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12.疲れている原因
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かなり疲れていそうなジェラルド兄様に、
落ち着くまで待つつもりだったけれど、いつまで経っても動かない。
仕方なく兄様を連れてソファまで移動する。
少し離れていたエリとアンナにお茶の用意をお願いし、
兄様と並んでソファに座る。
それでも私の肩に頭を乗せたままの兄様に、
いったい何があったのか聞き出す。
「学園でそんなに嫌なことでもあったの?」
「……あいつ、三年たっても成長していなかった」
「あいつ?もしかして第二王子?」
「ああ。中等部で人間関係もできあがっているだろうし、
挨拶する時に冷たくしておけば関わって来ないだろうと思ったのに。
やっと来たか、これからはジェラルドも一緒だな、だと」
「……周りの人は止めなかったの?」
「伝統派の伯爵家あたりの令息が三人ほどいたが、
あいつに感化されているのか、一緒に喜んでいたよ」
「それは……まぁ」
伝統派の妃から生まれた第二王子サミュエル様は、
第一王子アドルフ様とは一つ違い。
このままいけば王妃から生まれたアドルフ様が王太子になるはずだが、
伝統派はサミュエル様を王太子にしたがっている。
だからこそ、推進派であるレドアル公爵家の兄様は、
当然、推進派のアドルフ様を推しているわけで、
サミュエル様のそばにいるなんてありえない。
あまり派閥とかを考えずに仲良くしたがるとは聞いていたが、
まさか高等部になってもそのままだとは。
「はっきり第二王子とは行動しないと言ったのだが、
心の底から不思議そうにどうしてだ?と聞かれたよ。
授業中も話しかけて来るし、休み時間も一緒に行動しようとするし、
帰る時も、また明日なと大声で挨拶された……」
「信じられないわ。このまま毎日つきまとうつもりなのかしら」
「勘弁してくれ……本当に休もうかな」
「うーん。伯父様からそれとなく陛下に言ってもらうとか?」
「どうしようもなくなったらそうするけど……。
あきらめてくれるまで避けるしかないか」
「それも大変よね」
どうして兄様と一緒に行動したがるのかはわからないけれど、
王族と公爵家なら三年間同じ教室だろうし、避けるのは大変そうだ。
「そういえば、レイモンを見かけたぞ」
「え?お兄様を?」
そういえばレイモン兄様は高等部の二年にいる。
兄様の一学年上なのだから、会うこともあるだろう。
「なぜかアドルフ様と一緒にいた」
「……え?」
「それも不思議だろう?」
「そうね……何を考えているのかしら」
同じように伝統派のレイモン兄様がアドルフ様に近づくのはおかしなことだけど。
お父様は知っているのかしら。
知っていれば離れるように言いそうな気がするけど……。
「もしかしたら第二王子が俺に近づくのも、
レイモンがアドルフ様と一緒にいるからかもしれない。
派閥なんて気にしなくていいと思っているような気がする」
「そうよね。どうしてアドルフ様はそんなことをしているのかしら。
嫌なら離れることもできそうだけど」
「少し調べてみるか……。
あ、あと、第二王子とシュゼットが婚約するかもしれないと噂になっていた」
「まぁ……そうなの」
お父様があの愛人と再婚して、あの時の少女を養女にしたのは少し前に聞いた。
シュゼット様は戸籍としてはアジェ伯爵との娘だけど、
アジェ伯爵がマゼンタ様と結婚した時にはもう七十歳をこえていた。
最初からお父様の愛人になるための結婚だったと言われていて、
シュゼット様はお父様の実子だと思われているそうだ。
私と同じ年のシュゼット様。
シュゼット様のほうが二か月ほど後に生まれているけれど。
お母様はシュゼット様のことは知っていたのだろうか。
「ジュリアンヌが高等部に入学すれば、
第二王子だけでなく、シュゼットとも会うことになる。
……大丈夫か?」
「わからないけど……気にしないようにするわ。
私はもうイフリア公爵家とは関係ないのだし」
あの時、シュゼット様と会ったことは話していない。
兄様たちも私に嫌なことを思い出させないように、
具体的なことは聞いてこなかった。
「そうだな、ジュリアンヌはレドアル公爵家の娘なんだし関係ないな。
ああ、今日も俺の仕事の手伝いをしてくれていたんだろう?
