[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ

エルリア

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第三章

囚われの彼女

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 状況を整理しよう。

 女性を追ってダンジョンの中に入ったら実はその人はダンジョン妖精でした。

 そこまではいい。

 ダンジョン妖精は元の主人がおりその主人の命令で150年間働いてきた。

 本人が嫌がっていないのなら別にかまわない。

 見る限り普通に仕事をこなしているだけのようだ。

 元の主人は機能停止しているそうなので見に行ったら実は白骨死体になっていました。

 なんでやねん!

 思わずツッコミをいれてしまった。

 この状況を見て何故死亡ではなく機能停止なのか。

 見たらわかるでしょ。

 いい感じにご臨終されて骨にまでなってるし。

 この子の感性はいったいどうなっているんだ。

 人造生命体ホムンクルスだからって言う言葉で話がつく無いようじゃないと思うんですけど。

「ユリウスト様は機能停止しておりますのでご質問にはお答えできません。私でよろしければご質問をお受けいたします。」

 質問ていうかそもそも白骨死体と一緒っていう状況に頭が追い付いていない。

 落ち着こう。

 150年前の骨だ。

 化石と一緒だ。

 化石といえば学術的に価値のある物であり忌避するものではない。

 つまりはこの白骨死体も忌避するものではない。

 オッケー。

 大丈夫。

 そういうことにしておこう。

 今は。

「150年間この状態で機能を停止しているのですか。」

「その通りです。食事を受け付けませんでしたので肉体は滅びてしまいましたが骨のまま機能を停止している状態です。」

 なにその骨があれば大丈夫っていう考え方。

 そもそも死というものがわからないのだろうか。

「この方には命令を終了する条件などは教えられましたか。」

 機械と思って考えよう。

 プログラムを組む時にいくつか条件を与え、その条件を満たした場合にはプログラムを終了させることができる。

 この人が人造生命体ホムンクルスと仮定して主人から命令を受け実行し続けていたのであれば終了の命令も受けていると考えてもいい。

 AになったらBしなさい。

 でもCになったらDしなさい。

 Dまで行ったら現在の命令を終了しなさい。

 こんな感じだ。

「ユリウスト様は自分が死亡した場合にのみ私を開放するという条件を付けておられます。しかし死亡とは何でしょうか。条件が不明の為この命令を終了することはできません。よって、最終命令であるダンジョン管理がわたくしの使命です。」

 条件付け失敗してるし。

 ちゃんとプログラムが正常に機能しているかどうか確認してから実行しようよ。

 そしてプログラムを動かすための情報はちゃんとインプットしようよ。

 死亡=機能停止という情報がないせいでこの子は150年も延々とこのダンジョンを管理し続けたのか。

 何という事でしょう。

 150年間の苦労からここで解放してあげるべきなのか。

 もちろんそれがいいとは思うのだが、主人が死んだという現実を突きつけることになるのではないか。

 何このサスペンス物によくありそうな葛藤シーン。

 どうすればいいんだ。

「仮に主人が死亡して解放されたとして、貴女はどうするんですか。」

「私はダンジョン妖精です。ダンジョンのために作られましたのでダンジョンから不要と言われれば機能を停止します。機能停止の方法はわかりませんが、新しいマスターはご存知でしょうか。」

 捨てられたら死ぬから死に方教えてとかどんなヤンデレ!

 いや死に方教えてって言われても困るし、死んでもらっても困るし。

 たすけてドラ〇モーン。

「私にはわかりません。」

「そうですか、新しいマスターでもわからなければどうすればいいのでしょう。魔力の供給を止める手段が私にはわかりません。魔力を止めれば私は停止いたします。止める方法もご存じないのでしょうか。」

 つまりは自動で魔力は補充されるから魔力がある限り半永久的に動けるという事か。

 永久機関の人造生命体ホムンクルスを造るなんてこのユリウストとかいう人はさぞすごい人だったんだろう。

 でだ、この世界では人造生命体ホムンクルスは一般的なのだろうか。

 もし一般に開発されているのであれば供給の停止方法もわかるだろう。

 しかし、一般的ではなく非常に珍しい、もしくは彼女しか存在しない場合はどうだ。

 マッドな科学者の皆さんが彼女をバラバラにしてしまうのだろうか。

 科学者ではなく魔術師かもしれないが。

 もしくは錬金術師とか。

 錬金術師の方がありえそうだよね。

 ってちがう。

「止める方法も知りません。質問ですが人造生命体ホムンクルスというのは非常に珍しいのでしょうか。」

人造生命体ホムンクルスという知識は私にはわかりません。私はダンジョン妖精です、ダンジョンの知識以外はユリウスト様から与えられていません。・・・訂正します。ユリウスト様の好み、食事時間、睡眠時間、魔術補助の知識は与えられております。」

