23 / 57
23.流行
しおりを挟む
学園が始まって一か月。
初日はどうしようかと思っていたが、意外にも学園生活は穏やかだった。
時折、シンディ様がにらんできていたけれど、声をかけてくることはない。
それ以外の令嬢は私にからんでくることはなかった。
そして、私が発言したことで意外なところに影響が出ていた。
馬車に乗って学園から帰る間、侍女のカリナからそのことを聞いて驚く。
「え?アントシュの話し方が流行っている?」
「そうみたいですよ。女官たちの間で流行り始めて、
学園の令嬢たちの間でも流行り始めてるのだとか」
「どうしてそんなことに?」
令嬢たちにはかなり感じの悪いことを言ったと思うのに、
アントシュの話し方が流行る理由がわからない。
「王弟殿下の影響だと思います」
「アルフレッド様の?」
どうしてここにアルフレッドが出てくるのだろう。
首をかしげていたら、ジルとルウイが教えてくれる。
「騎士たちの間ではアルフレッド様の人気が高いんです」
「だから、アルフレッド様がアントシュの話し方が気に入ったと言えば、
騎士たちが真似してアントシュの話し方がいいと言い出します。
それで、騎士の恋人たちがアントシュの話し方をし始めたんです」
「騎士たちが……なるほどね」
そんなことでも真似したいほどアルフレッド様の人気があるってことなんだ。
「ねぇ、カリナ。令嬢たちがアルフレッド様にあこがれて、ということはないの?」
「……それはないと思います。
残念ながら令嬢たちの間では王弟殿下の人気はあまりないので」
「不思議ね。どうして人気がないのかしら」
学園に通うようになって、いろんな令息に会ったけれど、
どの令息よりもアルフレッド様のほうが素敵に見える。
王宮にいる文官や騎士たちと比べてもそう。
アルフレッド様よりも素敵な人は見たことがない。
それなのに、シンディ様以外で、
アルフレッド様を好きだと言っている令嬢に会ったことがない。
「もともと、黒髪はこの国ではあまり見かけないですからね」
「そういえば、王妃様は他国の人だったわね。
人気がないのは黒髪が原因なんだ……あんなに素敵なのに」
思わずそう言ってしまったら、三人ともにやついてこちらを見ている。
「……何?」
「いえ、ちゃんとアルフレッド様と愛しあっているのだなと」
「愛し……!?」
「俺は心配していませんでしたよ。だって、お二人はいつも仲いいですしね」
「仲は……いいと思うけど」
「あと三年もすれば結婚式になりますしね。楽しみですわ」
「結婚……」
本当に結婚するのかしら。
そう思ったけれど、ここでは言わないでおいた。
お父様とお兄様の行方はわからないまま。
陛下とアルフレッド様はあきらめずに探してくれているそうだけど。
もうあきらめてもいい頃なのかもしれない……。
そうなれば、このままアルフレッド様と結婚して、
王弟妃になって……この国で生きていくことに。
でも、まだ……それでいいと納得できていない。
城に馬車がついて、アルフレッド様の宮へと戻る。
だが、出迎えてくれたのはアズだけで、
アルフレッド様は剣技場から戻っていなかった。
いつもなら私が帰る時間には戻って来ているのにめずらしい。
「もう少しで戻ると思いますが」
「忙しいの?」
「そうですね……しばらくは忙しいかもしれません」
「そうなんだ」
何か事情があるのかなと思いながら庭の花の世話をする。
この宮にいる使用人は増えたけれど、
ここだけは私とアルフレッド様とアズだけで世話をしている。
精霊が懐いている者だけしか入れないようにしたからだ。
「……ねぇ、アズ。精霊の数がまた増えた気がするわ」
「おや、そうですか。ベルコヴァの緑が増えたのかもしれませんね」
「森が増えたわけじゃないわよね?」
「この宮で花を育てているという噂が広まったので、
売るために王都内で花を育てている商人が増えたせいでしょう」
「城でのことが王都にも影響するのね」
アントシュの話し方と同じかな。
影響力のあるものの行動が他の者へと広まっていく。
「まぁ、悪いことではないですからね。
精霊が増えているのなら、いいことでしょう」
「それもそうね」
たとえ精霊が見えなくても、作物の育ちや空気の清浄にも役に立っている。
この国のためには良いことに違いない。
そうしてアルフレッド様が忙しいと言い出してから二週間後。
学園から戻ってきたら、そのまま剣技場へ来るようにと言われる。
危ないから近寄らないようにと言われていたのに、
剣技場に呼ぶなんて何があるのだろう。
侍女のメアリーは宮に戻し、ジルとルウイを連れて剣技場へ行く。
剣技場の扉を開けると、土に何かが混ざったような匂い。
周りを観覧席に囲まれた中央は土のまま。
その土の上ではあちこちで剣を持って戦っている者が見える。
「……ルーチェ様、大丈夫ですか?」
初日はどうしようかと思っていたが、意外にも学園生活は穏やかだった。
