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複製品《レプリカ》
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「さて、付きましたよ。ここから、船で巨大な瘴気孔のあるポイントへと向かいます」
王都から南に馬車で進んで船着き場に辿り着いた私たち。
ここから船に乗るのか。もしも、沈没なんてしちゃったら……。やめときましょ、縁起でもないわ。
「もし沈没しちゃったら、僕らは全員死んじゃいますから気を付けてくださいねぇ。はっはっは」
「「…………」」
ヘラヘラと笑いながら不謹慎なことをいうロイドさんのせいで周囲の空気が凍りつく。
いや、船に乗る前にそんなこと言ったらダメなんじゃ。
私もそうならないように頑張ろうとは思ったけど。
「隊長~、泳げば何とかなるんじゃないっすか?」
「そういう問題ですか?」
「あー、そういえば。ルシリアさんは飛べるじゃないっすか」
「いえ、飛べるのは十秒くらいですから」
「それじゃダメっすね~」
ヴォルニットさんは間延びした声で、暢気そうなことを言う。
知り合ってまだ日は浅いけど、この人はいつもこんな感じ。
大柄な体でちょっと怖いと感じていたのは最初のうちだけで、今では特務隊のムードメーカーだと思うようになっていた。
「ルシリアくん、ちょっとよろしいかね?」
「あ、はい。どうかしましたか? リッケルさん」
魔道具研究チームのリーダーであるリッケルさんが私に話しかけてきた。
どうしたんだろう? 瘴気孔を塞ぐ魔道具を船に搬入しているのだと思っていたけど。
「これを使ってみんか?」
「こ、これって“神託の杖”……!?」
赤色の魔法石が先端についた銀色の杖。ローエルシュタインの家宝である“神託の杖”とそっくりの造形に私は驚いた。
どういうこと? なんで、ここに“神託の杖”が……!?
「これは複製品。我が研究チームは、伝説の宝具や神具を再現する研究もやっておるのだ」
「れ、レプリカ? これが……」
本物も妹が絶対に私に触らせなかったから、あまりじっくりと見たことないけど、かなり精巧に作られているように見える。
すり替えられても気付かれないかもしれないと思うくらい……。
「“神託の杖”には魔法の効果を増幅される性質があるのは有名だ。このレプリカにも同様の性質がある。本物には劣るかもしれんが、君の力にはなるだろう」
「これ、本当に私が使っても良いんですか?」
「もちろんだ。これから始まるミッションはこの国だけでなく世界中の治安に影響する重大な仕事。君のパワーアップは歓迎すべきことだとは思わんかね?」
そう言われれば、そうかもしれないけど。
この杖をレプリカとはいえ握ることがあるとは思わなかったから、ちょっと抵抗があったのよね。
これで私の魔法の効果がどれほど上がるか分からないけど、みんなを生還させるために活かしてみせるわ。
「それではありがたく使わせて頂きます」
「うむ。光の精霊を懐かせた君には何がある。活躍を期待しとるぞ」
「ルシリアさん、準備出来たって」
「フレメアさん……。今行きます」
レプリカの“神託の杖”を携えて、私は船に乗り込んだ。
光の精霊だと判明したマルルだけど、この先はさすがに危険だから馬車に置いてきている。
不満そうな声を出していたが、こればかりは仕方ない。
ということで、私たち特務隊のメンバーと魔道具研究チームのメンバーは、船に乗り込んで大海原へと向かった。
◆
「そういえば、海の上にも魔物って出るんですね」
「ルシリアさん、何を今さらなことを仰るのですか? むしろ、海上の方が魔物は多いんですよ~」
「そうなんですか? ――っ!?」
「うわぁっ! さっそく大物っす!!」
海のほうが魔物が多いという言葉を聞いた瞬間、ヴォルニットさんが大声を出したので、私はそちらを向く。
大きなイカの足が海面から飛び出して、この船に絡みつこうとしている。
「ほら、さっそく。このように海の中から攻められると割と守るのも大変なんです」
「悠長なこと言わないで、早く仕留めないと――」
「あれくらいヴォルニットさんに任せておけば大丈夫ですよ~」
「行ってきまーっす」
「えっ?」
ヴォルニットさん、船から海に飛び込んだ!?
