【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり

文字の大きさ
16 / 49
第一章 忘れられた約束

16新たな騎士

しおりを挟む

 メルティアの新たな騎士、エルダーは気のいい男だった。
 メルティアと少し似た金の柔らかな髪に、陽だまりのような笑顔が似合う男。

 そして、ファルメリア王国の国民らしく、花を愛していた。

 名目上『騎士』になっているだけで、騎士らしいことは何もない生活でも、楽しそうに花と戯れて、メルティアのすること一つ一つに「すごい」と感想をくれた。
 ジークと二人きりの生活に慣れていたメルティアは、それがどうにもくすぐったかった。

「メルティア様ー? これはどうなさいますか?」
「あ、それはこっちに置いてもらってもいい?」
「はいはい、もちろんです」

 花がらの選別をしていたメルティアは、エルダーが持ってきた摘み取った花たちを端へ置くように指示を出す。男手が二つあると作業も速い。

「他はなにしましょうか?」
「えっと……あ、じゃあ蜂蜜採ってもらってもいいかな? 一番奥のなんだけど……」
「了解です! 防護服はどこですか?」

 そう尋ねられて、メルティアはきょとんとする。

「防護服……?」

 首をかしげたメルティアに、エルダーは困惑する。

「え。まさか王族は防護服なしで蜂蜜が採れるんですか?」
「えっと。ジークわかる?」

 困ったメルティアはジークに問いかけた。

「通常は蜂に刺されても大丈夫なように服を着るそうですね。城の養蜂家たちがたまに着ていますよ」
「あ、やっぱりそうだよな!」
「……ですが、今のところメルティア様のいう通りに蜂蜜を採って刺されたことはありませんね」
「まじかよ。街の警備より過酷じゃねえか」

 少し顔を青くするエルダーにメルティアは「やっぱりそれはジークに……」と言いかけたが、すぐにエルダーが首を振る。

「大丈夫ですよ。ちょっとびっくりしただけです。一番奥の蜂蜜ですよね」
「う、うん」
「じゃ、いってきます」

 明るくカラカラと笑っているが、若干顔色が悪い。
 ガラスハウスを出て行くエルダーをおろおろと見つめて、やがてメルティアは立ち上がる。

「ジーク、ここお願いしていいかな? やっぱり少し見てくるね」
「わかりました」

 メルティアがエルダーのあとを追いかけていくと、エルダーは奥の蜂の巣の前で精神統一をしていた。
 そして、カッと目を開けて巣箱に近づく。

「えっと、だ、大丈夫?」

 メルティアが声をかけると、エルダーは振り返って、晴れやかに笑顔を浮かべる。

「うおー! メルティア様見てください! まじですげえ」

 他にも巣箱はあるため蜂は飛んでいるが、奥の巣箱に寄ってくる蜂はいない。

「これ他でやったら絶対殺られてますね」
「そ、そうなの?」
「そうですよ。王族って本当にすごいですね」

 メルティアは照れ笑いを浮かべて、せっかくだからとそのまま蜂蜜作りを手伝う。

「あっちに分離機があるの」
「それを瓶に詰めていけばいいんですね。了解です」
「あ、じゃあこっち持ってくね」
「助かります!」

 分離機のところまで並んで歩いていく。

「メルティア様はいつもジークと二人だけでこういうことをされていたんですか?」
「うん。そうだよ」
「なかなか大変そうですね。二人だけで作業するの」
「わたしは慣れてるから大丈夫だけど、ジークはどうかな……」

 ジークに花と戯れて楽しいかどうか聞いたことはない。
 文句ひとつ言わず黙々と作業してくれるし、メルティアはジークと二人という状況に浮かれていて、そんなことまで考えたことがなかった。

「ジークは俺でも知っているくらい剣技が有名ですしね」
「そうなの?」
「そうですよ。俺が騎士団に入ったばかりだから今から十年くらい前でしょうか……。子どもにとんでもない剣の達人がいるって話題になってたんですよ」