時折、シンディ様がにらんできていたけれど、声をかけてくることはない。
それ以外の令嬢は私にからんでくることはなかった。
そして、私が発言したことで意外なところに影響が出ていた。
馬車に乗って学園から帰る間、侍女のカリナからそのことを聞いて驚く。
「え?アントシュの話し方が流行っている?」
「そうみたいですよ。女官たちの間で流行り始めて、
学園の令嬢たちの間でも流行り始めてるのだとか」
「どうしてそんなことに?」
令嬢たちにはかなり感じの悪いことを言ったと思うのに、
アントシュの話し方が流行る理由がわからない。
「王弟殿下の影響だと思います」
「アルフレッド様の?」
どうしてここにアルフレッドが出てくるのだろう。
首をかしげていたら、ジルとルウイが教えてくれる。
「騎士たちの間ではアルフレッド様の人気が高いんです」
「だから、アルフレッド様がアントシュの話し方が気に入ったと言えば、
騎士たちが真似してアントシュの話し方がいいと言い出します。
それで、騎士の恋人たちがアントシュの話し方をし始めたんです」
「騎士たちが……なるほどね」
そんなことでも真似したいほどアルフレッド様の人気があるってことなんだ。
「ねぇ、カリナ。令嬢たちがアルフレッド様にあこがれて、ということはないの?」
「……それはないと思います。
残念ながら令嬢たちの間では王弟殿下の人気はあまりないので」
「不思議ね。どうして人気がないのかしら」
学園に通うようになって、いろんな令息に会ったけれど、
どの令息よりもアルフレッド様のほうが素敵に見える。
王宮にいる文官や騎士たちと比べてもそう。
アルフレッド様よりも素敵な人は見たことがない。
それなのに、シンディ様以外で、
アルフレッド様を好きだと言っている令嬢に会ったことがない。
「もともと、黒髪はこの国ではあまり見かけないですからね」
「そういえば、王妃様は他国の人だったわね。
人気がないのは黒髪が原因なんだ……あんなに素敵なのに」
思わずそう言ってしまったら、三人ともにやついてこちらを見ている。
「……何?」
「いえ、ちゃんとアルフレッド様と愛しあっているのだなと」
「愛し……!?」
「俺は心配していませんでしたよ。だって、お二人はいつも仲いいですしね」
「仲は……いいと思うけど」
「あと三年もすれば結婚式になりますしね。楽しみですわ」
「結婚……」
本当に結婚するのかしら。
そう思ったけれど、ここでは言わないでおいた。
お父様とお兄様の行方はわからないまま。
陛下とアルフレッド様はあきらめずに探してくれているそうだけど。
もうあきらめてもいい頃なのかもしれない……。
そうなれば、このままアルフレッド様と結婚して、
王弟妃になって……この国で生きていくことに。
でも、まだ……それでいいと納得できていない。
城に馬車がついて、アルフレッド様の宮へと戻る。
だが、出迎えてくれたのはアズだけで、
アルフレッド様は剣技場から戻っていなかった。
いつもなら私が帰る時間には戻って来ているのにめずらしい。
「もう少しで戻ると思いますが」
「忙しいの?」
「そうですね……しばらくは忙しいかもしれません」
「そうなんだ」
何か事情があるのかなと思いながら庭の花の世話をする。
この宮にいる使用人は増えたけれど、
ここだけは私とアルフレッド様とアズだけで世話をしている。
精霊が懐いている者だけしか入れないようにしたからだ。
「……ねぇ、アズ。精霊の数がまた増えた気がするわ」
「おや、そうですか。ベルコヴァの緑が増えたのかもしれませんね」
「森が増えたわけじゃないわよね?」
「この宮で花を育てているという噂が広まったので、
売るために王都内で花を育てている商人が増えたせいでしょう」
「城でのことが王都にも影響するのね」
アントシュの話し方と同じかな。
影響力のあるものの行動が他の者へと広まっていく。
「まぁ、悪いことではないですからね。
精霊が増えているのなら、いいことでしょう」
「それもそうね」
たとえ精霊が見えなくても、作物の育ちや空気の清浄にも役に立っている。
この国のためには良いことに違いない。
そうしてアルフレッド様が忙しいと言い出してから二週間後。
学園から戻ってきたら、そのまま剣技場へ来るようにと言われる。
危ないから近寄らないようにと言われていたのに、
剣技場に呼ぶなんて何があるのだろう。
侍女のメアリーは宮に戻し、ジルとルウイを連れて剣技場へ行く。
剣技場の扉を開けると、土に何かが混ざったような匂い。
周りを観覧席に囲まれた中央は土のまま。
その土の上ではあちこちで剣を持って戦っている者が見える。
「……ルーチェ様、大丈夫ですか?」
724
あなたにおすすめの小説
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる