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32.あなたは冷酷王子ですか?
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「ねぇ、アルフレッド様ってどうして冷酷王子って呼ばれているの?」
「……女性に冷たい態度だったからでしょうか」
「それ以外にも理由があるみたいだけど?」
「どなたから聞いたのですか?」
「噂が聞こえたの」
「そうですか……」
やはり他の理由があるらしい。
アズは考え込むような顔をして黙ってしまった。
「どうしても言えないことなら言わなくていいわ」
「そうですね……私が言っていいことなのかわからないので、
アルフレッド様に直接聞いたほうがいいかもしれません」
「わかったわ」
だけど、直接本人に聞いていいものなのだろうか。
アルフレッド様って冷酷王子なの?って。
悩んでいたらアルフレッド様が宮に戻って来てしまった。
どうしよう。どうやって聞いたらいいんだろう。
そんなことを思っていたのが表情に表れていたのか、
アルフレッド様は私の隣に来ると跪いて顔を覗き込んでくる。
「何かあったのか?」
「えっと……」
「言いにくいことなのか?」
助けを求めようとアズを見たら、すっと部屋から出て行った。
気を利かせて二人きりにしてくれたのかもしれないけれど、
まだ覚悟が決まっていないのに。
「ルーチェ?」
「……えっと、学園で噂を聞いたんです。
アルフレッド様が冷酷王子って呼ばれているって」
「ああ……それを聞いたのか」
「私は女性に冷たくしていたから冷酷王子って呼ばれるんだと思ったの。
でも、なんだかそれだけが理由じゃない気がして……。
アズに聞いてみたら、アルフレッド様に聞いた方がいいって」
「アズが……そうか」
やはり聞いてはいけないことだったのか、
アルフレッド様の顔が曇る。
「聞いてはいけないことでしたか?」
「いや、そうじゃないんだ……。
そうだな、少し散歩に行こうか」
「え」
散歩って?と聞く前に抱き上げられ、縦抱きにされる。
そのまま宮の扉へ向かっているけれど、もしかしてこのまま歩くつもりなんだろうか。
旅の間はよくこうして散歩に連れて行ってもらったけれど、
あれからもう三年以上もたって、私も大人になったというのに。
……アルフレッド様にとっては、
私はまだあの時のまま。小さい女の子に見えるのかもしれない。
少しだけ悲しくなって、何も言わずにアルフレッド様の肩につかまる。
一歩ごとに揺れるけれど、落ちないようにしっかりと抱きかかえられている。
黙ったまま歩く私たちを、護衛騎士たちが驚いた顔で見ている。
本当にどこまで行くんだろう。
剣技場を過ぎ、騎士たちの宿舎も過ぎて、城の敷地内の奥へと歩く。
薬草園なのか、たくさんの薬草が栽培されているところまで来て、
ようやくアルフレッド様の足が止まった。
「ここは……」
「城の薬師や医師が使う薬を作るための薬草園だ。
王宮の庭師が管理している」
「たくさんの薬草があるのですね」
「なぁ、ルーチェ。向こうのほうに白い塔が見えるか?」
「……ええ、見えます」
薬草園のずっと奥に白い塔が建っている。
私が囚われていた塔よりもずっと大きい。
「あれは何をするための塔なのですか?」
「あそこには俺の母親がいる」
「アルフレッド様の母親?」
「そうだ」
アルフレッド様の母親と言ったら、
ルーデンガ国の第一王女でベルコヴァの王妃様だった人。
どうして塔にいるのだろう。
「病気か何かで静養しているのですか?」
「違う。俺が閉じ込めた。母親の侍女たちと共に」
「閉じ込めた?いったい何があったのですか?」
「これ以上は部屋に戻ってからにしようか」
「ええ……」
アルフレッド様はくるりと方向転換すると、宮へと戻ろうとする。
