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11.兄様の学園入学
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「あー行きたくないな……」
「兄様、そう言っても行かなきゃいけないんでしょう?」
「そうなんだけどね」
来週から学園の高等部が始まるとなって、
ジェラルド兄様はずっとため息をついている。
貴族なら必ず行けなくてはいけないのだから、
仕方ないとわかっているだろうし、愚痴くらいなら聞くけど。
私も来週からは日中ジェラルド兄様がいないんだと思うと、
さみしくて行かないでほしいという気持ちもある。
一年前、あんなに頑張って離れようとしたのに、
結局、領主になる勉強も一緒にしていたためにまったく離れていない。
それでも来週からは離れなくてはいけない。
ドアがノックされたと思ったら、侍女服の女性が二人と、
兄様の侍従が二人部屋に入ってきた。
「ああ、紹介しておくよ。
来週からジュリアンヌの専属になる侍女のエリとアンナ。
それと侍従のケインとダンも昼間はジュリアンヌのそばに護衛としておくから」
「ええ?侍女はわかるけど、侍従を護衛に?」
「俺がいない分、何かあった時に対応するように、
近くに控えておくように言ってある」
「そこまでしなくても大丈夫だと思うけど……」
レドアル公爵家は推進派の筆頭ということもあって、
お近づきになりたい貴族家は多い。
だが、屋敷に人を招くことはほとんどしていない。
おかげで何かあるのかと思われて人が忍び込んでくることもあるらしい。
もちろん、私兵に取り押さえられて終わるのだけど。
学園に通う間、屋敷に閉じこもっている私が安全に過ごせるように、
自分の侍従を護衛にしてつけてくれるなんて。
どれだけ心配させてしまっているのかと思うと落ち込みそうになる。
「学園には侍従を連れていけないし、そうするとこいつらの仕事もなくなるだろう?
それに俺が忙しい分、ジュリアンヌに領主の仕事を手伝ってほしいし、
その仕事の助手としてこき使っていいから」
「ええ?兄様の仕事を手伝うのはいいけど、こき使うって」
「こいつらは俺の側近になるんだ。
ジュリアンヌの手伝いをするのも勉強になる。
だから、頼むよ」
「……わかったわ」
領主の仕事は難しいし、兄様の手伝いだとしても間違うことは許されない。
ケインとダンに手伝ってもらわなければできないこともありそうだ。
ふと、ダンが涙ぐんでいるのがわかった。
「兄様、ダンが涙ぐんでいるようだけど、
無理やり護衛を命じたわけじゃないわよね?」
「違う、大丈夫だよ……そうだな。
ジュリアンヌにちゃんと話しておいた方がいいな」
「何かあるの?」
「ジュリアンヌをアジェ伯爵家の屋敷から助け出してきたのはダンなんだ」
「え?」
「助け出したなんて嘘です……俺には何もできませんでした」
そう言って頭を下げるダンに、兄様が説明してくれる。
「イフリア公爵家の内情がわからなかったから、
父上が愛人の家にダンを送り込んだんだ。
叔母上とジュリアンヌたちの情報が入ればいいと思って。
そんな時にジュリアンヌがさらわれてきた。
ダンは傷ついたジュリアンヌを貧民街に捨ててくるように命じられた。
すぐにジュリアンヌだと気がついたダンはレドアル公爵家まで連れてきた」
「だから……私、この屋敷に保護されたのね」
「ダンは門番に追い返されそうになってもあきらめないでいた。
だから、ダンを俺の侍従にしてもらったんだ。
行動力だけじゃなく、何が大事かをちゃんとわかっている」
知らなかった。
私が生きているのはお母様や兄様、治癒士のおかげだと思っていた。
ここにも私を助けようとして無茶をしてくれた人がいた。
「ありがとう、ダン」
「いいえ、もっと早く助けられたらあんな思いをしなくても」
「さすがにそれは望み過ぎだろう。
そんなことを言えば、俺たちはもっと早く、
イフリア公爵家からジュリアンヌを取り戻さなくてはいけなかった」
「あ……そういうつもりでは」
「では、それ以上は無駄な後悔だ。
お前のおかげでジュリアンヌは生きている。
それだけが事実だ」
「ええ、私もそう思うわ」
「……ありがとうございます」
「あら、お礼を言うのは私でしょう?