 つまりはユリウストという人の手となり足となり身の回りのお世話をしていたメイドさんでもあるという事か。

 うらやまけしからん。

 こんな美人なメイドさんを独り占めとか。

 なんたること。

 俺もエミリアにメイド服着てもらってご奉仕されたいのに。

「私が新しいマスターとなりましたが、貴女にダンジョン妖精として働いてもらうことはできるのでしょうか。」

 元の主人が死ねば自分も死ぬ。

 それは仕事がなくなったから死んでしまうという事だ。

 ならば仕事を与え続ければどうだ。

 ダンジョン妖精として必要だと要請した場合は彼女は死ななくても済むのではないだろうか。

 ダンジョン妖精として150年積み上げてきたキャリアを無駄にするのは些かもったいないと思うのだが。

「私は、ユリウスト様付ダンジョン妖精です。ユリウスト様以外の方にお仕えすることはできません。また、ユリウスト様以外の方の情報を受け入れることは認められておりません。」

 そうなりますか。

 でもそれは死亡していなかった場合だよな。

「ではユリウストさんが死亡した場合はどうなりますか。」

「ユリウスト様が死亡した場合は私は解放されます。解放された場合は新しいマスターが必要となります。私はダンジョン妖精ですので、ダンジョンの契約者である方のみを新しいマスターとして認めます。イナバ様はこのダンジョンの新しいマスターですのでその資格がございます。」

 そうなるよな。

 主人がいないのならば新しい主人を探せばいいじゃない。

 でも誰でもは嫌なのでダンジョン妖精として受け入れてくれる人のとこしか行かないわよ。

 貴方は大丈夫そうね、私なんていかが?

