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集まれ緑風荘 4
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当面の生活道具と着替えをもって車に詰め込んだ。
「もう行くのか?」
流石に社長とは言え母親を亡くしたために仕事を休んで色々な書類仕事に没頭すると言っている。
まあ、年金を止めたりと言った行政手続きから香典返し、あいさつ回りなどやる事はいっぱいだ。弔問客もいっぱいだしね。
だけど一番もめるだろう遺産の相続手続きは生前に弁護士を混ぜてきっちり話を決めていたからこんなにもスムーズに話しが進んだことがこの忙しいさなかの救いだろう。
ここで揉めてみろ。
やらないといけない事が全然進まないあげくに周囲から軽蔑の視線を集める始末。
会社経営をしている我が家としてはいろんな意味で大ダメージとなる。
だから最低限のけじめはつけてくれたのだろうけど……
「親父もあまり無理するなよ。
お婆ちゃんが亡くなってからまともに寝てないだろ。
とりあえず食べて寝る、お婆ちゃんの教え。
俺も手伝えることがあったら手伝うから。遠慮なく言ってよ」
「だったらまずは……
あちらの家の世話を頼むな」
なんて親父は苦笑交じりの顔。油断ならないとまゆを顰めれば
「パソコンは持っていくんだろ?」
「今時ネット環境がない生活あり得ないから」
「だったらそっちに連絡を入れる。悪いが頼りにするぞ」
なんて言う理由は俺が家でぐうたらしている間に暇なら手伝えといろいろ会社の仕事を手伝わされたのが理由。
家に居続ける気まずさに手伝った為に調子づきやがって。
だけどどこか一気に老けた気のする親父に少しぐらい優しくしないとなと思ったとたんに容赦ない約束をとりつけようとしてきた。
「まあ、いいけど」
「けど?」
「あー、久しぶりに英語の勉強をしようと思ってね」
「だったら英語の仕事もたくさんくれてやる。しっかり勉強しろ」
たぶん俺の夢は知っていたと思う。
そして現実的ではないくらい、俺にはセンスがないという事も知っている、と思う。
いや、あまりに壊滅過ぎる俺のセンスだからこそ親父も知る始末。
子供だった俺が無邪気にお袋にこういう事したいと話して作品を見せた純粋さは今では闇歴史だ。
まあ、こういったネタにして笑ってもらえるぐらいに昇華したけどね。
「とりあえず荷物取りにちょくちょく戻るから」
そう言って車に乗り込んで走り出した。
我が家が言う旧家は大げさに言っているだけで単なる前住んでいた家だけど実は今の家からそれほど遠くない。
今の家の方が会社に近く、交通網が良いという事で引っ越したらしい。
ここは坂の上だし、お風呂もない。
後から作った離れの家にはお風呂があるから問題ないけど。
だったらそれまでどうしていたか?
答えは単純。
今日は道路が空いていて十数分で実家から俺の職場でもあり、住み家となる旧家へと無事着いた所で荷物を家の中に放り込んだ後お袋から頼まれていた香典返しをもって坂を下りる。
町の方に向かって歩けばちょうど町と住宅地の間に一本の長い煙突が聳える古式ゆかしき銭湯があった。
駐輪場はあっても駐車場のない銭湯は今時の複合施設何て備えていない。
まだ銭湯は開いてないけど俺は手慣れたように店の裏に回ってドアを開けて
「おはようございます!」
大きな声をかければ遠くから聞こえる軽快な足音は近づいてきて、やがて見えた姿が止まった所で深呼吸をして
「瀬奈。お婆ちゃん大変だったね」
髪を束ねてたジャージ姿が飛び出してきた。
「まあ、93歳、大往生って所だろ」
「93歳…… まったく見えなかったのに」
「最後までお婆ちゃんらしく仕事をしてたよ」
言えばそうかと少し涙ぐむのはお婆ちゃんから紹介されて知り合ったのが野田玲。
あまりに色気がなくてもこの野田銭湯の看板娘だ。
そんな話をしていれば
「瀬奈さん、この度はお悔やみを申し上げます」
「ありがとうございます」
続いて顔を出したのはこの野田銭湯の親父さんで玲の父親。名前はうろ覚えだ。
「豪勢な葬式だと聞きましたよ」
「会社がらみの弔問客が多かったのでそう見えただけでしょう」
俺はほとんど受付に縛られていたから中の様子はあまり判らなかったけど、家族葬が多いこの世の中でこれほどの訪問客の多さはめったにないと斎場の人が言っていた。
それすらよくわからない経験値の少ない俺だけど。
俺は香典返しを渡しながら
「それとお婆ちゃんからあのアパートを引き継いだので、よろしければこれからもお願いします」
家庭的な事情を抱えた学生さんに紹介するバイトはこの銭湯。
閉店後に風呂掃除をしてその後お風呂に入るそんなバイト。
もちろん受付や脱衣所の掃除もするし、何年か経験した学生さん達はボイラーの手伝いもさせてもらっている。
ここの銭湯はうちのアパートの学生さんで成り立っていると言ってもいい共存関係になっている。
「正直アパートが残ってくれて助かった。
今時アルバイトを雇うのもこういう所だと信頼できる人と言うのは結構難しいから」
どこかホッとした顔の親父さんの言いたいこともわかる。
誰もがスマホを持つ時代。
銭湯で盗撮なんて最悪な事件と言うしかない。
今も昔も窃盗と盗撮が銭湯で話題は尽きない悪だけど、生活に必死なうちのアパートの学生さん達がそんな危ない橋を渡るような真似をしないそんな性善説。
だからこそ信用してくれる、そんな関係だ。
「とりあえず今住んでいる学生さん達が無事卒業するまではアパート経営続ける予定ですけど」
「そうか。昔からアパートの学生さんには世話になったから、寂しいな」
そんな人材の喪失に悲しそうな顔をするも
「まあ、その分玲が頑張るって言ってるから心配ないですね」
「なにを言ってる! 浮いた話が一つもないのに安心してられるか!」
「えー、なんかいきなり酷くない?」
「それも親孝行だよ」
言えば
「そう言う瀬奈は?」
「親を満足させる相手がいないだけだ」
なんだかどさくさに紛れて会社を継がせ、それにふさわしい相手を連れてこなければこっちで見繕うぞと言ういつの時代だよと突っ込みたいけど、お婆ちゃんの葬式を経て見た財産分与された金額にいろいろな事が脳裏をよぎって親父たちの言葉は本音だという事は理解したけど。
「当面はアパートの学生さん達の親代わりだから。
新しい仕事が恋人で学生さん達が我が子だな」
「それー、余計結婚から遠ざかるワードw」
なんて玲は楽しそうに笑うのを見て
「では、朝から突然お邪魔してすみませんでした」
「こちらこそ忙しい時にありがとうございます」
そんな挨拶を終えて俺はふらりと今日のお昼を買いにここに来るたびにお婆ちゃんと一緒に買い物に向かったスーパーへと足を向けた。
「もう行くのか?」
流石に社長とは言え母親を亡くしたために仕事を休んで色々な書類仕事に没頭すると言っている。
まあ、年金を止めたりと言った行政手続きから香典返し、あいさつ回りなどやる事はいっぱいだ。弔問客もいっぱいだしね。
だけど一番もめるだろう遺産の相続手続きは生前に弁護士を混ぜてきっちり話を決めていたからこんなにもスムーズに話しが進んだことがこの忙しいさなかの救いだろう。
ここで揉めてみろ。
やらないといけない事が全然進まないあげくに周囲から軽蔑の視線を集める始末。
会社経営をしている我が家としてはいろんな意味で大ダメージとなる。
だから最低限のけじめはつけてくれたのだろうけど……
「親父もあまり無理するなよ。
お婆ちゃんが亡くなってからまともに寝てないだろ。
とりあえず食べて寝る、お婆ちゃんの教え。
俺も手伝えることがあったら手伝うから。遠慮なく言ってよ」
「だったらまずは……
あちらの家の世話を頼むな」
なんて親父は苦笑交じりの顔。油断ならないとまゆを顰めれば
「パソコンは持っていくんだろ?」
「今時ネット環境がない生活あり得ないから」
「だったらそっちに連絡を入れる。悪いが頼りにするぞ」
なんて言う理由は俺が家でぐうたらしている間に暇なら手伝えといろいろ会社の仕事を手伝わされたのが理由。
家に居続ける気まずさに手伝った為に調子づきやがって。
だけどどこか一気に老けた気のする親父に少しぐらい優しくしないとなと思ったとたんに容赦ない約束をとりつけようとしてきた。
「まあ、いいけど」
「けど?」
「あー、久しぶりに英語の勉強をしようと思ってね」
「だったら英語の仕事もたくさんくれてやる。しっかり勉強しろ」
たぶん俺の夢は知っていたと思う。
そして現実的ではないくらい、俺にはセンスがないという事も知っている、と思う。
いや、あまりに壊滅過ぎる俺のセンスだからこそ親父も知る始末。
子供だった俺が無邪気にお袋にこういう事したいと話して作品を見せた純粋さは今では闇歴史だ。
まあ、こういったネタにして笑ってもらえるぐらいに昇華したけどね。
「とりあえず荷物取りにちょくちょく戻るから」
そう言って車に乗り込んで走り出した。
我が家が言う旧家は大げさに言っているだけで単なる前住んでいた家だけど実は今の家からそれほど遠くない。
今の家の方が会社に近く、交通網が良いという事で引っ越したらしい。
ここは坂の上だし、お風呂もない。
後から作った離れの家にはお風呂があるから問題ないけど。
だったらそれまでどうしていたか?
答えは単純。
今日は道路が空いていて十数分で実家から俺の職場でもあり、住み家となる旧家へと無事着いた所で荷物を家の中に放り込んだ後お袋から頼まれていた香典返しをもって坂を下りる。
町の方に向かって歩けばちょうど町と住宅地の間に一本の長い煙突が聳える古式ゆかしき銭湯があった。
駐輪場はあっても駐車場のない銭湯は今時の複合施設何て備えていない。
まだ銭湯は開いてないけど俺は手慣れたように店の裏に回ってドアを開けて
「おはようございます!」
大きな声をかければ遠くから聞こえる軽快な足音は近づいてきて、やがて見えた姿が止まった所で深呼吸をして
「瀬奈。お婆ちゃん大変だったね」
髪を束ねてたジャージ姿が飛び出してきた。
「まあ、93歳、大往生って所だろ」
「93歳…… まったく見えなかったのに」
「最後までお婆ちゃんらしく仕事をしてたよ」
言えばそうかと少し涙ぐむのはお婆ちゃんから紹介されて知り合ったのが野田玲。
あまりに色気がなくてもこの野田銭湯の看板娘だ。
そんな話をしていれば
「瀬奈さん、この度はお悔やみを申し上げます」
「ありがとうございます」
続いて顔を出したのはこの野田銭湯の親父さんで玲の父親。名前はうろ覚えだ。
「豪勢な葬式だと聞きましたよ」
「会社がらみの弔問客が多かったのでそう見えただけでしょう」
俺はほとんど受付に縛られていたから中の様子はあまり判らなかったけど、家族葬が多いこの世の中でこれほどの訪問客の多さはめったにないと斎場の人が言っていた。
それすらよくわからない経験値の少ない俺だけど。
俺は香典返しを渡しながら
「それとお婆ちゃんからあのアパートを引き継いだので、よろしければこれからもお願いします」
家庭的な事情を抱えた学生さんに紹介するバイトはこの銭湯。
閉店後に風呂掃除をしてその後お風呂に入るそんなバイト。
もちろん受付や脱衣所の掃除もするし、何年か経験した学生さん達はボイラーの手伝いもさせてもらっている。
ここの銭湯はうちのアパートの学生さんで成り立っていると言ってもいい共存関係になっている。
「正直アパートが残ってくれて助かった。
今時アルバイトを雇うのもこういう所だと信頼できる人と言うのは結構難しいから」
どこかホッとした顔の親父さんの言いたいこともわかる。
誰もがスマホを持つ時代。
銭湯で盗撮なんて最悪な事件と言うしかない。
今も昔も窃盗と盗撮が銭湯で話題は尽きない悪だけど、生活に必死なうちのアパートの学生さん達がそんな危ない橋を渡るような真似をしないそんな性善説。
だからこそ信用してくれる、そんな関係だ。
「とりあえず今住んでいる学生さん達が無事卒業するまではアパート経営続ける予定ですけど」
「そうか。昔からアパートの学生さんには世話になったから、寂しいな」
そんな人材の喪失に悲しそうな顔をするも
「まあ、その分玲が頑張るって言ってるから心配ないですね」
「なにを言ってる! 浮いた話が一つもないのに安心してられるか!」
「えー、なんかいきなり酷くない?」
「それも親孝行だよ」
言えば
「そう言う瀬奈は?」
「親を満足させる相手がいないだけだ」
なんだかどさくさに紛れて会社を継がせ、それにふさわしい相手を連れてこなければこっちで見繕うぞと言ういつの時代だよと突っ込みたいけど、お婆ちゃんの葬式を経て見た財産分与された金額にいろいろな事が脳裏をよぎって親父たちの言葉は本音だという事は理解したけど。
「当面はアパートの学生さん達の親代わりだから。
新しい仕事が恋人で学生さん達が我が子だな」
「それー、余計結婚から遠ざかるワードw」
なんて玲は楽しそうに笑うのを見て
「では、朝から突然お邪魔してすみませんでした」
「こちらこそ忙しい時にありがとうございます」
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