なんて無茶なことを! だ、大丈夫なの!?
私の心配をよそに、数秒後……。
「知ってるっすか? 遠い東の国ではイカを食うらしいっすよ。美味いんすかね~?」
いや、知らないわよ……。
こんなブニブニしたものを食べる文化とか。
ずぶ濡れで、笑いながら大きなイカの魔物の死体の上に座っているヴォルニットさん。
フレメアさんの身体能力も凄いって思っていたけど、宮廷ギルドで一番の腕力の持ち主って言われている彼はそれ以上だわ。
「今度は空から来た……」
「フレメアさん!?」
上空からこちらに飛来する鋭い爪を持つ巨大な怪鳥が三体。
それをジャンプして目にも止まらぬ槍技で、絶命させる。
頼りになりすぎるってものじゃないわ。こんなに凄い人たちと一緒に仕事が出来るなんて。
自分も負けないようにしなくっちゃ……。
「銀十字の審判……!」
軽くレプリカの“神託の杖”を振って魔法陣を形成すると、いつもの二倍くらいのサイズの巨大な十字架が落下する。
「ギャウウウンッ……!」
船の三倍はある飛竜が強襲してきたが、何とか迎撃出来たわね。
でも、本当にひっきりなしに魔物が出てくるわ。
これって、瘴気孔の近くの海面って結構な地獄絵図なんじゃ……。
「皆さん、素晴らしいですねぇ。この調子でドンドン魔物は増えますが一丸となって頑張りましょう!」
未だに手をまったく出していないロイドさんが拍手で私たちの健闘を称える。
きっと、ロイドさんは力を温存しているのよね。サボっているなんてことは決してないはず。
「隊長サボらないでくれないっすか?」
「いやー、バレちゃいました? はっはっは」
「…………」
この船が落とされないように、それだけを考えよう。
余計なことは考えちゃダメ。
それにしても、この“神託の杖”のレプリカ。私の魔力を二倍近くまで引き上げてくれた……。
魔道具研究チームもとんでもないわ。我が家の家宝をこうも精密に作るなんて……。
王都から南に馬車で進んで船着き場に辿り着いた私たち。
ここから船に乗るのか。もしも、沈没なんてしちゃったら……。やめときましょ、縁起でもないわ。
「もし沈没しちゃったら、僕らは全員死んじゃいますから気を付けてくださいねぇ。はっはっは」
「「…………」」
ヘラヘラと笑いながら不謹慎なことをいうロイドさんのせいで周囲の空気が凍りつく。
いや、船に乗る前にそんなこと言ったらダメなんじゃ。
私もそうならないように頑張ろうとは思ったけど。
「隊長~、泳げば何とかなるんじゃないっすか?」
「そういう問題ですか?」
「あー、そういえば。ルシリアさんは飛べるじゃないっすか」
「いえ、飛べるのは十秒くらいですから」
「それじゃダメっすね~」
ヴォルニットさんは間延びした声で、暢気そうなことを言う。
知り合ってまだ日は浅いけど、この人はいつもこんな感じ。
大柄な体でちょっと怖いと感じていたのは最初のうちだけで、今では特務隊のムードメーカーだと思うようになっていた。
「ルシリアくん、ちょっとよろしいかね?」
「あ、はい。どうかしましたか? リッケルさん」
魔道具研究チームのリーダーであるリッケルさんが私に話しかけてきた。
どうしたんだろう? 瘴気孔を塞ぐ魔道具を船に搬入しているのだと思っていたけど。
「これを使ってみんか?」
「こ、これって“神託の杖”……!?」
赤色の魔法石が先端についた銀色の杖。ローエルシュタインの家宝である“神託の杖”とそっくりの造形に私は驚いた。
どういうこと? なんで、ここに“神託の杖”が……!?
