【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝

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第三章:【リメルトリア共和国】の危機編

第51話:フィリアとメフィストの国の話

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 ダルバート王国の【勇者】として仕事をしていた私の前に謎の二人組が現れた。
 二人の名はメフィスト=フェレスとフィリア=ノーティス。
 【最上位の悪魔】と【先代魔王の娘】らしい。
 二人は私に頼み事があるとのことだった。

「はぁ、フィリアさんは【魔界】に住んでいるのですね。【魔界】にも国ってあるんだ」
 私は【魔界】にある国を救ってほしいと雲を掴むような話を聞かされて、意外そうな声を上げてしまった。
 バルバトスの館ぐらいしか行ったことなかったし、あの殺伐とした空間に国があるようには見えなかった。

「ええ、魔界にも幾つか国があるわ。悪魔や魔族の力の強いものが暴力で支配している地獄みたいな国がね。でもあたしが作った国は少し違うわ。魔族も人間も天使も悪魔もエルフもドワーフもどんな種族でも行き場が無くなった者たちがいる。そんな、はぐれ者達が平穏に暮らしていけるような国を作ったのよ」
 フィリアはさらりと壮大な話をした。
 えっと今、国を作ったって言いましたか?
 なおさら、雲を掴むような話なんだけど……。

「オレも姐さんに拾われた口だぜ。まっ、悪魔ってのは野心や暴力性がなけりゃ変人扱いだからねぇ。オレらみたいにのんびり生きていきたい悪魔達は、【魔界貴族】みたいな奴らにゃ特に嫌われちまってたのさ。だからよぉ、ルシアの姐さんがベルゼのジジィを殺ったって聞いたときは胸がスカッとしたねぇ」
 メフィストは私の肩を叩きながら言った。
 ふーん、悪魔にもそんな者達が居たのか、世の中広いなぁ。

「まぁ、あたしがそもそもエルフの里の追放者っていうのもあって似たような連中を集めたらいつの間にか大所帯になっちゃったのよ。地上には流石に腰を落ち着かせるような土地があまりなかったし、コイツみたいな悪魔がいるだけで大騒ぎになるでしょ。だから、思い切って【魔界】に移住して国を作ってみたの。ルールを作って、外からのちょっかいをあしらう事が出来れば、治安もそんなに悪くならなかったわ」
 フィリアは国を作った経緯を話した。
 何百年かかったんだそれ……。私は感嘆した。

「国のことはわかりました。いや、なんて言ったら良いか……。すごい話すぎて、驚いてます。それで、その国が今ピンチだということですね。何が起こったのですか? 【魔界貴族】みたいな悪魔や【魔王軍】が攻めてきたとかですかね?」
 私は段々とフィリアの話に興味が出てきた。
 知らない世界の話というのは実に興味深い。とてつもない人物に出会ったのかもしれない……。

「いいえ、【魔界貴族】は先日の地上での戦いでほとんどの戦力を失って壊滅状態。それ以前に奴らは現金な連中だったから、ちっぽけな領土の為にわざわざ大きな戦力を投入することは無かったわ。あと【魔王】とあたしは一応義兄妹だから不可侵条約を200年以上前に結ぶことが出来たのよ。そのおかげで、さっきも言ったけど外からは本当にちょっかいで済むくらいの干渉しか無かったわ」
 フィリアは説明を続けた。
 外からの驚異はほとんどなかったのか、ということは内側というわけか……。

「その通りよ。察しが良くて説明が楽だわ。簡単に言うと、クーデターが起きたのよ。野心を隠していた連中が手を組んだの。もちろん、そういう連中が出ないように気を配っていたんだけど、【あいつ】には一杯食わされたわ。裏切り者達の目的は【魔界貴族】が力を失ったこの機を狙って【魔界】の中での勢力の拡大。情けない話、あたしは自分の作った国の防衛システムに歯が立たずにコイツと一緒に死にそうになりながら逃げてきたの」
 フィリアは自嘲気味に笑いながら説明した。
 クーデターか、あまり馴染みがない言葉だが意味はわかる。だが、防衛システムってなんだ?

「ルシアの姐さんが分からないのも無理はねぇよ。こっちの姐さんは【魔王】やあんたみてぇな戦闘の才能はあまりねぇけど頭の中の方が天才でね。天才的な頭脳を存分に活かした発明が趣味なんだぜ。そんで、目新しいカラクリを次から次へと作ってよぉ、最終的に命を持ったカラクリまで作っちまったんだ。まぁこれが厄介の原因になったんだけど……。とにかくオレらの国、【リメルトリア共和国】は姐さんの想像する2000年後の世界を創造した国なんだ」
 メフィストが今度はフィリアに変わって説明をした。
 発明品……、2000年後の世界……、よくわからないが文明のレベルがとてつもなく高いということか?

