【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり

文字の大きさ
41 / 49
最終章 帰る場所

41不安

しおりを挟む
 メルティアは裏側の国境でもある城門をくぐり、待っていた馬車のもとへと向かう。

「来たのは姫か」
「は、はい。メルティア・P・ファルメリアです」
「王族の証を見せろ」
「あ、証……?」

 メルティアは困った。
 証と言われても身一つで来いと言われたため、何も持ってきていない。

「この国は怪しげな魔術を使うんじゃないのか?」
「え……? し、知りません……」

 兵たちは顔を見合わせる。
 そしてメルティアを上から下までじっくり眺めたあと、くいっと顎で馬車を示す。

「まぁいい。馬車に乗れ」

 「魔術?」と首をかしげながらメルティアは馬車に乗り込む。
 中に人はいなかった。
 どうやらメルティアだけが馬車で、その周りを厳重に馬が囲って帝都まで行くようだ。

 メルティアが乗り込むとあっさりと馬車は動き出した。
 大した別れもできないまま、メルティアは自分の生まれた国をあとにする。

 名残惜しくて、見えなくなるまで窓から城をながめた。



 ガタガタと馬車で揺られること三日。

 帝都には十日ほどで着くらしい。
 大きい国だと帝都に行くだけでも時間がかかるようだ。

 一人で馬車に乗っているため、することもなくぼんやりしているメルティアの目の前に、パッと一匹の青い妖精が現れる。

「こんなとこにいたのか。やっと追いついたぜ」
「チーくん!?」

 いつの間にかチーが姿を見せなくなっていたから、メルティアは別れも言えないまま来てしまっていたのだ。

「ど、どこに行ってたの?」
「いろいろ回ってたのさ。寝てるやつらをたたき起こしたり」
「忙しかったんだね……」
「メルこそ何やってんだよ」
「だって、戦争になるって言うから……」

 メルティアはあったことをひそひそと話した。
 外に聞かれるかもしれないから一応慎重にだ。

「ったく。人間ってのは本当に愚かしいな」
「いい人もいるよ?」
「欲にまみれたやつだっているだろ」

 探せばいるだろうが、全員というわけでもない。

 チーは空中で腕組をしながら、黙って目を閉じた。何か考えているらしい。

「……しばらく様子を見るか」

 ぼそりと呟くと、チーはメルティアの膝の上で横になって大きくあくびをする。

「チーくん寝ちゃうの?」
「起きたら相手してやるから」

 ひらひらと手を振られて、メルティアは小さく笑う。
 起きたらということは、このままメルティアと一緒に来てくれるということなのだろう。

「おやすみ、チーくん」

 すぐに眠ったから、本当に忙しかったのだろう。

 メルティアは機嫌よく馬車のカーテンを引いて窓の外を見た。馬車を取り囲んでいる兵士の一人と目が合ってしまい、内心飛び上がりながらぺこりと会釈してカーテンを閉じた。

 それにしても本当にすることがない。
 おしりも腰も痛くなってくるし、何もすることがないと、つい余計なことを考えてしまう。

「……ジーク……」

 ちゃんと騎士団に入れただろうか。
 最後に振り向いてくれなかったけれど、嫌われたのだろうか。
 ジークのせいじゃないという誤解はちゃんと解けただろうか。

 馬車の背もたれに寄りかかって、メルティアも目を閉じる。

 夢の中だけでも、あのときの続きを。

 そんなことを想いながら眠りについた。



 チーがやってきてから、メルティアは話し相手ができたことで元気を取り戻していた。

「もうすぐ着くみたい。どんなところかな?」
「さあな」
「チーくんも詳しくないの?」
「情報としてある程度知っているけど、オイラが実際に見たのはだいぶ昔だな」

 だいぶ昔のだいぶは、どれだけだいぶなのか。

「チーくん昔は帝国にいたの?」
「帝国にいたというか、昔、妖精は世界中にいたぜ。オイラたちもあちこちに行ったりしてたからな」
「今はいないの?」
「ほとんどいないな。外見てもいないだろ?」

 メルティアはこっそりカーテンを引いて外をのぞき見る。
 舗装された道。今は街中なのか家が所狭しと建ち並び、緑はほとんどない。当然花もない。
 妖精の姿を探してみたけれど、どこにもいなかった。

「いないね……」

 街の雰囲気をながめても、ファルメリア王国とはずいぶん違う。
 鎧に身を包んだ兵が勇ましく街を歩き、華やかなドレスに身を包む者もいれば、路地裏でガリガリに痩せ細った子どもが残飯を漁っている。

 それに、なんだか空気が薄いような気がして、息苦しい。

「……わたし、やっていけるのかな」

 もうすぐ到着するというのに、不安でいっぱいになる。

 そわそわと手をいじっていると、馬車が停まった。
 ゆっくりと、扉が開く。着いてしまったらしい。

「どうぞ。皇帝陛下がお待ちです」

 メルティアは緊張した面持ちで馬車を降りる。
 どうやら、皇帝自身が歓迎をしてくれるらしい。

 メルティアは少しほっとした。やっぱり、いい人かもしれない。戦争王とは言っても、何か理由があるのかも。
 そこまで考えて、ファルメリア王国を攻撃する理由なんてないはずだと顔を引き締める。