ありがとう。助かるよ」
「ううん、これくらいはなんてことないわ」
「いや、ジュリアンヌだから任せられるんだ。
明日からも頼んだよ」
「ええ」
兄様が本当にうれしそうに笑うから、こんなことでも役に立てたような気になる。
ただの居候なのにレドアル公爵家にとって必要な人だって、
兄様に認められているような気がする。
それからもサミュエル様のつきまといは続いたようで、
兄様は帰ってくるたびに私に抱き着いていた。
そのままソファに座って、兄様から学園での出来事を聞いて、
私がした仕事の報告をするのが日課となっていった。
兄様はずっとサミュエル様を拒絶していたにも関わらず、
離れてくれたのは一年半もしてからだった。
「最近は第二王子が俺に近づこうとしても周りが止めてくれるようになった。
父上が陛下に言ってくれたのが効いたのかもな」
「これで落ち着いて学園に通えるようになるわね」
「ジュリアンヌが通う前に何とかなって良かったよ。
あのままだと、ジュリアンヌも巻き込まれそうだったからな」
「……それは嫌ね。あきらめてくれて良かったわ」
「あと半年もすればジュリアンヌも入学しなきゃいけないし。
ねぇ、この髪を綺麗に整えてもいいか?」
「……兄様がしてくれるなら」
抱きしめながら髪にふれた兄様は整えられていないことを気にしたらしい。
あの時切られた髪は背中まで伸びたけれど、一度もそろえていない。
この屋敷に来てから侍女に髪をさわらせたことはない。
私の髪にふれることができるのは兄様だけだった。
兄様なら大丈夫だと思えるけれど、それでも髪を切られるのは怖い。
「安心して?ジュリアンヌが怖くないようにするから」
「どうやって?」
落ち着くまで待つつもりだったけれど、いつまで経っても動かない。
仕方なく兄様を連れてソファまで移動する。
少し離れていたエリとアンナにお茶の用意をお願いし、
兄様と並んでソファに座る。
それでも私の肩に頭を乗せたままの兄様に、
いったい何があったのか聞き出す。
「学園でそんなに嫌なことでもあったの?」
「……あいつ、三年たっても成長していなかった」
「あいつ?もしかして第二王子?」
「ああ。中等部で人間関係もできあがっているだろうし、
挨拶する時に冷たくしておけば関わって来ないだろうと思ったのに。
やっと来たか、これからはジェラルドも一緒だな、だと」
「……周りの人は止めなかったの?」
「伝統派の伯爵家あたりの令息が三人ほどいたが、
あいつに感化されているのか、一緒に喜んでいたよ」
「それは……まぁ」
伝統派の妃から生まれた第二王子サミュエル様は、
第一王子アドルフ様とは一つ違い。
このままいけば王妃から生まれたアドルフ様が王太子になるはずだが、
伝統派はサミュエル様を王太子にしたがっている。
だからこそ、推進派であるレドアル公爵家の兄様は、
当然、推進派のアドルフ様を推しているわけで、
サミュエル様のそばにいるなんてありえない。
あまり派閥とかを考えずに仲良くしたがるとは聞いていたが、
まさか高等部になってもそのままだとは。
「はっきり第二王子とは行動しないと言ったのだが、
心の底から不思議そうにどうしてだ?と聞かれたよ。
授業中も話しかけて来るし、休み時間も一緒に行動しようとするし、
帰る時も、また明日なと大声で挨拶された……」
「信じられないわ。このまま毎日つきまとうつもりなのかしら」
「勘弁してくれ……本当に休もうかな」
「うーん。伯父様からそれとなく陛下に言ってもらうとか?」
「どうしようもなくなったらそうするけど……。
あきらめてくれるまで避けるしかないか」
「それも大変よね」
どうして兄様と一緒に行動したがるのかはわからないけれど、
王族と公爵家なら三年間同じ教室だろうし、避けるのは大変そうだ。
「そういえば、レイモンを見かけたぞ」
