密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか

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「ひなた……」

 私を呼ぶ彼の表情は真剣そのもので。鋭さを増したその表情に、いかついその顔立ちは更に迫力を増す。けれど、それを怖いと思うより、胸がきゅっと締め付けられるようにときめく。カッコイイなんて思いながら目を奪われる。
 いかつくて強面で、あまり笑わなくて。でも、たまに笑う顔は、イメージが反転するように優しくて。元々顔の造作自体は悪くないのだから、あこがれだけじゃない恋心を自覚した後となっては、尚更それがよく見えてしまうのは、きっと仕方のないことで。

「そんなに見られると照れるだろうが。なんだ、見惚れるほどいい顔か?」

 にやりと笑って照れを隠す彼の様子に私は気付くことなく、指摘されたことにテンパってしまう。

「は、はいっ」

 素で肯定してから、恥ずかしさに身悶える。

「……は?」
「……その、だから、カッコイイ、と、思い、マス」

 聞き返されて、一度言ってしまえば二度も三度も同じだと馬鹿正直に返してしまったのは、きっと完全にテンパっていたせいだと思う。

「……っ だから、お前は……!」

 既視感を覚える彼の言葉の後、私の唇は再び彼にふさがれる。

「ひなた、お前、覚悟しろ」

 キスの合間に、呻くように、低く脅してくる声。
 何を?
 と、聞き返す隙はなくて。激しくなるキスに私は彼にしがみつくことで耐えた。
 舌を吸い取るように絡め取られ、肉厚な彼の舌が私を蹂躙するように蠢く。溢れた唾液が口端からこぼれ、わずかに残る理性が汚い、恥ずかしいと感じる。加えて口の周りは互いの唾液で濡れていることが、その羞恥心に拍車をかけて。どうしようと思っていると、ぢゅっと口内に溢れる唾液が吸い上げられた。

「……他の事に気を取られるとは、余裕だな」

 何で? と思う間もなく、口端をざらりと舐めあげられた。

「……やっ」

 溢れた唾液を舐め取られたのだと気付く。恥ずかしい。じっと見つめてくる彼の視線に耐えきれず、目を瞑って首を横に振る。

「……! ひぁっ」

 身体をこわばらせていた私の身体が反射的に跳ねる。
 ぐちゅぐちゅとこすりあげられているのは私の秘所だった。

「あっ、あっ」

 突然彼の指が足の間に差し込まれて私を刺激していた。不意打ちのように襲ってきた快感に、私は彼にしがみついて声を上げながら跳ねる身体に耐えるしか無くて。

「やっ、あっ、あっ」

 勝手に声が、身体が、彼の指の動きに反応する。ずくずくと疼く下半身と、それを疼かせつつ求める快感を与える指先と。

「俺ばっかり振りまわされるのは、割りにあわねぇよなぁ?」

 問いかけてきていると言うより、それは彼の独白に近かったのかもしれない。
 彼は私の答えを待つことなく、またキスをしてくる。指は私の濡れた割れ目を布越しにいじり続けたまま。

「んんっ」

 唇をふさがれた状態であそこをいじられて、漏れる声さえも奪い尽くされて、頭の中には何かを考える余裕さえもなくなって、刺激の強すぎる快感をただ受け止める。
 布越しでも十分すぎるほど刺激が強かったその場所への刺激が、突然動きを止める。

「……はぁっ」

 と、キスの合間に息をついて、力の入っていた身体から、少しだけ力を抜きかけたときだった。

「……え?」

 彼の手が、腹部をさまよい、そして、ショーツの中へと差し込まれる。

「やっ、きゃぁっっ」

 恥ずかしさとパニックから思わず叫ぶ。
 布地の下に忍び込んだ指が、直接私のあそこに触れてきた事実が、耐えられないほど恥ずかしかった。
 けれどそんな羞恥心はあっという間に瓦解する。

「あっ、あぁっ」

 直接触れられる刺激は、それまでの比ではなく、刺激が強く、そして彼の太くごつごつした指の感触が、直接触られているという現実を実感させて、いやらしいことをしているという恥ずかしさにも似た興奮を込み上げさせてくる。