 メルティアをここまで連れてきた兵たちに着いていくと、大きな広間の高い玉座の上に、煌びやかな身なりをした男性がいた。
 手には宝石の付いた指輪がいくつも付けられ、王冠も金ピカに光り、とにかく派手だ。

 白髪交じりの短髪に、豪快に生えた髭。
 眼光は鋭く、釣りあがった眉に高い頬骨。
 体には筋肉がたくさんついていて、メルティアの三倍くらいの大きさだ。

 年齢はメルティアよりも数十個上に見えた。

「ほぉ。これがあの国の姫か」

 椅子の上からじろじろと上から下まで見られる。

「こっちに来んか」
「は、はい」

 メルティアはおそるおそる階段を上っていく。
 そして皇帝がいるところまで来ると、皇帝はガサガサした武骨な手でぐいっと乱暴にメルティアの頬をつかんだ。

 メルティアは驚いて目をめいっぱい見開きながら、顔をのぞき込んでくる皇帝を見つめる。

「ほぉ。なんとも愛らしい顔だ。よかろう。ワシの側室に迎えてやろう」

 おぉおお! と両脇に控えていた兵たちから歓声があがる。
 メルティアは何が起きたのか理解できず、おろおろと視線を泳がせた。

「おい、もっと喜ばんか」
「え。えっと……側室って、なんですか?」

 皇帝は目を丸くしてガハガハと唾を飛ばしながら笑う。

「側室を知らんか! ワシの第七夫人に迎えてやると言うことだ」
「第七……ふじん? け、結婚するということですか?」
「そうだ。嬉しいだろう?」
「……」

 メルティアは小さく笑って頭を下げた。
 床に敷かれた真っ赤な絨毯を見つめながら、メルティアは動揺していた。

 結婚。

 ジークじゃない人と。

 潰れそうに痛む胸を押さえて、自分に言い聞かせる。

 国のために生きると決めた。
 それに、ジークとはもう二度と会わないつもりだったんだから、誰と結婚しようと同じじゃないか。


「式は三日後に執り行う。それまでにこの国になれるといい」

 ガハガハと笑って、皇帝は玉座の裏にあった扉から去っていった。
 置いてきぼりにされたメルティアがこれからどうすればいいのか困惑していると、玉座の下から声がした。

「メルティア姫様。こちらに」
「え?」

 ピシっとまとめた黒髪と、釣りあがった目が印象的な美女が、冷たくメルティアを見つめていた。

「この三日間であなたをとびきりの美人に仕立てるよう仰せつかっております。時間はありません。のんびりなさらないで」
「あ、は、はい。ごめんなさい……」

 ツカツカと歩いていく美女のあとを、メルティアは慌ててついていった。

 本当に、やっていけるのだろうか?

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

王太子は妃に二度逃げられる

たまこ
恋愛
 デリンラード国の王太子アーネストは、幼い頃から非常に優秀で偉大な国王になることを期待されていた。 初恋を拗らせ、七年も相手に執着していたアーネストが漸く初恋に蹴りを付けたところで……。 恋愛方面にはポンコツな王太子とそんな彼をずっと支えていた公爵令嬢がすれ違っていくお話。 ※『拗らせ王子と意地悪な婚約者』『先に求めたのは、』に出てくるアーネストのお話ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

【完結】私は本気の恋だった

キムラましゅろう
恋愛
ミルチアは語って聞かせる。 かつて身をやつした最初で最後の恋の話を。 はじめて愛した人は、嘘偽りで塗り固められた人。 騙されていたと知ったとき、ミルチアは全てを捧げ、そして全てを捨てて逃げ出した。 だけど嘘から出た誠とはよくいったもの。ミルチアは偽りの関係からかけがえのないものを得る。 そうしてミルチアは流れ着いた港町にて一人で子を生み育てていた。 このまま親子二人で穏やかに暮らせていけたらと、そんなささやかな望みを抱くことも許されないのだろうか。 なぜ探したのか、どうして会いにきたのか。 もう二度とその双眸を見ることはないと思っていたのに……。 ミルチアが綴る恋の物語に、あなたも耳を傾けてみませんか。 小説家になろうで開催された、氷雨そら先生主催のシークレットベビー企画参加作品です。 (すでに期間は終了しております) 誤字脱字……( *ˊꇴˋ)ゴメンネ! すでに完結している作品ですが、感想欄の管理のために数話ずつ投稿します。 だいたい1回の投稿につき5話ずつくらいです。 よろしくお願いいたします🙏✨ 今回もプロローグと最終話に感想欄を解放します(。uωu))ペコリ💕

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

処理中です...