【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり

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最終章 帰る場所

47精一杯のラブレター

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 そんな日が続いたある日、ジークは街に出かけて花を買った。
 メルティアの部屋の花の世話はしていたものの、月日が経つことで少しずつ枯れる花も出てきたのだ。

 新たな新鮮な花を手に、メルティアの部屋に戻る。カーテンを開けて日の光を浴びせ、花たちに水やりする。
 淡々といつもの日課をこなしていると、背後で何かが動く気配がした。

 ジークは緊張に息を詰めて、しばらく固まったのち、おそるおそる振り返った。

 勘違いだったらと思うと、怖かったのだ。


 そぉっと振り返って、ジークは息を飲む。
 たしかに、誰かが動いているのだ。メルティアのベッドで。

 ジークは手に持っていた如雨露を放り捨てるように乱暴に置いて、慌てて駆けだした。そして、勢いよくメルティアのベッドのカーテンを引く

 目を丸くして驚いた顔をしているメルティアと、目が合った。

「……ティア?」
「……ジーク?」

 切れ長の目を目いっぱい開いて、死人を見たかのような顔をしているジークに、メルティアはふわりと花のように笑いかける。

「おはよう、ジーク」
「……っ、」

 ジークは声も出せずに、呼吸を震わせた。胸が苦しくなって、息苦しくなってくる。鼻の奥がツンとして、視界がにじんだ。
 ポタリと、メルティアの手の甲に綺麗な雫が落ちてくる。

「ジーク?」
「……もう、起きないかと思った」
「……」
「何度呼んでも、目が覚めなくて、一生、このままかと」
「……うん、ごめんね」

 苦笑するように目を細めて笑ったメルティアを見て、胸の奥が苦しくてたまらなくなる。
 ジークは体を突き動かす衝動のままにメルティアを抱きしめた。勢いよく、搔き抱くようにメルティアの体を丸ごと抱きしめる。

「ジーク、苦しいよ」

「……っ、」

 メルティアを抱きしめたまま、ジークは肩をふるわせた。

 メルティアはただ、優しくジークの背に手を添えて、その大きくて小さな背中をなでた。
 よしよしと、泣かないでと、そうやって何度も何度もなでた。

 しばらくすると落ち着いたのか、ジークは体を離し、そっと両手でメルティアの頬を包む。優しく懇願するように、額と額を合わせた。

「ジーク……?」
「ティア、愛してる」

 目を見開いて呆然としているメルティアを見て目を伏せると、ジークは首を傾けた。そして呆けているメルティアの唇に、そおっと、ジークの唇が重なる。
 触れるのを、少しだけ怖がるように、ジークの唇は震えていた。

「んっ……ジーク」
「ティア……」

 熱に浮かされたような目でメルティアを見つめて、もう一度口づけようと顔を近づけてくる。
 でもメルティアはあることを思い出して、ジークを両手で押し返した。

「ティア?」
「うそ」
「は?」
「うそだもん。ジーク、好きな人いるもん」

 ツンと口を尖らせて、メルティアは拗ねたようにジークを見ている。
 ジークは何度も目を瞬き、頭に疑問符を浮かべた。心当たりがまったくなかったのだ。

「だから、ティアが好きだって……」

 言いかけて、ジークは我に返ったようにかあっと顔を赤らめ、大きな手で口元を覆い隠して目をそらした。
 それを見たメルティアは目を丸くして、でも訝しむように目をすがめた。不貞を追及する妻のようだった。

「だって、ジーク、お花屋さんは?」
「……花? どういう意味だ」
「あのお花屋さんの女の人、あの人が好きなんじゃないの?」
「……誰がそんなことを?」
「えっ、違うの?!」

 メルティアはおろおろと視線を泳がせては、腕を組んで目を閉じる。
 メルティアの記憶ではたしかにジークはあの人に恋をしていた。

「だって、顔赤くしてたし……」
「俺が? いつですか」
「最初に行ったとき」

 ジークは首を傾げて、しばらくして心当たりがあったのか気まずそうな顔をした。

「やっぱり! ジークのうそつき!」
「違いますよ。あれは、そういうのではなくてですね……」
「じゃあなに?」

 メルティアが純粋な瞳で見上げてくる。
 ジークは引きつった顔のまま、そっとメルティアを抱きしめて誤魔化そうとした。

「ジーク!」
「……言わないとダメですか」
「だめっ!」
「あれはですね……その……花を、買っていたから」

 メルティアの頭には疑問ばかり浮かぶ。顔に出ていたのか、ジークがしぶしぶと言いたげに言葉を足す。

「だから、あなたに花を贈っているのがバレていたんですよ。そこにあなたがやって来たから、からかわれたんです」
「……それだけ?」
「それだけですよ……」

 メルティアはどうにも腑に落ちなかった。
 それだけで顔を赤くする必要があるのか。

「おいおい、大事なこと言ってないだろ、ジーク」
「チー!?」

 ジークがギョッとした顔をしてメルティアから手を離す。

「ジークはさ、ラブレターを送ってたんだ。メルに」
「へ? そんなのもらってないよ」
「待て待て待て」
「紙じゃなくて花さ」
「花?」
「メルは分からないだろうな。これは人間たちが勝手につけたものだから。花には、花言葉ってのがあるらしいぜ」
「……花言葉?」

 メルティアがジークを見ると、ジークは顔を真っ赤にして片手で口元をおおっていた。

「贈る花によって、愛してるだとか、あなたを守るだとか、あるんだよ。メルに贈られてたのは、全部そういう言葉だったってわけ」
「……そうだったの?」
「あまり辱めないでください……」

 メルティアは目を丸くして、破顔する。

「ジーク、そういうことする人だったんだ」
「だから言ったろ? ジークはロマンチストだって」

 メルティアの部屋に飾られていたたくさんの花たち。
 全部、ジークが贈ってくれたものだ。

 それらはやっぱり、ジークの恋の欠片だったらしい。


 メルティアへ、言えない想いをたっぷりとのせた、精一杯のラブレター。


「ジーク、もう一回言って?」
「……なにをですか」
「愛してるって。キスもして!」
「……あなたは本当に、いつまでも子どもですね。愛してます、ティア」

 愛おしそうに目を細めて、ジークはそっとメルティアの唇にキスをする。

「俺の話も、聞いてくれますか?」
「うん。なぁに?」
「昔話です。腰抜け男のくだらない話ですよ」

 クスクスと花のように笑うメルティアの額に、ジークは何度も何度もキスを落とした。

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