ダン、ケインも、来週からよろしくね」
「はい!」
「よろしくお願いいたします」
うれしそうに返事をするダンとそれを微笑ましそうに見ているケイン。
年齢差があるからか、兄弟のように見える。
そして緊張していそうな侍女二人。
どちらも若い侍女なのは、私が母親世代の女性がまだ苦手だからだと思う。
「エリとアンナもよろしくね」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
こちらは年齢差はあまりなさそうだけど、エリのほうが立場が上のようだ。
アンナはエリの行動を見ながら同じように頭を下げた。
「さて、これで一応は安心できたけど、
やっぱり学園には行きたくないな……」
「もう、兄様ってば」
どうしても学園には行きたくないのか、
めずらしくぐだぐだしている兄様に思わず笑ってしまう。
そして、学園が始まった日、玄関で兄様を見送ると、
部屋に戻って頼まれた仕事を始める。
やることはあるし、エリとアンナもいる。
呼べばすぐに来る場所にケインとダンもいる。
それなのにどうしてこんなにさみしいと思うのだろう。
昼食を終え、また仕事をしていると、
廊下からバタバタと誰かが走ってくるような音が聞こえる。
いったい何がと思えば、ノックもされずにドアが開いた。
「ジュリアンヌ!大丈夫だったか!」
「兄様!?」
部屋に飛び込んできた兄様は私を抱きしめる。
「あーやっぱり行くんじゃなかった。
明日からしばらく休もうかな」
「何があったの?」
「うん、落ち着いたら話すから、もう少しだけこのままで。
本当に疲れたんだ……」
「ええぇ?」
このままって、抱きしめたままでいるつもりなんだろうか。
助けを求めようとみんなの方を見たら、全員が目をそらしている。
……助けてはもらえないらしい。
よほど疲れたのか、兄様がぐったりして私の肩に額をあてている。
仕方ないとあきらめて、少しだけ兄様の好きにさせてあげた。
「兄様、そう言っても行かなきゃいけないんでしょう?」
「そうなんだけどね」
来週から学園の高等部が始まるとなって、
ジェラルド兄様はずっとため息をついている。
貴族なら必ず行けなくてはいけないのだから、
仕方ないとわかっているだろうし、愚痴くらいなら聞くけど。
私も来週からは日中ジェラルド兄様がいないんだと思うと、
さみしくて行かないでほしいという気持ちもある。
一年前、あんなに頑張って離れようとしたのに、
結局、領主になる勉強も一緒にしていたためにまったく離れていない。
それでも来週からは離れなくてはいけない。
ドアがノックされたと思ったら、侍女服の女性が二人と、
兄様の侍従が二人部屋に入ってきた。
「ああ、紹介しておくよ。
来週からジュリアンヌの専属になる侍女のエリとアンナ。
それと侍従のケインとダンも昼間はジュリアンヌのそばに護衛としておくから」
「ええ?侍女はわかるけど、侍従を護衛に?」
「俺がいない分、何かあった時に対応するように、
近くに控えておくように言ってある」
「そこまでしなくても大丈夫だと思うけど……」
レドアル公爵家は推進派の筆頭ということもあって、
お近づきになりたい貴族家は多い。
だが、屋敷に人を招くことはほとんどしていない。
おかげで何かあるのかと思われて人が忍び込んでくることもあるらしい。
もちろん、私兵に取り押さえられて終わるのだけど。
学園に通う間、屋敷に閉じこもっている私が安全に過ごせるように、
自分の侍従を護衛にしてつけてくれるなんて。
どれだけ心配させてしまっているのかと思うと落ち込みそうになる。
「学園には侍従を連れていけないし、そうするとこいつらの仕事もなくなるだろう?
