52 / 66
52.選択を迫られる(シュゼット)
しおりを挟む
ひとしきり泣いたら、目が痛くて腫れぼったい。
サミュエルは最後まで慰めてくれなかった。
「……そろそろ時間だ。行くか」
「アジェ伯爵家に?」
「いや、その前に。マゼンタ夫人とイフリア公爵を見送る」
「見送る?何を言って……」
「マゼンタ夫人は両手を切り落として王都から出すことに決まった。
それを公爵が半分請け負うことで刑が軽くなった」
「手を……切り落とす?」
聞き間違えたのかと思って聞き返したのに、
サミュエルは大まじめな顔でうなずく。
「ああ。二人とも左手を切り落とされている。
あ、切り落とされた後は治療されているから痛みはないはずだ。
それだけは安心していい」
「安心って!できるわけないでしょう!?
どういうことなのよ!」
「どういうことって、処罰だよ。ジュリアンヌを誘拐して傷つけた罪。
イフリア公爵はそれほど重い罪じゃなかったんだが、
マゼンタと同じ罪を背負うことにしたらしい」
「あ……」
お姉様を誘拐した罪……まさかそんなに重い処罰になるなんて。
しかも、お父様まで手を切り落とされている……。
「今日、二人とも王都から追い出されるそうだ。
俺とシュゼットはそれを見送るようにと」
「王都から追い出されて、お父様とお母様はどこに行くの!?」
「王都から離れた小さな村だそうだ。
そこで平民として暮らしていかなければならない」
「どうして王都から出されなきゃいけないのよ!
平民に落とされてもアジェ伯爵家で私と一緒に暮らせばいいじゃない。
それか、イフリア公爵家でお父様と一緒に」
「それはできない。
イフリア公爵はもう公爵ではない。
レイモンが公爵位を継いでいる。
二人とも平民となって王都から出されるんだ……」
「そんな……」
そんなことってあるの?
お父様はイフリア公爵で貴族の中で一番偉い人だった。
陛下にもお願いできる立場だったはずなのに、どうして平民に。
「ほら、時間だ。行くよ」
「……」
半ば引きずられるようにして部屋から出される。
連れて行かれたのは、馬車置き場だった。
そこには王宮らしくないみすぼらしい馬車が一台置かれていた。
他の馬車が王族が使用するものしか置かれていないために、
よけいにその馬車が目立ってしまっている。
少しして、あの貴族牢の臭いよりもひどい臭いがしてきた。
鼻をつまみたくなりながらそちらを見ると、
騎士たちが囲むようにして二人の人間を連れてくる。
着ている粗末な服で貴族ではないなと判断したけれど、
よく見れば一人は金色の髪……まさか……あれは、お父様?
「お父様!」
「……シュゼット?」
まるで私がここにいるのが信じられないように目を見開いたお父様は、
平民のような粗末な服を着せられていた。
そして、左手は手首から先がなかった……。
それを見て、軽く悲鳴をあげてしまう。
「シュゼット!?」
「え?」
聞き覚えのある声なのに、すぐに誰なのかわからなかった。
お父様のとなりにいたのはお母様だった。
「お、お母様……なの……?」
とても信じられなかった。
ばらばらに短く切られた髪に、薄汚れた顔。
粗末な平民服を着たお母様は、前とはまるで違った。
「シュゼット、お母様を助けてちょうだい!」
私にむけて伸ばされた手は、片手が消えている。
それを見たくなくて顔をそむける。
「シュゼット!?お母様とお父様を助けるって言いなさい!