 ということだな。

 素晴らしい。

 美人のメイドさんに求められるとか最高だ。

 ちがった、メイドではなくダンジョン妖精だった。

 でもこんな言い方するとお前がほしいから主人は死んだんだっていうみたいだよな。

 先に亡くなったのは前の主人の方だけどさ。

「ご質問は以上でしょうか。ご用が済みましたら私は魔物に食事をを与える時間ですので失礼いたします。お帰りの際はお声がけいただければ結構です。」

「わかりました、ありがとうございます。」

 彼女はそういうと先の部屋に戻っていった。

 おそらくオーブを使用して現存する魔物に魔力という名の食事を与えるのだろう。

 うーむ、どうするべきか。

 先程彼女はとユリウスト本人以外からの情報は受け入れない、と言っていた。

 それはつまり、新しい知識や命令は受け入れることができないという事だ。

 死亡したとはこういうことだよと教えようとしても、それを受け入れてもらえる可能性はないともいえる。

 そうなると彼女は死をしらず、この機能停止状態と表現している白骨死体と共にずっと過ごすことになる。

 しかしだ。

 ここは今俺が契約者であって、ダンジョンの管理や運営は俺の命令で行われるはずだ。

 にもかかわらず彼女もまたダンジョンに指示命令できる状態にある。

 司令塔が二つあるというのは非常に面倒なことになる。

 命令が確定できず下の者が右往左往する羽目になるのだ。

 課長がAと言ったのに部長がBと言い、専務はCと言うのに社長はDと言う。

 この場合一番偉いのは社長だけどそこに行くまでの間に部下は4度仕様変更を命じられるわけだ。

 ファックだね。

 滅びればいいのに。

 オホン。

 この状況を解決するには彼女の権限を移行しなければならない。

 だがその為にはそこで白骨化している彼の命令が必要になる。

 死人はしゃべれない。

 さてどうすればいいのか。

 死霊使いネクロマンサーでもいれば操って本人に言わせることもできただろうが、白骨ってしゃべれるのかな。

 腐虫がいたのは死霊使いネクロマンサーがいたからだという仮定も立てられていたし、もしかしたらそれ目当てでここに来たのかもしれない。

 いずれにせよ、彼女を開放する方法は今のところなしという事だ。

 貴方の不手際のせいで彼女は囚われたままなんだけど、寝たままとは良いご身分だな。

 こつんと骸骨の頭をつつく。

 まるで謝るように頭が下にずれた。

 やば、壊すところだった。

 なにか方法がないかエミリアかなんならドリアルドに聞いてみてもいいかもしれない。

 事件を解決した御礼をまだ決めてなかったし。

 知っていればだけどね。

「とりあえずここに居てもいい案は浮かばないし帰るか。」

 1人で考えられることには限界がある。

 こういう時は他人の知恵を借りるのが一番だろう。

 部屋を後にし、作業部屋に戻る。

 作業部屋では床にたくさんの光点が浮かび上がっていた。

 その一つ一つにカーソルのようなものを当てて情報を確認している。

 なるほど、商店の地下で見た床の映像はこうやって管理をするのか。

「この光一つ一つが魔物を表しているのでしょうか。」

「その通りです。この光が魔物を表し、この杖で触ると魔力の残数や種類を確認できます。魔力が足りなければ補充を、魔物の数が減れば補充を行っています。」

 お腹がすいたらご飯を上げて、仲間が減ったら召喚をして。

 こうやって見れば一目瞭然だし作業効率もよさそうだ。

 魔物別のソートとか各階層ごととかいろいろできるのかもしれない。

 このシステムを考えた人はかなり頭がいいのだろう。

 もしかして転生者かもしれない。

 でも150年前にこんな機能を考えることはできるのだろうか。

 このあたりは本職にお伺いするのが一番だろう。

「光点が少ないように感じますが何か理由があるのですか。」

「先日の侵入によって最下層含めほぼすべての魔物が駆逐されました。かなり強い侵入者でしたのでユリウスト様が呼ばれた最後のハイコボレートまでもが倒されてしまいました。」

 すみません、それは私たちです。

「アンデットワーミーは昔からいたのでしょうか。」

「あの魔物は四か月ほど前の侵入者が残していった異物です。最下層までたどり着いた侵入者はハイコボレートに敗北しましたが、その際に多数の異物を召喚していきました。異物を除去する為に多くの魔物を投入しましたが魔力が枯渇し討伐するに至っておりませんでした。しかしながら先日の侵入者が異物の除去に成功、現在は我々の管理下に置かれた魔物を魔力の余剰分で増加させております。」

 なるほどね。

 やっぱりあの魔物は俺たちよりも前に侵入した死霊使いネクロマンサーが置いて行ったお土産だったわけだな。

 ダンジョンとしては異物なので残っていたすべての魔力を投入するも排除を試みたものの、相手が悪く討伐に失敗。

 ハイコボルトは自分に戦いを挑んだ者だけと戦うように指令でも出されていたのだろう、襲ってこないアンデットワーミーはそのまま放置せざるを得なかったという訳だ。

 そこに俺たちが登場して全滅させたおかげで一応の秩序が保たれることになった。

 今後は自動生成される魔力を魔物の食事などに当てて、残った分で任意の魔物を召喚しているわけだな。

 おそらく残る魔力が少ないせいで多くの魔物を召喚することができないのだろう。

 自動召喚の分は止めることはできないと考えるべきだ。

 なるほど、ここで冒険者の登場というわけか。

 冒険者が侵入することで余剰の魔力が生まれ、その魔力を使用して新たな魔物を召喚する。

 しかし、増えた分以上の魔物が討伐されてしまうと全体の数が少なくなってしまうため、いかに魔物を倒さないもしくは自動召喚分の魔物で冒険者を撃退するかがカギになるわけだ。

