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第三話
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その手紙には、伯爵がアメリアの家に来ることが書かれていた。日没前に到着すると書かれた伯爵の、おそらくは代筆人に書かせたであろう優雅な筆跡に、彼女は目を疑った。なぜ今さら、彼女を探し出そうと思ったのだろうか。
彼女が手紙について内容を考えていると、玄関のドアをノックする音がした。ジェイコブが応対しようとしたが、アメリアが手を上げて止めた。アメリアは服を整え、思いがけない訪問者を迎える準備をした。
アメリアがドアを開けると、相変わらずごてごてと着飾った伯爵が立っていた。背後には家紋入りの馬車が待っていた。
伯爵は一礼して言った。
「突然邪魔してすまんな」
アメリアは動転した。
「伯爵様」
「中で話してもいいだろうか」
伯爵は、後ろに控えるジェイコブを意味深な視線でにらんで言った。
アメリアはしぶしぶ伯爵を入れるために身を引いた。彼女が伯爵を応接間に案内すると、そこにはすでにお茶が用意されていた。席に着くなり、伯爵はやけに感情のこもっていない、長い独白を始めた。
「親愛なるアメリア、お前と別れたのは人生最大の過ちだった。お前が去ってから、どんなに裕福で地位があっても、お前の優しさと知恵には代えられないことを悟ったのだ」
彼はアメリアの手を強く握った。
「ヘイゼルとの婚約は解消した。伯爵夫人として私の側にいてほしいのはお前だけだ。私と一緒に戻ってきて、盛大にに結婚式を挙げよう」
アメリアは目を伏せた。かつて彼女が望んだのは、伯爵の妻となり、貴族間の関係を取り持ち、令嬢としての務めを果たすことだった。でも今は違う。アメリアはここの静かな生活を大切にしていた。
そっと手を引き、アメリアはこう答えた。
「伯爵様、お世辞でもうれしいです。でも私は、ここで新しい生活を始めました。ここでの生活が、今の私にとっての宝物なのです」
伯爵の視線は途端に厳しくなった。
「爵位や富や、私たちのこれまでさえも、こんなもののために捨てるというのか?」
彼は質素なコテージを見下すようなジェスチャーをした。
「申し出はありがたいですが、私の答えは変わりません。お引き取り願います」
アメリアは立ち上がった。
伯爵は彼女の手首をつかんだ。
「あまり私を馬鹿にするんじゃない!」
その時、ジェイコブがお茶盆を持って入ってきた。
「失礼ですが、伯爵様。アメリア様のお気持ちははっきりしているので、お帰りください」
ジェイコブの口調は丁寧だったが、その姿勢は毅然としていた。
伯爵は嘲笑った。
「自分の身分を知れ、使用人が」
ジェイコブはトレイを置き、アメリアの傍らに庇うように立った。アメリアは彼の支えに、感謝の気持ちがこみ上げてきた。
「私の忠誠はアメリア様にあります。アメリア様のお気持ちは明確ですから、すぐにお帰りください」
ジェイコブの言葉は丁寧だったが、その姿勢は堅固だった。
アメリアは、自分の中に勇気の灯がともり、身体がぽうっと暖かくなるのを感じた。私の宝物は、ここでの何のわずらわしさもない生活。けれど、それだけじゃないような気がした。もはや目の前でわなわなと震えている伯爵が、どういう事情があってここに現れたのかなど、どうでもよかった。
彼女が手紙について内容を考えていると、玄関のドアをノックする音がした。ジェイコブが応対しようとしたが、アメリアが手を上げて止めた。アメリアは服を整え、思いがけない訪問者を迎える準備をした。
アメリアがドアを開けると、相変わらずごてごてと着飾った伯爵が立っていた。背後には家紋入りの馬車が待っていた。
伯爵は一礼して言った。
「突然邪魔してすまんな」
アメリアは動転した。
「伯爵様」
「中で話してもいいだろうか」
伯爵は、後ろに控えるジェイコブを意味深な視線でにらんで言った。
アメリアはしぶしぶ伯爵を入れるために身を引いた。彼女が伯爵を応接間に案内すると、そこにはすでにお茶が用意されていた。席に着くなり、伯爵はやけに感情のこもっていない、長い独白を始めた。
「親愛なるアメリア、お前と別れたのは人生最大の過ちだった。お前が去ってから、どんなに裕福で地位があっても、お前の優しさと知恵には代えられないことを悟ったのだ」
彼はアメリアの手を強く握った。
「ヘイゼルとの婚約は解消した。伯爵夫人として私の側にいてほしいのはお前だけだ。私と一緒に戻ってきて、盛大にに結婚式を挙げよう」
アメリアは目を伏せた。かつて彼女が望んだのは、伯爵の妻となり、貴族間の関係を取り持ち、令嬢としての務めを果たすことだった。でも今は違う。アメリアはここの静かな生活を大切にしていた。
そっと手を引き、アメリアはこう答えた。
「伯爵様、お世辞でもうれしいです。でも私は、ここで新しい生活を始めました。ここでの生活が、今の私にとっての宝物なのです」
伯爵の視線は途端に厳しくなった。
「爵位や富や、私たちのこれまでさえも、こんなもののために捨てるというのか?」
彼は質素なコテージを見下すようなジェスチャーをした。
「申し出はありがたいですが、私の答えは変わりません。お引き取り願います」
アメリアは立ち上がった。
伯爵は彼女の手首をつかんだ。
「あまり私を馬鹿にするんじゃない!」
その時、ジェイコブがお茶盆を持って入ってきた。
「失礼ですが、伯爵様。アメリア様のお気持ちははっきりしているので、お帰りください」
ジェイコブの口調は丁寧だったが、その姿勢は毅然としていた。
伯爵は嘲笑った。
「自分の身分を知れ、使用人が」
ジェイコブはトレイを置き、アメリアの傍らに庇うように立った。アメリアは彼の支えに、感謝の気持ちがこみ上げてきた。
「私の忠誠はアメリア様にあります。アメリア様のお気持ちは明確ですから、すぐにお帰りください」
ジェイコブの言葉は丁寧だったが、その姿勢は堅固だった。
アメリアは、自分の中に勇気の灯がともり、身体がぽうっと暖かくなるのを感じた。私の宝物は、ここでの何のわずらわしさもない生活。けれど、それだけじゃないような気がした。もはや目の前でわなわなと震えている伯爵が、どういう事情があってここに現れたのかなど、どうでもよかった。
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