変態が紳士~憧れの堅物団長から「罵ってくれ」と迫られています〜

水瀬かずか

文字の大きさ
28 / 73

攻防4

しおりを挟む


 自室に戻ろうとすると、団長が部屋まで送ると隣に並んだ。
 結構です。
 むっつりとしたまま私は、団長から顔を背ける。
 自分を襲った人に送られるだなんて、危険極まりない。

「心外だな。俺はこの世でだれよりも君に忠実だというのに」

 忠実な人は、女性を襲いません。

「愛しい人に叱ってもらいたい男心をわかってもらえないのは、悲しいことだな」

 そんな男心なんて滅びてしまえ。ただの身勝手なクズ行為を、さも可愛げがあるみたいな言葉にして矮小化しないでください。
 あんなのはだだの男の身勝手を押し付けた暴力だ。私を思い通りに動かそうとさせる脅迫だ。
 だいたい、その気もないのに何故、こんな事をしたんですか。

「殿下ばかり罵ってもらうだなんて、不公平じゃないか。俺が婚約者だというのに」

 なんですか、その理由……!! まさかの嫉妬ポイントがそこ! そもそも婚約者を罵るのを当たり前のように語らないで下さい!!
 嫌悪感しかわかない。

「ありがとう。俺こそが君に罵られたいのに、鋭い切れ味のある罵倒は、いつも殿下にばかりで、悔しいじゃないか」

 なんですか、ありがとうって。
 自分勝手過ぎる。
 ふてぶてしいその態度に、イラァ……とくる。
 自分の快楽のために人を追い詰めるとか、最低ですね。きもちわるい。

「……ありがとう」

 だから人からの批難を噛みしめながら感謝するのをやめて欲しい。
 そもそもさっきから考えたことに返事が返ってくるのもどうかと思うのよ。

「俺は堪能させてもらっている。それだけ君の心の中は多弁で、感情豊かなのに、仕事中は表情には全く出さない。素晴らしい。君の女官としての有能さにはたびたび惚れ惚れする」
「ありがとうございます」

 そこはちょっと普通に嬉しくなってしまった。くやしい。
 少し心を弾ませると、彼が優しく目元を緩めて微笑んだ。

「君が素直だと、それはそれで興奮するな」

 意味がわかりません。
 心が、スンと萎えた。
 途端に浮かんだ彼の嬉しそうな笑顔が、返す返すも憎らしい。

 憎まれ口を叩きながら……と言っても心の中で呟くぐらいだけれど、短い道のりを並んで歩く。
 それを、おかしいと思う気持ちが頭の片隅に燻っている。

 先ほどの出来事は、ちょっとした冗談だとか、ちょっとからかってみたって言うには、すぎるほどの恐怖だった。嫉妬だなんだというには、度を超している。
 あの絶望は、まだ生々しく私の中にある。
 でも、もう既に安心してしまっているのが悔しい。

 部屋の前までたどり着いて立ち止まる。
 団長の顔を見上げた。
 普段通りの彼がそこにいた。
 団長は言葉通り、決して私の部屋に押し入るようなことはせず、お行儀よく、いつも通りここで別れるのだろう。

 結局、団長が私に何をしたかったのかがわかっていない。何故、あんなことをしたのか。
 ただ……。
 らしくなかった。
 それだけはわかる。

 疑わしい気持ちで見つめる私の感情を読んでいるだろうに、団長は少し目元を緩めて笑うばかりだ。答える気はないらしい。

 それはそれとして、さっきやられたことは、アメとムチで人を手なづけるやりかたよね、と思う。

「バレたか」

 肩をすくめた団長は、いかにもなふてぶてしさで、憎らしい。
 あっけらかんと意図を開示して安堵を誘っている。私を手懐けようとしての行動だ。
 それでも、それでも……なのだ。人は嫌になるほど単純にできている。恐怖の後の安堵は、たまらなく心地よい。わかっているのに、私はいつも通りを装うこの人に、安心してしまう。
 だから私には睨むくらいしかできない。
 ずるい、ひとだ。

「……手段は、選ばないタチなんでね」

 クックと笑いながら彼が覆いかぶさってくる。
 それにビクッとして、けれど両手を張って押し返すと、簡単に押し返されてくれた。

「こんな小手先の技にひかかってくれるなら、安いものだ」

 堕ちておいでと彼がささやく。
 お断りです!!
 うれしそうに笑う団長の横顔が、とにかくとても、憎らしかった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...