「これは複製品。我が研究チームは、伝説の宝具や神具を再現する研究もやっておるのだ」
「れ、レプリカ? これが……」
本物も妹が絶対に私に触らせなかったから、あまりじっくりと見たことないけど、かなり精巧に作られているように見える。
すり替えられても気付かれないかもしれないと思うくらい……。
「“神託の杖”には魔法の効果を増幅される性質があるのは有名だ。このレプリカにも同様の性質がある。本物には劣るかもしれんが、君の力にはなるだろう」
「これ、本当に私が使っても良いんですか?」
「もちろんだ。これから始まるミッションはこの国だけでなく世界中の治安に影響する重大な仕事。君のパワーアップは歓迎すべきことだとは思わんかね?」
そう言われれば、そうかもしれないけど。
この杖をレプリカとはいえ握ることがあるとは思わなかったから、ちょっと抵抗があったのよね。
これで私の魔法の効果がどれほど上がるか分からないけど、みんなを生還させるために活かしてみせるわ。
「それではありがたく使わせて頂きます」
「うむ。光の精霊を懐かせた君には何がある。活躍を期待しとるぞ」
「ルシリアさん、準備出来たって」
「フレメアさん……。今行きます」
レプリカの“神託の杖”を携えて、私は船に乗り込んだ。
光の精霊だと判明したマルルだけど、この先はさすがに危険だから馬車に置いてきている。
不満そうな声を出していたが、こればかりは仕方ない。
ということで、私たち特務隊のメンバーと魔道具研究チームのメンバーは、船に乗り込んで大海原へと向かった。
◆
「そういえば、海の上にも魔物って出るんですね」
「ルシリアさん、何を今さらなことを仰るのですか? むしろ、海上の方が魔物は多いんですよ~」
「そうなんですか? ――っ!?」
「うわぁっ! さっそく大物っす!!」
海のほうが魔物が多いという言葉を聞いた瞬間、ヴォルニットさんが大声を出したので、私はそちらを向く。
大きなイカの足が海面から飛び出して、この船に絡みつこうとしている。
「ほら、さっそく。このように海の中から攻められると割と守るのも大変なんです」
「悠長なこと言わないで、早く仕留めないと――」
「あれくらいヴォルニットさんに任せておけば大丈夫ですよ~」
「行ってきまーっす」
「えっ?」
ヴォルニットさん、船から海に飛び込んだ!?
なんて無茶なことを! だ、大丈夫なの!?
私の心配をよそに、数秒後……。
「知ってるっすか? 遠い東の国ではイカを食うらしいっすよ。美味いんすかね~?」
いや、知らないわよ……。
こんなブニブニしたものを食べる文化とか。
ずぶ濡れで、笑いながら大きなイカの魔物の死体の上に座っているヴォルニットさん。
フレメアさんの身体能力も凄いって思っていたけど、宮廷ギルドで一番の腕力の持ち主って言われている彼はそれ以上だわ。
「今度は空から来た……」
「フレメアさん!?」
上空からこちらに飛来する鋭い爪を持つ巨大な怪鳥が三体。
それをジャンプして目にも止まらぬ槍技で、絶命させる。
頼りになりすぎるってものじゃないわ。こんなに凄い人たちと一緒に仕事が出来るなんて。
自分も負けないようにしなくっちゃ……。
「銀十字の審判……!」
軽くレプリカの“神託の杖”を振って魔法陣を形成すると、いつもの二倍くらいのサイズの巨大な十字架が落下する。
「ギャウウウンッ……!」
船の三倍はある飛竜が強襲してきたが、何とか迎撃出来たわね。
でも、本当にひっきりなしに魔物が出てくるわ。
これって、瘴気孔の近くの海面って結構な地獄絵図なんじゃ……。
「皆さん、素晴らしいですねぇ。この調子でドンドン魔物は増えますが一丸となって頑張りましょう!」
未だに手をまったく出していないロイドさんが拍手で私たちの健闘を称える。
きっと、ロイドさんは力を温存しているのよね。サボっているなんてことは決してないはず。
「隊長サボらないでくれないっすか?」
「いやー、バレちゃいました? はっはっは」
「…………」
この船が落とされないように、それだけを考えよう。
余計なことは考えちゃダメ。
それにしても、この“神託の杖”のレプリカ。私の魔力を二倍近くまで引き上げてくれた……。
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