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75 平手打ち
しおりを挟むフォースが恭しく礼をするが、シャーロットと恋人の驚愕と困惑が消えることはなかった。むしろ、シャーロットに関してはそれらに加えてかすかな警戒心もにじみ出していた。
「どうして貴方達がここに? まさかスクエア様も……⁉」
「いいえ、スクエア様はいらっしゃいません。あのかたは今日もご友人の元へ出かけておられます」
それが誰かまではフォースも把握はしていなかったが。いまはそんなことよりも。
「私達がここへ参ったのは、ここにある別荘にシャーロット様がいらっしゃることを聞いて、スクエア様の婚約者同士としてリーゼロッテ様とシャーロット様の親睦を深めていただくためのお茶会をしてもらうためです。しかし……」
フォースがシャーロットの恋人へと目を向ける。その瞳に怪訝さと若干の鋭さがまとわれた。まるで罪人を糾弾する検察官のような。
「そちらのかたは、シャーロット様の元恋人のかたですね? まさか、こんな小さな森のなかで密会していたとは」
「「……っ!」」
恋人をかばうように、シャーロットが一歩前に出た。
「ち、違います! こ、この方は、森の中で迷ってしまった私を道案内してくれただけで……」
フォースが彼女を見据える。
「シャーロット様。たとえ元恋人のかたの身の安全を守るためとはいえ、貴女の愛を偽ってはいけないのではないですか? それは貴女の恋人の心を、わずかでも傷つける行為ではありませんか?」
「……っ!」
そこでフォースは口元を歪ませた笑みを浮かべた。まるで悪人のような笑みであり、実際にシャーロットと恋人の目にはそのように映っただろう。
しかしリズには分かった……フォースのその笑みは、敢えて悪役を演じようとしている笑みだと。悪人のように笑おうとして、けれど上手くできずにぎこちなくなってしまっているのだと。
結果的には、シャーロットと恋人を騙すことには成功していたが。
「それとも、その恋人はしょせん貴女にとっては取るに足らない存在だったということでしょうか。家柄も教養も他のすべても持ち合わせている貴女が、そんな特に取り柄のなさそうでノロマそうな愚物の庶民を相手にするわけがありませんからね。貴女に遊ばれているだけとも知らずに、しょせんは浅はかで馬鹿な庶民で……」
「……!」
そのとき、シャーロットが早足でフォースとの距離を詰めていき、彼の頬をばちんと平手打ちした。恋人が驚きの顔を浮かべるなか、シャーロットが怒った声を上げる。
「私のことを悪く言うのは構いません。ですが、彼のことを悪く言うことだけは許せません! 謝罪してください!」
「……ふ……ふふ……」
「何がおかしいのですか⁉ 早く謝って……」
「これは失敬」
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