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第十話
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「本当に来るのですか?」
「ええ、もちろんですわ。わたくし、これまでマルサス様にこれっぽっちも興味が無かったのですが、今回の件で逆に興味を惹かれるようになりました」
「……あなたって子は物好きにも程がありますよ」
マルサス様が謝罪したいという連絡を聞いて、シェリアは「面白そう」と目を輝かせて一緒に行きたいと言い出しました。
私にはこの子の考えていることがありません。
マルサス様の謝罪など見て何が面白いのでしょうか……。
「ここ来てみたかったお店ですわ。50年間、ラテアートの修行を積んだマスターが淹れるコーヒーが有名でして――」
「あなたはそういうことばかり詳しいですね……」
王都の中央通りにある、お店で私たちはマルサス様を待ちます。
普通は謝罪する側が早く来るものだと思いますが……。
それにマルサス様はどうしてこんなにも人通りの多いオープンカフェを謝罪場所に選んだのでしょう。
普通は個室を取るか、家に呼ぶか、どちらかだと思うのですが……。
シェリアではありませんが、私も嫌な予感がしてきました。
「やぁ、待たせたね。君は、えっとルティアの妹の……」
「はい。シェリア・アルディスですわ。わたくしのことはどうかお気になさらずに」
ようやくやって来たマルサス様に挨拶するシェリア。
いや、普通は気にするでしょう。マルサス様も首を傾げましたが、着席して飲み物を頼みました。
「まぁ、いいか。シェリアちゃんが居ても。……もう少し時間はあるな」
「ありがとうございます~。本当に空気になりますから、お気になさらずに~」
マルサス様はしばらくして妹の同席を認めました。
それにしても、先程から時間を何度も確かめていますが、何かこのあと予定があるのでしょうか。
「あのう、マルサス様。改めて謝罪をなさりたいと仰って頂きましたが、そんなに思いつめなくても結構ですよ。私は――」
「……おいおい、あそこのペンキ塗りの少年、どうしたんだろう? 何か固まってるみたいだぞ」
「あー、本当ですね。なんで動かないんでしょう?」
「その隣の果物売りの少年も、果物を盗んだ泥棒も、みんな動きが止まっているぞ。あー、不思議だなぁ!」
マルサス様が大きな声で通りを見ると、歩いていた人や商売をしていた人が一斉に動きを停止していました。
ええーっと、これはどんな状況なのでしょう。
「んっ? この曲は舞台シャンデリットのテーマだ……。不思議だなぁ!」
「「――っ!?」」
急に店内にいた方々がオーケストラの如く演奏を開始して、私は心臓が止まりそうになるくらいびっくりします。
えっ? えっ? えっ? 一体、何が起こっているのですか?
そんなことを思っていますと馬車が走ってきて、停止して中からバレリーナの少女たちがダンスを始めました。
これって、聞いたことありますが、フラッシュモブというものですか? 誰が誰のために行っているのか存じませんが……。
バレリーナに触れられた通行人たちは様々なダンスを披露します。
ブレイクダンスやタップダンス、とんでもない練習量が見え隠れする非常に達者な踊りです。
「あー、ルティア。僕も何だか引っ張られるみたいだ――」
よく分かりませんが、突然に立ち上がったマルサス様はムーンウォークでダンスを踊っている人たちに混ざります。
も、もしかして、マルサス様がフラッシュモブを? 一体、何のために――!?
「ええ、もちろんですわ。わたくし、これまでマルサス様にこれっぽっちも興味が無かったのですが、今回の件で逆に興味を惹かれるようになりました」
「……あなたって子は物好きにも程がありますよ」
マルサス様が謝罪したいという連絡を聞いて、シェリアは「面白そう」と目を輝かせて一緒に行きたいと言い出しました。
私にはこの子の考えていることがありません。
マルサス様の謝罪など見て何が面白いのでしょうか……。
「ここ来てみたかったお店ですわ。50年間、ラテアートの修行を積んだマスターが淹れるコーヒーが有名でして――」
「あなたはそういうことばかり詳しいですね……」
王都の中央通りにある、お店で私たちはマルサス様を待ちます。
普通は謝罪する側が早く来るものだと思いますが……。
それにマルサス様はどうしてこんなにも人通りの多いオープンカフェを謝罪場所に選んだのでしょう。
普通は個室を取るか、家に呼ぶか、どちらかだと思うのですが……。
シェリアではありませんが、私も嫌な予感がしてきました。
「やぁ、待たせたね。君は、えっとルティアの妹の……」
「はい。シェリア・アルディスですわ。わたくしのことはどうかお気になさらずに」
ようやくやって来たマルサス様に挨拶するシェリア。
いや、普通は気にするでしょう。マルサス様も首を傾げましたが、着席して飲み物を頼みました。
「まぁ、いいか。シェリアちゃんが居ても。……もう少し時間はあるな」
「ありがとうございます~。本当に空気になりますから、お気になさらずに~」
マルサス様はしばらくして妹の同席を認めました。
それにしても、先程から時間を何度も確かめていますが、何かこのあと予定があるのでしょうか。
「あのう、マルサス様。改めて謝罪をなさりたいと仰って頂きましたが、そんなに思いつめなくても結構ですよ。私は――」
「……おいおい、あそこのペンキ塗りの少年、どうしたんだろう? 何か固まってるみたいだぞ」
「あー、本当ですね。なんで動かないんでしょう?」
「その隣の果物売りの少年も、果物を盗んだ泥棒も、みんな動きが止まっているぞ。あー、不思議だなぁ!」
マルサス様が大きな声で通りを見ると、歩いていた人や商売をしていた人が一斉に動きを停止していました。
ええーっと、これはどんな状況なのでしょう。
「んっ? この曲は舞台シャンデリットのテーマだ……。不思議だなぁ!」
「「――っ!?」」
急に店内にいた方々がオーケストラの如く演奏を開始して、私は心臓が止まりそうになるくらいびっくりします。
えっ? えっ? えっ? 一体、何が起こっているのですか?
そんなことを思っていますと馬車が走ってきて、停止して中からバレリーナの少女たちがダンスを始めました。
これって、聞いたことありますが、フラッシュモブというものですか? 誰が誰のために行っているのか存じませんが……。
バレリーナに触れられた通行人たちは様々なダンスを披露します。
ブレイクダンスやタップダンス、とんでもない練習量が見え隠れする非常に達者な踊りです。
「あー、ルティア。僕も何だか引っ張られるみたいだ――」
よく分かりませんが、突然に立ち上がったマルサス様はムーンウォークでダンスを踊っている人たちに混ざります。
も、もしかして、マルサス様がフラッシュモブを? 一体、何のために――!?
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