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宮廷ギルド その2
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「すまない、ルシリア。俺はこれからちょっとやることがあってな。あとはロイドに任せるから、分からないことがあったらあいつに何でも聞いてくれ」
「おやおや、殿下はもう帰っちゃうんですか~? ルシリアさんの面倒は承知しましたが、正義感に任せて国際問題は勘弁してくださいよ。ただでさえ忙しいのに、仕事がまた増えると殿下のこと恨みますからねぇ」
「心配無用だ。そうならぬように下準備するさ」
何やら不穏な言動も聞こえたけど、アークハルト殿下は私を置いて、この執務室から出ていった。
国際問題って、もしかして私のことでアーメルツ王国に抗議するとか?
そんなことをすれば、国を上げてエキドナを守ろうとする動きになるだろう。私を差し出せと要求するかもしれない。
私一人の犠牲で済むならまだしも、エルガイア王国が被害を受けるなら、避ける方向にして欲しいわ。殿下はそうはならないように動くと言っているみたいだけど……。
「さて、改めて自己紹介しましょうか。僕の名前はロイド・オルティス。これから特務隊長としてルシリアさんには先輩風を吹かせますが、嫌がらないでくださいね? 僕ァ嫌われるのが嫌いなので」
「は、はい。ルシリア・フォン・ローエルシュタインです。ロイドさん、よろしくお願いします」
「ローエルシュタイン? じゃあ君はあのエキドナさんの……」
やっぱり気になるわよね。
ローエルシュタインの名前を隠す気はなかったけど……。
「そうです。エキドナは私の妹です。それで、そのう」
「ああ、結構ですよ~。僕ァ部下のプライベートは尊重するんで。そっちの面倒事は殿下がご存じでしょうし」
面倒って言っちゃってるじゃない。
でも、詮索しないというのは意外だったわ。
眼光が鋭いから怖い方だと思っていたけど、実は優しい人なのかしら。
まぁ、忙しいそうだから、仕事を増やしたくないだけかもしれないけど。
「宮廷付特務隊の仕事は主に三つ。まず一つは単純に王宮の警護や王族などの要人の護衛、場合によってはその範囲は王都など主要都市に広がることもあります。我々の仕事の五割以上はこれです。二つめ、単純な武力としての助っ人。地方などで手に負えないとされる強力な魔物が出現すればそれを討伐するのも我々の役割です。割合で言えば一割ってとこですね」
話はさっそく、特務隊の仕事へと移る。
なるほど、主にはこの王宮や王都を守ったり、アークハルト殿下のような王族を守ったり、守護神のような役割を果たせば良いのね。
魔物の数が増えているから、武力的な助っ人としての業務もあるみたいだけど。
「まぁこの二つは戦力が必要という面で見れば同じようなもんです。そして、残りの三割~四割、最後の三つめは――」
「…………」
「その他です!」
「…………」
ここって、笑うところなのかしら? その他ってそんなざっくりとした話ってないわよね。
ロイドさんって飄々としたような言い回しをする方だし、冗談が好きなのかもしれないわ。
「ええーっと、それって三つではないのではありませんか」
「ルシリアさんは真顔で返すタイプっと……。……そうですね。ただ、本当にその他なんですよ。こっちに回ってくる仕事の最後の一つは王族からの極秘依頼の遂行です」
なんか私のことメモしている? 反応とかメモして意味があるのかしら……。
何だか掴みどころのない人ね……。
それにしても、王族からの極秘依頼か。うーん、全然想像がつかないけれど。
それは確かにその他と言える内容かもしれないわね。
「ちょうど副隊長のフレメアさんも極秘依頼に駆り出されていましてね。これが今日中に依頼を解決しなければ、あわや国際問題に発展という重大な話なんですけど」
「フレメアさん? エルガイアのフレメアといえば、あの神速の槍の使い手と有名な……」
「あー、それです。神速の槍のフレメア・エルロット。今回の極秘依頼はそんな彼女でないと果たせない仕事なんです」
ロイドさんの名前は知らなかったけど、フレメアさんの名前は聞いたことがあるわ。
女ながらにして、神速と呼ばれるほどの槍捌きと機敏な動きで数々の武勲を立てたという逸話はアーメルツ王国にも届いていたから……。
そんな彼女でないと果たせない仕事って一体何なの? しかも国際問題ってさっきの話じゃないけど、結構な大事なんじゃないの?