 ジークが剣が上手いというのは聞いたことあったが、噂になるほどだったとは知らなかった。

「それがディル様のお気に入りの剣士だって言うから、やがて騎士団にくるだろうって」

 ディルのお気に入りの剣士という点で間違いなくジークだ。

 ディルがジークを城に連れてきたのも、「剣が上手いから」という理由だった。
 結局、メルティアが奪ってしまった形になるのだが。

「その時に年下が上官になるのかもなーなんて思ったりしていたんですが、どれだけたってもさっぱり。聞けばメルティア様の騎士になったとか」
「……」

 もしジークが騎士団に入っていたなら、今ごろ順調に騎士団長に出世していたのかもしれない。

 今みたいに花壇を掘り返したり、蜂蜜を採ったり、メルティアのわがままを聞いたりしないで、好きな剣を好きなだけ振るっていたのだろう。

「ジークは、どうしてわたしの騎士になってくれたのかな……」
「そりゃーメルティア様が好きだからじゃないですか?」
「えっ?」
「騎士の頂点と最愛の人で最愛の人を選んだってことですよ。騎士の鏡ですね~」
「そ、それはないと思うよ……」

 もしそうならばとっくに両想いになっているはずだ。
 それに、メルティアはほぼ失恋している。

「いやー。だってジーク、俺のこととにかく警戒していますし。一応騎士団所属だったので、そういうのはわかるんですよね」

 それは今までいろいろあったからとは言えずに、メルティアは適当に笑ってごまかした。

「でも、どうして騎士を増やそうと思われたのですか?」
「ジークのお休みを増やしてあげたくて……」
「もしかしてジークって無休ですか?」
「……い、一応、ちょとは……半休とか……」

 エルダーは驚いたように目を丸くして、次にカラカラと笑う。

「それはもう好きじゃないと無理ですよ」

 そうなのだろうか? と、思う気持ちと、ならばなぜ? という気持ちが入り混じる。

「で、でもね、ジーク、好きな人がいるみたいなの」
「メルティア様ではなく?」

 痛む心を抱えてメルティアはうなずく。

「まじですか。不思議なこともあるものですね」
「う、うん。その人と過ごす時間を作ってあげたくて、騎士を増やしたの」

 エルダーは合点がいったと言いたげに何度かうなずいた。

「なるほど。でしたら俺も頑張らないとですね。メルティア様、どんどん俺に頼っていいですよ」
「う、うん。よろしくね!」

 明るい笑顔にメルティアは安堵する。

 ディルやジークが心配していたようなことはどう考えても起こりそうにない。
 やっぱり、あれは運が悪かっただけなのだ。
 今は昔とは違う。

 ジークじゃなくても大丈夫。

 そう思うのに、もしそうなら、ジークがメルティアの騎士でいる理由はなくなるのかもしれないと思うと、少しだけ心が痛んだ。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

王太子は妃に二度逃げられる

たまこ
恋愛
 デリンラード国の王太子アーネストは、幼い頃から非常に優秀で偉大な国王になることを期待されていた。 初恋を拗らせ、七年も相手に執着していたアーネストが漸く初恋に蹴りを付けたところで……。 恋愛方面にはポンコツな王太子とそんな彼をずっと支えていた公爵令嬢がすれ違っていくお話。 ※『拗らせ王子と意地悪な婚約者』『先に求めたのは、』に出てくるアーネストのお話ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

【完結】私は本気の恋だった

キムラましゅろう
恋愛
ミルチアは語って聞かせる。 かつて身をやつした最初で最後の恋の話を。 はじめて愛した人は、嘘偽りで塗り固められた人。 騙されていたと知ったとき、ミルチアは全てを捧げ、そして全てを捨てて逃げ出した。 だけど嘘から出た誠とはよくいったもの。ミルチアは偽りの関係からかけがえのないものを得る。 そうしてミルチアは流れ着いた港町にて一人で子を生み育てていた。 このまま親子二人で穏やかに暮らせていけたらと、そんなささやかな望みを抱くことも許されないのだろうか。 なぜ探したのか、どうして会いにきたのか。 もう二度とその双眸を見ることはないと思っていたのに……。 ミルチアが綴る恋の物語に、あなたも耳を傾けてみませんか。 小説家になろうで開催された、氷雨そら先生主催のシークレットベビー企画参加作品です。 (すでに期間は終了しております) 誤字脱字……( *ˊꇴˋ)ゴメンネ! すでに完結している作品ですが、感想欄の管理のために数話ずつ投稿します。 だいたい1回の投稿につき5話ずつくらいです。 よろしくお願いいたします🙏✨ 今回もプロローグと最終話に感想欄を解放します(。uωu))ペコリ💕

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

処理中です...