ファントムペイン

粒豆

文字の大きさ
9 / 10

9

しおりを挟む
――夜鷹に別れを告げられた、次の日の放課後。

9月15日のこと。
夜鷹は学校の帰り、駅のホームで電車を待っていた。
いつもの駅で、いつもの帰り道だった。
夜鷹は部活でいつも帰りが遅くなる。
田舎という事も相まって、この時間はホームに人はほとんど居ない。

俺は駅の柱の影に隠れて、夜鷹が来るのを待っていた。
夜鷹の乗る電車の前に、いつもこの駅には止まらない特急列車が通る。
ホームに駅員の鼻にかかった声が響く。
もうまもなく特急列車がこの駅を通過するというアナウンスだ。
人がいないホームの中、夜鷹の背後に足音を殺し忍び寄る。
夜鷹は携帯を弄るのに夢中で、俺の存在には気付かない。



…………夜鷹




……………………さよなら。









――殺してやろう。

明確な殺意を持って、俺は列車の来る直前に、愛する恋人の背中を押した。
夜鷹が俺を置いて、どこか遠くへ行ってしまう……
他の恋人を作るかも知れない。
俺は夜鷹じゃないと駄目なのに、夜鷹はそうじゃない。
夜鷹が欲しい。
夜鷹を手に入れたい。
自分だけの物にしたい。
夜鷹にも、同じように思って欲しかった。
俺じゃなければ駄目だと、嫌だと。
俺を手に入れたいと、離れたくないと。
そう思って、俺に依存して欲しかった。
だけど夜鷹は、俺のそんな思いとは裏腹に、一人でどこかへ行ってしまう。
素直に『寂しい』と、『別れたくない』と、そう告げられなかった不器用な俺の選択した道。
それは、夜鷹を殺す道だった。
殺してしまえば、もう夜鷹はどこにも行かない。
俺の側から離れて行かない。
別れようなんて残酷な事は言わない。
他の恋人を作る事もない。
夜鷹の全てが手に入る。
本気でそう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

『倉津先輩』

すずかけあおい
BL
熱しやすく冷めやすいと有名な倉津先輩を密かに好きな悠莉。 ある日、その倉津先輩に告白されて、一時の夢でもいいと悠莉は頷く。

悪夢の先に

紫月ゆえ
BL
人に頼ることを知らない大学生(受)が体調不良に陥ってしまう。そんな彼に手を差し伸べる恋人(攻)にも、悪夢を見たことで拒絶をしてしまうが…。 ※体調不良表現あり。嘔吐表現あるので苦手な方はご注意ください。 『孤毒の解毒薬』の続編です! 西条雪(受):ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗(攻):勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

処理中です...