか。

「最後のチャンスって、言っただろ? どうしたいかは、メルが決めたらいいさ」

 メルティアはぎゅっと唇を引き結ぶ。
 頑張るって決めた。納得いくまで頑張って、それでだめだったら……。

「そのとき、諦める」

 メルティアは静かに手元の花を手折った。
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