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28.必要ないもの
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そして三週間目になった時、ドロテがまた夜の護衛のことを口にした。
「ルーチェ様、やはり夜も護衛したほうがいいと思うのです」
「夜の護衛?いらないって言ったわよね?」
「ですが、アルフレッド様とアズ様に護衛させるというのは……」
「二人は護衛してくれているわけじゃないわよ。
普通に部屋で寝ているわ。
夜の間、宮の扉は閉じられているから、誰も入ってこないの。
だから護衛騎士がいなくても安全なのよ」
「そういう意味でしたか……」
他の者が入って来なければ、私が傷つけられることもない。
だから護衛騎士は必要ないのだと言えば、普通はあきらめるはずだ。
だが、ドロテはどうしても宮の中に入りたいのか、他の理由を探そうとする。
「……ですが、いくら婚約しているとはいえ、
女性がルーチェ様だけというのはよくないのでは?」
「あら。宮の中には私の乳母のリマもいるわ。
そんな心配はしなくてもいいの」
「乳母が……そうですか」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ?
ドロテの仕事は学園に通う間だけ守ってくれればいいの」
「わかりました……」
あきらかに納得していない顔のドロテに、
一緒に馬車に乗っていたジルとメアリーも不思議そうにしている。
あれほど望んでいた護衛騎士になったのに、
ドロテがうれしそうだったのは最初のうちだけ。
この頃はずっと困ったような顔をしている。
疑問に思ったのか、ジルがドロテに声をかける。
「おい、ドロテ、どうしたんだよ。
護衛騎士として仕事したかったんだろう?
念願叶ったのに、どうしてそんなに元気がないんだ?」
「あ、はい。そうなんですけど……。
私が思っていたのは、トーニオと同じように働きたかったと」
「トーニオさんと同じ?それは……無理だろう」
「どうしてですか?」
「トーニオさんはそもそもアルフレッド様の宮に配置されていない。
俺もアントシュへの旅で一緒だったからわかるんだが、
アルフレッド様が寝ている時に護衛させてくれたのは旅の間だけだ。
あんなことは二度と起きないのだから、同じように働くのは無理なんだよ」
「そんな……」
絶望するような表情のドロテにジルも何を言っていいかわからないようだ。
そっとしておいたほうがいいと小声でメアリーに言われ、
二人はドロテに声をかけるのをやめた。
このままならアズの言ったとおり、辞めるって言い出しそう。
可哀想な気もするけれど、ドロテをアルフレッド様に近づけるわけにはいかない。
私の護衛騎士にはなったけれど、
学園の行き帰りだけならアルフレッド様と会うことはない。
もし、襲撃犯の仲間がドロテに近づいて、
トーニオを殺したのはアルフレッド様だと教えてしまったとしたら……。
ドロテはアルフレッド様を殺そうとするかもしれない。
その可能性があるかぎり、ドロテには辞めてもらうしかなかった。
宮の扉のところまで私を送り届けるとドロテはとぼとぼと宿舎に戻る。
その後ろ姿を見て少しだけ胸が痛む気がしたけれど、私にはどうすることもできない。
ドロテがトーニオのことを忘れて、幸せになってくれたらいいと願うだけ。
問題が起きたのはその日の夜遅くの事だった。
いつもどおり夕食を取った後は私が先に湯あみをして、
その次にアルフレッド様が湯あみをする。
アルフレッド様の私室以外にも浴室はあるのだが、
安全のためにも同じ浴室を使っている。
私がベッドに寝転がってゴロゴロしていたら、
いつもよりも早くアルフレッド様が浴室から出て来た。
ガウンを羽織っているけれど、その髪からは雫が落ちている。
きちんと拭かないで出てくるなんてめずらしい。
「今日は早いですね?」
「……誰かが宮に入って来た」
「え?」
どうやら侵入者がいたらしい。
アルフレッド様は聴覚が優れているのか、
宮のどこにいても扉が開く音が聞こえるらしい。
「少し待っていろ。アズに伝えて来る」
「わかりました」
アルフレッド様は二つ離れた部屋にいるアズのところへ向かう。
侍従の部屋へは廊下を通らずに行ける。
少しして、廊下で男女が争っているような声が聞こえた。
その声がだんだん遠ざかって行く。
戻って来たアルフレッド様と待っていると、ドアがノックされる。
「アズです」
「入っていいぞ。侵入者は誰だ?」
「ドロテでした。ルーチェ様がどうしても心配だから護衛しに来たと。
いらないと言って帰しました」
「扉を守る騎士には何と言って入ってきたんだ?」
「ルーチェ様の護衛を命じられたと言ったようです」
「はぁぁ。なるほど。
規律を乱した罪で十日間謹慎するように伝えろ」
「わかりました」
まさか嘘までついて宮の中に入って来るとは思わなかった。
十日間の謹慎……ドロテはそれで反省するだろうか。
「もうあきらめると思いますか?」
「いや、あきらめないだろうな」
アルフレッド様の予想通り、ドロテはあきらめなかった。
二日後、謹慎中だというのに、また夜に侵入してこようとした。
さすがにアルフレッド様も呆れてしまい、護衛騎士としての任を解いた。
ドロテは騎士団にもいられなくなり、城を出て行くことになる。
これでもうドロテのことで心配しなくていいと思っていたら、
その日の夜中、隣で寝ていたアルフレッド様に小声で起こされる。
「ルーチェ……ルーチェ」
「……はい?」
こんな夜中にどうしたのかと思えば、大きな声は出さないようにと注意される。
「侵入者だ。もうそこまで来ている」
「え……」
「ルーチェ様、やはり夜も護衛したほうがいいと思うのです」
「夜の護衛?いらないって言ったわよね?」
「ですが、アルフレッド様とアズ様に護衛させるというのは……」
「二人は護衛してくれているわけじゃないわよ。
普通に部屋で寝ているわ。
夜の間、宮の扉は閉じられているから、誰も入ってこないの。
だから護衛騎士がいなくても安全なのよ」
「そういう意味でしたか……」
他の者が入って来なければ、私が傷つけられることもない。
だから護衛騎士は必要ないのだと言えば、普通はあきらめるはずだ。
だが、ドロテはどうしても宮の中に入りたいのか、他の理由を探そうとする。
「……ですが、いくら婚約しているとはいえ、
女性がルーチェ様だけというのはよくないのでは?」
「あら。宮の中には私の乳母のリマもいるわ。
そんな心配はしなくてもいいの」
「乳母が……そうですか」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ?