早く、アジェ伯爵家に連れて帰って!」
「……あ」
どう答えたらいいか迷っていると、サミュエルに肩を捕まれた。
お母様は騎士に取り押さえられても叫んでいる。
「ダメだよ、シュゼット。そんなことは許されない。
二人の処罰は王家が決めたんだ。
もし、逆らうようであれば、君も向こう側にいかなくてはならない」
「向こう側……」
「シュゼットも髪と手を切って王都から出ていくなら、家族三人で暮らしてもいい。
兄上からの伝言だ。
……シュゼットがそれを選ぶのであれば、もう後戻りはできない」
「……どうにかして二人を助けることは、でき」
「できない。できるのは、一緒に落ちることだけだ。
今すぐ、選ぶんだ。時間はない」
「……」
お父様とお母様と離れたくない。
だけど、手を切るなんて嫌だし、髪も切られたくない。
それに貴族じゃなくなるなんて信じられない。
「シュゼット、現実から目をそらすな。俺たちは十分甘やかされてきた。
だが、もうそろそろ知らなければならない。
貴族でいるためには、貴族としての責任を果たさなくてはならないと」
「責任?」
「そうだ。王家が決めたこと、貴族としての常識。
それらを守らずに逆らうのならば、貴族として認められない。
俺もシュゼットも貴族としての常識を覚える気もなかった。
これからはそれは認められない」
「サミュエル、急にそんなことを言われても」
「今まで何度も言われてきたはずだ。
それをたいしたことじゃないと聞かなかっただけだろう。
……これからも変わらないと判断されたら、
シュゼットは向こう側に行くしかない」
「……」
お母様はまだ泣き叫んでいるけれど、お父様が止めている。
お父様はもうあきらめている表情だ。
これから平民となってどうやって暮らすのかもわからないだろうに。
急に、サミュエルとは違う声が聞こえた。
「シュゼットは変わらなかったようだな」
サミュエルは最後まで慰めてくれなかった。
「……そろそろ時間だ。行くか」
「アジェ伯爵家に?」
「いや、その前に。マゼンタ夫人とイフリア公爵を見送る」
「見送る?何を言って……」
「マゼンタ夫人は両手を切り落として王都から出すことに決まった。
それを公爵が半分請け負うことで刑が軽くなった」
「手を……切り落とす?」
聞き間違えたのかと思って聞き返したのに、
サミュエルは大まじめな顔でうなずく。
「ああ。二人とも左手を切り落とされている。
あ、切り落とされた後は治療されているから痛みはないはずだ。
それだけは安心していい」
「安心って!できるわけないでしょう!?
どういうことなのよ!」
「どういうことって、処罰だよ。ジュリアンヌを誘拐して傷つけた罪。
イフリア公爵はそれほど重い罪じゃなかったんだが、
マゼンタと同じ罪を背負うことにしたらしい」
「あ……」
お姉様を誘拐した罪……まさかそんなに重い処罰になるなんて。
しかも、お父様まで手を切り落とされている……。
「今日、二人とも王都から追い出されるそうだ。
俺とシュゼットはそれを見送るようにと」
「王都から追い出されて、お父様とお母様はどこに行くの!?」
「王都から離れた小さな村だそうだ。
そこで平民として暮らしていかなければならない」
「どうして王都から出されなきゃいけないのよ!
平民に落とされてもアジェ伯爵家で私と一緒に暮らせばいいじゃない。
それか、イフリア公爵家でお父様と一緒に」
「それはできない。
イフリア公爵はもう公爵ではない。
レイモンが公爵位を継いでいる。
二人とも平民となって王都から出されるんだ……」
「そんな……」
そんなことってあるの?
お父様はイフリア公爵で貴族の中で一番偉い人だった。
陛下にもお願いできる立場だったはずなのに、どうして平民に。
「ほら、時間だ。行くよ」
「……」
半ば引きずられるようにして部屋から出される。
連れて行かれたのは、馬車置き場だった。
そこには王宮らしくないみすぼらしい馬車が一台置かれていた。
他の馬車が王族が使用するものしか置かれていないために、
よけいにその馬車が目立ってしまっている。
少しして、あの貴族牢の臭いよりもひどい臭いがしてきた。
鼻をつまみたくなりながらそちらを見ると、
騎士たちが囲むようにして二人の人間を連れてくる。
着ている粗末な服で貴族ではないなと判断したけれど、
よく見れば一人は金色の髪……まさか……あれは、お父様?