 それが罠であり、ダンジョンの作りにつながるわけだな。

 奥が深いなぁ。

 冒険者は財宝という名のエサにつられてダンジョンの中に侵入し、魔力を発生させる。

 その魔力を使って冒険者を討伐する魔物が召喚される。

 まるで食虫植物のようだ。

 そして冒険者はその食虫植物に食べられるエサというわけだな。

 天然物のダンジョンも同じような流れで冒険者を集めているのだろう。

 自分を大きくするための冒険者を呼び寄せ、魔力を回収し、また自分を大きくする。

 大きくなったダンジョンはより多くの冒険者を呼び寄せ、そしてまた大きな魔力を発生させる。

 この均衡が崩れればダンジョンはクリアされるかそれとも廃れていくのかそのどちらになる。

 人工のダンジョンはクリアされてもお金を持っていかれるだけだからマイナスは運営側に来るが、天然物のマイナスは何なのだろうか。

 この辺りは専門家に聞くのが一番だろうな。

「魔力はどうやって補充しているのでしょうか。」

「現在外部からの魔力補充がほぼないため補給量は大きく低下しています。」

 ダンジョンに冒険者が来ないのであればもちろんそうなる。

 少ない魔力で少しずつ拡充していけばいいが、それでは非常に効率が悪い。

 もっと別の手段で魔力を増やすことができれば非常事態にも対応できると思うのだが。

「別の方法で魔力を補充することはできないのでしょうか。」

「魔力は地脈の影響を受けますので地脈を大きくすれば可能です。しかしながらその可能性はユリウスト様をもってしてもかないませんでしたので事実上不可能と判断します。」

 地脈までいじろうとしたんだ、何者だよあの人。

「それ以外は侵入者が発生させる魔力以外にないという事ですね。」

「魔力の塊などがあればできますがそのようなものは自然界には存在しません。」

 やはり冒険者を利用するしかないというわけだな。

 商店連合含めダンジョン企業はそこに目をつけて、冒険者をサポートしつつ冒険者が獲得した金品を回収する。

 冒険者は商店からアイテムを買って効率を得る。

 商店は冒険者がアイテムを買うことで利益を得る。

 ダンジョンが大きくなれば冒険者はリターンが増え、商店は客と販売量が増えて利益が増える。

 冒険者はダンジョンと商店二種類の食虫植物によって魔力とお金をエサにされているわけだ。

 なんだかか悲しくなってきた。

 その立場が分かっているのだから、おれは冒険者の立場になって商店とダンジョン両方を運営させればいいわけだ。

 できるだけ冒険者を消費せずリピートして魔力を増やす。

 できるだけ冒険者からお金を巻き上げず消費を促していく。

 お金は落としてもらわないといけないけど、別の方法で冒険者にお金を与えることができれば最終的に冒険者もこっちも栄えることができる。

 ついでにダンジョンは魔力を確保することができ大きくなることもできる。

 一石三鳥を狙うことができればいいけど、二兎を追う者一兎を得ずともいうしね。

 先を見つつコツコツやっていくしかないという事か。

「ありがとうございました、私はそろそろ帰ることにします。」

「お気を付けお帰り下さい。新しいマスターをユリウスト様含めていつでも歓迎いたします。」

「ところで貴女は普段どこで休んでいるんですか。」

 ここに彼女の部屋はなかった。

 補給のいらない人造生命体ホムンクルスとはいえ睡眠や休息ぐらいは必要だろう。

「ダンジョンの外に建物がありますのでそこで休んでいます。近くにマナの樹がありますのでそこから魔力を補充すれば問題ありません。最近建物が大きく綺麗になりましたので非常に快適に休息を得ています。」

 無断で商店を利用していたのか!

 いや、そこに関しては何も言うまい。

 だってつい最近まで廃墟だったわけだし、むしろ不在のダンジョンをずっと管理してくれていたわけだし、それぐらいの恩恵があってもいいだろう。

 むしろお金を払うべきはこちらなんだから。

「商店でも構いませんが向こうは今後冒険者が来ますので、よろしければ裏にある家を使ってください。事情は他の者にも説明しておきます。」

「お心遣い感謝します。しかしながら私はユリウスト様のお世話をしなければなりませんので、休息が完了次第こちらに戻らせていただきます。現状で問題ありません。」

 いや、他の冒険者がびっくりするからという意味なんだけど。

 俺の命令は聞いてくれそうにないし、現状はこのままいくしかないか。

 最初は商店の宿が満員になることはまずないだろうし。

 主人亡き今も彼女はこのダンジョンに囚われているのか。

 まるで囚人のように。

 何とかできればいいんだけどな。

「それでは。」

 彼女に見送られて秘密の部屋をあとにする。

 とりあえずは家に戻ってエミリアが帰って来てからだな。

 ダンジョンから出て日の光を浴びる。

 やっぱり外はいい。

 人造生命体ホムンクルスもこういう感情を持つのだろうか。

 なんて考えていた時だった。

「いた!こんなところにいた!ディーちゃんが大変なんだよ、あの黒いのが出たんだって!」

 ダンジョンの前でドリアルドが待ち構えていた。

 お願いだから少しは休ませてください。

 一難去ってまた一難。

 事件が俺を呼んでいるぜ。
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