それに俺が忙しい分、ジュリアンヌに領主の仕事を手伝ってほしいし、
その仕事の助手としてこき使っていいから」
「ええ?兄様の仕事を手伝うのはいいけど、こき使うって」
「こいつらは俺の側近になるんだ。
ジュリアンヌの手伝いをするのも勉強になる。
だから、頼むよ」
「……わかったわ」
領主の仕事は難しいし、兄様の手伝いだとしても間違うことは許されない。
ケインとダンに手伝ってもらわなければできないこともありそうだ。
ふと、ダンが涙ぐんでいるのがわかった。
「兄様、ダンが涙ぐんでいるようだけど、
無理やり護衛を命じたわけじゃないわよね?」
「違う、大丈夫だよ……そうだな。
ジュリアンヌにちゃんと話しておいた方がいいな」
「何かあるの?」
「ジュリアンヌをアジェ伯爵家の屋敷から助け出してきたのはダンなんだ」
「え?」
「助け出したなんて嘘です……俺には何もできませんでした」
そう言って頭を下げるダンに、兄様が説明してくれる。
「イフリア公爵家の内情がわからなかったから、
父上が愛人の家にダンを送り込んだんだ。
叔母上とジュリアンヌたちの情報が入ればいいと思って。
そんな時にジュリアンヌがさらわれてきた。
ダンは傷ついたジュリアンヌを貧民街に捨ててくるように命じられた。
すぐにジュリアンヌだと気がついたダンはレドアル公爵家まで連れてきた」
「だから……私、この屋敷に保護されたのね」
「ダンは門番に追い返されそうになってもあきらめないでいた。
だから、ダンを俺の侍従にしてもらったんだ。
行動力だけじゃなく、何が大事かをちゃんとわかっている」
知らなかった。
私が生きているのはお母様や兄様、治癒士のおかげだと思っていた。
ここにも私を助けようとして無茶をしてくれた人がいた。
「ありがとう、ダン」
「いいえ、もっと早く助けられたらあんな思いをしなくても」
「さすがにそれは望み過ぎだろう。
そんなことを言えば、俺たちはもっと早く、
イフリア公爵家からジュリアンヌを取り戻さなくてはいけなかった」
「あ……そういうつもりでは」
「では、それ以上は無駄な後悔だ。
お前のおかげでジュリアンヌは生きている。
それだけが事実だ」
「ええ、私もそう思うわ」
「……ありがとうございます」
「あら、お礼を言うのは私でしょう?
ダン、ケインも、来週からよろしくね」
「はい!」
「よろしくお願いいたします」
うれしそうに返事をするダンとそれを微笑ましそうに見ているケイン。
年齢差があるからか、兄弟のように見える。
そして緊張していそうな侍女二人。
どちらも若い侍女なのは、私が母親世代の女性がまだ苦手だからだと思う。
「エリとアンナもよろしくね」
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
こちらは年齢差はあまりなさそうだけど、エリのほうが立場が上のようだ。
アンナはエリの行動を見ながら同じように頭を下げた。
「さて、これで一応は安心できたけど、
やっぱり学園には行きたくないな……」
「もう、兄様ってば」
どうしても学園には行きたくないのか、
めずらしくぐだぐだしている兄様に思わず笑ってしまう。
そして、学園が始まった日、玄関で兄様を見送ると、
部屋に戻って頼まれた仕事を始める。
やることはあるし、エリとアンナもいる。
呼べばすぐに来る場所にケインとダンもいる。
それなのにどうしてこんなにさみしいと思うのだろう。
昼食を終え、また仕事をしていると、
廊下からバタバタと誰かが走ってくるような音が聞こえる。
いったい何がと思えば、ノックもされずにドアが開いた。
「ジュリアンヌ!大丈夫だったか!」
「兄様!?」
部屋に飛び込んできた兄様は私を抱きしめる。
「あーやっぱり行くんじゃなかった。
明日からしばらく休もうかな」
「何があったの?」
「うん、落ち着いたら話すから、もう少しだけこのままで。
本当に疲れたんだ……」
「ええぇ?」
このままって、抱きしめたままでいるつもりなんだろうか。
助けを求めようとみんなの方を見たら、全員が目をそらしている。
……助けてはもらえないらしい。
よほど疲れたのか、兄様がぐったりして私の肩に額をあてている。
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