35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する

エルリア

文字の大きさ
44 / 63

44.ただまっすぐに飛んで

しおりを挟む
「綺麗・・・」

 病魔によりかなり辛い筈のパトリシア様がその船を見て静かにつぶやいた。

 コロニー内の駐機用ハンガーに接岸していたのは見慣れた太陽の翼ソルアレスではなく、もっと別の形をした新しい船。

 例えるならそうだな、流れ星シューティングスターってところだろうか。

「マスター、流石にそれは格好つけすぎでは?」

「げ、声に出てたか?」

「でも素敵な名前だと思います、宇宙をまっすぐに駆け抜けるのにピッタリですよね!」

「イブ様、そういう所を甘やかすとよからぬ癖がつきますのでここはビシッと言っておかないと」

 流線形の美しい船、ただまっすぐに飛ぶことにだけ特化した姿へとソルアレスは自己進化した。

 そもそも船が形を変えるなんてのは馬鹿げた話、アリスもそうだがこの船も立派なアーティファクトだよなぁ。

 因みに勝手に姿を変えるなんてのを見られると大変なことになってしまうので、監視カメラの映像はアリスの手によって別の者に差し替えられているらしい。

 防犯の都合上、たとえ警備であってもハンガー内には立ち入ることはできないのでカメラさえハッキングしてしまえば特に問題はないとアリスがどや顔で教えてくれた。

 それってつまり悪いこともし放題なんじゃないかとも思ったのだが、あえてスルーしておく。

 しっかし、とんでもない物残していったよなぁ。

 ありがとな親父、これのおかげで一人の命を救えそうだ。

「時間が無いんだろ、さっさと行こう」

「それではパトリシア様奥へ」

「最初でよろしいのですか?」

「船内はかなり狭くなっておりますので先に入っていただくしかないのです」

 ハッチを開けて中に入ると、今までのカーゴは無くなりすぐにコックピットに到着。

 船の後方はエンジンと推進用の機能に全振りしているせいで人が入れるようにがなっていないらしい。

 コックピット横には仮眠室があり、パトリシア様にはそこで休んでもらう事になる。

 俺達?

 一応コックピット横に衝立一枚をはさんで仮眠スペースがあるのでそこをイブさんと交代で使う以外は椅子に座ったままになるだろう。

 大丈夫、トイレは別にある。

「各自席に着いたらシートベルトを着用、コロニーを離れ次第最大出力でぶっ飛ばすぞ」

「最新式の耐G制御を使用しますが、それでもかなりの負荷はかかると思いますので覚悟してください」

「パトリシア様の部屋は大丈夫なんだろうな?」

「あそこだけ二重に設置しています、その代わりにここは薄くなってますのでお覚悟を」

「宇宙軍の巨大レーザーに突っ込むことを考えたら死ぬほどじゃない・・・死なないよな?」

「そうですね、下手すれば首がむち打ちになる程度です」

「あー、聞かなかったらよかった」

 これから二日、むち打ちになるぐらいのGを受けながら飛び続けることになる。

 だがそれを越えればパトリシア様の命は助かるんだ、ここまでして間に合わないなんて言わせない。

「到着予定時間はこれより48時間後、その時間で現在のマイナス48時間を一気に縮めます。発進準備完了、いつでも行けます」

「了解。こちらソルアレス、コロニーを出発する」

「了解しました、ハッチを開放しますので重力圏外まで離れてから加速をお願いします」

「世話になった」

「こちらこそ宙賊を撃退し、仲間を救っていただきありがとうございました。良い旅路を」

 コロニーの管制官も中々粋なことを言ってくれるじゃないか。

 最小出力でコロニーの重力圏外へ移動、真っ黒な宇宙にモニターの中心を合わせる。

 アリスもイブさんも椅子にしっかりと座り、こちらを見て静かに頷いた。

「パトリシア様、準備はよろしいですね?」

「大丈夫です」

「・・・よし!アリス、最大出力でぶちかませ!」

「了解しました、マスター」

 合図と同時に船の後方からものすごいエンジン音が聞こえてくる。

 モニター上の出力ゲージが予定の線を越えた次の瞬間、首がへし折れるんじゃないかという衝撃と共にソルアレス・・・じゃなかったシューティングスターは、その名の通り宇宙を駆け抜ける一筋の線となって飛行を開始。