いくらフレメアさんが実力者だからって、一人に任せて良い話なのかしら……。
「……ロイド、言われたとおりの猫連れてきた」
「ミャー、ミャー」
「さすがはフレメアさん。仕事が早い」
「ね、猫……?」
「ミュー! ミュ、ミュー!」
燃えるような赤い髪をした女性がいつの間にか私の隣に静かに立っていた。そう、小さな白い子猫を抱えて。
猫の鳴き声に反応して、マルルは私の頭の上によじ登り威嚇したような声を出す。
えっと、彼女がフレメアさん? 依頼ってまさか猫探しだったの……? だって、王族からの極秘依頼だって言っていたじゃない。
「あ、あのう。極秘依頼って、猫を探すことだったんですか?」
「ええ、そうですよ。先日、まだ幼い第三王女、メリアリア殿下がご友人のジゼルタ皇国の皇女殿下のペットの子猫を借り受けましてね~。それが昨日、行方不明になってしまったんですよ」
「猫が、行方不明……。それがなぜ極秘依頼に?」
「皇女が愛して止まない子猫ですよ。何かあったとジゼルタに知れれば大変。外交問題は必至です。それゆえ、迅速にかつ秘密裏に処理しなくてはならない。この案件は極秘依頼として特務隊に回ってきたというわけです」
そんなの借りちゃダメでしょ。なんで、一国の王女と皇女がペットの貸し借りなんて行っているのよ。
そこのところの倫理観はともかくとして、友好関係にある国の皇族のペットを失えば国際問題になるのは確かにそうかもしれないわね。
「しかし、フレメアさんほどの人が猫探しなんて……」
「フレメアさんだからこそ、ですよ。静かに……、野生の獣並に気配を消して、音よりも速く動ける彼女がこの依頼に適任だったのです」
それはそうかもしれないけど。
猫探しとか、そんな依頼もこなさなくてはならないなんて。思った以上に多様なバリエーションの仕事があるみたいね。
とはいえ、私なんか仕事があるだけありがたいと考えなきゃならないわ。そうよ、文句なんて言える立場じゃない。
「ロイド、ところでこの人は誰?」
「ルシリアさんです。今日から特務隊に入った新人さんですよ」
「そう……、よろしく。あたしはフレメア」
「ルシリアです。よろしくお願いします」
どこか眠たげな琥珀色の瞳をこちらに向けて、フレメアさんは私に手を差し出したので私はそれを握る。
大人しいタイプの人だけど、良さそうな人に見えるわ。こうやって、握手を求めてくれたし……。
「では、握手もしたところで、お二人に極秘依頼をお願いしましょう。フレメアさんは新人教育も兼ねて、ルシリアさんに色々と教えてあげてください」
「「――っ!?」」
さ、最初の仕事……? しかも、極秘依頼って……。
私はロイドさんの言葉に息を呑んだ。
何をするんだろう。猫探しとか変な依頼もあるって分かったからこそ、逆に想像がつかないわ。
でも、新人の私にフレメアさんが教えるって形みたいだし、最初の仕事にあまり変わったのは――。
「お二人にお願いする極秘依頼は第二王女、アリシア殿下の婚約者。ルミリオン公爵家の嫡男、レイナード・フォン・ルミリオンの浮気調査です」
……前言撤回。思いっきり変な依頼だったわ。
公爵令息、レイナード・フォン・ルミリオン。
第二王女、アリシア殿下の婚約者の浮気調査が私のこの国で行う最初の仕事だった……。
「おやおや、殿下はもう帰っちゃうんですか~? ルシリアさんの面倒は承知しましたが、正義感に任せて国際問題は勘弁してくださいよ。ただでさえ忙しいのに、仕事がまた増えると殿下のこと恨みますからねぇ」
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何やら不穏な言動も聞こえたけど、アークハルト殿下は私を置いて、この執務室から出ていった。
国際問題って、もしかして私のことでアーメルツ王国に抗議するとか?
そんなことをすれば、国を上げてエキドナを守ろうとする動きになるだろう。私を差し出せと要求するかもしれない。
私一人の犠牲で済むならまだしも、エルガイア王国が被害を受けるなら、避ける方向にして欲しいわ。殿下はそうはならないように動くと言っているみたいだけど……。
「さて、改めて自己紹介しましょうか。僕の名前はロイド・オルティス。これから特務隊長としてルシリアさんには先輩風を吹かせますが、嫌がらないでくださいね? 僕ァ嫌われるのが嫌いなので」
「は、はい。ルシリア・フォン・ローエルシュタインです。ロイドさん、よろしくお願いします」
「ローエルシュタイン? じゃあ君はあのエキドナさんの……」
やっぱり気になるわよね。
ローエルシュタインの名前を隠す気はなかったけど……。
「そうです。エキドナは私の妹です。それで、そのう」
「ああ、結構ですよ~。僕ァ部下のプライベートは尊重するんで。そっちの面倒事は殿下がご存じでしょうし」
面倒って言っちゃってるじゃない。
でも、詮索しないというのは意外だったわ。
眼光が鋭いから怖い方だと思っていたけど、実は優しい人なのかしら。
まぁ、忙しいそうだから、仕事を増やしたくないだけかもしれないけど。
「宮廷付特務隊の仕事は主に三つ。まず一つは単純に王宮の警護や王族などの要人の護衛、場合によってはその範囲は王都など主要都市に広がることもあります。我々の仕事の五割以上はこれです。二つめ、単純な武力としての助っ人。地方などで手に負えないとされる強力な魔物が出現すればそれを討伐するのも我々の役割です。割合で言えば一割ってとこですね」
