緑風荘へようこそ

雪那 由多

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夏休みは夏が終わってからが本番だ 5

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 朝起きたらシャワーを浴びる、ではなくジャグジーを楽しむ。
 エアコンを入れて寝ても汗ばむ体にジャグジーとはどんな世界なのだろう。
 早起きした瑞己はジャグジーに向かう修司さんに誘われて初ジャグジーを体験。
 青空の下、木々の隙間から海を眺めてのジャグジー。
すげーセレブ感。
「ふおおおおお!」
 水流と言うか水圧と言うか、何とも表現し難い気持ちよさに思わず声をあげれば
「油断すると海パンが脱げるから注意な」
「え?!マジ?!」
 おもわず海パンを引き上げてしまう。
「嘘に決まってるだろ。
 そんなものがあったら公共施設に置けないだろ」
「言われてみれば!」
 ちょっと考えればわかる事なのに気付かない俺に思いっきり笑う修司さん。
 平和な朝だ。
「今日の予定はどうなってる?」
「せっかくだから電車に乗って半島の観光的な?」



 海岸沿いにローカル線が走ってるこの地域を堪能しないわけはない。昔からの保養地でもあり温泉地でもある。タオルを持っての観光は既に決定だ。
 正直に言えば修司さんの家ならもっと東京よりの良い所の別荘地を持ってそうなのになんて思ってたけど都会からも離れた風光明媚な…… 今となれば寂れた別荘地。
 まあ、誰もがこの景色を見れば納得の景色。

「遠くに見えるのが大島か。
 見えてるのに遠い大島か」
「地図で見ると遠いのに見えるなんてすごいね」
 
 安定の颯也と竜也ブラザーズの言葉にあれが大島かと言う会話のプチ情報にへーと感心するのは俺だけではない。
 そしてこんな俺達を見守る地元の皆さんのほっこりとした視線をまったく気にしないのは仲良し兄弟が思いっきり観光客モードをフルモードで楽しもうとしている様子があまりに微笑ましいからだろう。
 因みに修司さんは不参加。
 理由はこっちに来てまで仕事を持ってきていたから。
 仕上げないといけない仕事があるから適当にみんなと楽しんできてよと言われたのは朝のジャグジータイムでの言葉。
 なんなの?
 ジャグジータイムってミーティングタイムってルビをふる物なの?
 別にネットで調べたから一日、二日、三日ぐらい余裕で時間潰せるけどね。
「一緒に遊ばなくてもいいの?」
 さりげなく聞くも少しだけ悩んだ顔をして
「ここでの思い出もちゃんとできているよ。
 腹壊してもソフトクリーム食べる猛者だとか、BBQやるって事前報告していても食べ歩きに出る猛者とか。
 ちゃんと楽しい思い出になってるから。
むしろこれ以上楽しい思い出って何さってくらい逆に聞きたいくらいよ」
 笑う修司さんを見て改めて本当に大切に育てられた人だと理解した。
 そんな人がなんで落ち目と言われたかつて一流と当時呼ばれた中華料理店で働いていたのか疑問になったけど。
 これから先の輝かんばかりの経歴に傷がつく前に一つの終わりを体験するという貴重な体験をすることを前大家さんや修司さんのお父さんが体験するのを経験として黙認していたのだろ。
 
 結末の後始末を体験させる、それも教育と言うように……

 思い出すのはいきなり店が倒産したとか。
 従業員には知らされてなかったとか。
 時間をおいて裁判所へ出頭。
 予定していた勤務時間からの給料の支払いなどなど……
 それを「大変だった」とだけで纏めた修司さんだったが

「こういうの一度体験すると経営者側は身が引き締まる思いになるね」
 
 そう言う事までも含めて前大家さんの試練ですよと言いたかった。
 むしろ叫びたかった。
 だけど修司さんはのたまった。

「まあ、こういう事も親父が言う所の一度は経験しておけって言う事なんだろうけどさ・・・・・」

 なんて杉の木の隙間から遠くに見える海を眺めながら

「しのさんが紹介してくれた翻訳のバイト。
 俺の翻訳次第でしのさんの恩人の大学の基礎知識になるって聞いた時のプレッシャーに比べたらザルレベルのどうでもいいレベルになってたからね。
 世界の標準レベルになるプレッシャーと今日もどこかで倒産してどこかで裁判所に呼ばれる不当解雇された人たちの数を比べたらただの作業になったよ。
 ほんと仕事だけ任されて一度も会った事のないしのさんの恩人だけどさ…… 
殴りに行きたいよ……
 しのさんに嫌われたくないから殴られたくないけどさ」

 なんて修司さんの闇を見たけど。
 深くは突っ込まないけど俺の記憶の限りを寄せ集めればその恩人はしのさんのお兄さんの友人で前にすごくお世話になったというくらいしか知らない。
 しのさんもあまりその辺り話をしたくないのか教えてくれないからね。
 俺達もそう言うのを察するくらいの経験あるからあえて何も言わないけど……

 しのさんの恩人に殴りにっても負けるの確定だか止めようね修司さん?

 きっとこの言葉を言うのは遠い未来。
 むしろ発する事のない言葉だと、そこは修司さんの育ちの良を信じるしかない!

 そんな事を考えながらの海を眺める鉄道旅行。
 颯也と竜也を眺めながら癒される俺。
 
 よほど楽しみにしていたのかこの地域にまつわる話を調べつくした豆知識の会話に感心されるけど……

ほんと平和な景色過ぎて癒されすぎる地元に人達に同化できる俺はほんとただの観光客だ。

 旅行する時は少なくとも旅行先を調べておく、これぞ醍醐味だという事を学ぶのだった。








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