帰り道はどちらも一言も話さなかった。
宮に戻るとアズとリマはどこかに行っているようだった。
寝室に入ると、ようやく私をおろしてくれる。
後ろを向くようにしてベッドの上に座ったアルフレッド様の近くに行き、
私も寄り添うように隣に座る。
「ここなら話せますか?」
「ああ……」
すぐ近くにアルフレッド様の顔があるのに、
遠くを見ていて、こちらを向いてくれない。
……そして、アルフレッド様はそのまま顔をそむけたまま、
何があったのかを語りだした。
「あの時、父上が死んだと知らされた時、俺はまだ六歳だった。
議会が兄上を新しい国王に選んだというのは嘘だ」
「嘘?」
「……気づいていなかったのか。
わかっていて、黙っているのかと思っていた」
「旅の間は精霊の力はなるべく使わないようにしていたから。
いつでも嘘が見抜けるわけではありません」
「そうだったのか。
……あの時、新しい国王に選ばれたのは俺のほうだった」
留学中でもうすでに成人していたエッカルト様ではなく、
まだ六歳のアルフレッド様を選ぶ理由はなぜだろう。
どう考えてもうまくいくわけがないのに。
「断ったということですよね?」
「いや、そうではない。俺は一度国王になった。
母上は幼い俺では王政を任せられないからと、
自分を後見人に指名させるつもりだったんだ。
そうして、この国を自分のいいように動かそうと……、
議会に出席できる貴族たちの弱みを握っていた」
「アルフレッド様が国王に?」
「俺はそうなることを前日に知って、アズの父親に相談した。
今の宰相はその時は宰相補佐だったけれど、
頼れそうな大人が宰相だけだったんだ」
アズとは幼馴染と言っていた。
宰相とも小さい時から交流があったのだろう。
父親が亡くなって、母親には頼れない……。
なんて悲しいことなのか。まだ六歳の子どもなのに。
「国王に選ばれた俺は、後見人を選ぶ前に王命を出した。
母上とその侍女たちを捕らえろと」
「命じたのはアルフレッド様だったのですね」
「……女性に冷たい態度だったからでしょうか」
「それ以外にも理由があるみたいだけど?」
「どなたから聞いたのですか?」
「噂が聞こえたの」
「そうですか……」
やはり他の理由があるらしい。
アズは考え込むような顔をして黙ってしまった。
「どうしても言えないことなら言わなくていいわ」
「そうですね……私が言っていいことなのかわからないので、
アルフレッド様に直接聞いたほうがいいかもしれません」
「わかったわ」
だけど、直接本人に聞いていいものなのだろうか。
アルフレッド様って冷酷王子なの?って。
悩んでいたらアルフレッド様が宮に戻って来てしまった。
どうしよう。どうやって聞いたらいいんだろう。
そんなことを思っていたのが表情に表れていたのか、
アルフレッド様は私の隣に来ると跪いて顔を覗き込んでくる。
「何かあったのか?」
「えっと……」
「言いにくいことなのか?」
助けを求めようとアズを見たら、すっと部屋から出て行った。
気を利かせて二人きりにしてくれたのかもしれないけれど、
まだ覚悟が決まっていないのに。
「ルーチェ?」
「……えっと、学園で噂を聞いたんです。
アルフレッド様が冷酷王子って呼ばれているって」
「ああ……それを聞いたのか」
「私は女性に冷たくしていたから冷酷王子って呼ばれるんだと思ったの。
でも、なんだかそれだけが理由じゃない気がして……。
アズに聞いてみたら、アルフレッド様に聞いた方がいいって」
「アズが……そうか」
やはり聞いてはいけないことだったのか、
アルフレッド様の顔が曇る。
「聞いてはいけないことでしたか?」
「いや、そうじゃないんだ……。
そうだな、少し散歩に行こうか」
「え」
散歩って?と聞く前に抱き上げられ、縦抱きにされる。