「そうね、そのぐらいの認識で十分よ。例えばあたしの武器である銀装飾銃(ミラージュクイーン)も発明品の一つ。この引き金を引くと圧縮された魔力の塊が放出される仕掛けなの。エネルギーパックの中の魔力が切れるまで、撃ち続けることが可能だわ。あー、エネルギーパックっていうのは魔力を溜めておける燃料容器のことよ」
 フィリアの武器の説明だけで私の頭は爆発寸前だった。
 私は鍛冶屋として武器作りが趣味だった時期もあるから多少の知識はあったがこの武器の構造は理解不能過ぎた。
 いかん、このままだと日が暮れる……。

「あっあの、ちょっと私の理解を超えているのでざっくりとした話をしてくれませんか?」
 とりあえず、フィリアに要点だけを教えてもらうことにした。

「ごめんなさい、国の人も理解していないようなことを話しても意味がなかったわね。要するにあたしが作った物凄く強い【ガーディアン】という用心棒が、裏切り者に奪われて、向こう側に寝返っちゃったの。そのうえ、ほとんどの国民は国内に閉じ込められて人質状態という最悪の状況よ」
 フィリア達の国は絶体絶命の状況のようだ。
 仲間だと思ってた人間に裏切りられた上にそんな酷いことを……。

「裏切り者の連中は【ガーディアン】を使って【魔王軍】や他の勢力に喧嘩を売るつもりでいるわ。そうなったら間違いなく国は終わる。幸いなのは【ガーディアン】を自由に国外で動かすためには、特殊な【指輪】が必要なんだけど、その【指輪】はメフィストがこっそり持ち出してくれたの。おかげで外に喧嘩を売ることはまだ出来ないわ。だから裏切り者達は人質の無事と引き換えに【指輪】を要求してるの。期限はあと5日間……」
 フィリアは噛み砕いて説明してくれた。
 それは、大変そうだな。フィリアやメフィストも相当強そうに見えるのに殺されかけるぐらい強いなら驚異だろう。
 国の人間を守るためにわざわざ私を頼って……。いや待てよ……。

「大体の事情はわかったのですが、そもそも私のことってどうやって知ったのですか? なぜ私にわざわざ頼み事をしに来られたのでしょうか?」
 私はそもそも最初に聞くべきことを忘れていた。

「ああ、失礼したわね。あたし達が貴女のことをよく知っているのは変よね……。でもそれは簡単に納得してもらえると思うわ。コレを見て頂戴」
 フィリアは私に透明な板状の物を見せてきた。
 これは、【天界】が各国に設置している巨大水晶に似ている。
 
 透明な板に私の姿とベルゼブブの姿が映し出された。
 私がベルゼブブを吹き飛ばしている。
 あれっこれは2ヶ月前のベルゼブブとの戦いの様子ってこと?

『魔刃闇烏!』
『ギャァァァ!』
『中級無属性消滅魔法!』

 私がベルゼブブを倒した一部始終が透明の板に映し出されていた。
 なっなんだ、これは……。
 こんなものまで発明しているのかこの人は……。

「この板の説明は省くわよ長くなるから……。地上で【魔界貴族】が暴れだしたと聞いたから情報収集をしていたのよ。そして、あたしのエロ親父の技を使っている奇妙な人間があの【ベルゼブブ大公】を倒した映像が手に入った。あたし達は貴女に非常に興味を持ったのよ」
 フィリアは私にまだ透明な板を見せていた。

『甘ーい、アップルパイだーいすき。むしゃむしゃ』
 こっこれは、ボルメルン帝国から帰ってすぐにラミアとグレイスにアップルパイを作ってもらったときの……。
 なんて締まりのない顔をしているんだ私は……。

『へい! この薬は本物でさぁ、もう一週間後にはボインボインですぜ』
 うへぇ、怪しい薬売りから胸がデカくなるっていう怪しすぎる薬を買うか本気で悩んでいるところを……。

『――チュッ えへっ、ご馳走さまですの』

「…………」

 ぎゃぁぁぁぁあ!
 この前のラミアとの……。何、この人たち魔界から私をイジメに来たの?

「あっ、もう一度みたいですの」
「やりますね、ラミア先輩……」
 げっ、ラミアにグレイス……。お前ら離れろって言ったろ。

「あら、待たせ過ぎちゃったかしら。悪いわね」
 フィリアは特に気にしていなかった。

「なんだ、もう一回見たいんか? お安い御用だぜっ」
 メフィストは透明な板に指で触れた。

『――チュッ えへっご馳走さまですの』
 
「…………」
 ぎゃぁぁぁぁあ!

 バカじゃねーの。なんでもう一回映し出したの?
 絶対に悪意あるじゃん、何しに来たんだお前ら!

「とまぁ、こんな感じで貴女のことを調べたのよ。理解してくれたかしら」
 フィリアは涼しい顔をしてそう言った。
 理解しましたが、あんたらのことが少し嫌いになりました……。

 とりあえず、フィリアというハーフエルフはすごい【発明家】だということはわかった。
 でも、今ので助けようと思う心が少しだけ冷めてしまった。はぁ、どうしようかなー。
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