【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり

文字の大きさ
24 / 49
第二章 約束の場所

24欲に溺れる

しおりを挟む
 あっという間に荷造りで一日が終わり、メルティアたちは城を旅立つことになる。

「じゃあ、行ってきます!」
「気をつけていっておいで」
「無理しないで、だめだったら帰ってくるのよ」

 見送りに来ていた両親に手を振り、メルティアはジークのエスコートで馬車に乗る。
 そして、メルティアに続いてジークも馬車に乗り込んだ。

 馬に乗って行こうとしていたジークに、メルティアの父が「ティア一人だと心配だから……」と無理を通したのだ。
 王の頼みを断れるはずもなく、ジークは馬車に乗って行くことになった。

 メルティアは心の中で父に拍手をした。
 さっそくご先祖パワーが発揮されたのかもしれない。



 そうしてウキウキで馬車に乗り込んだものの、メルティアは困っていた。
 いつものように作業もなく、密室に二人だけとなると何を話したらいいのかわからないのだ。

 好きになってもらえるような会話をしなきゃと思えば思うほど、話す内容が消えていく。

 メルティアは少ない会話のレパートリーを必死に捲った。捲って、捲って、何もないことに絶望する。

 チラチラとジークを伺っているとバチッと目が合う。心臓が飛び跳ねた。

「さっきからどうされました?」
「え? な、なんでもないよ。えっと、何か食べる?」
「朝食べたでしょう。おなか空いているのですか?」
「う、ううん。おなかいっぱい……」

 むしろ胸がいっぱいだった。

「数時間したら休憩地点に着きますので、それまでのんびりしていたらいいですよ」
「う、うん」

 うなずいたものの、緊張でちっとものんびりできない。

 枕でも持ってきたらよかったとメルティアはため息をついた。
 なんだか柔らかいものにぎゅーっとしがみつきたい気分だったのだ。


 メルティアがあれこれ考えている間に、ジークは分厚い本を取り出して、そのままパラパラと読み出した。

 メルティアも今すぐ恋愛指南書を読みたかった。
 相手を虜にする会話術が書いてあったはずだ。


 メルティアはそわそわとジークと窓の外を交互にながめて、やがて意を決してジークに声をかける。

「ジーク、何読んでるの?」
「これですか? ハルデナの記録ですよ。これまでに植えた花と成長の過程が記録されています」
「……」
「春の花たちが植えられた記録がありますが、確かに一月前くらいから急激にいくつかの花が枯れています」

 ジークの解説を聞きながらメルティアは頭に衝撃を受けていた。

 今回の遠出は遊びではない。
 王家の使命がかかっているのだ。

 国中を花で満たすこと。
 これまでの王族が繋いできた大切な役目。

 それなのに、メルティアは恋に浮かれてばかりだ。
 ジークはまじめに街のことを考えているというのに。

 ジークとお泊り! なんて思っていた自分が急に恥ずかしくなった。


「じ、ジーク。それ、わたしも見ていい?」
「どうぞ」

 ジークが自分の隣をトントンとたたく。
 メルティアがジークの隣に移動すると、ジークはメルティアに見えやすいように本を寄せてくれる。

「見づらくないですか?」
「大丈夫。ごめんね、ジークが持ってきたのに」
「いえ。時間があるときに目を通そうと思っていただけですから」

 メルティアはざっと文字を追っていく。

「何かわかりますか?」
「うーん。とくにおかしなところはないかな。使っている肥料とかもお城から配給されているものだし、たまに独自ブレンドをしているけど、それも変じゃないよ」

 メルティアパラパラとページを捲って、指で示しながら文字を追っていく。

「管理の人も変わっていないみたいだから、育て方も変わってないと思う」
「なら、季節の変化が原因ってことですか?」
「うーん。ハルデナはあんまり季節が変わらないのかな? ずっと春だったみたい。季節が変わるときは季節風が何日か吹くんだけど、それを知らなかったのかも」

 メルティアは最新の資料を探してみたが、新しい記録はまだ届いていないようだった。

「でも季節に合わせてお花変えたらまた咲くし、別の問題かな?」

 他に情報を探してみるが、とくに気になるものはない。
 すると、何か考えていたジークが思い出すように視線を上に向けながら話し出す。

「そういえば前に、ディルがこの国の季節は異常と言っていたような」
「ディルにぃが?」
「はじめて他国に行って帰ってきたときでしたね。他の国は国の中にバラバラと四季は存在しないと言っていましたよ」
「そうなの?」
「それを調べてくると言ってあちこちを回っていたような。それ以降は聞いていませんね」