話はさっそく、特務隊の仕事へと移る。
なるほど、主にはこの王宮や王都を守ったり、アークハルト殿下のような王族を守ったり、守護神のような役割を果たせば良いのね。
魔物の数が増えているから、武力的な助っ人としての業務もあるみたいだけど。
「まぁこの二つは戦力が必要という面で見れば同じようなもんです。そして、残りの三割~四割、最後の三つめは――」
「…………」
「その他です!」
「…………」
ここって、笑うところなのかしら? その他ってそんなざっくりとした話ってないわよね。
ロイドさんって飄々としたような言い回しをする方だし、冗談が好きなのかもしれないわ。
「ええーっと、それって三つではないのではありませんか」
「ルシリアさんは真顔で返すタイプっと……。……そうですね。ただ、本当にその他なんですよ。こっちに回ってくる仕事の最後の一つは王族からの極秘依頼の遂行です」
なんか私のことメモしている? 反応とかメモして意味があるのかしら……。
何だか掴みどころのない人ね……。
それにしても、王族からの極秘依頼か。うーん、全然想像がつかないけれど。
それは確かにその他と言える内容かもしれないわね。
「ちょうど副隊長のフレメアさんも極秘依頼に駆り出されていましてね。これが今日中に依頼を解決しなければ、あわや国際問題に発展という重大な話なんですけど」
「フレメアさん? エルガイアのフレメアといえば、あの神速の槍の使い手と有名な……」
「あー、それです。神速の槍のフレメア・エルロット。今回の極秘依頼はそんな彼女でないと果たせない仕事なんです」
ロイドさんの名前は知らなかったけど、フレメアさんの名前は聞いたことがあるわ。
女ながらにして、神速と呼ばれるほどの槍捌きと機敏な動きで数々の武勲を立てたという逸話はアーメルツ王国にも届いていたから……。
そんな彼女でないと果たせない仕事って一体何なの? しかも国際問題ってさっきの話じゃないけど、結構な大事なんじゃないの?
いくらフレメアさんが実力者だからって、一人に任せて良い話なのかしら……。
「……ロイド、言われたとおりの猫連れてきた」
「ミャー、ミャー」
「さすがはフレメアさん。仕事が早い」
「ね、猫……?」
「ミュー! ミュ、ミュー!」
燃えるような赤い髪をした女性がいつの間にか私の隣に静かに立っていた。そう、小さな白い子猫を抱えて。
猫の鳴き声に反応して、マルルは私の頭の上によじ登り威嚇したような声を出す。
えっと、彼女がフレメアさん? 依頼ってまさか猫探しだったの……? だって、王族からの極秘依頼だって言っていたじゃない。
「あ、あのう。極秘依頼って、猫を探すことだったんですか?」
「ええ、そうですよ。先日、まだ幼い第三王女、メリアリア殿下がご友人のジゼルタ皇国の皇女殿下のペットの子猫を借り受けましてね~。それが昨日、行方不明になってしまったんですよ」
「猫が、行方不明……。それがなぜ極秘依頼に?」
「皇女が愛して止まない子猫ですよ。何かあったとジゼルタに知れれば大変。外交問題は必至です。それゆえ、迅速にかつ秘密裏に処理しなくてはならない。この案件は極秘依頼として特務隊に回ってきたというわけです」
そんなの借りちゃダメでしょ。なんで、一国の王女と皇女がペットの貸し借りなんて行っているのよ。
そこのところの倫理観はともかくとして、友好関係にある国の皇族のペットを失えば国際問題になるのは確かにそうかもしれないわね。
「しかし、フレメアさんほどの人が猫探しなんて……」
「フレメアさんだからこそ、ですよ。静かに……、野生の獣並に気配を消して、音よりも速く動ける彼女がこの依頼に適任だったのです」
それはそうかもしれないけど。
猫探しとか、そんな依頼もこなさなくてはならないなんて。思った以上に多様なバリエーションの仕事があるみたいね。
とはいえ、私なんか仕事があるだけありがたいと考えなきゃならないわ。そうよ、文句なんて言える立場じゃない。
「ロイド、ところでこの人は誰?」
「ルシリアさんです。今日から特務隊に入った新人さんですよ」
「そう……、よろしく。あたしはフレメア」
「ルシリアです。よろしくお願いします」
どこか眠たげな琥珀色の瞳をこちらに向けて、フレメアさんは私に手を差し出したので私はそれを握る。
大人しいタイプの人だけど、良さそうな人に見えるわ。こうやって、握手を求めてくれたし……。
「では、握手もしたところで、お二人に極秘依頼をお願いしましょう。フレメアさんは新人教育も兼ねて、ルシリアさんに色々と教えてあげてください」
「「――っ!?」」
さ、最初の仕事……? しかも、極秘依頼って……。
私はロイドさんの言葉に息を呑んだ。
何をするんだろう。猫探しとか変な依頼もあるって分かったからこそ、逆に想像がつかないわ。
でも、新人の私にフレメアさんが教えるって形みたいだし、最初の仕事にあまり変わったのは――。
「お二人にお願いする極秘依頼は第二王女、アリシア殿下の婚約者。ルミリオン公爵家の嫡男、レイナード・フォン・ルミリオンの浮気調査です」
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