「たく、ま、さんっ、……んぁっ、宅間、さん……っ」

 名前を呼んで、彼にしがみつく手に力を込めれば、頬を寄せたまま、ちゅっとキスを繰り返す。
 荒くなった彼の息づかいが、キスの合間に頬を撫でる。

「ひなた」

 名前を呼ばれて、幸せな気持ちになる。目が合うと、自然と頬がゆるんだ。

「……っ、くそっ」

 突然彼が悪態をついて、私から身体を離すと、コートを脱ぎだした。突然の変化の意味が分からず、彼の膝の上に乗ったまま呆然としていると、脱いだコートを彼は私の肩にかけて、ぐっと抱き上げた。

「え? な、に?!」

 そのままコートを下敷きに横たえられ、上からのし掛かるような体勢になった彼を戸惑いながら見つめあげる。

「寝心地悪いだろうが、我慢してくれ。……ああ、でも、痛かったら言えよ」

 確かに寝心地は最悪だった。そもそも寝る場所ではない。パレットの上にダンボールを数枚敷いただけの上に寝転がっているのだから。例え彼のコートに包まれていたとしても。
 彼を見上げ、私を包む彼のコートのはしをきゅっと握りしめた。
 寝心地は悪い。でも、彼のコートに包まれているだけで嬉しく思えた。
 この、底冷えするような寒さ。身体が多少火照ったところで、肌寒さはぬぐえない。でも、彼は私を優先してくれた。コート渡して震える自虐趣味はないなんて言ってたくせに。
 寒いけど、寝心地は最低だけれど、倉庫の中だけれど、彼の気遣いが嬉しくてもう全部どうでも良くなって、口元がゆるむ。

「そんな顔して、それ以上俺を煽るんじゃねぇよ」

 苦しそうな顔をして、彼が唸るようにつぶやいた。

「お前がそんな顔するから、俺がサルみたいに盛る羽目になるんだろうが」

 私の嬉しい気持ちとは反対に、彼が自虐的な言葉を苦しそうに呟いて、私に覆い被さるように抱きしめてくる。
 わずかに体重をかけてくる大きな身体。温もりが圧迫感と共に私をすっぽりと包みこんで。それがとても心地いい。
 抱きしめられながら思う。
 彼にも、躊躇いがあったのだろうか。ここまでいいように翻弄されてきて、彼に迷いなんてないように思っていたけれど。
 重くて、温かい大きな彼の身体にのしかかられて、抱きしめられて安心感を覚える。
 私は、抱きしめられて自由にならない腕を、少しだけ動かす。肘を曲げて、できるだけ彼を抱きしめるように背中に回して。

「でも、私、嫌じゃないです……」

 普段だったら、決して言えるような言葉ではなかった。それを素直に言えたのは、世界に二人だけしかいないような気持ちにさせる、特殊な状況下だったからかもしれない。頼れる人が彼だけしかいなかったせいかもしれない。この異常な現状に流されていただけかもしれない。
 でも、そんな言い訳はどうでも良くて、今はただ彼に求められることが嬉しかった。やめて欲しくなかった。

「…………言った先から、煽りやがって」

 耳元で彼の声がした。

「俺の常識とか理性とかで我に返る度に、お前がそれを叩きつぶしてるって自覚しろ」
「……はい」

 叱られた。
 私が悪いわけではないような気がしたけれど、ここは素直に肯いてみれば、「だから!」と彼が呻いて頭をガシガシと掻いた。

「やっぱり、お前は、諦めろ!」

 彼が叫ぶように言って、身体を離す。そして荒い仕草で、私のショーツとストッキングを足から抜き去った。

「やぁっ」

 突然の行為に、驚いて叫ぶ。直接当たる空気の寒さに、恥ずかしさが増した。

「これが、邪魔だったんだ」

 心底不快そうに呟いてからぽいっと脇に放り投げて、彼が身体を私の足下へとずらす。

「あのっ」

 彼の突然のこの反応が理解できない。
 いたたまれない。恥ずかしい。

「諦めろ」

 なにを?! 私、何も言ってないっ
 寒さと恥ずかしさで膝を閉じていた私の足に彼が手をかけた。耐えられないような羞恥心が込み上げる。でも、彼の動きに逆らおうとは思わなかった。
 足を割られて、私の濡れたその場所があらわにされる。
 恥ずかしい。見られたくない。
 彼に変に思われるんじゃないかと思うと、今すぐにでも足を閉じて逃げたくなるような衝動が込み上げる。

 でも、彼が熱い吐息と共に「ひなた」と私の名前を呼んだから。
 私は動けなかった。
 彼に求められていると感じてしまったから。
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