35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する

エルリア

文字の大きさ
43 / 63

43.命よりも大切なものを救って

しおりを挟む
 命を救うために稼いだ速度を殺し、その場で反転。

 俺の指示を受けるよりも早くイブさんはカーゴへと移動していた。

「コックピット内耐G装置を稼働、反転と同時に最大加速、アリス先方に連絡してやれ」

「かしこまりました。こちらソルアレスこれより貴船を援護します」

「こっちはエンジンをやられてこれ以上は持たない!よろしく頼む!」

 脳を揺さぶられるような急激なGがふと軽くなり、俺は椅子から降りると床に座り込むパトリシア様の所へと向かった。

「後悔しませんね」

「賢明なご判断ありがとうございます、トウマ様」

「賢明かどうかは終わってからわかることです。どうぞキャプテンシートへ、あそこならモニターがよく見えます」

「ありがとうございます」

 この人は自分の命よりも人の命を選んだ。

 結果はどうであれ依頼主がそれを望むのであれば俺達はそれに従うだけ、なんとも言えない感情をぐっと押し殺して今はただ目の前のことにだけ集中する。

「こちらイブ、いつでも行けます」

「了解しました。敵座標送信、真後ろにつきます」

「間違っても味方を撃たないでくれよ」

「もちろんです、絶対に救って見せます」

 急反転している間に輸送船と宙賊船とはずいぶんと離れてしまったが、ソルアレスのエンジンにかかればその距離もあっという間に狭まっていく。

「なんだお仲間か!?」

「かまうこたねぇ、ただの輸送船なんだ両方奪っちまえばいいんだよ!」

「違いねぇ、飛んで火にいるなんとやらだ!」

 宙賊船から傍受した無線からなんとも間抜けな声が聞こえてくる。

 おそらくアリスがハッキングしたんだろうけど・・・あれ?それならすれ違う時にもできたんじゃないか?

「あの速度ですれ違いながらのハッキングは流石に無理ですよ、マスター。それに、もし成功しても輸送船は長距離航行が出来ませんのでどちらにしろ助ける必要があったんです」

「・・・わかってる」

「敵船とらえました!」

「やっちゃってくれ」

「はい!」

 向こうは自分の方が強いと思っているだろうけど、こっちには百戦錬磨・・・かどうかはわからないけれど、少なくとも10機以上撃ち落としている名狙撃手が控えているんだ。

 アリスから回されるリアルタイムの座標データをもとにイブさんが狙撃を開始、オレンジ色の弾が複数初まっすぐに宙賊船へと飛んでいき、見事エンジンに命中。

「くそ、後部被弾!」

「なんであんな船に!うわぁぁぁ・・・・」

 悲鳴と共に船は爆散、慌てて軌道を変えてデブリを回避する。

 あんな雑魚の為にアナスタシア様は死んでしまうのか、そんな事を考えてしまった。

「こちらソルアレス、宙賊船は撃退しました。航行は可能ですか?」

「こちらラチェット、助けてもらい感謝する。航行は・・・こりゃこれ以上は出来そうにないな」

「それではアンカーを伸ばします、エンジンを停止もしくは逆噴射を行ってください」

「了解した」

 あっという間に戦闘は終了、あとは彼らの乗った船にアンカーを引っかけて最寄りのコロニーまで連れていけばいい。

 これが平常時ならよかったよかったで終われる話なのに今日だけは素直に喜ぶことができないでいる。

「トウマ様、そんな顔をなさらないでください」

 どうやらそんな気持ちが表情に出ていたんだろう、アナスタシア様が慈愛に満ちた顔で俺を見つめていた。

「申し訳ありません」

「皆様のおかげで宙賊は撃退、あの船も無事にコロニーへと戻ることができます。皆さんはまた人の命を救った、それが全てです。」

「ですがパトリシア様は」

「私は・・・そこまでの命だったんでしょう。本来コロニーで夫に見守られながら死ぬはずだったんです、ここまで生き延びれただけでも感謝しなければ。」

 自らの命よりも一般人の命を優先する、それが貴族の務めだとこの人は言うけれどそれを個萎えるという事は、一般人よりも貴族の命の方が重いんじゃないだろうか。

 人の命は平等だと子供のころから教えられてきたけれど、それが綺麗事だってことはとっくの昔にわかっている。

 分かっているからこそ、パトリシア様のこの選択に違和感を感じるんだ。

 俺の命なんてのはそこらへんに浮いているデブリと同じ、それと比べてパトリシア様の命はその何百倍重たいもの、それが貴族という存在であり35年という人生で学んできた全てだ。

 その後、無事に船を引っ張って最寄りのコロニーへと曳航。

 ラチェットという船に乗っていたのは全部で6名、その中にはまだ生まれて数年という子供が二人もいた。

 そんな彼らの笑顔をモニター越し見てパトリシア様が自分の事のように笑っている。

 これでいい、これでよかったんだ。

 そう自分に言い聞かせる。

 モニターの端に表示された数字はプラスを大きく割り込み、最初よりもマイナスになってしまった。

「引き渡し手続き終了しました」

「ご苦労さん」

「コロニーのご厚意で燃料を満タンにしてくださるそうですがどうしますか?」

「そうだな、急ぐわけでもないしそうしてもらおう」

「畏まりました」

 もう急ぐ必要はない。

 マイナスがどんどんと増えていく数字から目をそらし、小さく息を吐く。

 これが今の俺に出来る全て。

 一人の命で子供を含む6人の命を救ったんだ、数字だけ見れば最高の結果じゃないか。

 依頼主もそれを望ん段だし、これ以上俺にできる事は何もない。

 そう割り切っている、いや割り切らないといけないのにどうしても後悔が付きまとう。

 もっとできる事があったんじゃないか。

 もっと早く決断していれば、最初からハイパーレーンを目指していれば、もっと速度が早ければ、もっと、もっと、もっと・・・。

 それがぐるぐると頭の中を駆け巡り、そしてはじけ飛んだ。

「・・・アリス」

「どうしましたか、マスター」

「ソルアレスには自分を変化させる特別な機能がついていたよな?」

「はい。ソルアレスには再整備システムと内部進化シークエンスがあり、常に最高のパフォーマンスを維持することが可能です。また、進化が必要と判断した場合には設計図をもとにそれに最適な形へ船を変化させることも・・・まさか、マスター?」

「進化には燃料を消費する、だが腹いっぱいになればそれも可能だよな?」

 出来ることはある。

 刻一刻と増えていくマイナスは今の船の速度を基準にし、停止時間に応じて増加している。

 ならば今の船以上の速度を出せばマイナスを減らせるんじゃないか、それこそ収納や居住空間など全てを無視して速度だけに特化した形にしてしまえば、不可能じゃない・・・はずだ。

「可能です。なるほど、その手がありましたか」

「えっと、どういう事でしょう」

「パトリシア様には大変ご不自由をかけますが、あと三日だけ辛抱いただけますでしょうか」

「それはもちろんかまいませんが・・・」

「それと、これら見ることはくれぐれもご内密にお願いします。それこそライエル男爵様にもお伝え出来ない内容です、約束していただけますか?」

「よくわかりませんが秘密にするとお約束します」

「ありがとうございます」

 アリスが出来ると言った。

 今頃彼女の頭の中ではこの船を進化させるにふさわしい設計図が検索されており、それに変化した後のシミュレーションも同時に行われていることだろう。

 まだ何も終わっちゃいない、六人の命を救ったのなら後一人の命だって救えるはずだ。

 最後の最後まで俺は諦めない。

 微かに見えた小さな光、手元のチップを全て賭けるに値する最後の希望はまだ手元に残っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...