そのまま宮の扉へ向かっているけれど、もしかしてこのまま歩くつもりなんだろうか。
旅の間はよくこうして散歩に連れて行ってもらったけれど、
あれからもう三年以上もたって、私も大人になったというのに。
……アルフレッド様にとっては、
私はまだあの時のまま。小さい女の子に見えるのかもしれない。
少しだけ悲しくなって、何も言わずにアルフレッド様の肩につかまる。
一歩ごとに揺れるけれど、落ちないようにしっかりと抱きかかえられている。
黙ったまま歩く私たちを、護衛騎士たちが驚いた顔で見ている。
本当にどこまで行くんだろう。
剣技場を過ぎ、騎士たちの宿舎も過ぎて、城の敷地内の奥へと歩く。
薬草園なのか、たくさんの薬草が栽培されているところまで来て、
ようやくアルフレッド様の足が止まった。
「ここは……」
「城の薬師や医師が使う薬を作るための薬草園だ。
王宮の庭師が管理している」
「たくさんの薬草があるのですね」
「なぁ、ルーチェ。向こうのほうに白い塔が見えるか?」
「……ええ、見えます」
薬草園のずっと奥に白い塔が建っている。
私が囚われていた塔よりもずっと大きい。
「あれは何をするための塔なのですか?」
「あそこには俺の母親がいる」
「アルフレッド様の母親?」
「そうだ」
アルフレッド様の母親と言ったら、
ルーデンガ国の第一王女でベルコヴァの王妃様だった人。
どうして塔にいるのだろう。
「病気か何かで静養しているのですか?」
「違う。俺が閉じ込めた。母親の侍女たちと共に」
「閉じ込めた?いったい何があったのですか?」
「これ以上は部屋に戻ってからにしようか」
「ええ……」
アルフレッド様はくるりと方向転換すると、宮へと戻ろうとする。
帰り道はどちらも一言も話さなかった。
宮に戻るとアズとリマはどこかに行っているようだった。
寝室に入ると、ようやく私をおろしてくれる。
後ろを向くようにしてベッドの上に座ったアルフレッド様の近くに行き、
私も寄り添うように隣に座る。
「ここなら話せますか?」
「ああ……」
すぐ近くにアルフレッド様の顔があるのに、
遠くを見ていて、こちらを向いてくれない。
……そして、アルフレッド様はそのまま顔をそむけたまま、
何があったのかを語りだした。
「あの時、父上が死んだと知らされた時、俺はまだ六歳だった。
議会が兄上を新しい国王に選んだというのは嘘だ」
「嘘?」
「……気づいていなかったのか。
わかっていて、黙っているのかと思っていた」
「旅の間は精霊の力はなるべく使わないようにしていたから。
いつでも嘘が見抜けるわけではありません」
「そうだったのか。
……あの時、新しい国王に選ばれたのは俺のほうだった」
留学中でもうすでに成人していたエッカルト様ではなく、
まだ六歳のアルフレッド様を選ぶ理由はなぜだろう。
どう考えてもうまくいくわけがないのに。
「断ったということですよね?」
「いや、そうではない。俺は一度国王になった。
母上は幼い俺では王政を任せられないからと、
自分を後見人に指名させるつもりだったんだ。
そうして、この国を自分のいいように動かそうと……、
議会に出席できる貴族たちの弱みを握っていた」
「アルフレッド様が国王に?」
「俺はそうなることを前日に知って、アズの父親に相談した。
今の宰相はその時は宰相補佐だったけれど、
頼れそうな大人が宰相だけだったんだ」
アズとは幼馴染と言っていた。
宰相とも小さい時から交流があったのだろう。
父親が亡くなって、母親には頼れない……。
なんて悲しいことなのか。まだ六歳の子どもなのに。
「国王に選ばれた俺は、後見人を選ぶ前に王命を出した。
母上とその侍女たちを捕らえろと」
「命じたのはアルフレッド様だったのですね」
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