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攻防4
しおりを挟む自室に戻ろうとすると、団長が部屋まで送ると隣に並んだ。
結構です。
むっつりとしたまま私は、団長から顔を背ける。
自分を襲った人に送られるだなんて、危険極まりない。
「心外だな。俺はこの世でだれよりも君に忠実だというのに」
忠実な人は、女性を襲いません。
「愛しい人に叱ってもらいたい男心をわかってもらえないのは、悲しいことだな」
そんな男心なんて滅びてしまえ。ただの身勝手なクズ行為を、さも可愛げがあるみたいな言葉にして矮小化しないでください。
あんなのはだだの男の身勝手を押し付けた暴力だ。私を思い通りに動かそうとさせる脅迫だ。
だいたい、その気もないのに何故、こんな事をしたんですか。
「殿下ばかり罵ってもらうだなんて、不公平じゃないか。俺が婚約者だというのに」
なんですか、その理由……!! まさかの嫉妬ポイントがそこ! そもそも婚約者を罵るのを当たり前のように語らないで下さい!!
嫌悪感しかわかない。
「ありがとう。俺こそが君に罵られたいのに、鋭い切れ味のある罵倒は、いつも殿下にばかりで、悔しいじゃないか」
なんですか、ありがとうって。
自分勝手過ぎる。
ふてぶてしいその態度に、イラァ……とくる。
自分の快楽のために人を追い詰めるとか、最低ですね。きもちわるい。
「……ありがとう」
だから人からの批難を噛みしめながら感謝するのをやめて欲しい。
そもそもさっきから考えたことに返事が返ってくるのもどうかと思うのよ。
「俺は堪能させてもらっている。それだけ君の心の中は多弁で、感情豊かなのに、仕事中は表情には全く出さない。素晴らしい。君の女官としての有能さにはたびたび惚れ惚れする」
「ありがとうございます」
そこはちょっと普通に嬉しくなってしまった。くやしい。
少し心を弾ませると、彼が優しく目元を緩めて微笑んだ。
「君が素直だと、それはそれで興奮するな」
意味がわかりません。
心が、スンと萎えた。
途端に浮かんだ彼の嬉しそうな笑顔が、返す返すも憎らしい。
憎まれ口を叩きながら……と言っても心の中で呟くぐらいだけれど、短い道のりを並んで歩く。
それを、おかしいと思う気持ちが頭の片隅に燻っている。
先ほどの出来事は、ちょっとした冗談だとか、ちょっとからかってみたって言うには、すぎるほどの恐怖だった。嫉妬だなんだというには、度を超している。
あの絶望は、まだ生々しく私の中にある。
でも、もう既に安心してしまっているのが悔しい。
部屋の前までたどり着いて立ち止まる。
団長の顔を見上げた。
普段通りの彼がそこにいた。
団長は言葉通り、決して私の部屋に押し入るようなことはせず、お行儀よく、いつも通りここで別れるのだろう。
結局、団長が私に何をしたかったのかがわかっていない。何故、あんなことをしたのか。
ただ……。
らしくなかった。
それだけはわかる。
疑わしい気持ちで見つめる私の感情を読んでいるだろうに、団長は少し目元を緩めて笑うばかりだ。答える気はないらしい。
それはそれとして、さっきやられたことは、アメとムチで人を手なづけるやりかたよね、と思う。
「バレたか」
肩をすくめた団長は、いかにもなふてぶてしさで、憎らしい。
あっけらかんと意図を開示して安堵を誘っている。私を手懐けようとしての行動だ。
それでも、それでも……なのだ。人は嫌になるほど単純にできている。恐怖の後の安堵は、たまらなく心地よい。わかっているのに、私はいつも通りを装うこの人に、安心してしまう。
だから私には睨むくらいしかできない。
ずるい、ひとだ。
「……手段は、選ばないタチなんでね」
クックと笑いながら彼が覆いかぶさってくる。
それにビクッとして、けれど両手を張って押し返すと、簡単に押し返されてくれた。
「こんな小手先の技にひかかってくれるなら、安いものだ」
堕ちておいでと彼がささやく。
お断りです!!
うれしそうに笑う団長の横顔が、とにかくとても、憎らしかった。
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