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十話 天下布武
しおりを挟む西暦1567年、永禄十年 斉藤家を滅ぼした織田信長は、上洛を視野に置くため、居城を清洲から稲葉山城に移し、名前を岐阜城と改名している。
この岐阜と言う地名は、信長が帰依していた禅僧、沢彦宗恩によって、中国の故事から選ばれたものといわれている。
美濃、尾張の二つの領土を治めるようになったこの時より、信長は、甲斐の武田信玄や越後の上杉謙信に匹敵する大名へとなったのである。
信長が大名となったこの年の二年程前のこと、永禄の変にて室町幕府十三代将軍、足利義輝は、家臣、松永久秀の謀反により暗殺されており、当時の将軍職は空位となっていた。
力をつけ始めた信長によりこの後、正式に十五代将軍に就任することになる義輝の弟、義昭は、信長が稲葉山を攻略している同時期、越前の国、朝倉家に身を寄せていた。
京の都を追われ数年の間、朝倉家に滞在したものの、朝倉家上洛の可能性、力が無いのを知ると足利義昭は、朝倉家に見切りをつけ、永禄11年7月、足利義昭は、織田信長を頼ることにしたのである。
「お館様、足利義昭様、ご家臣、細川藤孝様、明智光秀様、ご使者としてお越しになられております」
「‥‥うむ、わかった。謁見の間に通しておけ」
「は、はぁー」
連絡にやって来た極度の緊張の表情の小姓は、うやうやしく頭を下げ部屋をあとにした。
「重治、どう思う?」
「はぁ‥‥、たぶん朝倉家の勢力では、上洛できないと判断しての事だと思われます」
小姓に対する威厳ある態度とは異なる、優しささえ滲ませ微笑む信長に重治は答えた。
「うむ」
「近江の国の浅井家との同盟が成り立っている我が国なら、上洛の条件が最も整っているのだと思わたようです。」
「では、重治は、上洛は可能だと?」
「‥‥はい。六角家の抵抗があるやもしれませんが、織田、浅井の二家の力には、歯が立つ筈がありません」
「‥‥わかった。しかし…、その堅苦しい話し方、何とかならぬのか。…お前は、わしの義弟。…もそっと親しみを持ってだな、堅苦しいのはやめにしないか…」
そう、苦笑いを浮かべながら信長は、重治に近づいた。
「な、な、な、何ですか?…」
「……」
重治の言葉に応えることなく、腰の引ける重治の肩に手を乗せ、ゆっくりと抱き寄せた。
「な、な、何を……」
「……もう、勝手に何処へもいくな!…二度と我の前から消える事は許さん!」
「………」
強く信長に抱きしめられて、金魚の酸欠のように口をパクパクとする重治。
「何をそれ程あわてておる。わしは、男色家ではない、心配いたすな」
重治の態度を見た信長は、『さも面白いものを見たぞ』会心の笑顔を浮かべ、抱きしめた重治の頭を自分の胸に更に強く押し付け包み込んだ。
「ちょ、ちょっと。ま、まずいっすよ‥‥」
「………」
重治が必死の抵抗を試みるのをよそに、信長は最愛の恋人を抱きしめるように抱擁し続け、重治の髪を指でゆっくりと漉いていた。
「とのぉー。客人をいつまで…………。しっ、し、失礼いたしました」
謁見の間に、いつまでも現れない信長を呼びに来たのは、信長の乳兄弟、池田恒興であった。
恒興は、仲むつまじ過ぎる二人の様子を見て、慌てて部屋から飛び出した。
「ふっふふ、はっはははは。見たか、重治。今の恒興の慌てよう。はっははははは…」
笑いながらも信長は、抱きしめた腕を緩める事はない。
「‥‥信長様、いい加減にしていただけませんか」
「それは、わしの言う事じゃ。いつも、わしの許しもなく、いつも突然にいなくなる。…わしが、どんな思いでいたか、そちには、解るまい…」
「‥‥し、しかし、だ、だって、しかたないじゃないですか。……俺だって、俺だって、好き好んででいなくなるわけじゃない」
信長の熱い思いをぶつけられた重治は、涙をこらえるのに必死で、そう答えるのがやっとであった。
「……あのぉ。よろしいですかぁ?」
「…………」
恐る恐るも外から声をかけてくるものがいた。
部屋の中からは、その姿を見る事は出来ないが、こちらの返答を待っているのは、先ほど慌てふためいてこの場を去った人物と明らかに感じ取る事ができた。
もちろんそれは、先ほどの人物、池田恒興に間違いない。
「ふふふ、あの声は、恒興じゃな。……恒興、今は、忙しい、客など待たせておけぃ」
意地悪く、そう答える信長は、純粋で、やんちゃだった初めて出会った頃の、そのままの信長であった。
昔と何一つ変わらない信長に出会って、重治は新たに気持ちを引き締め直した。
信長に対して真摯に尽くし続けていくことを心に誓うのであった。
この時、織田信長は、頼ってきた足利義昭を受け入れ、上洛すべく、すぐさま軍を整えはじめた。
重治の予想した通り、信長の上洛の唯一の障害となったのは、南近江の六角家であった。
しかし、もともと同盟を結んだ浅井家と領地争いをしていた事もあり、浅井家の全面協力によって、難なく、これを退ける事に成功した。
西暦1568年永禄十一年九月、織田家に身を寄せていた足利義昭は、織田、浅井両家の力によって、無事、上洛を果たしている。
翌月十八日、朝廷より将軍宣下を受けた足利義昭は、室町幕府十五代将軍に就任する事となったのである。
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