 絶対に間に合わせる。

 想像以上の圧力に視界が狭くなってくるけれど、どんどんと少なくなっていくマイナスだけを視界に入れながらただ前だけを見つめ続けた。


 そんな感じで気づけば44時間が経過。

 時々意識を失いながら飛行を続け、耐えきれなくなったら仮眠用スペースに転がされる。

 流石のイブさんも中々しんどそうだったが、素人の俺と比べればそこまでという感じだった。

 マジでこの人何者なんだろうな。

 パトリシア様はというとアリスの看護もあり今のところは何とかなっているものの、予断を許さない状況らしい。

 ハイパーレーンまであと4時間、そこから現地まで1日か。

「間に合うよな」

「ここまでして間に合わないことはないでしょう」

「・・・そうだな」

「急に素直になられると怖いのでいつも通りでお願いします」

「無茶言うなっての、この加速に44時間耐えてるんだぞ?」

「じゃああと4時間ぐらい余裕ですよね」

 余裕かどうかと聞かれると余裕じゃない、でも耐えて見せる。

「ハイパーレーン到着後の動きは?」

「ライエル男爵様の計らいで到着後ノーチェックでハイパーレーンへ突入、通過後はそのままメディカルコロニーの緊急ハンガーへ突入して引き渡します。正直なところ、あとはパトリシア様次第ですね」

「男爵はなんて?」

「たとえ何があっても君達のことを誇りに思うと」

「だから、そういうこと言うのはマジでやめてくれって」

「いいじゃないですか、一生のうちで貴族にここまで感謝されることはもう二度とないかもしれませんよ?」

 むしろそうであってほしい。

 本来俺達が普通に話すことも許されないような相手、そんな相手と仕事をするとかメンタル的にもしんどいのでこれっきりにしてもらいたい。

 とはいえ惑星を手に入れるのに口利きしてもらわないといけないので、多少は関係を維持したいところではあるけどな。

「アリス様、ハイパーレーン管理局より通信です」

「管理局から?」

「なんでしょう」

 男爵が話をつけてくれている以上こっちが何かすることは何もない筈、にも関わらず連絡してくるってのは・・・嫌な予感しかしないんだが。

「こちらシューティングスター、なんでしょうか」

「こちら管理局です、大変申し訳ありませんが局所的な磁気嵐の影響であと三時間で入り口を封鎖致します」

「は?」

「それまでに到着は可能でしょうか、難しい場合は・・・」

「到着させますのでギリギリまで入り口は開けておいてください。磁気嵐という事は閉鎖一時間前には他の船の受け入れを拒否しますね?」

「え、えぇ・・・」

「では何の問題もありません、三時間以内に到着いたします」

 そう言い切ると向こうの返事を聞くこともなくアリスは通信を切った。

 ただでさえ無茶しているのにここからさらに一時間時間を縮めるだって?

 そんなバカなことがあるか?

「アリス様・・・」

「エンジンのリミッターを解除します。大変申し訳ありませんが制御に集中するため他の作業を行う事が出来ません、イブ様はパトリシア様のおそばについていただけますか?」

「わかりました」

「俺はどうすればいい?」

「寝てください」

「は?」

「マスターの相手をしている暇はありません、強力なGで一瞬で意識を失いますのでさっさと仮眠場所に映って寝てください。大丈夫、突入出来次第下のお世話はしておきます」

 つまり意識がぶっ飛ぶぐらいにヤバい奴が来るってことか。

 トイレに行く暇も許されない緊急事態、恥ずかしいとか言っている場合でもないか。

「アリス、頼んだぞ」

「新しい下着にしておきますね」

「そっちじゃないっての。無茶してもいいから間に合わせろ、わかったな?」

「マスターならそう仰ってくださると思っていました。これより一分後、緊急加速に入ります。パトリシア様、もうしばらくの辛抱をお願いします」

 返事はなかった。

 もしかすると意識もないかもしれないが、それでも俺達はまっすぐ飛び続けなければならない。

 幸いハイパーレーンはまっすぐ突入出来る角度にある。

 つまり間に合えば勝ちだ。

 急ぎシートベルトを外し、コックピットの端にある仮眠エリアへ。

 雑にマットレスが敷いてある場所に寝転がり、固定用のシートベルトを装着した次の瞬間。

「リミッター―解除、緊急加速開始します」

 ドン!という音の後、信じられないような圧力を感じ一瞬にして意識がブラックアウトした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...