「お父様!」
「……シュゼット?」
まるで私がここにいるのが信じられないように目を見開いたお父様は、
平民のような粗末な服を着せられていた。
そして、左手は手首から先がなかった……。
それを見て、軽く悲鳴をあげてしまう。
「シュゼット!?」
「え?」
聞き覚えのある声なのに、すぐに誰なのかわからなかった。
お父様のとなりにいたのはお母様だった。
「お、お母様……なの……?」
とても信じられなかった。
ばらばらに短く切られた髪に、薄汚れた顔。
粗末な平民服を着たお母様は、前とはまるで違った。
「シュゼット、お母様を助けてちょうだい!」
私にむけて伸ばされた手は、片手が消えている。
それを見たくなくて顔をそむける。
「シュゼット!?お母様とお父様を助けるって言いなさい!
早く、アジェ伯爵家に連れて帰って!」
「……あ」
どう答えたらいいか迷っていると、サミュエルに肩を捕まれた。
お母様は騎士に取り押さえられても叫んでいる。
「ダメだよ、シュゼット。そんなことは許されない。
二人の処罰は王家が決めたんだ。
もし、逆らうようであれば、君も向こう側にいかなくてはならない」
「向こう側……」
「シュゼットも髪と手を切って王都から出ていくなら、家族三人で暮らしてもいい。
兄上からの伝言だ。
……シュゼットがそれを選ぶのであれば、もう後戻りはできない」
「……どうにかして二人を助けることは、でき」
「できない。できるのは、一緒に落ちることだけだ。
今すぐ、選ぶんだ。時間はない」
「……」
お父様とお母様と離れたくない。
だけど、手を切るなんて嫌だし、髪も切られたくない。
それに貴族じゃなくなるなんて信じられない。
「シュゼット、現実から目をそらすな。俺たちは十分甘やかされてきた。
だが、もうそろそろ知らなければならない。
貴族でいるためには、貴族としての責任を果たさなくてはならないと」
「責任?」
「そうだ。王家が決めたこと、貴族としての常識。
それらを守らずに逆らうのならば、貴族として認められない。
俺もシュゼットも貴族としての常識を覚える気もなかった。
これからはそれは認められない」
「サミュエル、急にそんなことを言われても」
「今まで何度も言われてきたはずだ。
それをたいしたことじゃないと聞かなかっただけだろう。
……これからも変わらないと判断されたら、
シュゼットは向こう側に行くしかない」
「……」
お母様はまだ泣き叫んでいるけれど、お父様が止めている。
お父様はもうあきらめている表情だ。
これから平民となってどうやって暮らすのかもわからないだろうに。
急に、サミュエルとは違う声が聞こえた。
「シュゼットは変わらなかったようだな」
2,714
あなたにおすすめの小説
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
働かない令嬢は、すでに幸せです ――婚約破棄? それより紅茶の時間をください
鷹 綾
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢、レイラ・フォン・アーデルハイド。
――しかし彼女は、泣かない。怒らない。復讐もしない。
なぜなら、前世でブラック企業に心身を削られた元OLにとって、
婚約破棄とは「面倒な縁が切れただけ」の出来事だったから。
「復讐? 見返し? そんな暇があったら紅茶を飲みますわ」
貴族の婚姻は家同士の取引。
壊れたなら、それまで。
彼女が選んだのは、何もしない自由だった。
領地運営も、政治も、評価争いも――
無理に手を出さず、必要なときだけ責任を取る。
働かない。頑張らない。目立たない。
……はずだったのに。
なぜか領地は安定し、
周囲は勝手に動き、
気づけば「模範的な公爵令嬢」として評価が独り歩きしていく。
後悔する元婚約者、
空回りする王太子、
復讐を期待していた周囲――
けれど当の本人は、今日も優雅にティータイム。
無関心こそ最大のざまぁ。
働かないからこそ、幸せになった。
これは、
「何もしない」を貫いた令嬢が、
気づけばすべてを手に入れていた物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる