緑風荘へようこそ

雪那 由多

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春になって心機一転するかどうかはまた別の話し 2

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「しのさ~ん、バイト行ってきます!」
「しのさ~ん、夜は遅くなるので会えなくて残念です。今度は泊まりに来てください!」
「しのさ~ん、記念にハグ!」
「はい、ハグ~」

 なんて瑞己がしのさんにハグをねだってそれを普通に返すしのさん。あしらい方が素敵すぎて仕掛けた瑞己の方がこうじゃないって言う顔が笑えて仕方がなかった。
「って言うかお前ら遊んでると電車の時間に遅れるぞ」
 なんて注意を促すも三人ともしれっとした顔で
「大丈夫です。朝ご飯を食べる時間を計算していたけどしのさんが朝から来てくれたおかげで超余裕です!」
「って言うか相変わらず朝早いですね!」
 なんて陽人と颯也も言うか
「朝早い方が暑くならなくて仕事もはかどるからね」
 なんてのほほんと笑うしのさんに俺を始め瑞己たちも癒されていた。

 だけど騙されてはいけないこのしのさん。

 最寄り駅の始発に乗ってきて、まだみんな寝ている状況なのに、窓を外して家の中に乗り込んで俺を叩き起こすと言う目覚め。
 そして一言。

「前にも言ったけどこれだから防犯しっかりしなきゃだめだよ?」

 これ以上恐ろしい寝起きがある物だろうかと考えながらもわけがわからず布団のすみっこを抱えながら無条件で頷いていた。
 そりゃ確かに古い家だからクレセント型ではなくねじ式だったからこうやって突破される……
 いやいや、ちょっと待て。こんな突破の仕方ならクレセント型でも関係なくない?なんて思ってしいまえば
「窓ガラス割れたらいみないからね。
 外からの侵入を防ぐなら人が入れない幅の窓がいいけど、逆に家から脱出する方法も無くなるって意味だから、とりあえず面格子を付けるのが一番だけど、この家には似合わないからね」
 なんてこの古い家を愛おしそうに目を細めるしのさん。
 まったくもって寝起きの頭では一切何言ってるかわからなくってうんうんと頷くしかない俺。
「まあ、今日は学生さんの部屋だけの予定だから勘弁しておくね?」
「はい。前にも言われた防犯の事、ちゃんと考えておきます」
「絶対だよ。一応会社の社長のご子息って言う立場なんだから。
 いくらニートでもさ」
「すみません。ちゃんと就活します。
 むしろ今アパート経営と言う管理人と言う職にもついてますし、親父のアホが死ぬほど仕事を回してきますのでどうかホワイト企業に紹介してください」
「ごめん。
 俺が知ってる職場ってどれもブラックだから紹介できないよ」
 なんて朝にふさわしい清々しい笑顔でさらりと言われてしまった。
 いや、全然内容が清々しくもないし笑顔で言う事でもないんだけど?! そんな目覚めを体験して寝ぼけている俺を他所に冷蔵庫を漁って

「ご飯勝手に作るね?
 寮の子たちにも作るけど……」
「あー、今三人しかいないから」
「了解。とりあえず10人分作れば間違いないね」

 何人分ですとお?!

 慌てて目を覚ますも卵のパック丸々一つ分をすべて割って溶き始めていた。
 その頃にはフライパンを熱してバターを溶かし、別のフライパンでほうれん草とコーンのバター炒めをいつの間にか用意する手際の良さ。さらにフライパンに流した卵液にほうれん草とコーンのバター炒めを放り込んでトントントンとわずか数回で包むバターの甘みを感じるオムレツ、最っ高……
 もちろんその間にも一生懸命働いている三口コンロの残り1つは小さくてもコトコトと野菜スープが作られている。
 ああ、どれもこれも俺の好きな物ばかり。
 窓から侵入するという暴挙をしでかしてくれるしのさんだけど、もうすぐご飯だからと一番おいしい出来立てを食べるために俺を起こしてくれる意味は、たぶんニートから脱却して家まで出てきた俺のお祝いではなく心配してくれたものだろう。
 こうやって甘やかしてくれるからしのさん。
 お母さんと呼んでもいいですか?なんて聞いたら

「お母さんじゃないから区別するためにも料金でも取ろうかな?」
「ごめんなさい。調子乗りました」

 いくら朝は自分でご飯ぐらい食べなさいと母さんに二度手間取らすんじゃないよと言われてきたけど、お昼と晩御飯はついでで作ってもらえるありがたさ。
 本当にありがたいと身に染みている所での篠さんのこの甘やかし。
 しかもトマトソースまで手作りってもう嫁にするしかないだろ。まあ、しのさんなら俺みたいな甲斐性なしはお断りと気にも留めずに言うのだろうけど。
 まあ、おかげで馬鹿なこと言って笑ってられるのだけどね。

 そんな俺の今日のありえない日常がスタートしたのだがこのしのさん、ご飯はもちろんこのごはんをみんなに食べさせる間に掃除、洗濯を済ませる主婦っぷり。そして俺に洗濯物を干せと言う鬼嫁ぶり。
しのさんに言われないと動けに俺の堕落ぶりにかなり反省。



「じゃあしのさん、今度一緒に飲み会しましょう!」
「その時はお泊りでお願いします!」
「事前に言ってくれればバイトはセーブするので連絡くださいね!」

 なんて一方的な約束を取り付ける。
 だけどそこはしのさん。それぐらいの約束も
「じゃあ思いっきり美味しいものごちそうしてもらおうかな?
「ごめんなさい。バイトとお勉強を一生懸命するのでたまには一緒にご飯食べましょう」
 そんな妥協案に
「はい判りました」
 そんな約束でも無事交わすことが出来ればさっさとバイトに行く三人組。
 寧ろ他に何を要求させられるのかと危険を察知して逃げて行った三人組の本日のバイトはコンサートの設置。朝から頑張り給えと応援をしていれば

「じゃあ、さっそくだけどそろそろ修繕を始めようか」
 
 休憩と言う言葉を知らないのかさっさと仕事をしようとするしのさん。
 働きすぎだぞと注意したくても本人はいたって楽しそうで……

「午前中に済ませて午後は庭の花壇いじってもいい?」
「雑草しか育ってないのも気にならなければ」

 そうして張り切りだすしのさんはこれこそ休日の過ごし方だと喜ぶその背中に俺は何を手伝えばいいのだろうかとまずはそこから悩むのだった。



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