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知りたくない現実1
しおりを挟む私は、今の仕事が好きだ。
王妃宮の管轄にいる女官だけれど、内向きの仕事は少ない。度胸の良さを買われて……と言うと聞こえがいいが、半ば嫌がらせで王妃宮における軍務関連の仕事に回された。軍務関係は荒っぽい人とのやりとりが必要で、何より、三つある軍務棟がそれぞれ遠いから各棟との行き来が大変なのだ。
けれど私にとっては幸運だった。というのも私の出身地である王都から離れた田舎での生活は、とにかく男達が荒っぽい。荒っぽいということにさえ気付かないぐらい、それが普通だった。一応子爵家の娘だけど、ほぼほぼ平民と変わらない生活をしていたのが今は役に立っていた。軍務関係の人の荒っぽさは、さほど気にならない。
私は、名を上げようと期待して王都に出た婚約者を追いかけて、という体でこの都にやってきた。
田舎は男が荒っぽく女への束縛が厳しい。
今ならそれが危険な土地であるが故の護りでもあったのだろうと思えるが、当時は、ただただ田舎での生活が息苦しかった。
私の両親は貴族階級とは思えないほど大らかで、私が年頃になるまでは兄や弟たちと一緒に自由を与えてくれていたことも、田舎の女社会になじめなかった理由の一つだろう。
私は、婚約者を言い訳に、あの息苦しい田舎の女社会から抜け出した。
結果、婚約者の伝手で王宮の女官になれたものの、そのまま婚約者は浮気の末に婚約は白紙。私は婚約者と諸事情あって地味に不仲になっていたせいもあり、喜んでそれを受け入れたし、お祝いまでした。
むしろ女官への縁をくれたことで感謝すらしている。お互い笑顔で開放感あふれる、清々しい別れだった。
彼とはそれっきりだ。王宮内で稀に見かけるけど会釈程度で関わらないし、どうしているかも今は知らない。
両親はというと、それまでの諸々もあり色々諦めたのか、好きに生きろとノータッチだ。彼らは娘に甘いのだ。きっと信頼されているのだと信じている。そうでしょうとも。ありがたいことである。
私は、女の力で生きていけるこの仕事が好きだ。もちろん男の権力には到底及ばないが、田舎での男におもねなければ生きていけない社会に比べれば天国だ。
その中でも軍務に携わる女官はあまり多くない。どうしても軍部の荒っぽさについて行けず異動を希望する者が多い。女官は仕事相手なので女として侮られて見下されて凄まれるおまけ付きだから。
そういうのが露骨に見えるのは一部の騎士達だけとはいえ、男しかいない軍部では粗雑な側面が露わになりやすく、女というだけで無能扱いする傾向がそれなりにある。そして一歩外に出ると素晴らしい外面を発揮する。女官は無能で役立たずだが、女性は敬い大切にするのが騎士だとか。女性と女官は、別の生き物らしい。
そのくせ、将来有望な騎士達と関われるとあって、ごく一部の女性達からは軍務と連携する女官への嫉妬も少なからずある。
私は、女官として一生生きていくつもりで結婚もするつもりはないと公言している行き遅れだから、騎士に憧れる一部の女性達は、私を見下すことで納得しているようだけれど。
仕事はしたくない、騎士達とは関わりたいなんて、勝手なものよね。
彼女たちは、目的がはっきりしているから扱いやすい。
それを捌くのも、それなりにやりがいを感じている。
私が女官として王家の直属に携わる仕事を得ることはないだろう。それほど身分は高くないし、地位を上げていくのは難しい。けれど、軍務と交渉できる女官は確実に必要で、時には上級女官に匹敵するだけの権限を持つ。だからこそ、彼女たちを制御し、捌いていくことも仕事だと思っている。
とはいえ、ほとんどの騎士も女官も節度を保っているから問題ないはずなのだが、ごく一部の頭の残念な方というのは、わざわざ突っかかってくるので関わる率が高く、まあ稀によく出くわす。
面倒な存在ばかりが目に付く仕事。私がいるのはそういう場所だ。
良縁を求めて軍務を希望する女官もそれなりにはいるのだけど、そういう女性達はすぐに挫折する。つまり、人事の異動が激しい仕事だ。
そんなば場所だけど、女官としての仕事の中でも、今の仕事が一番肌に合っていた。
そこに四年ほどいる私は、それなりに重宝されているし、信頼もそれなりに築いてきたと思っている。団長が私との仕事がやりやすいと言ってくれたほどだ。
団長は話の通じる尊敬できる上官だったし、軍部の荒っぽさも気にならない。私は、これが天職だとすら思っていた。
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