負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

文字の大きさ
19 / 30
第五章

第二話

しおりを挟む
 俺は紫ノくんの感情の重さに、ちょっと笑ってしまった。
 でもこんなこと言われたって、俺は紫ノくんを拒絶しようと思わない。
 反対に嬉しいくらいだ。
「大丈夫大丈夫、俺もう誰のことも好きにならないって言ったでしょ」
「僕のこと、好きでしょ」
「……ううん」
 俺は紫ノくんの腕の中、穏やかに首を横に振った。
 すると紫ノくんが俺を抱きしめる手を緩める。
「僕のこと、恋人にしてよ」
「……」
「ずっと待つからさ、人生の終わりに、俺が恋人だったって言って」
「待ちすぎだよ」
「そうかな。でもそれくらい、待てるよ」
 俺は、息をついた。
 だって、もう良いかなと思い始めているから。
 こんなにも想ってくれている。それに応えないのは、俺が逃げている証拠で。
 裏切られたって、紫ノくんにならもう良いかな。
 俺は蒸し暑い玄関口、少しの間抱きしめあっていた。
「紫ノくん」
「うん?」
「ちょっとだけ、考えさせてくれる?」
「待つよ、ずっと待つ」
「ありがとう。出来るだけ、待たせないようにするから」
 俺たちは身体を二つに戻すと、冷蔵庫に買ったものを入れて、溶けているカップアイスを食べた。今の俺は、このアイスみたいなものだ。曖昧で、ドロドロして、いつまでも過去を恐れて、自分の心を掴み取れない。
 紫ノくんはくつろいだ様子でアイスを食べている。
 口をつけて、コーヒー味のアイスを食べる紫ノくんをぼんやり見ていたら、ふと、目の前に差し出された。
「ん」
「え、良いよ。大丈夫」
「美味しいよ」
 そう言われたら、俺は一口吸い上げて、バニラに満ちていた口の中にコーヒーの味を入れる。
 いつもより苦さが増しているような気がしたけど、美味しかった。
 そして俺たちは母さんの作った夕飯を食べて、お風呂に入った。
 でもその日、俺たちは何故か、二人で風呂に入っていた。
 俺が風呂に入っていると、紫ノくんがさっさと服を脱いで、浴室の中に入ってきたのだ。
 二人で入ると狭い風呂の中、俺は紫ノくんの身体をできるだけ見ないようにしながら、浴槽に入っていた。
「なんで入ってくるの、紫ノくん」
「久しぶりに、一緒に入りたくなって」
「それ小学校の時の話でしょ」
「大丈夫、大きくなってもそんなに変わらないよ」
「変わるよ……」
 紫ノくんは変わらず、マイペースだ。
 そして俺に手を伸ばすと、濡れた髪に指が触れる。
 そしてその指は頬に伝って、目元を撫でる。
 その手は穏やかだったけど、確かに熱を孕んでいた。俺は何をされるんだと思って、静かにその手を甘受しながら少し、ドキドキしていた。
 紫ノくんに触れられながら、俺はまだ、やっぱり怖くて、のぼせる前に上がろうとする。
「じゃあ紫ノくん、俺先に上がるから」
「はーい」
 そして俺は自分の身体を洗うと、浴室を出た。
 でもその時点でわかる。フラフラする。
 俺は急いで冷蔵庫から冷えた水を取り出して飲んだ。でもそこで力尽きてしまって、俺は母さんに行って自室に戻る。
 そして、紫ノくんが部屋に戻ってきた。
 ついで、俺の状態に気付いたのだろう。足早に近づいてくる。
「のぼせた?」
「うん……」
「わかった。もうちょっと水飲もう。冷却シートとかある? それか氷枕」
「両方、ある」
「わかった」
 倒れる俺の頭を抱えて、紫ノくんは水を飲むと、俺の顔に近づいてくる。
 そして、唇が触れ合った。これが紫ノくんじゃなかったら、俺は叫び出して相手を殴っているところだっただろう。
 ファーストキスだった。でも、紫ノくんが相手で良かったのかもしれない。だって、こんなにも俺を愛してくれている人に唇を奪われるなんて、反対に幸運なことだ。
 少し温くなった水を何度も飲み干して、俺は一息ついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

幼馴染みの二人

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
三人兄弟の末っ子・三春は、小さい頃から幼馴染みでもある二番目の兄の親友に恋をしていた。ある日、片思いのその人が美容師として地元に戻って来たと兄から聞かされた三春。しかもその人に髪を切ってもらうことになって……。幼馴染みたちの日常と恋の物語。※他サイトにも掲載 [兄の親友×末っ子 / BL]

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

寡黙な剣道部の幼馴染

Gemini
BL
【完結】恩師の訃報に八年ぶりに帰郷した智(さとし)は幼馴染の有馬(ありま)と再会する。相変わらず寡黙て静かな有馬が智の勤める大学の学生だと知り、だんだんとその距離は縮まっていき……

処理中です...