【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり

文字の大きさ
19 / 49
第一章 忘れられた約束

19恋は複雑

しおりを挟む
「メルティア様……またその本をお持ちになっているのですか」

 朝迎えに来たジークが、メルティアに鉢植えを渡しながら飽きれた顔をする。

 派手な化粧と服に飽きたと思ったら、今度はボロボロの本に夢中になっているのだから、メルティアの情緒が心配だった。

「だって、なんだかいいことがありそうなんだもん」
「そうですか? 生きるのにも必死な感じでしたし、むしろ不幸が降り注ぎそうですが」

 辛辣なジークの言葉にメルティアは口を尖らせる。

「ジークにはわかんないもん」

 メルティアはベーっと舌を出して本を抱きしめた。

 最後のページがあることを、メルティアはジークに伝えていなかった。
 ご先祖様の大切な恋文を見せびらかすのは良くない気がしたからだ。

 メルティアはジークと二人でガラスハウスに向かいながら、さりげなくジークに問いかける。

「ジーク、最近ちゃんとお家に帰ってる?」
「……たまに顔を出したりはしますよ」
「そっか! ならよかった」


 メルティアの騎士が二人になって、ひと月が経とうとしていた。
 それまで大きな問題もなかったため、メルティアは当初の予定通り、ジークの休みを増やすため交代制にしたのだ。

 今までの分を埋め合わせるように、メルティアはジークの休みを多くした。
 ジークはたまにふらっとどこかに出かけたりと、休みを満喫しているらしい。


「メルティア様こそお変わりはありませんか?」
「うん! 大丈夫だよ。むしろエルダーがすごくやる気でね、もう少しジークのお休みを増やしてもいいくらい」

 エルダーから通常は週に三日くらい休みがあると聞いていたメルティアは、これまでの七年、本来だったらあったはずのジークの休日を計算してみた。
 そうしたら、丸三年ほどジークは休みをもらってもいいくらいだったのだ。

 その数字を見たときメルティアはよろめいた。
 自分がどれだけジークを拘束してわがままで振り回していたか、数字として突きつけられたのだ。

「エルダーがね、自分が頑張るからジークに長期休暇を与えたらどうですかって」
「俺は休みがほしいと言ったことはないはずですが」
「……で、でも、ジーク三年分くらい本当はお休みがあったんだよ……」

 メルティアはとても言いにくそうにもごもごと口にする。

「そ、それに長期休暇なら旅行とかも行けるよ。あの人と……」
「あの人?」
「前にジークと一緒に会ったきれいな人。あの人と結婚するんでしょ?」

 ジークは「ああ」という顔をして、なんでもなさそうに口にする。

「それでしたら破談になりました」
「……え。え!?」

 メルティアの足が驚きで止まる。
 ジークが振り返って不思議そうに首をかしげた。

「言ってませんでしたっけ」
「言ってないよ! ど、どうして?」
「まぁ、条件の不一致と言いますか……」
「じょ、条件?」

 メルティアは目を白黒させた。
 突然世界がひっくり返ったような衝撃だ。
 手に持っていたご先祖様のラブレターをぎゅっと抱きしめる。

「で、でもジーク、その人が好きだったんじゃないの?」
「そんなこと一言も言っていないはずですが」
「だって、ジーク、好きな人いるでしょ?」
「……」

 ジークが目を細める。

「どうしてそんなことを?」
「だって、前に好きな人いたんだって聞いたら、こめかみがきゅってした」
「こめかみ?」
「ジーク、図星のとききゅってする」
「……」

 ジークがすごむようにメルティアを見た。

「じゃ、じゃあ、ジーク好きな人と結婚しようとしてたわけじゃないの?」
「好きな人なんていませんよ」
「うそ。うそだもん。わかるもん。ジーク嘘つくと鼻のとこぴくッてする」
「……なんでそういうところばかり見てるんですか」

 ジークが嫌そうにメルティアを見た。
 毎日ジークのことばかり見ていたらいつの間にかわかるようになってしまったのだ。

「ジークが好きな人と結婚すると思ってたから……だから……」

 応援しようとしていたのに。
 メルティアはボロボロの本をぎゅっと抱きしめる。

「……仮に好きな人がいたとして、どうこうなる気はありませんよ」
「ど、どうして?」
「俺が、俺だからです」
「どういう意味?」
「そのままですよ。ほら行きましょう、メルティア様」

 無理やり話を打ち切られて、メルティアはとぼとぼと歩き出す。

 ジークに好きな人がいるのは間違いない。
 でもどうしてか、ジークは好きな人を諦めている。
 叶わない恋をしているということなのだろうか。

 だとしたら、相手はメルティアじゃない。

 だって、メルティアは5歳のときに告白をしている。
「ジークのお嫁さんになりたい!」と、はっきり言ったのだ。

 そのときジークは「あと十年くらいしたらまた考える」と約束してくれた。
 メルティアはそれを結婚の約束だと信じてきたけれど、気づけばジークは別の人と結婚しようとしていた。

 ジークはあの約束を忘れてしまったのだろう。
 それか、もしかしたら。

 覚えていたから、ジークはこのタイミングで別の人との結婚を考えているのかもしれない。

 メルティアに諦めろという、無言のアピールとして。

 なんだかそれが一番しっくりくるような気がした。


「ジークの好きな人って、どんな人?」
「好きな人なんていませんよ」
「……うそつき。どんな人かくらい、教えてくれてもいいのに」

 ジークが疲れたようにため息をつく。
 踏み込みすぎただろうかと、メルティアはドキドキした。

 ジークはしばらく黙り込んで、やがて小さな声でぽつりとつぶやいた。

「……可愛らしい人ですよ」
「……派手な人じゃないの?」
「まったく」

 なんということだ。
 それならメルティアが必死にしていた化粧や服に微妙な反応をしていたのもうなずける。

「告白とかしないの? 頑張ってみたら、変わるかも」
「変わりませんよ、何も」
「でも……」
「どうにもならないことだって、この世にはあるんですよ、メルティア様」
「……」

 メルティアにもそれはわかった。
 とくに恋に関しては人一倍痛感している。

 頑張ったって、相手が好きになってくれるとは限らない。

 両想いは奇跡のような出来事だって、メルティアは嫌というほど知っている。

「じゃ、じゃあ、ジークは、結婚する人は誰でもいいの?」

 誰でもいいなら、メルティアでもいいんじゃないか。
 そんな邪な気持ちが膨れ上がる。

 ぎゅっとボロボロの本を抱きしめて、メルティアは上目にジークを見た。

「……誰でもいいわけではありませんよ。誰でもいいなら破談にはなっていません」
「た、たしかに」

 正論に真っ二つに切り裂かれる。
 邪な思いはどこかへと消えていった。


 そうこうしている間にガラスハウスに到着した。
 さっそく、ジークが枯れた花を摘みをはじめる。

 メルティアはなかなか動けなかった。

 ジークに幸せになってほしいと思っていた。
 ジークが幸せなら、それでいいと思った。

 それなのに、ジークは片想いをしていて、好きな人ではない人と結婚しようとしている。


 あまりにも複雑すぎて、メルティアはどうしたらいいのかわからない。

 ジークが叶わない恋をしているのなら、振り向いてもらえるように頑張ったらいいのか。
 それとも、ジークの恋を応援したらいいのか。
 権力を笠に着て無理やり結婚したらいいのか。

 ぐるぐると考えては、メルティアは目をまわす。

「……ディルにぃ、今どこにいるの?」

 どこかへと旅立ってしまった兄の名前を虚しく呼んだ。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

王太子は妃に二度逃げられる

たまこ
恋愛
 デリンラード国の王太子アーネストは、幼い頃から非常に優秀で偉大な国王になることを期待されていた。 初恋を拗らせ、七年も相手に執着していたアーネストが漸く初恋に蹴りを付けたところで……。 恋愛方面にはポンコツな王太子とそんな彼をずっと支えていた公爵令嬢がすれ違っていくお話。 ※『拗らせ王子と意地悪な婚約者』『先に求めたのは、』に出てくるアーネストのお話ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

【完結】私は本気の恋だった

キムラましゅろう
恋愛
ミルチアは語って聞かせる。 かつて身をやつした最初で最後の恋の話を。 はじめて愛した人は、嘘偽りで塗り固められた人。 騙されていたと知ったとき、ミルチアは全てを捧げ、そして全てを捨てて逃げ出した。 だけど嘘から出た誠とはよくいったもの。ミルチアは偽りの関係からかけがえのないものを得る。 そうしてミルチアは流れ着いた港町にて一人で子を生み育てていた。 このまま親子二人で穏やかに暮らせていけたらと、そんなささやかな望みを抱くことも許されないのだろうか。 なぜ探したのか、どうして会いにきたのか。 もう二度とその双眸を見ることはないと思っていたのに……。 ミルチアが綴る恋の物語に、あなたも耳を傾けてみませんか。 小説家になろうで開催された、氷雨そら先生主催のシークレットベビー企画参加作品です。 (すでに期間は終了しております) 誤字脱字……( *ˊꇴˋ)ゴメンネ! すでに完結している作品ですが、感想欄の管理のために数話ずつ投稿します。 だいたい1回の投稿につき5話ずつくらいです。 よろしくお願いいたします🙏✨ 今回もプロローグと最終話に感想欄を解放します(。uωu))ペコリ💕

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

処理中です...