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変態だけど紳士です。……けど、やっぱり変態。
しおりを挟む……と、なにもかもがトントン拍子に進んでいる。
が、団長との婚約が公になったことで、こういうことも増えてくる。
「あなたみたいな平凡な女がいつまでもあの方の隣にいられるとは思わないことね!」
王宮で侍女をしている若きご令嬢が目の前にいた。この王宮内にあっても、なかなか美しい子だ。
十八歳前後と言ったところだろうか。まさに適齢期。普通ならば、私より彼女の方が縁談では有利だ。男性は、なんだかんだと、若くてかわいらしい方が好きだから。いくら口ではそんなことないと言っても、世の中結果を見れば単純明快である。中身を知れば変わってくるかもしれないが、そんなに知り合う期間なく結婚は決まってしまうのならば、なんとなく若くて見た目が好みな方に軍配は上がるのだ。
令嬢達はそれをよくわかっている。なので、今の私は、未婚の侍女や女官達から盛大なモテ期が発生している。
様々な嫉妬や当てこすり、そして突撃してくる王宮の自信満々の女性達。
出るわ出るわ。団長の人気を思い知った。
それについては、早々に諦めた。もう偽の婚約者じゃない。結婚することを決めたのだ。慣れるしかない。
これだけモテているのに、私をわざわざ選んだあたりで、私が悩んでも仕方ないことだ。
ほのかに想いを秘めた団長好みでもっと釣り合う素晴らしいお嬢さんが……なんてのも、私が心配してあげる事ではない。心が読める団長からすれば、掘り当てに行かなかった時点で、そういう事だ。
「いけませんよ、あなたのようにお可愛らしい方がそのような見苦しい真似をなさっては」
この自信満々具合からすると、公侯爵家の縁者とかそのあたりだろうか。この年齢で直系のご令嬢ならだいたいは把握しているけど、このお嬢様は記憶にない。
とりあえず、主家に泣きつかれると、各家のプライドの問題になってくるので、適当におさめておく。
「……み、見苦しいですって?!」
「王宮で侍女をなされる方が、ヒステリックに金切り声を上げてはなりませんよ。どこで誰が耳目を立てているやもしれません。お気をつけなさいませ」
わずかに微笑んで窘める。
「あなたみたいな行き遅れにそのような……っ」
と、言いかけたところで、彼女は突然に表情を強ばらせて口を噤む。
その視線の先を辿って振りかえれば、団長がそこにいた。
「シア、こんなところで君を見かけるとはうれしいな」
「この後に、団長室に向かうところでした」
「では、共に行こうか」
団長が朗らかに笑いながら私に手を差し伸べる。そして侍女には視線すら向けないまま、私をその場から連れ出した。
仕事をしない者には用がないのは、基本的に団長の通常姿勢だ。
「あ、あの……! オルティス団長様……!!」
潤んだ目の彼女が切なげな声を上げた。かわいらしい悲劇のヒロインがそこにいる。
「嫉妬に駆られて人の邪魔をする者の言葉など、聞く価値がない」
団長は、私に向けて語りかけてから、行こうと促した。
静かな声には何の感情もない。心底興味がないのが侍女にも伝わっただろう。
少し進んだところで団長が小さく溜息をついた。
「あの女性が、君に余計なことを言ったのではないか?」
「今更ですね。むしろ、かわいそうなお嬢さんなのですから、あなたまでが口出ししてしまえば、オーバーキルです」
かわいそうに。
団長が首をかしげたので苦笑する。
「考えてもみてください。こんな場所で、真正面から対抗してくるような、ろくに工作もできない方ですよ。顔と若さだけでなんとかなってきたとわかる、経験則だけで動くような単純思考のお嬢さんなんですよ? そんな方があなたのような立場の方の妻になれば、あなたの足をすくうどころか、自分の首を絞めることになるでしょう。それさえ想像できない、幼稚なお嬢さんです。私で十分対処できます。あなたまで彼女を否定したら、あまりにもかわいそうでしょう……」
「……妬けるな」
「何がですか?」
「俺にでさえそこまで切れ味の鋭い言葉責めはなかなかしてくれないというのに……! 俺も君に素でザクザクと心を刻まれたい……!」
「何を言って……」
彼女にはそれほどきついことを言ってないはずだ。
と、思ったところで、ハッとして振りかえる。
遠目にもわかる。今にも泣きそうな佇まいで、真っ赤になってプルプルと震える少女がいた。
聞こえていた? そんなまさか。いいえ、でも、声は潜めていたけど、つい彼を前にして、声が大きくなっていたのだろうか。
「いや、俺が聞こえるように魔術を使った。だがもう切ったから大丈夫だ」
団長が満足げに頷く。
「余計なことを……!!」
「しかしそのせいで羨ましくて嫉妬する羽目になるとは……。君は、どこまでも俺を振り回す、ひどい人だ……」
団長が切なげに呟く。
明らかに自分で勝手に走り回ってますよね?!
相変わらず人をダシにセルフプレイが過ぎる!
「……厳しいな」
切なげに微笑んで、ごまかさないでください。
顔がいいから、途中だけ切り取るとまともなことを言っているようにしか聞こえないのがたちが悪い…。
私のほうがわがままな恋人に見えてるだなんて……解せぬ……。
「いや、悪いのは至らない俺だ。すまない」
そのとおりなのに、何故か、私のわがままに彼が折れたような雰囲気をまとっている。
呆れ果ててため息をついた。
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計算高い彼は、きっとわかってやっているのだろう。けれど、彼は決して私を傷つける言葉は言わない。
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……そう、責めてあげずに、許してやった。
「……君は……」
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「……私もです」
グラシアナ・ソレル、二五歳。婚約者の最高にうれしそうな笑顔の比較対象が、罵倒されたときの笑顔という事実に、危機感を覚えています。変態からの洗脳ってこわいなと思いました。
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