ドロテの仕事は学園に通う間だけ守ってくれればいいの」
「わかりました……」
あきらかに納得していない顔のドロテに、
一緒に馬車に乗っていたジルとメアリーも不思議そうにしている。
あれほど望んでいた護衛騎士になったのに、
ドロテがうれしそうだったのは最初のうちだけ。
この頃はずっと困ったような顔をしている。
疑問に思ったのか、ジルがドロテに声をかける。
「おい、ドロテ、どうしたんだよ。
護衛騎士として仕事したかったんだろう?
念願叶ったのに、どうしてそんなに元気がないんだ?」
「あ、はい。そうなんですけど……。
私が思っていたのは、トーニオと同じように働きたかったと」
「トーニオさんと同じ?それは……無理だろう」
「どうしてですか?」
「トーニオさんはそもそもアルフレッド様の宮に配置されていない。
俺もアントシュへの旅で一緒だったからわかるんだが、
アルフレッド様が寝ている時に護衛させてくれたのは旅の間だけだ。
あんなことは二度と起きないのだから、同じように働くのは無理なんだよ」
「そんな……」
絶望するような表情のドロテにジルも何を言っていいかわからないようだ。
そっとしておいたほうがいいと小声でメアリーに言われ、
二人はドロテに声をかけるのをやめた。
このままならアズの言ったとおり、辞めるって言い出しそう。
可哀想な気もするけれど、ドロテをアルフレッド様に近づけるわけにはいかない。
私の護衛騎士にはなったけれど、
学園の行き帰りだけならアルフレッド様と会うことはない。
もし、襲撃犯の仲間がドロテに近づいて、
トーニオを殺したのはアルフレッド様だと教えてしまったとしたら……。
ドロテはアルフレッド様を殺そうとするかもしれない。
その可能性があるかぎり、ドロテには辞めてもらうしかなかった。
宮の扉のところまで私を送り届けるとドロテはとぼとぼと宿舎に戻る。
その後ろ姿を見て少しだけ胸が痛む気がしたけれど、私にはどうすることもできない。
ドロテがトーニオのことを忘れて、幸せになってくれたらいいと願うだけ。
問題が起きたのはその日の夜遅くの事だった。
いつもどおり夕食を取った後は私が先に湯あみをして、
その次にアルフレッド様が湯あみをする。
アルフレッド様の私室以外にも浴室はあるのだが、
安全のためにも同じ浴室を使っている。
私がベッドに寝転がってゴロゴロしていたら、
いつもよりも早くアルフレッド様が浴室から出て来た。
ガウンを羽織っているけれど、その髪からは雫が落ちている。
きちんと拭かないで出てくるなんてめずらしい。
「今日は早いですね?」
「……誰かが宮に入って来た」
「え?」
どうやら侵入者がいたらしい。
アルフレッド様は聴覚が優れているのか、
宮のどこにいても扉が開く音が聞こえるらしい。
「少し待っていろ。アズに伝えて来る」
「わかりました」
アルフレッド様は二つ離れた部屋にいるアズのところへ向かう。
侍従の部屋へは廊下を通らずに行ける。
少しして、廊下で男女が争っているような声が聞こえた。
その声がだんだん遠ざかって行く。
戻って来たアルフレッド様と待っていると、ドアがノックされる。
「アズです」
「入っていいぞ。侵入者は誰だ?」
「ドロテでした。ルーチェ様がどうしても心配だから護衛しに来たと。
いらないと言って帰しました」
「扉を守る騎士には何と言って入ってきたんだ?」
「ルーチェ様の護衛を命じられたと言ったようです」
「はぁぁ。なるほど。
規律を乱した罪で十日間謹慎するように伝えろ」
「わかりました」
まさか嘘までついて宮の中に入って来るとは思わなかった。
十日間の謹慎……ドロテはそれで反省するだろうか。
「もうあきらめると思いますか?」
「いや、あきらめないだろうな」
アルフレッド様の予想通り、ドロテはあきらめなかった。
二日後、謹慎中だというのに、また夜に侵入してこようとした。
さすがにアルフレッド様も呆れてしまい、護衛騎士としての任を解いた。
ドロテは騎士団にもいられなくなり、城を出て行くことになる。
これでもうドロテのことで心配しなくていいと思っていたら、
その日の夜中、隣で寝ていたアルフレッド様に小声で起こされる。
「ルーチェ……ルーチェ」
「……はい?」
こんな夜中にどうしたのかと思えば、大きな声は出さないようにと注意される。
「侵入者だ。もうそこまで来ている」
「え……」
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