モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています

雪本 風香

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弟よ、なぜ知っている?

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「あかりー! 昨日の昔なじみの男との飲み会はどうだったんだー?」
 職場に行くなり早速上司の早野に尋ねられる。
 警察署ここでは、正式な場はともかく、日常であかりのことを「福田」と呼ぶ者はいない。他にも同じ名字の警官が複数いるからだ。
「どうって、普通ですよ」
「普通ってなんだよ!」
「特に何も報告することはありませんってことです」
「なんだ、つまらんな。若いんだから別れた男引きずってないで新しい恋人くらいサッサと作れ。そしてできるだけ若いうちに結婚しろ。ここにいると年取るにつれてスレていくからなー」
「はいっ」
 早野の言葉にあかりは敬礼を返す。

 一般の会社ではハラスメントに該当しそうな早野の言葉。
 だけれども、警察官という特殊な職業では普通の勤め人のような常識は通用しない。
 常に報告・連絡・相談が求められる職場なのだ。
 あかりが昨日仕事終わりに理貴と飲みに行ったことも、一ヶ月前まで先輩の警察官と付き合っていたことも、そして別れたことも全部報告済みなのだ。
 職場以外の友人に話すと驚かれるが、祖父も父も、長兄も弟も警察官という一家に育ったあかりには「そういうもの」として認識していた。
 あかりは早野の言葉を素直に受け止める。

 実際、警官を長くやっていると人間のイヤな面ばかり見せつけられて心が荒んでしまうこともある。
 それを知っている上司や先輩は現実を知る前にさっさと結婚するように促してくるし、そもそも警察官は異性とお付き合いするハードルも高いのだ。
 出会いもない、プライベートもない特殊な環境なのだ。
 上からは急かされるし、遊びで付き合うには時間が惜しいこともあって、基本的に結婚前提での交際になる。
 特に五十代の早野の世代は、独身なら出世に響いたこともあり、若い独身の人間を見ると口癖のように「早く家庭を持てよ」というのだった。

 あかりだって結婚には憧れる気持ちはある。当たり前のように元カレとは結婚も見据えて付き合っていたけれど、結局ゴールインはしなかった。

 だけど。
(理貴が相手……は、考えられないな)
 理貴は幸人と同じ弟のようなものだから。

 今更彼と恋愛、ましてや結婚するなんて、あり得ない。
 地球がひっくり返ったとしても。




『理貴と会ったんだって?』
 幸人からメッセージが入っていたのは、理貴と再会してから一週間経った頃だった。
 送信時間を見ると一時間前。あかりは幸人に電話をかけた。

『……俺、非番なんだけど』
 開口一番、二十四時間勤務明けで疲れているアピールをする弟にあかりはイラッとしながら返事をする。
「私なんて休日出勤だよ、今日」
『よくあることだろ? 生活安全課なんてどこも人手不足なんだから』
「そうだけど……」
『いいじゃん、休出って言っても昼過ぎには終わってんだから』
 幸人の言葉にあかりはうなずくしかない。

 あかりの所属している生活安全課は、多種多様の相談を受ける。
 最近多いのがDVやストーカーなど、恋愛が絡む事例だ。
 相談者が女性の場合は、基本的に女性警官が聞き取りをしていく。
 昨日はたまたま女性の相談者が多くて、当直の警官だけでは仕事が手が回らなかったのだ。
 昇給試験に合格して巡査から一つ上の巡査部長にはなっているが、まだ課の中では下っ端だ。
 特に予定もなかったあかりは、居残って聞き取りや書類の作成をしていたのだ。

「それはそうと。アンタ、理貴と連絡取ってたんだ?」
『取ってたよ、ずっと』
「仲良かったもんね」
 幸人はフッと息をつく。電話口でわかりにくいが、多分笑っているのだろう。
 あかりが再び口を開く前に、幸人は先手を取った。
『で、「付き合おう」くらいは言われた?』
「なっ……!」

 弟の突然の発言にあかりは口をパクパクする。
 電話口の向こうで幸人が爆笑する声が聞こえる。
 憎たらしく思うのに、言葉が出てこない。

『図星?』
「あ、アンタには関係ないでしょ!?」
『当たりか。ま、理貴に頼まれていたからな。あかりがフリーになったら教えてくれって』
 幸人の口から聞き捨てならないセリフが飛び出す。
 あかりの声が低くなる。
「なんでアンタが知ってるのよ。管轄違うでしょ?」
 あかりは東京の警視庁、幸人は神奈川県警なのだ。大事件ならともかく、一警察官が管轄を跨いで情報共有するなんてことは、まずない。
 なんとなく情報源は誰なのか、予想はしているが。
『まさにぃに聞いた』
「やっぱりー」
 長兄の雅人の名を告げる弟にあかりはがっくり肩を落とした。
 長兄の雅人も、警視庁所属なのだ。高卒のあかりと違って、雅人は大卒のキャリア様だが。

 普段連絡を密に取る兄弟じゃないのに、こういうときだけ情報は筒抜けなのだ。
 
 ここまでプライバシーがないとは。憧れていた職とはいえ、母と次兄以外は警官というのは考えものである。
 その母も元婦警だ。全く無関係の職に就いているのは次兄しかいない、祖父の代から由緒正しい警察一家の福田家なのだ。

『ま、理貴と連絡取ってやってよ。あいつずっとあかりがフリーになるの待っていたんだから』
「えっ? どういう……」
 あかりが言い終わる前に、話は終わったとばかりに幸人は通話を切ったのだった。
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