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第四章
第一話
しおりを挟む再会してから、俺は当たり前のように紫ノくんと一緒にいる時間が増えた。
被っている授業はほとんどないけど、あったら必ず隣に座って一緒に聴く。そして暇な時間は校内のカフェで時間を潰して、紫ノくんの家に泊まりにいく日が増えた。
紫ノくんの家に、俺のものがどんどん増えていく。申し訳なく思っていたら、紫ノくんは「同じ部屋で暮らしてるみたいで嬉しい」と、そう言ってくれた。俺はその言葉に、また心臓を高鳴らせる。
でも、無視した。俺は、もし紫ノくんに恋をしたって、いつまでたっても黙ったままだろう。
いや、もう恋に落ちているから、怖いのかもしれない。あれだけ愛を伝えられたら、幼いころの恋心に火がつくまでに、時間はかからなかった。
俺の父さんも母さんも、俺がゲイである事は知っている。そして最近、紫ノくんと再会したことも。
母さんも父さんも喜んでいた。
「変わらず、しっかりした男の子だよ、今一人暮らししてる。自分の意思がはっきりある感じは変わってない」
そう話せば、母はシチューをかき混ぜながら、ダイニングに座る俺に振り返る。
「今度家に連れてきなさいよ、あ、あと花苗ちゃんとも久しぶりに話したいわあ。紫ノくんに、お母さんの事お茶に誘っていいか聞いておいて」
「わかった」
「紫ノくんとは、まだ仲が良いのか」
父さんの質問に、俺は一ニもなく頷く。
「大学、一緒に授業受けたりするよ」
「そうか」
父さんはそれ以上何も言わなかったけど、母さんは俺の予想通り、簡単に言ってくる。
「あんた、紫ノくんと一生一緒にいた方が幸せなんじゃない?」
「あのさあ、紫ノくんにも選ぶ権利、あると思わないの?」
「あら、紫ノくんはあんた一本だと思うけど」
「いや……」
否定できなくて、誤魔化した俺に母さんは見透かしたような視線を向けてくる。
「言ったでしょ。あんたは他の誰かに恋してた時より、紫ノくんのことが好きだった時の方が幸せそうだったって」
「うん。それは、そう」
俺がぎこちなく頷く。それで、何かあると察したらしい。母さんは黙った。
でも最後に、心に刺さる一言を投げてくる。
「まあ、あんたの自由だけどね。でも周囲から幸せに見える恋って、あんまりないのよ」
「……うん」
でも昔のように、無邪気に紫ノくんのそばにいることは出来ない。
大好きなのに。同じ好きになった瞬間、反発しあうのが恋だった。
俺は授業を終えると、いつも通り、カフェに向かう。その途中、俺はまたか、とその光景を見て、半ば駆け足で紫ノくんに近づく。
そこでは、やはり連絡先を聞かれている紫ノくんがいて。
紫ノくんは無表情で、身体を自分に近づけようとしてくる女子をひらりと躱していた。
そして俺に気づくと、ようやく口を開く。
「こういうの、嫌悪感しか湧かないから、二度と話しかけないで」
はっきりと女の子にそう言って、紫ノくんはもう興味を失ったと俺の元へ来る。
「あー……、おはよ、紫ノくん」
「おはよ、日生くん。お昼ご飯、今日は外で食べない? 良い定食屋さんがあるんだ」
「わかった、そこ行こ」
なんでもなかったかのように歩き出す紫ノくんに、俺はチラリと女の子がいた方向を見た。そこには、怒りを滲ませる女の子がいた。悔しそうに。
何か、問題を起こされたりしませんように。
俺はそう願いながら、紫ノくんの背を追った。
定食屋さんは、大学から近かった。もしかしたら有名なお店なのかもしれない。店内に入ると、満席状態だった。
「こんにちは、席、もうないですか」
紫ノくんが女将らしき女性に声をかける。
「一席だけ空いてるよ! 奥の二人がけ!」
俺は奥を見た。確かに、一つテーブルが空いている。
「紫ノくん、いこ」
「うん」
俺たちは席に着くと荷物を置いて、メニューを見た。
店内には美味しそうな匂いが充満していて、呼吸をしているだけでお腹が空いてくる。
俺は結局、肉野菜炒めか、マグロたたき丼で悩んでいた。
「うーん……」
「俺、肉野菜にするから、マグロたたき丼、頼みなよ」
「え? いや、そんな気遣わなくていいよ」
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