 メルティアは今いない兄を少しだけ恨めしく思う。

「そういえば、ディルにぃ他の国に行って何してるんだろう? ジーク知ってる?」
「俺も詳しく聞いていませんね。調べ物をしているとは言っていた気はしますが」
「ディルにぃ頭いいからいっぱい知りたいことあるのかな」
「この国には他国の訪問者もいませんしね。外の世界が気になるのでしょう」


 ジークは他にもいくつか資料を持っていた。
 近隣の街の情報や、国全体の気温の変化など。
 仕事の資料が山積みだった。

 あまりにも量が多いので二人で手分けして資料を読んでいると、石でも踏んだのか突然馬車が大きく揺れた。

「わっ!?」
「メルティア様!」

 油断していて前に転がりそうになったメルティアのおなかに、逞しい腕が巻き付く。
 ぐっと引き寄せられて、メルティアはジークの足の間に腰を落とした。なんとか転げることは間逃れたようだ。

「あ、ありがとう」
「いえ。お怪我はありませんか?」
「う、うん」

 顔を上げながら振り返る。と、ジークの顔が思っていた以上に近くにあった。

 口と口がくっつきそうなくらい、近い。

 お互い息を飲んだのが吐息でわかったほどだ。

「あ、ご、ごめんね」

 メルティアはパッと前を向く。顔が焼けるように熱い。

 キスができてしまいそうな距離だった。


 ジークの驚いた顔がすごく近かった。
 唇に吐息がかかったような気さえする。

 しかも、よく考えたら今メルティアが座っているのはジークの足の間だ。
 すぐ後ろにはジークがいる。

 心臓の音が急激に速くなっていって、メルティアはそわそわと視線を泳がせた。

 ジークの隣に戻ろうと思っても、ジークの腕がまだおなかに巻きついている。
 ジークも驚いていたから、まだ固まっているのかもしれない。

 今さら、花畑で抱き締められたときのことを思い出してしまった。

『あなたの幼なじみのジークとしてならいいのか』

 そう言っていたジークの声がよみがえる。
 幼なじみのただのジークは、めいっぱい抱き締めてくれた。頭を撫でてくれた。

 なら、今は?
 今は騎士のはずだ。だから不必要に触らないようにしてくれる、はず、なのに。

 ジークの腕がちっとも離れない。

「あ、あの、ジーク……」

 声をかけると、ぐっと強く引き寄せられた。背中に体温が移る。
 メルティアは息を飲んだ。

「……メルティア様」

 耳元をくすぐるように、低い声が響いた。
 驚いたメルティアはびくりと肩を跳ねさせ、体をきゅっと小さくした。

「じ、ジーク?」

 何か、変な気がする。
 でも、何が変なのかわからない。

 必死に考えて、メルティアは閃く。

 空気だ。

 空気が、空間が、なんだか少し、甘い気がする。


「ジーク、ど、どうしたの?」


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

王太子は妃に二度逃げられる

たまこ
恋愛
 デリンラード国の王太子アーネストは、幼い頃から非常に優秀で偉大な国王になることを期待されていた。 初恋を拗らせ、七年も相手に執着していたアーネストが漸く初恋に蹴りを付けたところで……。 恋愛方面にはポンコツな王太子とそんな彼をずっと支えていた公爵令嬢がすれ違っていくお話。 ※『拗らせ王子と意地悪な婚約者』『先に求めたのは、』に出てくるアーネストのお話ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

【完結】私は本気の恋だった

キムラましゅろう
恋愛
ミルチアは語って聞かせる。 かつて身をやつした最初で最後の恋の話を。 はじめて愛した人は、嘘偽りで塗り固められた人。 騙されていたと知ったとき、ミルチアは全てを捧げ、そして全てを捨てて逃げ出した。 だけど嘘から出た誠とはよくいったもの。ミルチアは偽りの関係からかけがえのないものを得る。 そうしてミルチアは流れ着いた港町にて一人で子を生み育てていた。 このまま親子二人で穏やかに暮らせていけたらと、そんなささやかな望みを抱くことも許されないのだろうか。 なぜ探したのか、どうして会いにきたのか。 もう二度とその双眸を見ることはないと思っていたのに……。 ミルチアが綴る恋の物語に、あなたも耳を傾けてみませんか。 小説家になろうで開催された、氷雨そら先生主催のシークレットベビー企画参加作品です。 (すでに期間は終了しております) 誤字脱字……( *ˊꇴˋ)ゴメンネ! すでに完結している作品ですが、感想欄の管理のために数話ずつ投稿します。 だいたい1回の投稿につき5話ずつくらいです。 よろしくお願いいたします🙏✨ 今回もプロローグと最終話に感想欄を解放します(。uωu))ペコリ💕

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

処理中です...