ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど

gacchi(がっち)

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14.シュゼット様

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初日なのに遅刻する人が多いのかしら。
そう思っていたら、集団が教室に入って来た。
その中心には黒髪の令嬢。

その色を見て、身体が硬直しそうになる。

……大丈夫、おちついて。
シュゼット様に何かされたわけじゃないわ。

ゆっくり呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとする。

「あら。見かけない人がいるのね」

振り向いたらシュゼット様が私を見ていた。
あの時のマゼンタ様のような妖艶さはないけれど、そっくりな顔立ち。
嫌なことを思い出してしまいそうで必死に耐える。

私が何も言わなかったからか、
シュゼット様の隣にいた令息が勝手に答える。

「高等部からの入学ということは地方貴族でしょう。
 シュゼット様が話しかけるような価値はありませんよ」

「でもね、お母様が女の子の取り巻きも作りなさいって言うの。
 あなたたちだけだとお茶会の時に困るからって。
 地方貴族ならちょうどいいわ。
 ね、私の取り巻きになりたいでしょう?」

にっこり笑うシュゼット様にあの時を思い出す。
マゼンタ様を笑顔で迎えていたあの時と同じ笑顔。
シュゼット様の誘いに答えるために仕方なく立ち上がる。

「断るわ」

「……は?」

「お前!シュゼット様に声をかけてもらったというのに断るのか?」

「ええ、断るわ。取り巻きにはならない」

「なんだと!?」

今にもつかみかかってきそうな令息たちに囲まれ、
さすがにどうしていいかわからなくなる。
シュゼット様は傷ついた顔をしていて、令息たちを止める様子はない。

その時、隣に座っていた茶髪の令嬢が令息との間に入ってきた。

「やめてください!この方はレドアル公爵家のジュリアンヌ様ですよ!
 こんな無礼なことをして許されると思っているのですか!」

「は?レドアル公爵家?」

「ジュリアンヌ様って……まさか」

「本当です。さきほどレドアル公爵令息様が教室まで付き添ってきていました。
 こんなことが知られたら……あなたたちの家がどうなるか」

「……いや、俺たちは何も」

「ああ、……少し誤解してしまっただけだ」

「謝罪もしないのですか!」

 「「「……申し訳ありませんでした」」」
 
私を取り囲んでいた令息たちは素直に謝ってシュゼット様のもとへ戻る。
シュゼット様は機嫌を損ねたのか私をにらみつけていた。
何か言われるかと思ったけれど、教師が教室に入って来る。

「全員、席に座りなさい」

その声でシュゼット様と令息たちも席へと向かう。
私も席に座ると、隣の席の令嬢に小声でお礼を言った。

「助けてくれてありがとう」

「……いえ、たいしたことはしていません」

本当にたいしたことではないというような令嬢に興味が出た。
私が公爵令嬢だから助けたのではなさそうだ。

自己紹介を聞けば、港町があるエンデ伯爵家のマリエット様だった。
たくさんの船を所有するエンデ伯爵家は他国とも取引をしていて、
王都でも有数の商会を持っている。

肩のあたりでそろえた髪は令嬢にしては短めだけど、
長身のマリエット様にはよく似合っている。
真面目そうな目は薄茶色で授業の時は眼鏡をかけるようだ。

エンデ家は伯爵家の中でも上位の貴族家だ。
だからこそ、令息たちに強く出られたのかもしれない。

高等部からの入学は私とマリエット様だけだったようで、
教師はほとんど説明なく授業を始めた。

一年の間は座学のみ、二学年になると自分で授業を選び、
その中に魔術の授業も含まれている。

この国の貴族の中で魔力持ちは半分ほど。
年齢が若くなるほど割合は多くなる。

この学年でも半分は魔力持ちだろうけど、
今まではシュゼット様が一番身分が上だからか、
伝統派の貴族が大きな顔をしていたらしい。

さきほど絡まれたこともあるし、
これから学園内でどう振舞うか、きちんと考えたほうがよさそうだ。

シュゼット様と関わり合うつもりはなかったけれど、
向こうが放っておいてくれないような気がする。

授業が終わって昼休憩になると、
シュゼット様は令息三人とどこかに行ってしまった。

シュゼット様たちがいなくなると、
教室に残っている者たちがほっとしているのがわかる。

あまりよくないことだと思っていると、
ジェラルド兄様が迎えに来てくれた。

「大丈夫だったか?昼食に行こう」

「ええ」

兄様の手を取って教室を出ると、
なぜか令嬢たちがうっとりとした顔で見送ってくれる。

兄様に連れて行かれたのは個室だった。
中ではエリとアンナ、ケインが待っていた。
ダンは屋敷でお留守番のようだ。

「ここは?」

「高位貴族は控室を借りることができるんだ」

「レドアル公爵家で借りている部屋ってこと?」

「そう。第二王子がしつこかったから逃げ場所として借りたんだ。
 第二王子たちにはこの場所は知られないようにしてある」

「そうなの」

聞けば、この部屋の場所を知られてしまったら逃げ場所にならないから、
毎回第二王子を振り切ってから部屋に入っていたとのこと。

「私が一緒だと逃げられないわね……。
 見つかってしまわないといいけど」

「それも大丈夫。そうなったらレドアル公爵家の私兵を廊下に置く。
 安心して昼食を取らないと、またジュリアンヌが細くなってしまうからな」

「もう、大丈夫よ」

「いや、ちゃんと食事はとらせたい。
 それに俺が卒業してしまったら危ないだろう。
 どちらにしてもここにケインたちをいさせる予定だし、
 廊下には私兵を置くことになる」

「そうなんだ」

言われてみれば、あと一年で兄様は卒業してしまう。
第二王子も卒業するけれど、シュゼット様は私と同じ学年。
卒業するまでは警戒しなければいけなくなる。

「どうだった?顔は見たんだろう?」

「実は……」


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