「え?お兄様を?」
そういえばレイモン兄様は高等部の二年にいる。
兄様の一学年上なのだから、会うこともあるだろう。
「なぜかアドルフ様と一緒にいた」
「……え?」
「それも不思議だろう?」
「そうね……何を考えているのかしら」
同じように伝統派のレイモン兄様がアドルフ様に近づくのはおかしなことだけど。
お父様は知っているのかしら。
知っていれば離れるように言いそうな気がするけど……。
「もしかしたら第二王子が俺に近づくのも、
レイモンがアドルフ様と一緒にいるからかもしれない。
派閥なんて気にしなくていいと思っているような気がする」
「そうよね。どうしてアドルフ様はそんなことをしているのかしら。
嫌なら離れることもできそうだけど」
「少し調べてみるか……。
あ、あと、第二王子とシュゼットが婚約するかもしれないと噂になっていた」
「まぁ……そうなの」
お父様があの愛人と再婚して、あの時の少女を養女にしたのは少し前に聞いた。
シュゼット様は戸籍としてはアジェ伯爵との娘だけど、
アジェ伯爵がマゼンタ様と結婚した時にはもう七十歳をこえていた。
最初からお父様の愛人になるための結婚だったと言われていて、
シュゼット様はお父様の実子だと思われているそうだ。
私と同じ年のシュゼット様。
シュゼット様のほうが二か月ほど後に生まれているけれど。
お母様はシュゼット様のことは知っていたのだろうか。
「ジュリアンヌが高等部に入学すれば、
第二王子だけでなく、シュゼットとも会うことになる。
……大丈夫か?」
「わからないけど……気にしないようにするわ。
私はもうイフリア公爵家とは関係ないのだし」
あの時、シュゼット様と会ったことは話していない。
兄様たちも私に嫌なことを思い出させないように、
具体的なことは聞いてこなかった。
「そうだな、ジュリアンヌはレドアル公爵家の娘なんだし関係ないな。
ああ、今日も俺の仕事の手伝いをしてくれていたんだろう?
ありがとう。助かるよ」
「ううん、これくらいはなんてことないわ」
「いや、ジュリアンヌだから任せられるんだ。
明日からも頼んだよ」
「ええ」
兄様が本当にうれしそうに笑うから、こんなことでも役に立てたような気になる。
ただの居候なのにレドアル公爵家にとって必要な人だって、
兄様に認められているような気がする。
それからもサミュエル様のつきまといは続いたようで、
兄様は帰ってくるたびに私に抱き着いていた。
そのままソファに座って、兄様から学園での出来事を聞いて、
私がした仕事の報告をするのが日課となっていった。
兄様はずっとサミュエル様を拒絶していたにも関わらず、
離れてくれたのは一年半もしてからだった。
「最近は第二王子が俺に近づこうとしても周りが止めてくれるようになった。
父上が陛下に言ってくれたのが効いたのかもな」
「これで落ち着いて学園に通えるようになるわね」
「ジュリアンヌが通う前に何とかなって良かったよ。
あのままだと、ジュリアンヌも巻き込まれそうだったからな」
「……それは嫌ね。あきらめてくれて良かったわ」
「あと半年もすればジュリアンヌも入学しなきゃいけないし。
ねぇ、この髪を綺麗に整えてもいいか?」
「……兄様がしてくれるなら」
抱きしめながら髪にふれた兄様は整えられていないことを気にしたらしい。
あの時切られた髪は背中まで伸びたけれど、一度もそろえていない。
この屋敷に来てから侍女に髪をさわらせたことはない。
私の髪にふれることができるのは兄様だけだった。
兄様なら大丈夫だと思えるけれど、それでも髪を切られるのは怖い。
「安心して?ジュリアンヌが怖くないようにするから」
「どうやって?」
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